腸管免疫の特殊性解明に基づいた新たなアレルギー予防・治療戦略の展開

文献情報

文献番号
200300681A
報告書区分
総括
研究課題名
腸管免疫の特殊性解明に基づいた新たなアレルギー予防・治療戦略の展開
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 守(東京医科歯科大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 石川博通(慶應義塾大学医学部微生物学、免疫学)
  • 半田宏(東京工業大学大学院生命理工学フロンティア創造共同研究センター、分子生物学)
  • 日比紀文(慶應義塾大学医学部内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はこれまでのアレルギー疾患側からみた病因・病態の解明とは全く出発点を変え、食物アレルギーが成人におけるアレルギー疾患発症の誘因になる可能性があるという考え方を基盤とし、腸管粘膜免疫調節を人為的に制御することにより、成人のアレルギー疾患の病態に応じた新規治療法の開発を目指すという萌芽的研究である。本研究おいては主任研究者渡辺および分担研究者石川、日比らの研究組織が独自に見出してきた腸管粘膜免疫調節・抑制機構の考え方を導入するとともに、分担研究者の半田が開発した「ミラクルビーズ」を応用し、まず腸管における新しいアレルギー担当免疫組織、受容体の発見、免疫統御分子機構の存在等その特殊性を明らかとし、これらを利用した新しいアレルギーに対する抑制戦略を実用化しようとする試みを行う。異分野共同研究者の独自の視点を集合させた本研究はトランスレーショナルリサーチとして、将来的には難病治療、自己免疫疾患抑制に対する創薬にも連なる道が開く独創的研究と考えられる。
研究方法
1)主任研究者渡辺は本年度の研究において、腸管免疫制御におけるIL-7レセプター陽性細胞の機能、IL-7レセプター陽性細胞の機能的リガンドであるIL-7/TSLPの腸管粘膜におけるバランスの解析、さらに腸管上皮細胞でのIL-7産生分子機構の解析を行った。2)分担研究者石川は粘膜リンパ装置(GALT)、中でも本年度はパイエル板および腸管上皮内リンパ球(IEL)等の機能と腸管免疫異常の相互作用に焦点を当て、パイエル板が移植片対宿主病に関わる可能性、およびIELが慢性大腸炎発症に関わる詳細につき解析を行った。3)分担研究者半田は高効率に結合蛋白を分離精製することが可能である超微細beads担体「ミラクルビーズ」を用い、本年度は実際に病原大腸菌EphB蛋白に対する生体受容体を同定・単離ことを試みた。4)分担研究者日比はcostimulatory moleculeおよび制御性T細胞(Tr細胞)の機能がアレルギー疾患に関わる可能性を追求する中で、CD4+PD-1+CD25-細胞、という特殊な細胞集団の新たな機能を見出すとともに、これら細胞が抗アレルギー作用を有する可能性につき追求した。
結果と考察
1)主任研究者渡辺は慢性大腸炎の経過中には腸管上皮から産出されるIL-7とTSLPの発現が逆相関することを明らかにした。IL-7トランスジェニックマウスがTh1優位の腸炎を自然発症するとの知見、アトピー性皮膚炎においては表皮細胞由来TSLPがTh2細胞の増殖因子として機能するとの知見を併せると、これらの事実は腸管においてはIL-7とTSLPがそれぞれTh1、Th2応答に強く関わり、そのバランス変動により慢性大腸炎、アレルギーが引き起こされる可能性を示唆している。また、腸管上皮細胞によるIL-7産出がTh1サイトカインであるIFN-gにより著明な誘導を受ける事実も、IL-7の腸管免疫におけるThバランス調節への関与が強く示すものと考えられた。今後は、本年度の研究成果を基盤とし、IRFファミリー転写因子調節によるIL-7産出の人為的調節、IL-7レセプター陽性細胞の機能調節、あるいはTSLP産出の人為的調節を介したTh1/Th2バランス調節を試みることで、IL-7を中心とした腸管粘膜免疫の調節による新しいアレルギー抑制戦略の可能性をさらに追求することが可能であると考えている。
