癌治療ペプチドワクチン及びペプチド抗体開発:遺伝子同定から臨床試験まで

文献情報

文献番号
200300690A
報告書区分
総括
研究課題名
癌治療ペプチドワクチン及びペプチド抗体開発:遺伝子同定から臨床試験まで
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
伊東 恭悟(久留米大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 正朗(山口大学)
  • 嘉村敏治(久留米大学)
  • 七條茂樹(久留米大学)
  • 藤堂 省(北海道大学)
  • 野口正典(久留米大学)
  • 山名秀明(久留米大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
74,888,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子同定から臨床試験実施までの一連の探索的臨床研究を通じて、上皮性癌に対する治療用ペプチドワクチン及びペプチド抗体を開発する。基礎研究ではHLA-クラスⅠA及びBアレールに拘束される拒絶抗原遺伝子を新規に50以上、ペプチドでは100以上同定し、さらに抗ペプチド抗体の抗腫瘍性の分子機構解明や単クローン抗体による癌治療動物モデルなどを通して上皮性癌拒絶の分子基盤の全体像を明らかにする。抗ペプチド抗体の前臨床試験を開始する。一方、臨床研究では本研究期間内にHLA-A24及びA2癌ペプチドワクチン第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を終了させ、企業主導型の医薬品化を目指した臨床試験へ移行させる。この場合、再燃前立腺癌、スキルス胃癌、子宮頸癌を優先させる。
研究方法
基礎研究(伊東、七條研究者):①HLA-クラスⅠAアレール(A24、A2、A26、A31)拘束性CD8+CTL株及びHLA-Bアレール(B46、B52)拘束性CD8+CTL株を癌局所リンパ球より樹立し、それらにより認識される抗原遺伝子とペプチドを同定し、癌ペプチドワクチン分子を決定する。これによりペプチドワクチン候補の拡大と充実を図る。②抗ペプチド抗体(IgG)産生機序や抗腫瘍性での基礎研究、さらにはSART3、Lck、PSMペプチドに対する単クローン抗体をマウスにて作製する。また、それらを用いてペプチド抗体の抗腫瘍作用誘導の分子レベル及び動物実験での解析を実施する。臨床研究:①再燃前立腺癌(伊東、野口研究者):新規開発ペプチドを追加した早期第Ⅱ相臨床試験を開始する。②スキルス胃癌及び子宮頸癌(藤堂、嘉村研究者):早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。③肺癌(山名研究者):第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。④大腸癌(山名研究者):第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。⑤肝臓癌(山名研究者):第Ⅰ相臨床試験を実施する。⑥膵癌(岡研究者):第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。
結果と考察
(結果)平成15年度基礎研究結果:①HLA-A24拘束性新規肺癌遺伝子とペプチドを同定した(Yamada et al., Can. Res., 2003)。②ワクチン候補ペプチドをコードする新規ペプチドを更に32種類同定し全体で66種類にて臨床試験可能とした。腫瘍マーカー由来(HER2/neu、EGFR、PSA、PAP、PSMA、PSCN、CEA、PTHrp、EZH2)である。③HLA-A3スーパーファミリーに拘束されるペプチドを5種類同定した(Takedatsu et al., Clin. Can. Res., 2004)。その結果、ほぼ全例へのペプチドワクチンを可能とした(HLA多型性は-A24、-A2及び-A3ファミリーでほぼ100%カバー可能)。④HLA-B46、-B52、-B60拘束性遺伝子及びペプチドを同定した(Azuma et.al, Can Res., 2003)。⑤ペプチドに対するCD4陽性ヘルパーT細胞反応を解明した(Harada et al. J. Immunol., 2004)。⑥HLA-A31拘束性新規遺伝子とペプチドを同定した(Sasada et al. Can Res., 2004)。⑦ペプチドに対する単クローン抗体(SART3109、SART3315)産生クローンを樹立した。以上の研究成果は、英文査読誌(31編)に発表済みもしくは予定であり、知的所有権は15件を申請した。
