新たな手術用ロボット装置の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300765A
報告書区分
総括
研究課題名
新たな手術用ロボット装置の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
垣添 忠生(国立がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 野村和弘(国立がんセンター)
  • 小林寿光(国立がんセンター)
  • 土肥健純(東京大学)
  • 佐久間一郎(東京大学)
  • 藤江正克(早稲田大学)
  • 伊関洋(東京女子医科大学)
  • 橋爪誠(九州大学)
  • 舘暲(東京大学)
  • 小田一郎(国立がんセンター)
  • 藤元博行(国立がんセンター)
  • 松村保広(国立がんセンター)
  • 宅間豊(日本医療機器関係団体協議会)
  • 植田裕久(ペンタックス株式会社)
  • 石井博((株)日立製作所)
  • 西村博((株)日立メディコ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 身体機能解析・補助・代替機器開発研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
367,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
外科医療における問題点として、体内深部や狭小部、また周囲臓器との関係が直視できない領域では、熟練した術者の数は限られるとともに操作にも制限が生じ、治療効果の低下のみならず合併症の増加が懸念される。これまで国内外で開発された種々の手術用ロボット装置は、従来、体腔鏡や顕微鏡を使用して行われていた外科手技の代替であるため適応が限定され、装置は大がかりで高価であった。またMRIやCT等の画像機器とは干渉が発生し、術中画像ガイドなどの発展性が制限されていた。
そこで熟練した外科医でも難しいこれらの領域における手術の難度を低減し、最新の画像機器装置による術中補助を可能とする、新たな手術用ロボット装置を開発する。ロボット装置、画像機器装置の開発と同時に、その画像情報の描出法、解析法の開発も行う。更に各種画像情報を有機的に組み合わせることで、ナビゲーションから、シミュレーションまでを可能とすることを目指す。これを将来の自動治療開発のための基礎研究とする。
研究方法
今回の開発では既存の外科手術の困難性を解決し、新たな外科医療の概念を手術用ロボットで具現化、標準化していくことを目標とする。そのためには、たとえば外科医の対象物の触覚による認識、血管の触知に基づく切除線の決定などは、対象物が見えないことを解決するための妥協とも考えられる。対象領域を画像機器装置で正確に描出することができれば必要ない操作と考えるべきである。そこで積極的に画像情報の取得法から描出法、解析法を導入して、これらの併用により前記の懸案の回答となる新たな手術用ロボット装置の開発を行う。
外科治療が難しいことの原因の一つは、見えない、見えにくい領域の評価を経験や勘で補わざるを得ないことである。視覚は最も多量の情報を正確かつ短時間に取得可能であり、この能力は他の知覚では代替しがたいものである。そこで画像機器装置の導入は手術用ロボット装置の開発のみならず、外科治療開発においても重要な因子と考え、特にリアルタイム性の確保が高度な技術開発に繋がると考えられる。
以上の基本概念を可能とする新たな手術用ロボット装置開発に当たって、1)画像取得機器装置、2)手術用ロボット装置、3)画像描出・解析装置に分けて考える。
画像取得機器装置は、これまで術前診断等に使用され外科治療の適応決定に応用されてきた、MRI装置、CT装置、X線透視装置、超音波装置である。これらをより外科治療と時間的、空間的に近い所、つまり手術室に導入して使用することを想定して研究を行った。その基本概念は、初期には術直前や術中の画像情報の収集から術式の決定、術直後の治療結果の確認を目的とする。開発の進行と共に術中同時使用の目的で画像解析を加えていく。
手術用ロボット装置は画像機器との相互対応性が必須で、体内の深部、狭小部の外科治療を可能とすることを考えた場合、軟性内視鏡のように屈曲させて体内の深部に挿入可能であると共に、従来型のロボット手術装置で実現されているような機能が発揮できる、軟性内視鏡的な構造と材質が必要である。開発初期は、早期臨床導入に配慮して軟性内視鏡的な概念を重視し、開発後期にロボット技術を付与した軟性内視鏡的な特徴を持つ手術装置の開発を目指す。
