GM-CSF吸入による重症特発性肺胞蛋白症の治療研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300697A
報告書区分
総括
研究課題名
GM-CSF吸入による重症特発性肺胞蛋白症の治療研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
中田 光(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤宏一郎(国立国際医療センター)
  • 貫和敏博(東北大学加齢医学研究所)
  • 慶長直人(国立国際医療センター研究所)
  • 井上義一(国立療養所近畿中央病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
54,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性肺胞蛋白症は、肺胞及び終末気管支に過剰なサーファクタントの貯留がおこり、労作時の呼吸困難を来す疾患である。分担研究者井上らと行った我が国の特発性肺胞蛋白症135例の疫学調査では、男女比は約2.2:1である。我が国の罹患率は不明であるが、欧米の報告によれば、人口10万対0.3とされている。国内外ともに地域差は認められていない。我が国の人口が1億2千万であることから、推定400名の患者がいることになるが、平成14年に本研究班が行った全国の呼吸器科医400人を対象としたアンケート調査だけでも、196例の情報が寄せられたことから、実際の患者数は1000例を下らないだろうと予想される。主任研究者は1999年に、病因物質として患者の肺及び血液中に抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF) 中和自己抗体が大量に存在することを発見し(J Exp Med190(6), 875-880,1999)、その検出法の特許を出願した(優先権主張番号特願平10-303858)。GM-CSFの受容体を欠く先天性の肺胞蛋白症が存在することや、GM-CSFやその受容体のノックアウトマウスが肺胞蛋白症を起こすことから、本症の発症にGM-CSFの関与が考えられてきたが、本疾患の病因は、肺胞マクロファージの分化・機能維持に重要な肺のGM-CSFが自己抗体により中和され、肺胞マクロファージのサーファクタント分解能が低下するためであると考えられる。一方、全国アンケート調査で明らかとなった安静時動脈血酸素分圧が70 mmHg未満の重症者は46例で全体の23%である。
これまで、こうした重症者に対する治療は、全身麻酔下の全肺洗浄法や気管支ファイバースコープによる反復区域洗浄が一般的で、患者の負担や苦痛が大きく、新治療法が望まれていた。近年、オーストラリアのSeymourらが始めたGM-CSF連日皮下注療法は、肺洗浄によることなく、重症患者の44%に呼吸機能の改善をもたらすことが報告されている。GM-CSFの全身投与は時に悪寒戦慄などの副作用を惹起することや、疾病が肺に限局していることから、我々は、GM-CSFを吸入で投与することを思い立ち、2001年以降、重症患者3例にGM-CSF吸入療法を試み、呼吸機能が劇的に改善すること、また、肺胞洗浄液中の自己抗体が消失することを確認した。本研究では、GM-CSF吸入療法が重症特発性肺胞蛋白症の治療に有効であるか、また安全に施行しうるかどうかを多施設で行い、最適な治療レジメンを見出すことを目的としている。
研究方法
症例及び方法:以下の全国7施設を試験施設として選定した。
北大第一内科、東北大学呼吸器腫瘍研究分野、国立国際医療センター呼吸器科、愛知医科大学アレルギー呼吸機内科、国立療養所近畿中央病院内科、国立療養所山容病院内科、長崎大学熱帯病研究所内科
昨年報告したように、平成14年度に作成した7施設共同統一プロトコールに準拠して治療を行った。① 被験者 安静時室内気動脈血酸素分圧 70mmHg未満の16歳以上80歳未満の特発性肺胞蛋白症患者②GM-CSF製剤 Leukine を厚生省医薬安全局より薬監証明の発給を受けて輸入した.吸入療法:製剤: Leukine (Berlex 社, 組換え酵母によるGM-CSF製剤)
用量:1回125μgを1日1回投与  経路:吸入(Pari LC Plus jet nebulizer を使用)
③試験方法の概要:
a) 無治療観察期間:12週間、無治療で観察する。6週、12週において後述する観察項目について検討する。
