重症喘息の決定因子の同定とそれに基づく新規治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300678A
報告書区分
総括
研究課題名
重症喘息の決定因子の同定とそれに基づく新規治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 逸夫(千葉大学大学院医学研究)
研究分担者(所属機関)
  • 福田健(獨協医科大学)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 田村弦(東北大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気管支喘息の病態であるアレルギー性気道炎症は、Th2細胞の選択的活性化、Th2細胞と好酸球を主体とする炎症細胞浸潤、気道過敏性、粘液細胞の増加により特徴づけられる。さらに持続性気道炎症による気道構成細胞の活性化とその結果生じる気道リモデリングが重症化を促す。したがって、重症喘息の病因・病態の解明と新規治療法の開発には、1)アレルギー性気道炎症の成立機序及びその制御機構の解明が必須であるとともに、2)気道リモデリングの発症機序の解明と制御法の開発が必要となる。さらに、3)重症喘息のT細胞、好酸球の異常活性化機序の解明とその制御法の開発が重要である。本研究班は、これら研究テーマを明らかにし、その成果に基づく重症喘息の新治療法を開発することを目的とする。
研究方法
1)アレルギー性気道炎症の制御機構の解析
IL-21のアレルギー性気道炎症及びIgE産生における役割を明らかにするため、B細胞の免疫グロブリン産生に対する効果、ヘルパーT細胞の分化制御に対する効果、さらにアレルギー性気道炎症に対する効果をマウス喘息モデルを用い検討した。アレルギー性気道炎症におけるIL-25の役割を明らかにするため、肺特異的IL-25トランスジェニック (Tg) マウスを作製し解析した。
2)CpGDNA-アレルゲン結合体によるアレルギー性気道炎症の制御機構の解析
CpGDNA-抗原結合体によるアレルギー性気道炎症の制御機構を解明するために、CpGDNAを介した樹状細胞による抗原取り込みを解析した。樹状細胞によるCpGDNA-抗原結合体の取り込みを観察するため、蛍光蛋白であるR-PEをCpGDNAと結合させ、樹状細胞に取り込まれたR-PEをフローサイトメトリーで解析した。次に樹状細胞のCpGDNA-抗原結合体取り込みによる成熟化・活性化について、その指標であるCD40とCD86の発現をCpGDNAとR-PEの同時投与と結合体投与を比較した。
3)気道リモデリングによる気道過敏性の発症機序の解析
感作マウスに抗原吸入を3日間あけて2回行い急性モデルとした。また、連日14日間抗原吸入で気道リモデリングを誘発した後に再度抗原吸入を行ったものを慢性モデルとした。両モデル共に、最終抗原吸入曝露24時間前に抗IL-5抗体または抗IL-5受容体抗体を腹腔投与し、抗原吸入24時間後にアセチルコリンに対する気道反応性測定と気管支肺胞洗滌(BAL)を行った。
4)喘息患者CD4+T細胞およびサブセットのMDC/TARC産生能の解析
喘息患者T細胞がケモカインMDC/TARCを産生するか否かを明らかにするために、健常人、喘息患者末梢血CD4+T細胞を抗CD3 抗体+抗CD28抗体で刺激しMDC、TARC産生を検討した。
5)Churg-Strauss syndrome (CSS)の早期診断法と治療法の開発
CSSの病態と早期診断及び治療法を明らかにするため、血管炎発症前から臨床経過を追跡できたCSS(11症例)について末梢血T細胞、好酸球の活性化マーカーを発症時、ステロイド減量後、再燃時に検討し、さらにCD25+CD4+T細胞とCD25-CD4+T細胞のIL-5産生能の差異について検討した。
倫理面への配慮11