平成15年度臨床試験結果:①テーラーメイドペプチドワクチン(以下、ペプチドワクチン)前向き試験(第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施し、ペプチドワクチンの臨床効果における優越性を立証した。②再燃前立腺癌に対するペプチドワクチンと低用量エストラムスチン併用療法において医薬品承認を目的とした第Ⅰ相治験に移行可能な臨床成果が得られた。③悪性脳腫瘍に対するペプチドワクチンでPR例を含む臨床効果が得られた。④子宮頸癌に対するペプチドワクチンでの臨床効果が向上し、第Ⅰ相治験可能なレベルに達したと判断される。⑤一方、有効ペプチドを非テーラーメイド型レジメで投与したスキルス胃癌と子宮頸癌症例では臨床効果が得られなかった(PD0、SD1、PD12例)。
(考察)基礎研究:本年度は、新規の抗原ペプチドを多数同定するとともに、HLA-A24や-A2以外の症例へのペプチドワクチン開発を目指してA3スーパーファミリー(A3、A11、A31、A33)拘束性ペプチドを多数同定した。基礎研究にてA3スーパーファミリーに属するペプチド分子が多数同定されたことにより、従来の成果であるHLA-A24及び-A2拘束性ペプチドワクチンでは日本人の75%、また世界では60%前後の癌患者に限定されていたペプチドワクチンがほぼ100%の症例まで適応拡大できる可能性が示された。
臨床研究:平成14年~15年度は、平成13年度までにPRの認められた癌種(大腸癌、子宮頸癌、再燃前立腺癌、スキルス胃癌、悪性脳腫瘍、胃癌)を中心に臨床効果を目的とした早期第Ⅱ相臨床試験を実施した。その結果、再燃前立腺癌症例ではテーラーメイド選択に新規に追加した5種類のペプチド効果が主な原因と考えられる好成績、即ち第Ⅰ相臨床試験に比してより良好な臨床効果が得られた。また、テーラーメイド選択にはキラーT細胞測定単独よりもペプチド抗体測定を追加しての測定がより有効であることが示唆された。今後の大規模な臨床試験のモニタリング法としてのペプチド抗体測定の有用性が明らかとなった。以上の成果に立脚して、厚生労働省に治験申請中である。一方、ペプチドワクチンの有効性を立証する前向き試験として実施したスキルス胃癌、子宮頸癌に対する非テーラーメイド型ワクチン投与の臨床試験においては、投与前末梢血リンパ球中の投与予定ペプチドに対するペプチド特異的キラーT細胞数が多いほど予後良好という成績が得られた。ペプチドに対する細胞性免疫の増強は非テーラーメイド型投与より強力であった。これらより、治療目的のワクチンとしてテーラーメイドペプチドワクチンは非テーラーメイド型のそれよりも優れていることが明らかとなった。臨床効果が全く得られなかった理由については、まず投与した4種類のペプチドのうち1~2種類のペプチドに対してのみ細胞性免疫が投与前末梢血T細胞中に存在するため、抗腫瘍作用誘導が不十分であったことが挙げられる。次に、投与ペプチドに対する1次免疫誘導が既に存在する2次免疫を抑制した可能性が示唆された。いずれにしても子宮頸癌とスキルス胃癌では、この非テーラーメイド型レジメによる臨床試験は中断し、新規のペプチドを採用してのテーラーメイド型レジメを開始した。その結果、中間解析であるが生命予後延長などの臨床効果が得られつつある。更にスキルス胃癌においては低容量のTS-1という5-FU系の抗癌剤を併用した場合のみ極めて高い臨床効果が得られつつある。また有害事象は局所反応主体であり、ペプチドの免疫反応も大部分(80~50%)の症例にて投与ペプチドの殆どに対して誘導された。以上の成績から、平成16年度には新規のペプチドを増加し(17種類→24種類)、更に高い臨床効果かつ長い持続期間の成績を目標として臨床研究を継続して、医薬品申請可能なレベルに到達させることを主目的に高質な臨床試験を実施する。この場合、前立腺癌、子宮頸癌、悪性脳腫瘍など、消化器癌以外の癌種を優先させて、他省庁からの研究補助事業との重複を可及的に回避する。
結論
基礎研究:①HLA-A24及び-A2用のペプチドを更に32種類同定し全体で66種類にて臨床試験可能として、臨床研究へ提供した。それらは主として腫瘍マーカー由来(HER2/neu、EGFR、PSA、PAP、PSMA、PSCN、CEA、PTHrp、EZH2)である。②HLA-A3スーパーファミリーに拘束されるペプチドを5種類同定した結果、ほぼ全例へのペプチドワクチンが可能となった(HLA多型性は-A24、-A2及び-A3ファミリーでほぼ100%カバー可能)。③HLA-B46、-B52、-B60拘束性遺伝子及びペプチドを同定すると共に、ペプチドに対するCD4陽性ヘルパーT細胞反応を解明した。
臨床試験結果:①ペプチドワクチン前向き試験(第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験)を実施し、その臨床効果における優越性を立証した。②再燃前立腺癌に対するペプチドワクチンと低用量エストラムスチン併用療法において医薬品承認を目的とした第Ⅰ相治験に移行可能な臨床成果が得られた。③悪性脳腫瘍に対するペプチドワクチンでPR例を含む臨床効果が得られた。④子宮頸癌に対するペプチドワクチンでの臨床効果が向上した第Ⅰ相治験可能なレベルに達したと判断される。

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