経頭蓋超音波脳血栓溶解装置の開発と探索的臨床研究

文献情報

文献番号
200300699A
報告書区分
総括
研究課題名
経頭蓋超音波脳血栓溶解装置の開発と探索的臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
古幡 博(東京慈恵会医科大学・医用エンジニアリング研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 安部俊昭(東京慈恵会医科大学脳神経外科)
  • 佐口隆之(東京慈恵会医科大学脳神経外科)
  • 石橋敏寛(東京慈恵会医科大学脳神経外科)
  • 中野みどり(東京慈恵会医科大学医用エンジニアリング研究室)
  • 窪田 純(・日立メディコ)佐々木明(・日立メディコ)
  • 梅村晋一郎(・日立製作所)
  • 東 隆(・日立製作所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
64,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳梗塞は本邦死因第3位を占める脳血管障害の6~7割を占め、非致死的であっても重篤な後遺症を招き、さらには要介護老人の数割の原因となる医学的社会的重要な課題である。この脳梗塞の治療法は発症超早期の血栓溶解による血流再開通を第一選択とするが、現行血栓溶解剤適用には、発症後3~6時間以内(病態と薬剤の種類によって異なる)の適用時間限界、溶解までの所要時間の長さ、容量性副作用の存在などの問題がある。血栓溶解時間の短縮、投与量の軽減そして投与可能な時間の延長を経頭蓋超音波照射で実現しようとするものである。本研究は、超急性期血栓溶解療法中に同一プローブにより経頭蓋的に血栓溶解用の超音波と脳内動脈血流の監視用超音波を発射する治療診断一体型の「経頭蓋超音波脳血栓溶解装置」を開発する。同時に超音波を併用することの脳神経系に対する安全性を評価し、安全かつ有効な超音波脳血栓溶解法の前臨床試験を行う。最終年度では、様々な脳梗塞の病型に対する本脳血栓溶解療法の有用性を探索的に臨床研究し、臨床適用可能な超急性期超音波脳血栓溶解療法への道を開くことを目的としている。この研究は基礎研究成果として経頭蓋照射超音波の種類、その有効性に関するin vivo実験による実証及びその基本特許化に基づいて発展させたものである。15年度は、前年度の検討を踏まえて、次の点を目的とした。(1)経頭蓋超音波脳血栓溶解装置の設計・製作・評価(2)経頭蓋超音波脳血栓溶解療法の安全性評価(主にin vivo 実験)
研究方法
1)「経頭蓋超音波脳血栓溶解装置」の設計・製作をした
(1)治療・診断一体化プローブ 血栓溶解効果が易くかつ安全な超音波は周波数400~600kHz帯である。ただし、キャビテーション発生危険率に4倍の安全係数をかけmechamical index MI≦0.25とし、かつ温度上昇を示すthermal index TI≦2として脳内温度上昇を2℃以下とした場合。開発では500kHzを選定。標的性を高めるため、治療用の脳血栓溶解ビーム(Tビームと略)を±45°のスキャン走査可能にするため、16素子のPZT振動子配列を設計・製作した。一方血流監視・診断用の経頭蓋カラー・ドプラ断層法(TC-CFI)用には、2MHz、64素子のセクタ走査ビーム(Dビーム)を採用した。TビームとDビームを同一プローブ内に置いて設ける手法として、T/Dビーム用振動子配列を並べる並置型と両者を重ねる積層型とを作り、性能比較を行い、Tビーム、Dビームの放射特性の良好なものを採用することとした。
(2)T/Dビーム交互照射制御 TビームとDビームを交互発射するインターミッテント照射法とし、各照射時間は選択可能な制御システムとした。
(3)音場特性試験 変型シュリーレン法を用いてTビームスキャン幅、音場強度を確認。またファントムを用い、Dビーム像を既製市販装置と比較評価した。
(4)監視用Dビーム像のヒトによる評価 Dビーム像は通常の超音波カラー・ドプラ像に相当するので、開発プローブを用いてヒト経頭蓋カラー・ドプラ断層像を測定し、既製市販装置の像と比較評価した。
(5)プローブの頭部固定具 健常5例に固定具を用いてプローブを固定し、姿勢を変えてその安定性を評価した。
