関節リウマチの治療反応性規定因子の同定と、それを用いた新治療方針確立に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300684A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの治療反応性規定因子の同定と、それを用いた新治療方針確立に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 勤(埼玉医科大学総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 油谷浩幸(東京大学国際・産学共同研究センター)
  • 山中 寿(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 小林茂人(順天堂大学医学部)
  • 沢田哲治(東京大学医学部)
  • 南木敏宏(東京医科歯科大学生体応答調節学)
  • 川上 純(長崎大学医学部内科学第一講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)は、全身に及ぶ多関節炎のため罹患関節の破壊・変形を来し、Quality of Life (QOL)は著しく低下する。このため多関節に及ぶ人工関節置換術を余儀無くされる患者が後を絶たない。RAの治療目標は、薬物療法によってかかる状況を回避することにある。そのような薬剤として、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)が使用され、寛解率の向上など一定の効果が得られている。しかし、9剤あるDMARDの有効性、副作用発現の予測は困難で、薬剤選択にあっての指針は示されていない。一方、既存のDMARDによっても活動性のコントロールが困難な症例に対して、TNFなどの炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤に期待が寄せられている。その優れた臨床的効果、骨破壊抑制効果が明らかにされている。しかし、数種類にのぼる製剤の選択、高価な薬剤費、約50%の有効率、結核の再活性化などの問題点が指摘されており、個々の症例に則したオーダーメイド医療の構築、薬剤費軽減からなる総合的な戦略が必要である。本研究班では、DMARDおよび生物学的薬剤の適応、薬剤選択、投与法に関する研究を通して、科学的根拠に基づいたRAの薬物療法確立を目的とする。
研究方法
網羅的遺伝子発現解析
1)遺伝子抽出アルゴリズム:識別遺伝子の抽出法に関する検討は、Neighborhood解析(Golub T, 1999)あるいはMann-Whitney検定により実施。
2)マイクロアレイ:Affimetrix,NULL, CodeLink, Agient, Clonetechなどの市販アレイに加え、本研究班独自に開発したのカスタムDNAマイクロアレイ(750遺伝子のcDNAをスポットしたガラスアレイ)を用いる。
3)検体の収集:末梢血から直接PAXgeneを用いてRNAを採取し、増幅後カスタムアレイで検討。
4)カスタムDNAマイクロアレイの性能、再現性の検討:メトトレキサート投与前後の末梢血サンプルにおける遺伝子プロファイルをカスタムマイクロアレイによって解析し、その結果を市販チップの成績あるいはreal time-PCRの結果と比較。カスタムチップの性能、再現性を検証する。
候補遺伝子発現解析
1)アポトーシス関連:患者滑膜細胞を用い、TRAIL誘導性アポトーシスにおけるPDGFおよびキナーゼカスケードに関与する分子の役割を、各種インヒビターを用いて解析。
2)炎症シグナル関連:患者滑膜細胞、関節炎モデル動物を用い、NF-kBシグナル伝達に関与する分子を、コンピュータ支援薬剤デザインによって作製されたインヒビターを用いて解析。
3)ケモカイン関連:関節炎モデル動物を用いCXC3CL1/CX3CR1の役割を抗体による抑制実験によって解析。
4)DMARD代謝酵素関連:MTXの主要代謝酵素MTHFRおよび、スルファサラジン代謝酵素NAT2を指標として、治療反応性、副作用と関連するSNPを解析。
結果と考察
網羅的遺伝子発現解析
1)患者骨髄サンプルを用いた解析:CD34+骨髄幹細胞に注目し、その機能解析として、ClonetecのcDNAアレイを用い、遺伝子発現の差異をRAとOAの患者から得られたRNAを比較することで検討した。さらに得られた結果を元に、定量的real-timePCR法を用いて差異のあった遺伝子についてmRNA発現を、RA、OA、大腿骨頭壊死症患者で比較した。RA患者はOA患者、大腿骨頭壊死症患者に比べて有意にS100A8、S100A9の発現が高かった。
2)スタムアレイ:前年度の解析結果から得られたデータ、既存の情報を基に、生物製剤投与前後で変動が予測される720遺伝子を選択。加えて、候補遺伝子アプローチの結果から有望と考えられた30遺伝子を加え、750のcDNAすべてをクローニングし、それをスポットしたカスタムDNAマイクロアレイを作製した。再現性に優れ、またMTX投与前後の患者末梢血サンプルを用い、その性能チェックを実施し実用段階にあることを確認。