本研究を遂行するにあたり、対象とする喘息患者から提供される検体の取得に際しては、担当医師から研究の方法、必要性、危険性及び有用性、個人情報の保護、さらに拒否しても不利益にならないことを十分に説明した後、同意が得られた場合のみ行った。また実験動物を用いた研究は、動物愛護に配慮し、実験は実験動物委員会の規定に従い遂行した。
結果と考察
1)アレルギー性気道炎症の制御機構の解明
1.IL-21によるアレルギー性気道炎症の制御機構
感作マウスにリコンビナントIL-21を投与すると、抗原特異的IgE産生が著明に抑制され、抗原吸入によるアレルギー性気道炎症も抑制された。しかし、 IL-21はTh1細胞/Th2細胞分化に影響を与えなかった。IL-21は、LPS+IL-4刺激によるB細胞からのIgE産生を用量依存的に抑制し、その作用は、IL-21に対して中和活性を有するsoluble IL-21 receptorの投与により解除された。しかし IL-21は他のクラスの免疫グロブリン産生には影響を与えなかった。そしてIL-21は、LPS+IL-4刺激によるB細胞におけるgermline C? transcript産生を抑制したが、IL-4によるStat6のリン酸化及びLPSによるNF-?Bの活性化を抑制しなかった。さらにIL-21によるIgE産生抑制は、抗IFN-γ抗体により部分的に阻害され、IFN-γ産生誘導を介することが示唆された。以上より、IL-21はIgE産生及びアレルギー性気道炎症を抑制的に制御していることが明らかとなった。
2.新規サイトカインIL-25のアレルギー性気道炎症の遷延化・重症化における役割
CC10 promoterの制御下にIL-25を発現するTgマウスは5ラインが樹立された。肺特異的IL-25 Tgマウスは、いずれにおいても肺特異的IL-25 mRNAの発現が確認された。しかし、IL-25発現のみではアレルギー性気道炎症は惹起されなかった。次に肺におけるIL-25過剰発現の効果をマウス喘息モデルを用い検討した。肺特異的IL-25 Tgマウスを感作、抗原吸入するとアレルギー性気道炎症及び気道のTh2サイトカイン産生が増強された。これらの結果から、IL-25は、アレルギー性気道炎症を増強し、遷延化・重症化に関与することが示唆される。
2)CpGDNA-アレルゲン結合体によるアレルギー性気道炎症の制御機構の解明
R-PEのみを樹状細胞に加えた場合はR-PE陽性の樹状細胞は数%であり、R-PEとCpGDNAを同時に加えてもその割合は増加しなかった。しかし、R-PEとCpGDNAを結合体にするとR-PE陽性細胞が劇的に上昇し、88%となり、ほとんどの樹状細胞にR-PEが結合、もしくは取り込まれたと考えられた。またR-PEのみを加えた場合はR-PEを取り込んだ樹状細胞のCD40の発現が弱く、CpGDNAを同時に加えるとR-PEを取り込んだ樹状細胞のCD40発現は高かった。CpGDNA-R-PE結合体を加えるとほとんどの樹状細胞がR-PEを取り込み、CD40もCD86の発現も増強しており、CpGDNA-抗原結合体により抗原が効率よく樹状細胞に取り込まれると同時に成熟・活性化されることが示された。
3)気道リモデリングによる気道過敏性の発症機序の解明
抗IL-5抗体ないし抗IL-5受容体抗体を投与した急性喘息モデルでは、 BAL液中好酸球数はコントロール抗体投与群に比し有意に少なく、気道反応性亢進も有意に抑制されていた。一方、慢性モデルでは抗IL-5抗体投与は好酸球数増加を抑制したが、気道反応性亢進は抑制しなかった。しかし、抗IL-5受容体抗体投与により気道反応性亢進も有意に抑制された。今回の結果は、慢性喘息における気道過敏性亢進にはIL-5が好酸球を介せず直接関与する可能性を示唆する。
4)喘息患者CD4+T細胞およびサブセットのMDC/TARC産生能の解析
