高機能人工心臓システムの臨床応用推進に関する研究

文献情報

文献番号
200300695A
報告書区分
総括
研究課題名
高機能人工心臓システムの臨床応用推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
北村 惣一郎(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 友池仁暢(国立循環器病センター)
  • 高野久輝(国立循環器病センター)
  • 八木原俊克(国立循環器病センター)
  • 妙中義之(国立循環器病センター)
  • 中谷武嗣(国立循環器病センター)
  • 巽英介(国立循環器病センター)
  • 佐瀬一洋(国立循環器病センター)
  • 本間章彦(国立循環器病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
100,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
体外設置型または体内設置型の補助人工心臓および空気駆動方式全人工心臓は、心臓移植までの一時的使用 (ブリッジ) を中心に現在まで5,000例を超える症例に対して臨床応用が行なわれ、欧米では心臓病治療上の重要な手段としてその立場が確立されつつある。しかしながら、感染・血栓症の発生や大型の体外装置に繋がれていることによる活動性の制限により、患者の "Quality of Life" は充分ではない。安全に長期間の使用が保証され、しかも自由な活動が可能で、社会復帰を含めた高い質の生活を提供し得る次世代の高機能人工心臓システムの開発と臨床応用が切望されている。かかるシステムは循環器病治療に究極のオプションを提供し、心臓置換が必要な多くの患者を救命することにより、医学的見地のみならず社会的・経済的にも大きな効果をもたらし得る。次世代の人工心臓システムとして最も有力と考えられているのが電気駆動方式のシステムで、このようなシステムでは電気エネルギーが血液ポンプの駆動力に変換されるが、その最大の特色は全システムの体内埋込みが可能となり得ることである。すなわち、経皮的に電気エネルギーを伝送することにより体内外の直接の連絡を完全に絶つことが可能で、埋込み型人工臓器の最大の合併症である感染症の危険性を大幅に減ずることが期待され、また体外バッテリの装着により患者の自由な身体活動をも実現し得る。本研究は、実用化の目途が立っているシステムを臨床応用に向けた統合的システムとしてさらに開発・改良を行なうことにより、探索的臨床研究を行ない得る段階にまで開発レベルを発展させるとともに、厚生労働省による先駆的治療法としての承認、国立循環器病センター内の倫理委員会の承認を得て、患者および患者家族とのインフォームドコンセントに基づいてPhase Iの臨床応用を行なうことを目的とするものである。また、研究成果の恩恵を患者にできるだけ早期に還元する観点から、本研究による基礎技術から確実に実現が可能と考えられる、現状の国立循環器病センター型補助人工心臓の抗血栓性や操作性を向上させた補助人工心臓システム、補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置、埋め込み型補助人工心臓システムなどの試験的な臨床応用および製品化も目標とする。
研究方法
臨床応用の開始のための方針:3年間の研究により探索的臨床研究の成果を挙げるべく、人工心臓システムの仕様の決定と統合、慢性動物実験とin vitro試験による評価、臨床応用のための体制作りと承認申請、臨床試験の実施、派生技術の臨床応用、などを進める基本方針に従って研究を推進した。体内完全埋め込み型全人工心臓システムの統合と小型・高性能化:ETAHシステムは血液ポンプ、油圧アクチュエータから成る血液ポンプ駆動ユニット、体内コントローラ、経皮的エネルギ伝送(TET)システム、経皮的情報伝送(TOT)システム、体内電池、対外回路から構成される。動物実験ではシステムの各部の評価を行うための計測用ラインが新たに付加されている。また体外にはTETおよびTOTシステム用の体外回路が設置され、外部電源や通信端末用のコンピュータが接続できるようになっている。血液ポンプ駆動ユニット、体内コントローラ、体内電池、TETシステム、TOTシステム、などの各構成要素の改良とシステムとしての統合を行った。体内完全埋め込み型システムの慢性動物実
験による評価、In vitro耐久性試験:血液ポンプ駆動ユニット のin vitro およびin vivo性能評価、in vitro耐久性試験を昨年度に引き続いて行った。電気駆動式補助人工心臓の開発と動物実験による評価:運動変換機構を用いずに往復運動可能なリニア振動アクチュエータ(LOA)で駆動する電磁式補助人工心臓(LOA VAD)の開発を行った。本年度は動物実験による評価が可能なシステムの構築を目標に試作を行った。また、試作した血液ポンプユニットを体外に設置し、慢性動物実験による評価を行った。成山羊を用いて、左室-大動脈バイパス左心補助モデルを作成した。派生技術の発展と臨床応用の検討:基礎技術から派生する国立循環器病センター型補助人工心臓の抗血栓性や操作性を向上させた補助人工心臓システム、補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置、埋め込み型補助人工心臓システムなどの開発を昨年度に引き続いて行い、動物実験やin vitro試験を実施し、充分な成果が得られれば、必要に応じて国立循環器病センター内の倫理委員会などの承認を得て試験的な臨床応用を図り、可能なものから企業との協力により製品化を図った。臨床応用の開始:研究成果の一部として実現した小型空気圧駆動装置を、研究所、病院、運営部が一体となって臨床への応用を開始した。