b)治療期間:12週間の無治療観察期間の後、治療開始の適否を検討し、125 μg/日 吸入6週後、後述する治療効果判定を行い、有効と判断された被験者についてはそのまま、125 μg/日 吸入を6週間行い、無効と判断された症例については、250 μg/日 吸入を6週間行う。
④多施設試験方法:中央登録方式による6施設共同オープン試験
⑤主たる評価項目
①無治療観察期間:自然寛解の有無
②治療期間:治療前に対する治療6週、12週後の肺胞-動脈血酸素分圧較差の改善が10 mmHg 以上のものを有効とし、未満を無効とする。
8)評価方法
定期的(観察時期については後述)に臨床症状、胸部X線写真、胸部CT(HRCT)検査、動脈血液ガス分析、呼吸機能検査、気管支肺胞洗浄検査、6分間歩行試験を行い、各パラメータについて無治療観察期間と治療期間の間で比較を行う。
⑥倫理面への配慮
本治験の開始にあたり、治験担当医師は被験者本人に対し、内容を十分に説明し、本試験への参加について文書により被験者本人の自由意志による同意を取得した。
結果と考察
今年度の治療研究を終えて得られた知見を以下にまとめた。
①無治療経過観察により、自然寛解した患者は皆無であった。
②本治療の有効率は50%(12例中6例)であった。
③治療反応群と無効群の2群にはっきりと分かれた。反応群の平均動脈血酸素分圧の上昇は17.4 mmHgであった。
④治療反応群では、治療前後で%努力肺活量の増加、末梢血好酸球の減少、血清KL-6, SP-A,SP-D, CEAの減少、
気管支肺胞洗浄液中の細胞数の増加、気管支肺胞洗浄液中の抗GM-CSF自己抗体価の減少が統計的有意差をもって現れた。これに対して治療無効群では、気管支肺胞洗浄液中の細胞数の増加のみが有意であった。
パイロットスタディーで治療した3例では全例改善し、動脈血酸素分圧の上昇が平均25mmHgと顕著であったのに対し、今回の多施設共同プロトコールによる治療研究では、有効率は50%に留まり、かつ有効例の動脈血酸素分圧の上昇も17 mmHgと低かった。パイロットスタディーは3例と少数例であることから、単純に今回の結果と比較出来ないが、以下の点で治療法が異なっている。
1.用いたGM-CSFは、パイロットスタディーでは大腸菌由来、今回は酵母由来で生物活性は同一重量あたり、前者が1.5倍強い。
2.パイロットスタデイーで吸入したGM-CSFは一日量250 mgで今回の二倍。
3.治療期間は、パイロットスタディーでは隔週投与で治療期間は全24週であった。
今回は連日投与で全12週であった。
得られた結果をパイロットスタディーと今回を比べると、気管支肺胞洗浄液中の抗GM-CSF自己抗体価がパイロットスタディーの時には顕著に減少していたのが、今回では、減少がにぶく、その分、BALF肺胞マクロファージの分化成熟が不十分であることが示唆された。しかしながら、ほとんどの症例でBALF中肺胞マクロファージの数は増加しており、GM-CSF吸入の影響があったと考える。問題は、十分な成熟が得られる前に治療を終了したことにより、マクロファージによるサーファクタントの吸収分解までに至らなかったのであろう。また、6週後判定でdose upした症例7例のうち、12週後に有効と判定された症例は、2例のみであったことから、漸増法が極めて有効であるとは言い難い。しかしながら、パイロットスタデイーのプロトコールでは1例あたりのGM-CSFの費用が約300万円もかかることから、単純にdoseと治療期間を延長することは難しい。
以上のことから、平成16年度の治療計画に際して以下の点に留意する。
①治療導入時250 mgでスタートする。
②休薬期間を設けて全治療期間を長くする。
③漸増法をやめ、漸減法をとる。
現在のところ、以下の治療レジメンを検討している。
16年度に施行予定のプロトコール
① 患者の同意書取得後、12週間の無治療経過観察期間をおく。
② 無治療経過観察期間終了後、1週間程度の入院。治療前検査後、治療開始
③ 治療期間1-12週まで250 mgを1日2回に分け、8日間吸入+6日間休薬を1クールとし、6クール行う。
④ 治療期間9-24週まで125 mg1日1回吸入、4日間吸入+10日間休薬を1クールとし、6クール行う。
⑤ 24週目に評価のための入院。治療後検査。治療終了。
結論
12例の特発性肺胞蛋白症患者に対しGM-CSF吸入療法を試みた結果、6例に効果が確認された。また、副作用もなく、在宅治療も可能であることが分かった。しかしながら、パイロットスタディーの3例に比べて治療効果が弱く、治療レジメンの変更が必要であると思われた。
F.健康危険情報
GM-CSF吸入による副作用、弊害は確認できなかった。

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