3)カスタムアレイを用いた多数例発現解析:キメラ型抗TNF?モノクローナル抗体infliximabの導入に際し、カスタムチップを用いて治療反応性、副作用と関連する因子を解析するための研究を目標症例数100として施行する。そのための研究デザインを確立した。
候補遺伝子解析
1)アポトーシス関連:昨年度までの検討で滑膜細胞にはtumor necrosis factor-related apoptosis inducing ligand (TRAIL)誘導性アポトーシスが惹起され、Aktは翻訳後修飾の機序で滑膜細胞TRAIL誘導性アポトーシスを抑制することがわかった。本年度は翻訳調節機序での制御機構を検討した。Interferon gamma (IFN-?)で滑膜細胞を刺激するとSTATがリン酸化され、滑膜細胞のTRAIL感受性は顕著に抑制された。この過程では滑膜細胞のTRAIL受容体発現には変化はなく、しかしながら、STAT阻害剤および蛋白合成阻害剤の添加でIFN-?の抑制作用は解除された。Western blottingでの評価では、滑膜細胞のpro-caspase-3/-8/-9、Bcl-2、Bcl-xL、Bax、FLIP、SOCS-1/-3の発現はIFN-?刺激の有無で差異はなかった。今回の検討ではSTATが制御する蛋白の同定はできなかったが、STATは、翻訳調節機序で滑膜細胞のTRAIL誘導性アポトーシスを制御する重要な転写因子であることが示唆された。
2)炎症シグナル関連:TNF?による炎症シグナルの細胞内伝達に重要なNF-kB経路においては、TNF?によるI kappa-B kinase (IKK)-betaの活性化が重要で、それがIk-Bをリン酸化して分解、NF-kBの核内移行を促進する。そこでこの経路をブロックする化合物をコンピューター支援薬剤デザインによってスクリーニングした。作製されたIKK-beta阻害薬は、in vitroにおいてRA滑膜細胞のサイトカイン産生、IKK-beta活性、NF-kB活性を阻害し、in vivoにおいてもマウスコラーゲン関節炎の発症を抑制した。
3)ケモカイン関連:コラーゲン関節炎マウスに抗fractalkine (FKN)抗体を投与することにより、その関節炎が抑制された。抗FKN抗体投与は抗コラーゲン抗体産生には影響せず、また脾臓T細胞のコラーゲン刺激によるIFN-?産生にも影響しなかったが、脾臓Mac-1陽性細胞の関節滑膜組織への遊走は抗FKN抗体投与で抑制された。このことより、抗FKN抗体により炎症細胞浸潤が抑制され、関節炎が抑制されたと考えられた。FKN/CX3CR1相互作用阻害がRAの新たな治療薬となる可能性が示唆された。
DMARD薬物代謝酵素関連:thymidylate synthetase (TS)とreduced folate carrier (RFC)遺伝子のハプロタイプがmethotrexate投与時の効果と副作用に及ぼす影響を検討した結果、TSおよびRFC遺伝子型による副作用発症の統計学的な有意差は認められなかったが、有効性との関連では、TS遺伝子における3R3R遺伝子型を有する群でCRP値の有意な改善を認めた (p<0.005)。TS遺伝子型の検討はRA症例におけるpharmacogenomicsに基づくテーラーメード医療の有益な指標となる可能性が示された。
結論
候補遺伝子アプローチによってアポトーシス関連、炎症シグナル関連、ケモカイン・サイトカイン/レセプター関連および薬物代謝酵素の重要性とその詳細な分子機序が明らかにされた。一方、網羅的発現解析アプローチのマイクロアレイの検討からそれぞれの長所・短所が明らかにされた。その中で、本研究班で開発に成功したカスタDNAマイクロアレイの実用性・再現性が確認された。キメラ型抗TNF?モノクローナル抗体インフリキシマブの承認を受け、その使用ガイドラインを作成し、その適応症例の有効性を予測する因子を同定することを目的とした多施設共同の前向き研究がスタートし42例の登録が完了した。目標100例の登録が完了し、54週の観察期間が終了した時点で、臨床的効果、関節破壊抑制効果と関連する遺伝子クラスターが明らかになると思われる。インフリキシマブを初めとするTNF阻害生物学的製剤の効果予測因子は、TNF-308の多型について検討が行われているが、一定の成績が得られていない。効果予測には、より多くの分子の中から同定する必要がある。その点、網羅的遺伝子発現解析は有効な手段と考えられるが、その報告は世界的にも類がない。この結果が明らかとなれば、世界的にも極めて貴重な情報となり、この結果を基盤としてインフリキシマブの効果予測が可能となる。

公開日・更新日

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