骨髄由来の間葉系細胞と生分解性ポリマーを用いた細胞移植(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300691A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄由来の間葉系細胞と生分解性ポリマーを用いた細胞移植(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
梅澤 明弘(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 清野 透(国立がんセンター研究所)
  • 大串 始(独立行政法人産業技術総合研究所)
  • 戸口田淳也(京都大学再生医科学研究所)
  • 牛田多加志(東京大学医学部)
  • 渡辺 研(国立長寿医療センター)
  • 久保田直樹(中外製薬株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
82,132,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ヒト間葉系細胞の寿命を延長することにより細胞を増殖させ、生分解性ポリマーの足場を併用し広範な骨欠損、全身性の骨形成能低下状態の患者に対する新たな細胞治療法を開発することである。具体的には、ヒト骨髄間質細胞の分離培養、細胞のプロファイルの確定後、遺伝子導入による細胞寿命の延長の検討を行う。それらの細胞を生分解性ポリマーの足場と併用し自家、及び他家移植モデルを作成する。これらの結果に基づき、細胞、及び足場の製剤化の検討、臨床への探索的研究へ着手する。
研究方法
1)ヒト骨髄間質細胞を分離培養し、サブクローニングを行う。サブクローニングされた各細胞からmRNAを抽出し、全長のcDNAライブラリーを作成し細胞の有する性格を詳細に検討する。そのデータを利用して、これらの細胞が多分化能を有す状態を保つ培養条件、方法等を確立する。2)ヒト骨髄間質細胞に対し寿命の延長に関わる遺伝子を導入、高発現させ、それに伴う細胞の増殖能の増加、寿命の延長を検討する。またその際の細胞の染色体、遺伝子レベルでの検討、遺伝子導入効率に対する基盤的研究を行う。3)メッシュ状の生体分解性ポリ乳酸からなる足場を作成し、さらにその表面にコラーゲンを添加した新規の足場を開発する。新規足場を用いた場合のヒト細胞の付着様式、骨再生方法を検討する。また各種条件下での足場の形態を確立する。4)モデルマウスへの移植 (a) 外傷、腫瘍切除後、奇形等の遺伝的疾患による区域または、部分骨欠損に対するモデルマウスを作成し、移植細胞の骨形成、宿主の骨再生能を検討する。具体的には、大腿骨を区域切除、ピンによる創内固定後、周囲に細胞を播種した足場を適応する。 (b) 閉経後、骨粗鬆症、リウマチ、偽関節症等の自己の骨再生能の低下した状態を想定したモデルマウスを作成する。具体的には、子宮摘出し低カルシウム餌で長期継続飼育されたマウスに対し部分骨欠損のモデルマウスと同様に骨形成・再生能を検討する。 (c) 同種他家移植モデルの検討方法として、梅澤らにより分離培養されたマウス骨髄由来間葉系幹細胞(KUSA/A1細胞)を他系統マウスへ移植し免疫抑制剤の応用下での骨再生能また免疫寛容についても検討する。5)臨床応用への具体的な検討として細胞および足場の製剤化を視野に臨床応用に対して医薬品GCP(平成9年厚生省令第28号「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」)と等しいレベルでの科学性および倫理性を確保する検討を、①細胞に関して共同研究者の大串、戸口田らを中心とし、②足場に関して戸口田、久保田らを中心として検討を行い、上記を満たした上で新たな治療プロトコールを作成し京都大学整形外科にて治療の方向を決定する。
結果と考察
1)合成高分子ポリ乳酸ーグリコール酸重合体(PLGA)の網目状構造を持つ織布に、ウシI型コラーゲンのマイクロスポンジを複合化、グルタルアルデヒドにて架橋し、蜘蛛の巣様構造をしたシートを作成した。作製したコラーゲン複合化シートは、厚さ200μmの織布に蜘蛛の巣様にコラーゲンのマイクロスポンジ構造をとる。このシートは操作性に優れ、容易に把持や形状を変化させることが可能であった。2)コラーゲン複合化の有無による接着細胞数の違いを、播種後6時間での付着細胞数にて計測し、比較した。また、複合化シートへ付着した細胞の状態を走査型および透過型電子顕微鏡にて観察した。コラーゲン複合化シートは非複
合化シートに比較し4-5倍の細胞接着能を有することが確認された。走査電子顕微鏡像ではPLGAファイバー表層よりも、ファイバー間に張ったコラーゲンのマイクロスポンジに多く細胞が接着し、コラーゲンの有用性が示された。透過電子顕微鏡像にて多量のコラーゲンフィブリル、多数の拡大した粗面小胞体が観察され、接着した細胞が旺盛な蛋白合成、細胞外器質産生を行っていた。3)C3H/HeまたはNOD/scid IL-2受容体γ knockout mouseに径4.3mmの頭蓋骨欠損を作製、細胞を播種した複合化シート5枚を重層して移植した。対照として、細胞を播種しないシートのみおよび骨欠損のみの群を作製し、各10匹の観察を行った。4および8週において移植部位の観察を行った。また、シリコンにて作製した任意形状の表面に細胞を播種したシートを設置しマウス皮下に移植、移植後4週にて摘出し任意形状の作製および維持が可能か否か確認した。マウス頭蓋に作製した骨欠損は、対照群(非移植群および細胞未播種シート群)において組織学的に骨の形成が観察されなかったのに対し、重層化し移植した細胞播種シート群においては4週にて良好な骨形成と豊富な血管形成を認めた。4)形状作製および維持が可能かどうかを確認するため、シートを丸め管状骨を模倣した円管形態を作製、また丸めたシートにて結び目を作製、さらにシリコンにシートを巻き付け指骨形態を模倣しマウス皮下に移植した。4週において目的とした形態そのままの骨が形成されることが証明された。本研究によって、適度な強度を有する合成高分子シートに、コラーゲンマイクロスポンジを複合化することで高い細胞接着性が得られることが明らかとなった。従来の合成高分子で作製したスポンジ形状体は、立方体内部への細胞播種が困難なため均一な組織を得にくいという欠点があった。形状をシート状にしたことで細胞の分布を均一化することが可能となったものと考えられる。頭蓋骨欠損モデルでの移植においては、本シートのみでの骨形成が起こらなかったことより、細胞治療の有用性が示された。可塑性のある複合化シートは細胞播種後に重層化することで厚みを持たせたり、丸めることで管状構造を作製、さらに既成の構造物に貼り付けることで任意の形状を作製することが可能となるため手術中での操作が容易である。荷重に耐えうる強度には至らないため、骨基質のひとつであるハイドロキシアパタイトの表面に用いたり、早期の骨分化を促すために成長因子の固相化も可能である。さらに使用する細胞の接着に有用な細胞接着因子を付加することでより高い接着性も期待できるなどその応用範囲は広いと思われる。本複合化シートに用いたPLGAおよびアテロ化コラーゲンはそれぞれFDA基準を満たし既に臨床にて使用されているものであるため早期の臨床化が見込まれる。また、この新規培養担体は骨再生のみならず、軟骨再生や他細胞移植に用いる培養担体として優れているものと考えられる。
結論
コラーゲン複合化合成高分子シートが作製可能であった。本シートは細胞接着性、形状維持に優れ、自在な形状の骨を生体内にて作製可能であり、骨再生のための有用な培養担体である。

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