遺伝子情報に基づいた抗脂質メディエーター薬適正投与の検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300682A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子情報に基づいた抗脂質メディエーター薬適正投与の検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
浅野 浩一郎(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本美孝(千葉大学大学院医学研究院)
  • 山口佳寿博(慶應義塾大学医学部)
  • 石坂彰敏(東京電力病院)
  • 小崎健次郎(慶應義塾大学医学部)
  • 石井聡(東京大学医学部)
  • 松井永子(岐阜大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ロイコトリエン、トロンボキサンなどの脂質メディエーターの作用を抑制する薬剤(抗脂質メディエーター薬)は強力かつ安全な喘息治療薬であり喘息治療の選択肢を拡げた。しかしこれらの薬剤を使用する上での最大の問題点は薬剤の効果に個体差があるにもかかわらず、どの薬剤がどの患者に奏功するのかを事前に予測する有効な手段が存在しないことである。本研究では患者の遺伝子情報に基づいた適切な抗脂質メディエーター薬の選択を可能とするための基礎的、臨床的検討を行うことを目的としている。抗脂質メディエーター薬の効果の個体差を規定する因子は薬物の吸収・代謝などの薬物動態規定因子と、生体の薬剤感受性を規定する脂質メディエーターの産生・代謝酵素、および受容体機能が重要と考えられる。平成15年度はロイコトリエン受容体拮抗薬の臨床効果を遺伝的に規定する因子として成人中等症-重症喘息、成人軽症喘息、小児喘息、鼻アレルギーを対象に薬物動態および薬力学関連因子、ハプロタイプなどを含めた総合的検討を行う。
研究方法
臨床検討としてはロイコトリエン受容体拮抗薬の薬物動態と喘息患者における臨床効果を検討するために中等症-重症喘息患者(50名)においてプランルカスト450 mgを4日間連用後の血中濃度を高速液体クロマトグラフィー・タンデムマススペクトリー法により測定し、一秒量改善率との関連解析を行った。また、ロイコトリエン合成酵素(ロイコトリエンC4合成酵素、γグルタミルロイコトリエナーゼ)遺伝子多型と各種アレルギー疾患(アレルギー性鼻炎、軽症成人喘息、中等症-重症成人喘息、小児喘息)におけるロイコトリエン受容体拮抗薬の臨床効果との関連を検討した。アレルギー性鼻炎に関しては、中等度以上の鼻閉を有する通年性アレルギー性鼻炎患者(86名)を対象にプランルカスト4週間内服投与を行い、アレルギー日記、鼻閉に対するvisual analog scale(VAS)による評価、安静時ならびに鼻内抗原誘発後10分における鼻腔通気度から臨床効果を評価した。軽症成人喘息に関してはベクロメサゾン換算400μg/日以下の吸入ステロイド薬によりコントロール良好な日本人軽症喘息患者(49名)を対象に吸入ステロイド薬からモンテルカスト内服(8週間)への切り替えを行い、臨床効果を一秒量、朝のピークフロー値、およびQOL(AQLQ)スコアを用いて評価した。中等症以上成人喘息については患者72名に4週間のプランルカスト投与試験を行い、一秒量改善率で評価した。小児喘息では患者20名にモンテルカストを投与し(4週間)、喘息症状点数・QOL改善度、尿中LTE4排泄量の変化を評価した。
基礎的検討としてプロスタグランジンD2受容体DPとロイコトリエン受容体CysLT2に関する検討を行った。PCR-SSCP法で見いだした複数のDP受容体遺伝子多型からハプロタイプを決定し、それによるプロモーター活性の差違をルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイで検討した。CysLT2受容体ノックアウトマウスを作成するためにマウスCysLT2 cDNAをプローブとして、129マウスゲノムDNAとC57BL/6マウスゲノムDNAからマウスCysLT2受容体遺伝子をクローニングし、ターゲティングベクターを構築した。これをエレクトロポーレーションによってES細胞へ導入し、得られたネオマイシン耐性クローンから相同組換え体のスクリーニングを行った。
結果と考察
ロイコトリエンとロイコトリエン受容体拮抗薬について薬物動態と薬力学の両面からの検討を、対象疾患を従来の成人中等症-重症喘息から成人軽症喘息、小児喘息、鼻アレルギーまで拡げて行った。薬物動態の影響に関してはロイコトリエン受容体拮抗薬プランルカストの血中濃度と薬剤反応性に明らかな関連は認められなかった。他のアレルギー疾患治療薬についても、テオフィリンを除いては安全域の大きい薬剤が多いことから薬物動態の影響は少ないであろうと予測される。薬力学的側面ではロイコトリエン合成酵素(ロイコトリエンC4合成酵素、γグルタミルロイコトリエナーゼ)遺伝子多型に注目して検討した。ロイコトリエンC4合成酵素遺伝子A(-444)C多型に関しては、一昨年にプランルカスト反応性との関連を報告した中等症-重症成人喘息に加え、通年性アレルギー性鼻炎患者におけるプランルカスト反応性との間にも関連が認められた。ただし、鼻炎については喘息の場合と異なるアレルがレスポンダーに多い傾向がみられた。症例数が少ないために有意差には至らないものの、軽症成人喘息患者、小児喘息患者においてもロイコトリエンC4合成酵素遺伝子A(-444)C多型がモンテルカストあるいはプランルカスト反応性と関連する傾向が認められた。一方、γグルタミルロイコトリエナーゼ遺伝子多型ハプロタイプは中等症-重症成人喘息患者におけるプランルカスト反応性と有意な相関を示した。
基礎的検討からはプロスタグランジンD2受容体DP遺伝子プロモーター領域の3つの遺伝子多型がそれぞれ異なる転写因子の結合能に影響を及ぼし、その組み合わせからなる4つのハプロタイプ間のプロモーター活性が異なることが明らかとなった。またCysLT2遺伝子のターゲティングベクターを用いて作成した相同組換えES細胞が生殖系列に伝達されたキメラマウスからヘテロ遺伝子欠損マウスが得られた。このモデルマウスが完成すればロイコトリエン受容体の発現や機能に影響しうるさまざまな遺伝的、環境的要因の検討が容易になると考えられる。
これらの知見が抗脂質メディエーター薬の選択に応用できる可能性について今後検討を続けていく。
結論
ロイコトリエン受容体拮抗薬の臨床効果を遺伝的に規定する因子として薬物動態および薬力学関連因子について成人中等症-重症喘息、成人軽症喘息、小児喘息、鼻アレルギーを対象に総合的検討を行い、ロイコトリエン合成・代謝酵素遺伝子多型の重要性を再確認した。また複数の多型から構成されるハプロタイプを解析する意義についても検討をおこなった。

公開日・更新日

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