関節リウマチの難治性病態に関する新規治療法の開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300680A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの難治性病態に関する新規治療法の開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 信之(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本博史(順天堂大学医学部)
  • 渥美達也(北海道大学医学部)
  • 山本一彦(東京大学医学部)
  • 原 まさ子(東京女子医科大学)
  • 右田清志(国立病院長崎医療センター)
  • 亀田秀人(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 田中良哉(産業医科大学医学部)
  • 上阪 等(東京医科歯科大学医学部)
  • 津谷喜一郎(東京大学薬学部)
  • 宮坂信之(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)の長期予後は改善しつつあるで、患者の生存率の延長に伴って新たに出現した難治性病態や治療薬剤による有害事象によって誘発される難治性病態などは、日常臨床上、大いなる問題となっている。さらに、現在の治療法に全く反応せずに日常労作の著しい障害を来る進行性の症例も少なからず存在している。本研究においては、難治性RA患者に対して有害事象が少なくかつ関節破壊を防止し、しかも患者のQOLを高める治療法の開発と実用化を試み、RAに対する新たな治療方針の確立に努めることを目標としている。
研究方法
本年度は、血漿交換療法、白血球除去療法、T細胞レセプター標的療法、多剤耐性遺伝子標的療法、細胞シグナル伝達阻害療法、末梢血幹細胞移植療法、アポトーシス誘導療法、細胞周期調節療法、抗サイトカイン療法などについて、その作用機序、有用性、臨床応用の可能性などを解析するとともに、抗サイトカイン療法のcost-effectiveness analysis(CEA)についても検討を行った。このため、一部の実験はin vitroを用いて行うとともに、動物モデルを用いたin vivoの実験と比較対照した。
結果と考察
橋本は白血球除去療法について検討を行った。アメリカリウマチ学会診断基準を満たし、しかもメトトレキサート抵抗性のRA患者9名に対して白血球除去療法を週1回の間隔で5回行い、治療前後に疼痛関節数、腫張関節数、患者による疼痛評価と全般活動性評価(VASスケール)、患者による運動機能評価(mHAQ)を経時的に測定することにより、ACRコアセット20%以上の改善を認めたものを効果ありと判定した。その結果、3人の患者が治療後4週目より症状の悪化等で、治療後12週目以降に1人が骨折のため離脱したが、研究期間中全体のACRコアセット20%の改善は77.8%(9例中7例で改善)、50%の改善は44.4%(9例中4例で改善)であった。ACRコアセット20%の改善は早い症例で治療3週目より認め、2症例は治療終了後1年でも効果の持続を認めた。しかし、赤沈、1年後の骨破壊に関しては有意の変化はみられなかった。今後、さらに治療プロトコルの検討、responderの臨床的特徴、本治療法の作用機序、cost performanceの面からの検討も行われる必要がある。
渥美は自家末梢血幹細胞移植療法(APBST)について強皮症患者4例での治験経験を報告し、CD34陽性細胞を選択的に移入することによって速やかな造血能の回復とともに皮膚硬化の改善がみられ、それとともにサイトカイン関連遺伝子のダイナミックな変化が起こることをcDNAアレイを用いて明らかにした。今後、抗TNFα抗体に対して抵抗性を示したり、あるいはアナフィラキシーが起こるRAに対してAPBST治療を行うことを検討しているが、cost performanceの問題に加えて移植後の強い免疫抑制の問題に対してどのように対処するかが課題として残されている。
右田はRAに合併する二次性アミロイドーシスに対する新規治療法を開発する目的で、血清アミロイド(SAA)産生の制御機構を解析し、これを阻害する薬剤を検討した。その結果、IL-1βが肝細胞からのSAA産生を誘導し、その過程にはMAPキナーゼ及びNFκBの活性化が関与しており、SAAの産生はJNK阻害剤により強く抑制された。以上より、JNK阻害剤はRAに合併する二次性アミロイドーシス発症予防に有用である可能性が示唆された。