健常人、喘息患者末梢血CD4+T細胞は共に抗CD3 抗体+抗CD28抗体刺激によりMDC、TARCを産生したが、産生量は圧倒的に喘息患者で大であった。これらケモカインを産生するサブセットはCD45RO+CD4+T細胞 (memory/effector T細胞)ではなく、CD45RA+CD4+T細胞 (naive T 細胞)であった。さらにin vitroで分化させたTh2細胞株はTh1細胞株に比し有意に多い MDCとTARCを産生したが、naive T細胞ほどではなかった。本研究により、喘息患者naive T細胞はMDCとTARCを大量に産生し、Th2型気道炎症の誘導、維持に寄与している可能性が示唆された。
5)Churg-Strauss syndrome (CSS)の早期診断法と治療法の開発
CSS発症時に末梢血好酸球数は著明に増加した。活性化好酸球(CD69+CCR3+)は重症喘息の一部でのみ検出され、CSS発症時に著明に増加した。ステロイド減量後再燃時のCSSでは末梢血好酸球数は治療後安定期と比較して有意差を認めないが、活性化好酸球(%)は増加した。一般喘息全体ではCD25+CD4+T細胞数が高値であるが、CSS発症時は低値であった。CD69+CD4+T細胞数は喘息重症度に応じて増加しCSS発症時に著増した。CSS発症時にはCD69+CD4+T細胞数高値、CD25+CD4+T細胞数低値であるのに対し、治療後安定期にはCD69+CD4+T細胞数低下、CD25+CD4+T細胞数増加した。また再燃時にはCD69+CD4+T細胞数増加、CD25+CD4+T細胞数低下した。IL-5産生はCD25+CD4+T細胞では一般喘息、CSSともに産生し(76.9% vs. 85.7%)、CD25-CD4+T細胞では一般喘息での産生率が23.1%であるのに対し、CSSでは85.7%が産生した。今回の結果からCSSの発症、鎮静化、増悪のメカニズムにCD25+CD4+T細胞が関与している可能性が示唆される。またCSSでは一般喘息と比較してCD25-CD4+T細胞のIL-5産生能が亢進しており、CSSと一般喘息の病態が異なることを示唆している。以上から、活性化T細胞の解析により、CSSの発症予知、早期診断、治療効果の判定、治療薬減量の基準が確立できる可能性がある。
結論
本年度の研究により、重症喘息の病因・病態の解明、治療法の開発に重要な多くの研究成果が得られた。1)アレルギー性気道炎症の制御機構について、T細胞サイトカインIL-21は、IFN-γ産生誘導を介しIgE産生及びアレルギー性気道炎症を抑制的に制御していることが明らかとなった。さらに肺特異的IL-25トランスジェニックマウスの解析により、新規のTh2細胞サイトカインIL-25は、アレルギー性気道炎症を増強し、遷延化・重症化に関与することが示唆された。
2)CpGDNA-アレルゲン結合体によるアレルギー性好酸球性気道炎症の制御機構を解析し、CpGDNA-抗原結合体が樹状細胞の抗原取り込みを劇的に増加させ、かつ成熟・活性化を誘導することを明らかにした。したがって、CpGDNA-抗原結合体は有望な抗原特異的な抗アレルギーDNAワクチン療法である。
3)気道リモデリングによる気道過敏性の発症機序について、Th2細胞のIL-5が好酸球性炎症を介さず、直接気道平滑筋の反応性亢進を惹起する可能性が示唆された。
4)喘息患者のnaive CD4+T細胞は健常者に比しMDCとTARCを大量に産生し、Th2型気道炎症の誘導、維持に関与している可能性が示唆された。
5)重症喘息であるCSSの早期診断と治療効果の判定には、活性化好酸球と活性化CD4+T細胞が指標になることが明らかにされた。さらにCD25-CD4+T細胞のIL-5産生能も有用である。
これらの成果から、重症喘息の気道炎症及び気道リモデリングの発症維持・重症化に関与する分子群をターゲットとする新しい治療薬開発の可能性が示唆される。

公開日・更新日

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