結果と考察
体内完全埋め込み型全人工心臓システムの統合と小型・高性能化:前年度に決定した人工心臓システムの仕様に基づいて、アクチュエータの小型化と胸腔内植え込みユニットの性能向上、各種電気電子回路を一纏めにした体内制御駆動ユニットの開発、体内バッテリの小型・高性能化を成し遂げた。具体的には油圧アクチュエータの小型化と高性能化によってアクチュエータと血液ポンプを結合していた金属ベローズを無くし、血液ポンプユニットとして一体化することにより、小型化を図るとともにポンプ効率の向上を実現した。また、モータドライブ回路、制御回路、電力伝送回路、情報伝送回路を一体化し、小型化したバッテリユニットとともに体内に埋め込みが可能なシステムとした。電気駆動式補助人工心臓の開発:前年度に引き続き、全人工心臓システムの技術を応用した電気油圧式補助人工心臓システムの開発と、新たな技術としてのリニアモータによって駆動する電気機械式補助人工心臓システムの開発を行った。特に後者は、動物実験での評価を可能とすべく改良を加えた。慢性動物実験による評価:全人工心臓システムに関しては、目標とする人工心臓装着慢性動物の長期生存を目指して実験を継続して行った。心室切除後に人工心臓システムの全てを埋め込んで動物を生存させる、体内完全埋め込み型全人工心臓システムの慢性動物実験に国内では初めて、世界では3つ目のシステムとして成功した。動物はいわゆる「tether free(繋ぎ紐の無い)」状態で約1ヶ月間生存した。電気駆動式補助人工心臓ではリニアモータ駆動型の人工心臓の慢性動物実験に成功し、42日間の生体での駆動を実現した。In vitro耐久性試験:全人工心臓システムの全ての埋め込み部分は生理食塩液中に浸漬して37±1℃の温度で2年間の継続実験を行うためのIn vitro耐久性試験用の装置を用いて継続して試験を行った。血液ポンプと油圧アクチュエータを組み合わせた主要部の耐久性試験は1,300日を越えて試験継続中で、当初の予定の2年を越えて3年間以上の耐久性を実現した。また、体内完全埋め込み型全システムの試験の準備を完成させた。派生技術の発展と臨床応用の検討:基礎技術から派生する国立循環器病センター型空気圧駆動補助人工心臓の抗血栓性や操作性を向上させた補助人工心臓システム、補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置などの開発を引き続き行い、動物実験やin vitro試験を実施した。前者としては、研究所を中心に開発されたヘパリン化処理法の応用などによる抗血栓性の向上を動物実験で確認しつつあり、研究終了までに製造承認の取得、臨床応用に向けて準備を行っている。後者に関しては、協力企業から厚生労働省に製造承認申請を提出し、現在審査中である。臨床応用の開始:研究成果の一部として実
現した装置を、研究所、病院、運営部が一体となって臨床への応用を開始した。空気圧式小型駆動装置は国立循環器病センターの高度先駆的医療専門委員会、倫理委員会の承認を得て、山口大学からの補助心臓を装着した重症心不全患者のヘリコプターによる搬送に応用され、安全性と有効性を発揮することができた。考察は以下のごとくである。体内埋め込み型システムに関しては、アクチュエータの小型化、2つのタイプのアクチュエータ一体型補助人工心臓の作製、体内埋め込み用のモータドライブユニット、経皮電力伝送用回路、制御駆動ユニット、経皮光情報伝送用回路、体内バッテリ、などの電子回路の集積化と体内での配置などの検討を行った。これらのシステムを慢性動物実験での評価を開始し、慢性実験動物の生存例を得ることができた。また、全置換型システムのアクチュエータ血液ポンプユニットの耐久性試験は3年を超えて継続中であり、残された1年間で臨床応用可能なレベルまで進歩させる予定である。2年間の研究により、派生技術の臨床応用に向けて大きな進歩が見られた。補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置を慢性動物実験などで評価・改良を行うとともに、臨床医を始めとする医療スタッフのニーズや意見を取り入れて臨床応用可能なレベルにまで進歩させ、協力企業から厚生労働省に製造承認申請を提出したものを改訂し製造承認取得に向けて前進した。また、補助人工心臓用血液ポンプに関しても研究所を中心に開発されたヘパリン化処理法の応用などによる抗血栓性の向上を動物実験で確認しつつあり、この成果も16年度を目処に製造承認の取得、臨床応用に向けて準備を開始している。当初の計画通り体内埋め込み型の臨床応用に向けての研究は継続しつつ、予想以上に早く成果が挙がってきている技術の臨床応用に向けての取り組みを強化する。このことにより、トランスレーショナルリサーチの本来の目的である基礎研究が患者治療に恩恵を与えることを早期に実現させる。
結論
電気油圧式体内完全埋め込み型人工心臓システムの改良、動物実験による評価を行い、小型化や集積化などの進歩が見られた。また人工心臓の臨床応用のための体制作りを引き続き遂行する。派生技術である空気圧式小型駆動装置、血液接触面にヘパリンか技術を施した補助人工心臓用血液ポンプは慢性動物実験などでの評価・改良を経て、製造承認を得るべく努力中である。

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