画像描出・解析装置に関しては、早期に臨床の現場に導入することを目的に、患者への適切な情報提示法の開発の一つとして、理解の難しい立体的な画像提示方法の開発などを行い、これを基に術式の決定、手術のシミュレーション、更に術中ナビゲーションや、将来の自動外科治療開発のための要素技術とする。
結果と考察
手術用ロボット装置の基本概念は、親内視鏡的な形態をとる可撓内視鏡的外筒と、その内部を通る子内視鏡と手術用鉗子からなり、機能的にはこれまでのロボット手術装置と同等の作業能力を有するデザインを構築した。この装置を早期に臨床の場に導入して標準化するための装置として、2本の術具とそれを挿入する親内視鏡的な可撓内視鏡的外筒を試作した。同装置はこれまでの内視鏡開発の経験を開発の鍵として、親子型軟性内視鏡で問題となる内視鏡先端部分の動作を、これまでのロボット的手術装置に近く保つことができた。特に子内視鏡の挿入部に同軸型気管支鏡で開発された連結機構を採用することで、あたかも一台の装置のように機能することが可能である。この装置は腹腔や骨盤腔内にも挿入可能であるが、初期は胃がんの内視鏡的切除を目標として動物実験で動作性の確認と評価を行い、更に改良を加えて早期臨床導入を行う。また鉗子部の動作性がこれまでの検証で非常に良いため、その操作部をロボット外科手術装置のマスター的機構に換装するための開発を先行して行う。
術中画像取得装置としてはMRI装置、CT装置、X線透視装置を導入することを念頭に開発を進めた。術中画像取得を考えた場合はオープンMRI装置が適切と考えられる。手術室への導入を考えた場合は重量が問題であるが、新たな外科治療技術開発を考えた場合は、オープンMRIの操作間隙(ギャップ)が問題となる。新たな外科治療技術が開発されることが重要であり、そのためギャップは広くあるべきで、垂直方向へのギャップ38cmを43cmに拡大する方向で開発を進める
手術用ロボット装置の術中同時使用を目的として、干渉の強いMRI装置を中心に各種機器との対応性に関して検証を行った。その結果、たとえ内視鏡的素材と構造とはいえどもMRI画像に対する影響は大きく、内視鏡周囲の画像は消失することが確認された。影響の少ないのはチタン素材であるが、X線に対しても対応性の高い全く新たな素材を用いた内視鏡構造と形態、機能を開発することが望ましいと考えられた。
手術との併用を前提としたCTでは時間軸方向の解像度を高める必要があり、マルチスライスCTが適している。リアルタイム三次元CTの概念は術中補助として理想的であるが、現時点ではヘリカル動作が難しい。またスキャン範囲も10cmと限られているため、残念ながらその使用は断念した。
X線透視装置は外科治療開発への導入が最も早いと期待されるが、コーンビームCT機能が期待でき、より広い作業空間が期待できるフラットパネルX線透視装置を、開発基礎機器として選定した。
画像情報の描出・解析装置に関して、患者の画像情報(DICOM)を基に3次元画像を作成するソフトを開発した。また同情報を基に、3次元描出するモニター機器・装置を開発した。この装置には理解の難しい立体情報を3次元描出することで、患者の理解を促進するデータベースがあるため、早期に臨床の現場に導入してデータベースを更に充実させると共に、術前シミュレーション等への発展的開発を進めていく。
手術用ロボット装置の開発に際して、単にこれまでの外科医の手術を代替するのであれば、内視鏡手術や顕微鏡手術と同等で飛躍的な外科治療の発展は望めない。また開発された機器の使用において高度な外科技術の習得を必要とするなら、たとえ高度な外科治療機器が開発されたとしても標準化が難しく贅沢な治療装置となってしまう。これらの点に充分配慮して、研究開発を進めていくべきと考えられる。
結論
高度な外科治療の標準化を目的とする手術用ロボット装置の開発が、MRI装置などの画像機器装置の同時併用を前提に開始された。初期の懸案として画像装置との干渉があるが、新たな概念及び構造を導入することで対応し、早期に臨床の場に導入できる機器装置の開発も行うことで、新たな概念の外科治療の実現が期待される。

公開日・更新日

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