文献情報
文献番号
200300693A
報告書区分
総括
研究課題名
自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
沖田 極(山口大学医学部附属病院病院長、山口大学医学部消化器病態内科学教授)
研究分担者(所属機関)
- 坂井田 功(山口大学医学部消化器病態内科学講師)
- 山崎 隆弘(山口大学医学部附属病院第一内科助手)
- 寺井 崇二(山口大学医学部消化器病態内科学助手)
- 仁科 博史(東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生体肝移植に代わる次世代の肝臓再生療法(自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法)を開発する。
研究方法
(基礎研究)1.骨髄細胞の肝細胞への分化に関与する遺伝子群の解析:すでに開発したGFP/CCl4モデルの解析を通じ骨髄由来幹細胞の肝細胞への分化に関与する遺伝子群を同定する。DNA chipを用いたMicro arrayにより遺伝子発現のプロファイリングを行い、Self Organization Map解析を用い遺伝子群を抽出し骨髄細胞から肝細胞への分化に重要かつ特徴的な遺伝子群の同定を目指した。2.骨髄細胞の肝細胞への分化に関与する細胞外マトリックスの解析と肝線維化改善効果に対する解析:骨髄細胞の投与により肝線維化の改善が認められたことより、この機序についてさらに解析する。実際にMMP9の発現が増加していたことよりさらにIn situ zymographyを行い肝線維化改善について評価した。3. 胎児肝特異抗体の認識する抗原分子の同定:作製済みの10種類以上の胎児肝を認識するモノクローナル抗体のうち、肝芽細胞を特異的に認識する抗Liv2抗体と血液幹細胞を含む細胞を認識する抗Liv8抗体が認識する抗原分子の遺伝子クローニングを、胎生期11.5日の胎児肝から調製したタンパク質発現型のcDNAライブラリーより行う。特にLiv8抗体の抗原については、骨髄中の肝幹細胞の同定に使用できる抗体になりえるかを評価した。4. 肝芽細胞増殖因子の同定:肝形成不全ノックアウトマウスの解析から明らかになった未同定な肝芽細胞増殖因子を、新たに確立した肝芽細胞培養法を用いて同定する。(臨床研究)非代償性肝硬変症を対象患者とし行った。全身麻酔下で自己骨髄細胞を400ml分離しサイトメイトを使用し骨髄細胞を濃縮し、患者の静脈より投与する。毎週血液検査を施行し、画像的にも腹部エコー検査等にて、肝再生の促進の有無について評価する。短期間の副作用の出現について注意するとともに、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月ごとの肝機能に対する改善について評価していく。基本的にはPhaseIの臨床研究であり安全性について十分注意する。可能であれば、患者の同意の上、エコー下肝生検を行い肝臓の再生状態について組織学的検討を行う。c-kit, CD34, HHM,Liv2,AFP抗体を用い免疫染色を行い実際に骨髄細胞が肝細胞に分化しているかを、また肝線維化の改善の有無についてはAZAN、シリウスレッド染色等の免疫染色・特殊染色にて等で評価していく。
結果と考察
我々は『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』の臨床開発進めるため、5年前より基礎研究を始め、既にGreen Fluorescent Protein (GFP)トランスジェニックマウスを用い骨髄細胞からの肝細胞への分化増殖のin vivo評価モデルを世界に先駆け開発した(GFP/CCl4 モデル)。このモデルにおいては、持続的な四塩化炭素(CCl4)投与による肝障害時に、骨髄細胞から肝細胞への分化・増殖が確認され、骨髄細胞投与後、肝臓内の骨髄細胞は最大25%まで増加し、肝細胞索構造を構築した(特願2001-271240号、特公2003-70377, J.Biochem.134;551-558,2003)。このモデルでは、骨髄細胞投与により、血清アルブミン値の回復、生存率も有意に骨髄細胞の非投与群に比べ有意差を持って改善していた。また肝線維化も有意に改善していた。これらのことは自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法は臨床応用可能な次世代の再生療法になりえると考えられた。一方肝発生を分子レベルで解析することを目的として、胎児肝特異