田中は治療抵抗性となる一つのメカニズムとして多剤耐性遺伝子が関与している可能性を推測した。まず、30例のRA患者について多剤耐性遺伝子MDR-1がコードする細胞膜上P糖蛋白質の発現、及びMDR-1の特異的転写因子であるYB-1の細胞内発現を検討したところ、両分子の発現がともに亢進しており、しかもリンパ球のP-糖蛋白質発現率は、リンパ球採取時のCRP値、ESR値、疼痛関節数、腫脹関節数などと相関、または、相関傾向を示した。実際、P-糖蛋白質の過剰発現を呈する活動期RA症例では、既存のDMARD治療では制御不十分で、インフリキシマブの追加併用による強化療法を要し、疾患活動性の改善に伴いP-糖蛋白質の発現は健常人レベルにまで低下し、治療反応性が回復した。これまでRAにおける薬剤抵抗性の分子機構は不明であったが、本研究によって多剤耐性遺伝子MDR-1及びその遺伝子産物の糖蛋白質が関与していること、そしてP糖蛋白質阻害薬は治療抵抗性を回復させる可能があることが初めて明らかとなった。
山本は以前より抗原特異的免疫療法の可能性について提唱しているが、これは、生体内の情報を利用したT細胞レセプター(TCR)遺伝子のクローニングから、遺伝子導入による抗原特異性の再構築、さらに機能遺伝子の導入を含めた抗原特異的T細胞の試験管内再構築とその疾患への応用からなっている。本年度はコラーゲン関節炎モデルにおいて、滑膜浸潤T細胞のTCRα、β鎖を同定し、これをCD4T細胞に遺伝子導入することで抗原特異性の再構築ができること、そして抑制性分子IL-10遺伝子を組み込むことで関節炎の治療が可能であることを示した。
原は、RA滑膜におけるT細胞とマクロファージの相互作用において、CD40L(CD154)-CD40及びLIGHT-HVEMが重要であり、CD40及びHVEM刺激によりマクロファージからの炎症性サイトカイン産生が誘導されること、CD40-cartilage oligomeric matrix protein (COMP)融合蛋白はコラーゲン関節炎の発症を予防することができることを明らかにし、これら分子の相互作用を阻害することが難治性RAの新規治療法となりうる可能性を示した。
上阪は、細胞周期調節分子群として知られるサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)p16INK4、p21Clip1の遺伝子導入によってCIAなどの動物モデルにおける関節炎発症を抑制できることをすでに明らかにしているが、今回はp21Clip1発現によってp16INK4が誘導されるメカニズムについて検討を行った。その結果、による発現誘導の際に特異的発現変化をする一連の新規遺伝子が存在することが明らかとなり、現在、その同定を行っている。これらの遺伝子はRA治療の新たな標的遺伝子となる可能性があり、今後その探索がさらに行われる予定である。
宮坂は、アデノウイルスベクターを用いた遺伝子療法の際に問題となっているベクターの炎症惹起作用を軽減する目的で、ベクターの改変を試みた。その結果、ファイバー改変アデノウイルスベクターを用いたり、発現カセットを改変することにより、滑膜線維芽細胞への感染効率は飛躍的に増加することが明らかとなり、RA遺伝子治療に最適なアデノウイルスベクターを作成することが可能であると推測された。
亀田は、RAにおける滑膜増殖において滑膜細胞内のアダプター蛋白の関与を推測し、新たな分子標的療法の可能性を追究している。今回の研究では滑膜線維芽細胞をPDGFで刺激することによってGab1, Gab2, Nck, Shcのアダプター蛋白発現が誘導されること、慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として知られるSTI571 (imatinib)によってこれらのアダプター蛋白発現の抑制とともに滑膜細胞増殖が著しく抑制されることが明らかとなった。以上の結果は、CML治療薬であるSTI571が新たなRA治療薬となる可能性を示唆するものであり、今後のさらなる検討が期待される。
津谷は、RAにおいて高い有効性が認められている生物製剤のcost-effective analysis(CEA)を行うことを計画し、現在我が国で治験として長期投与試験が行われているetanerceptを対象として、etanerceptの自己注射・通院治療のCEAを行った。その結果、自己注射が通院治療に比較して明らかに医療費を削減できることが明らかとなった。
また、竹内班、江口班と協同で、生物学的製剤使用ガイドラインの策定を行った。
結論
今回の検討により、RAの難治性病態に対して有効性が期待される新規治療法が開発されつつあることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-