2)分担研究者石川の研究が提示した、パイエル板がa-GVHDの発信源であるとの新知見は、腸管組織に固有に備わるリンパ装置の新しい機能を提示したのみならず、ヒト骨髄移植療法の障害であるa-GVHDを回避する新規治療戦略開発の観点からも、画期的知見であり、今後の研究の進展が強く期待される。一方、γδ-T細胞は未だその生理的機能が解明されていないT細胞であり、NK細胞と同様に自然免疫と獲得免疫の中間に位置すると考えられているが、腸管粘膜最前線に位置するγδ-IELがDSS腸炎に何らかの役割を担うことが明らかにされたことによって、γδ-T細胞機能解明に寄与する進展が期待される。
3)分担研究者半田の本年度の研究により、大腸菌毒素などの高分子タンパク質を固定化したSGビーズは低分子化合物固定化のビーズよりも非特異的吸着による夾雑物が精製画分に混入することがわかったが、洗浄方法やビーズ固定化の際のリンカー分子の連結など高分子タンパク質固定化のための条件に関わる基礎知見が数多く得られた。さらにこれら条件の改善により実際に腸管病原大腸菌(EPEC)の病原因子EspBの結合蛋白を同定することが可能であったことより、アレルギー抗原となりうる腸内細菌由来蛋白あるいは食餌性蛋白抗原に対する生体受容体単離の網羅的解析にむけた技術基盤がほぼ確立されたものと考えた。
4)分担研究者日比はOVAを継続投与することにより、Th2型免疫反応が優位なアレルギー性大腸炎の発症を誘導することを明らかにした。さらにこの時OVA Tg x ICOS欠損マウスにおいてはTh2型反応、Tr1反応誘導のいずれもが著しく障害を受け、免疫寛容は成立せずアレルギー性腸炎は発症しないことから、ICOS分子を介するシグナルの関与が示された。PD-1/PD-lignadシステムについても同様に検討したところ、抗B7-H1分子に対する新規の受容体分子が存在する可能性を指摘した。また、CD4+PD-1+CD25-細胞を新たな制御性T細胞として同定したのみならず、これら細胞がOVA TCR Tg Th2型アレルギー腸炎のモデルを強く押さえることを明らかにした。これらの結果は、分担研究者半田らが食餌抗原に対する生体側受容体の分離同定に成功した場合、対応抗原の同定・精製から得られる抗原ペプチド配列、糖鎖修飾、立体構造などの情報が、食物アレルギー・全身性アレルギー疾患発症の分子メカニズムの解析に新たな知見を与えると考えられる。
結論
本研究は腸管粘膜免疫に注目し、この調整機構を人為的に制御することで成人のアレルギー疾患の病態解明と新規治療法開発を目指す新しい視点に基づく研究であった。本研究の成果、腸内細菌・ペプチドによる腸管粘膜免疫応答機構、特殊な腸管粘膜免疫組織の存在とこれらによる粘膜免疫制御機構を明らかにし、これらが各々さまざまな腸疾患の病態形成に直結するものであることを明確にした。また、粘膜免疫応答におけるTh1/Th2バランスの人為的制御が可能であること、および個々の食物/腸内細菌抗原・ペプチドに対応する生体側受容体の単離が可能であることを明らかにし、腸管粘膜免疫組織の特殊性理解に立脚した上で、食餌性および腸内細菌性抗原に対する生体受容体を単離し、これらを人為的免疫反応誘導に応用するための基礎基盤を確立した。これら成果は、多面的に展開されるアレルギー疾患制圧戦略のなかにおいて、腸管免疫機構の特殊性を最大限に利用したきわめて独創的なアプローチを創出するものと考えられた。今後は、今回組織した4グループによる研究成果のさらなる有機的連結を図ることで、得られた知見すなわち腸管組織に備わる特殊な免疫機構の理解に基づくアレルギーの病態解明に関する研究の推進およびその臨床応用への検討が望まれる。

公開日・更新日

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