冠動脈形成術後再狭窄に対する新規遺伝子治療法[抗MCP-1療法、抗転写因子療法]の基礎研究ならびに臨床研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300692A
報告書区分
総括
研究課題名
冠動脈形成術後再狭窄に対する新規遺伝子治療法[抗MCP-1療法、抗転写因子療法]の基礎研究ならびに臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
江頭 健輔(九州大学大学病院循環器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 竹下 彰(九州大学)
  • 居石克夫(九州大学大学院医学研究院病理病態学)
  • 米満吉和(九州大学大学病院病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
31,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の必要性と目的=動脈硬化を基盤として発生する虚血性心疾患や脳卒中などの虚血性臓器障害の頻度は増加しており(我が国の死因の約4割を占める)、その治療法の確立は高齢化社会を迎えている我が国の医学の最も重要な課題の一つである。動脈硬化による血管内腔狭窄を拡張する経皮的冠動脈形成術の有用性は確立し、世界的に普及している。しかし、拡張した血管内腔が再び狭くなる「再狭窄」が高率(冠動脈では40%、下肢動脈では60%)に発生することが医療上だけでなく社会的にも問題となっている。再狭窄率ならびに合併症の発生が高齢者に多いことも深刻な問題である。しかし、現在のところ再狭窄に対する有効な治療法はない。したがって、新規治療法の開発が強く望まれている。
最近、我々は1)変異型monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)がMCP-1受容体のdominant-negative inhibitorとして作用すること、2)その遺伝子導入によって動脈硬化性病変が抑制されること、を明らかにした(FASEB J 2000、Circulation 2001)。また、転写因子NF-kBを阻害するデコイ導入によりNO産生抑制モデルの動脈硬化が抑制されることも明らかにした(Circulation 2000)。これらの結果から、抗MCP-1遺伝子治療あるいは抗転写因子療法が再狭窄の画期的新規治療法となる可能性が示唆された。
本研究の目的は、上記の我々の成果をふまえて再狭窄の新しい遺伝子治療法(抗MCP-1療法、抗転写因子療法)を開発し、臨床研究を目指すことにある。
研究方法
研究方法・計画ならびに研究結果
今年度は3項目のサブテーマについて研究を進めた。先ず、実験的再狭窄に対する抗MCP-1療法の研究計画は達成できた。また、変異型MCP-1(7ND)遺伝子導入の毒性試験もほぼ終了した。さらに、NF-kBデコイ導入による再狭窄抑制を目指した探索的臨床研究を開始した。
1.再狭窄に対する抗MCP-1遺伝子治療法の開発と臨床応用:
1)前臨床試験:ステント後新生内膜形成モデル(ウサギ、サル)を作製した。変異型MCP-1(7ND)遺伝子導入による抗MCP-1療法によって、(1)傷害後の炎症が抑制される、(2)1ヶ月後の新生内膜形成が抑制される、ことを明かにした(Hypertension 2003, Gene Therapy 2004)。
2)探索的臨床研究の申請:上記研究成果に基づいて「再狭窄に対する抗MCP-1遺伝子治療探索的臨床研究」を平成15年5月、厚生労働省へ再申請した。しかし、申請直後に薬剤溶出型ステントの画期的臨床成績が発表され、審査委員会から「薬剤溶出型ステントと同様に局所遺伝子送達による治療法に研究計画を変更するのが妥当」というコメントを頂いた。このコメントに沿って、現在、遺伝子溶出型ステントの研究開発を行っている。
2.変異型MCP-1(7ND)遺伝子導入の毒性試験:
毒性試験は厚生労働省霊長類研究施設あるいは田辺R&Dセンターで実施した(委託)。そこで霊長類(カニクイザル)を用いて毒性試験ならびに抗体産生試験を実施した。その結果、毒性や抗体産生は認めなかった。
3.NF-kBデコイ導入による再狭窄の抑制に関する基礎研究と探索的臨床研究:
●基礎研究:NF-kBデコイ溶出型ステントの作製と基礎研究を行った。
●探索的臨床研究:平成14年11月、大阪大学ならびに東京医科歯科大学と共同で臨床研究「ステント後再狭窄に対するNF-kBデコイを用いた探索的臨床研究」を開始した(24症例を予定)。現在まで、15例の症例にNF-kBデコイを導入した(九州大学で15症例中12症例を実施した)。
結果と考察
結論
1)血管傷害後内膜形成の原因にMCP-1を介する炎症が必須の役割を果たすことが明かとなった。MCP-1をターゲットにした新規治療の妥当性が示された。この成果は申請者が開発した7ND遺伝子導入という独創的技術を駆使して得られたものである。従来、ラットやウサギモデルにおいて有効性が示された治療法であっても、ヒトでは再狭窄に対する作用が全く認められないということが殆どであったことから(例:ACE阻害薬、トラニラスト、抗血小板薬など)、ヒトに近い霊長類での検討が必要と考え、本研究では霊長類(サルモデル)での実験を行った。霊長類におけるモデル作製に成功し、同モデルで抗MCP-1療法の有効性を初めて明確にすることができた。霊長類を用いた研究によって、MCP-1をターゲットとする治療が再狭窄に対する有用な新規治療になる可能性がさらに支持された。
2)変異型MCP-1(7ND)は生体内には殆ど存在しないので臨床研究を実施する場合には、その毒性に加えて抗原性誘導などが懸念される。本研究では、ラット、サルでの毒性と抗体産生試験を実施し、毒性と抗体産生は検出できなっかった。
3)NF-kBデコイ導入による再狭窄抑制を目指した臨床研究を世界で初めて実施したことの臨床的意義は大きい。
4)抗MCP-1療法ならびにNF-kBデコイによる抗転写因子療法が再狭窄に対する次世代治療として有用であることが示された。今後は、遺伝子溶出型ステント(金属あるいは生分解性材料をプラットホームとする)として遺伝子を局所に送達する方向に開発研究が進むと考えられる。本研究成果を基盤にして、国産遺伝子溶出型ステントが誕生することを期待する。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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