的な分子マーカーを単離する目的で、胎生期11.5日(E11.5)のマウス肝を抗原にして複数のモノクローナル抗体を作製した。抗Liv2と命名した抗体は、マウス発生期に出現する肝幹細胞である肝芽細胞を特異的に認識する。これを用いて肝形成不全となるSEK1, MKK7, c-Junノックアウトマウスや血液幹細胞を欠損するAML1ノックアウトマウスの解析を行い、1) 初期肝は造血とは独立して形成されること、 2) SEK1, MKK7→SAPK/JNK→c-Jun シグナル系が肝芽細胞の自己複製と生存維持に必須の役割を果たしていること、 3) 肝芽細胞の増殖には肝細胞増殖因子(HGF)以外の因子が必須であることを見出した(Dev. Biol. 250, 332-347, 2002)。また抗Liv8抗体は、大動脈・生殖隆起・中腎 (AGM) 領域の血管内皮細胞や胎児肝領域に流入する血液幹細胞に加え、成体骨髄中の細胞も認識することから、胎児肝における二次(成体型)造血や成体の造血の場である骨髄を解析する有用なツールになることが期待された。骨髄中のLiv8陽性、陰性細胞の移植では、陰性群において高率に肝細胞への分化転換が確認でき、この結果より骨髄中のLiv8陰性細胞群が再生療法に有用な細胞群と考えられた(BBRC 313:1110-1118,2004)。以上の基礎研究をベースに2001年12月に、『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』の臨床研究について、山口大学医学部生命倫理委員会に、安全性・有用性を申請し臨床研究の認可を受けた。すでにNHK等の報道機関において報道されたが、平成15年11月14日に69歳男性に対して国内最初の『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』のPhaseI臨床研究を開始した。平成16年3月31日現在のところ合計4症例に対し臨床研究を行っている。今後はPhaseI臨床研究を安全性について十二分に検討しながら臨床研究を推進し、基礎研究を両輪としたトランスレーショナルリサーチをさらに推進していく。
的な分子マーカーを単離する目的で、胎生期11.5日(E11.5)のマウス肝を抗原にして複数のモノクローナル抗体を作製した。抗Liv2と命名した抗体は、マウス発生期に出現する肝幹細胞である肝芽細胞を特異的に認識する。これを用いて肝形成不全となるSEK1, MKK7, c-Junノックアウトマウスや血液幹細胞を欠損するAML1ノックアウトマウスの解析を行い、1) 初期肝は造血とは独立して形成されること、 2) SEK1, MKK7→SAPK/JNK→c-Jun シグナル系が肝芽細胞の自己複製と生存維持に必須の役割を果たしていること、 3) 肝芽細胞の増殖には肝細胞増殖因子(HGF)以外の因子が必須であることを見出した(Dev. Biol. 250, 332-347, 2002)。また抗Liv8抗体は、大動脈・生殖隆起・中腎 (AGM) 領域の血管内皮細胞や胎児肝領域に流入する血液幹細胞に加え、成体骨髄中の細胞も認識することから、胎児肝における二次(成体型)造血や成体の造血の場である骨髄を解析する有用なツールになることが期待された。骨髄中のLiv8陽性、陰性細胞の移植では、陰性群において高率に肝細胞への分化転換が確認でき、この結果より骨髄中のLiv8陰性細胞群が再生療法に有用な細胞群と考えられた(BBRC 313:1110-1118,2004)。以上の基礎研究をベースに2001年12月に、『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』の臨床研究について、山口大学医学部生命倫理委員会に、安全性・有用性を申請し臨床研究の認可を受けた。すでにNHK等の報道機関において報道されたが、平成15年11月14日に69歳男性に対して国内最初の『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』のPhaseI臨床研究を開始した。平成16年3月31日現在のところ合計4症例に対し臨床研究を行っている。今後はPhaseI臨床研究を安全性について十二分に検討しながら臨床研究を推進し、基礎研究を両輪としたトランスレーショナルリサーチをさらに推進していく。
結論
本年度より『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』の臨床研究を開始した。今後はさらに症例を重ね、本治療法の安全性、効果について評価していく。さらに臨床研究の問題点に基づき、さらに基礎研究も行っていき再生医療のための基盤技術の開発を進める。今回の我々の開始した『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』は、今後の再生療法の開発の基盤モデルになる可能性がある。
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