2)安全性評価実験
(1)頭蓋内音場分布測定 頭蓋骨で減衰が少ない低周波超音波は頭蓋内に残存する割合が高いので、頭蓋内の音場分布をシュリーレン法で評価した。
(2)サル頭部を用いた安全性評価実験 サル麻酔下に開発した装置を用いて経頭蓋的超音波インターミッテント照射を行い、その神経病理学的評価を行った。(健常サル8例中、照射例3例、非照射例5例)
(3)ラット脳梗塞再灌流モデルによる梗塞領域MRI評価実験 ラット虚血モデルにおいて再灌流時の経頭蓋超音波照射(500kHz)照射がもたらす障害拡大の有無を0.8W/cm2についてMRIの拡散強調画像及びT2強調画像で評価した。単純虚血再灌流例11例、超音波照射例11例。
(4)ペンシル型D/Tビームによる血栓溶解効果 家兎股動脈両側塞栓モデルに対し、経頭蓋ドプラパワーモード法(TCD-PMD)で監視しながら間欠的に500kHz一方向性(non-scan)ビームを照射し、tPA投与下での再開通時間を比較評価した。13例。
(5)神経保護薬と超音波の共存性実験 神経保護薬フリーラジカルスカベンジャー(エダラボン)投与下のマウスの培養スライス標本に超音波を照射したことによる神経細胞の死細胞数を比較評価した。PI染色により、エダラボンの単純・併用及び正常各6例、また、in vivo実験としてラット脳梗塞モデルを作成し、適用する実験を進めた。
結果と考察
結果=1)開発した装置(経頭蓋超音波脳血栓溶解装置)は所期の性能を満足した。すなわち、シュリーレン法ではTビームのセクタスキャン能力が、並置型でも積層型でも大差なく、小型化した積層型を開発の中心に置くこととした。また積層型プローブによるファントム像及びヒト頭蓋カラー・ドプラ像共に市販製品との間に大差なく、画像としての血流監視・塞栓部探索能力の充分なことを確認した。
2)各種安全性試験によって次の成果を得た。(1)頭蓋内では低周波超音波の減衰が少なく、対側の頭蓋骨で反射し、それが再反射する形で、超音波伝播経路が広いこと、反射点近傍では定在波が立つことが明らかとなった。(2)正常なサルに対してはTビームによる出血、浮腫などの発生、神経細胞異常のないことを神経病理学的に確認した。(3)虚血再灌流ラット脳に対して、超音波による増悪効果のないことを神経学的評価及びMRI評価で確認した。(4)2MHzと500kHzの併用は血栓溶解時間をやや早くすることを家兎股動脈塞栓モデルで確認した。(5)神経保護薬エダラボンと超音波の複合作用のないことをマウス脳培養スライス標本で確認した。
考察=本年度の成果として、経頭蓋超音波脳血栓溶解装置を開発し、所期性能の確認及びサルによる安全性の確認事例を通し、次のような新たな脳血栓溶解療法の道の開けつつあることを示した。脳梗塞発症後超急性期の血栓溶解剤投与とともに併用する本法を用い、血流状態・再灌流状態を監視しながら、塞栓部に向けて低周波超音波ビームで標的照射し得る治療・診断一体化超音波システムが完成し得ること、また、その再灌流状態の実時間的監視によってtPA投与量の最適化を実現し得ること、さらに安全性の確保を得つつあることを示した。世界的にはTCDによる血流監視がtPA投与による開通率の向上を招くことが臨床的に実証されている。しかし、その超音波周波数は診断用の2MHzであり、本研究で扱う治療用超音波(500kHz)のような効率的血栓溶解効果は望めないものである。開発した装置のような2次元ビームスキャン走査による標的性、カラー・ドプラ診断表示による梗塞領域の俯瞰性などは世界を凌駕する脳血栓溶解技術である。なお、頭蓋内での定在波の消去(開発装置はその能力を含んでおり、特許申請済み)、他の脳虚血状態下の評価を今後実施し、次年度最終年度の探索的臨床研究に向けた倫理委員会承認用の安全性実験成績を積み上げる予定である。
結論
経頭蓋超音波脳血栓溶解装置を開発し、その所期能力は充分に満たされ、臨床的活用のできることの見通しを得た。また、経頭蓋超音波脳血栓溶解療法の安全性をin vitro、in vivo実験で確認し、探索的臨床研究を展開する基盤をある程度築き上げた。これらにより、最終年度の前半に安全性評価を追加し、倫理委員会の承認を得て、臨床研究を行い得ると結論された。

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