リウマチアレルギー疾患の早期診断に関する研究(総括研究報告)

文献情報

文献番号
200300686A
報告書区分
総括
研究課題名
リウマチアレルギー疾患の早期診断に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
白川 太郎(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 清野宏(東京大学医科学研究所)
  • 出原賢治(佐賀大学医学部)
  • 古賀泰裕(東海大学医学部)
  • 園元謙二(九州大学農学研究院)
  • 中山二郎(九州大学農学研究院)
  • 小泉昭夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 古江増隆(九州大学医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患はいずれの年齢でも発症し、旧厚生省特別研究班の調査でも国民の38%が罹患する最も頻度の高い生活習慣病であり、国民のQOLの立場から特に重要な疾患である。特に小児における罹患率が増加し、小児の死亡の重要原因であり、また小児救急医療費の30%以上を占めることからその予防は厚生労働行政の急務であると考えられる。其の予防のためには出産直後からの早期診断が必要であるが、個体が小さく頻繁に血液検査などの検査を行うことは成人と異なり容易ではない。乳児期の免疫系は主として消化管において形成されると考えられ、その形成には消化管の細菌相の形成が重要であると考えられている。したがって消化管細菌相と免疫能がアレルギー疾患発症児童では正常児童と成長につれどのように異なるのかを明らかにすることはアレルギーの発症機序を明らかにし、その予防対策を構築する上で必要であると考えられる。15年度には以上の目的を達成するため、13,14年度の成果を踏まえて(1)便中の細菌の分子遺伝学的な検査法の確立を行う、(2)腸管免疫系のマウスにおける実験モデルの確立、(3)ヒト個体のアレルギー疾患関連遺伝子解析との比較、そして(4)腸内細菌とアレルギーとの関連依関しての一般集団における疫学調査の準備を行ってきた。
研究方法
1. 早期診断に向けての疫学調査:大規模な追跡調査を行う目的で①人口の入れ替わりが少ない地域であること(追跡調査が可能であること)、②健康への取り組みが熱心であること、③大気汚染その他の、他の発症要因が少ない地域であること、④年間の新生児誕生がある程度見込める地域であること、などの条件を満たす地区として、九州地方、東北地方を対象に選定を行なった。2. マウスにおける解析:腸内細菌を再建したマウスにwild type とmutant typeの病原性大腸菌を感染させ、免疫寛容の成立の有無を比較検討する。この免疫能は消化管のリンパ節に依存すると言われておりマウスによるリンパ節分布と免疫能についてもあわせて観察した。一方、消化管免疫能と細菌との関係の検討おけるIL-13及びその受容体の発現と疾患感受性との関連について検討を行うため食物アレルギーも出る動物を作成し、IL-13やIL-4により誘導される遺伝子群の動きを肺組織のRT-PCRを行って同定した。3. 便の細菌相の検索:福岡市内の井槌産婦人科医院での新生児を対象にして、入院1週間の便と退院後の1箇月毎の便の収集を行い、九大農学部で処理され細菌16sRNAcDNAを抽出してライブラリーを作成した。
4. ヒトアレルギー関連遺伝子解析:理化学研究所SRCセンター及び京都大学において、正常対照658名、小児喘息例384例、成人喘息例434例を収集して全ゲノムSNP解析を行った。対象SNPは遺伝子コード部分約100,000個から1次スクリーニングで抽出した約2000個を対象とした。5. 倫理審査:本研究を遂行するにあたり、対象とする個人の臨床データの収集と採血に当たっては担当医師から統一のinformed consentを配布し、各人(乳幼児の場合は両親)に、この研究の不利益、危険性の排除に関する考慮、必要性と有用性を充分説明して同意を得た場合に限り研究を実施する。その後のデータは全て連結可能なID化を行い、匿名化しておく。遺伝子解析及び個人情報採取に当たってはヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針等を遵守することとし、動物実験も含め当該施設における倫理委員会での審査を受けることとした。
結果と考察
1. 疫学調査の開始:大規模疫学調査として、昨年度より、プロバイオティクスを製造している3企業をオブザーバーに迎え小国町を中心とした研究会を立ち上げた。研究会委員には、町の代表者を迎え、試験内容の理解を深めるとともに、アンケート調査などを中心にして町民に啓蒙活動を行った。第四回研究会では、オブザーバーによる、プロバイオティクスのアレルギー予防効果試験の提案が行われ、了承された。その後、町を中心として、NPOを立ち上げ、本研究の準備を整えた。この研究会の最初の研究として、まず、小国町における代替医療、プロバイオティクスの使用頻度を3500戸全ての住民にアンケート調査を実施するとともに、本研究の意義を徹底させるための説明会を繰り返し、毎月行なった。その結果、小国町では、約35%の住民が代替医療などに関心があり、本研究の目的への理解も得られた。2.再建マウスによる免疫寛容誘導:再建マウスにおける感染実験でWild type 病原大腸菌EPEC株(WT)の、Tirあるいは遺伝子を欠拐させたEPEC株(ΔTir)に対する免疫寛容私立煮ついて比較したところ、ΔTirを感染させたマウスでは免疫寛容の誘導が困難となった。3. 腸管における免疫におけるリンパ節の重要性:一方、パイエル板以外にもM細胞が存在することから、腸内細菌による免疫寛容は広くさまざまな場所で起こりうる可能性があり、それらの細胞の密度などがどのように影響するかが、免疫寛容に差を生み出すと考えられ、消化管におけるアレルギー反応の阻止に腸内細菌が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。4.腸管におけるTH2サイトカインの役割:今年度はさらに喘息モデル動物での肺組織での解析を行い、これらのサイトカインによる誘導遺伝子を同定した後、喘息モデル動物での解析で9個の興味ある遺伝子を同定した。これらの遺伝子の動向がアレルギー腸炎モデルマウスでどのようになっているか解析した。その結果、9遺伝子のうちで明らかに遺伝子発現の増強が見られた遺伝子は15-LO(15-lipoxigenerase) のみであることが示された。この遺伝子の発現は3-6倍発現が増強しており、炎症性腸疾患でも上昇していることが報告されている。今後食物アレルギーとの関連において遺伝子検索の必要があると考えられる。5. アトピー遺伝子の解析:前年度に引き続き約10,000個のSNP(1塩基置換)を比較して有意に頻度に差のあるSNPが最終的に37個程度発見された。6. 便のマイクロアレイ診断法の確立:36名の新生児の便につき約415クローンを抽出し、配列解析を行った。その結果、GRAM陽性、陰性両種合わせて、41種類の菌を同定した。その結果、16SrDNAによるライブラリーの作製は可能であり、大部分の細菌が診断可能であることが裏付けられた。興味深いことに、これらの菌の大部分は口腔内寄生菌であり、この結果から、乳児では口腔からの菌が腸内に定着している可能性が示唆された。また、抗生剤投与群では、フローラの多様性が低下する可能性が示され、これがアレルギーの発症に関連する可能性が考えられた。
結論
以上の結果から、新生児以降の免疫の発達にはリンパ節が重要な役割を担っており、またそれらのリンパ節でのサイトカインの産生能には遺伝的な差異があるこ
とが分かる。一方、その免疫を誘導する因子として消化管における細菌相の発育が消化管でのアレルギー反応に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。16SrDNA法による迅速診断法が開発可能であることが判明し、またフィールドが確定したことにより、今後、この方法を用いて大規模な疫学調査を行い、その信頼性を高める作業が可能になった。

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