全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200300675A
報告書区分
総括
研究課題名
全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
三森 経世(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 市川健司(国立療養所西札幌病院)
  • 遠藤平仁(北里大学)
  • 桑名正隆(慶應義塾大学)
  • 高崎芳成(順天堂大学)
  • 田中真生(京都大学)
  • 津坂憲政(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 堤明人(筑波大学)
  • 寺井千尋(東京女子医科大学)
  • 土肥眞(東京大学)
  • 南木敏宏(東京医科歯科大学)
  • 平形道人(慶應義塾大学内科)
  • 広畑俊成(帝京大学)
  • 山田秀裕(聖マリアンナ医科大学)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膠原病を中心とする全身性自己免疫疾患は「難病」を代表する疾患群であるが、総体的な生命予後の向上を見る一方で、依然として治療法が確立していないために死亡率が高く、または重い障害を残すような病態が残されている。このために、むしろ長期生存例が増えるにつれてかかる難治性病態が一層クローズアップされるようになった。膠原病の生命予後をさらに改善し、QOLを改善してより良いライフスタイルを確立するためには、このような難治性病態を解明して有効な診断と治療法を開発することが急務と考える。本計画は膠原病難治性病態について疾患横断的に病態解明、診断法の確立、新たな治療法の開発を通じて、わが国における治療ガイドラインの構築をめざす。本年度は、全身性自己免疫疾患における難治性・治療抵抗性の筋炎、心肺病変、腎炎、消化管病変、中枢神経症状、二次性アミロイドーシス、血栓形成病態、線維化病態について、実態調査、病態研究、新たな診断マーカーの開発による早期診断法の確立、従来の治療法の整備と新たな治療法の開発を行い、さらにエビデンスに基づく治療(EBM)を重視したわが国における難治性病態の治療ガイドラインの作成に着手した。
研究方法
1)動物モデルおよびin vitro系を用いた病態解明と治療法の開発(桑名、津坂、南木、土肥)、2)難治性病態における疾患感受性遺伝子の同定と予後の予測(堤、寺井、市川)、3)難治性病態の診断と予後予測(三森、平形、田中、広畑、高崎、遠藤)、4)アンケート調査による難治性病態の全国調査(吉田)、5)プロスペクティブ研究による難治性病態の治療(山田)、6)過去のEBM文献の集積・解析と各難治性病態の診断と治療ガイドラインの作成(全員)。本年は前年度の成果を踏まえてこれらの研究をさらに発展させることに主眼を置いた。(倫理面の配慮)患者からの検体採取および新たな治療法の臨床応用に際しては、各施設の倫理委員会の承認を受けるとともに、患者より文書同意を取得することを前提とした。
結果と考察
1)自己抗体による難治性自己免疫疾患の診断と予後予測(三森、田中): 分担研究施設のSLE、SSc、PM/DM、RAの入院患者血清204例について、自己抗体を免疫沈降法により測定し、疾患および難治性病態との関連性を検討した。抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体はPM/DMに特異性が高く間質性肺炎を高頻度に合併すること、抗Sm抗体はSLEに特異性が高く腎炎が高頻度であることが確認された。今後症例の追跡により、自己抗体の早期診断と予後予測における意義を検討する。2)難治性自己免疫疾患の予後予測因子と遺伝子多型性(堤): 病態関連遺伝子として注目されるMBL遺伝子のコドン54多型は、SLEにおける異常型(BBホモ)の頻度が健常人よりも高く、BB型SLEでは血中MBL濃度が低値で、入院を要する感染症併発頻度も高かった。抗MBL抗体がSLE患者116例中9例に検出された。SLEにおけるMBL遺伝子型判定は感染症のリスク判定に有用と考えられた。3)AA-アミロイドーシス(ア症)の遺伝的要因、病態、治療に関する研究(寺井): ア症には人種差、地域差が報告されている。SAA遺伝子のSAA1.3(SAA1g)アレル、SAA1遺伝子プロモーター領域の-13T、および5つのSNPsのうちのCTGCCハプロタイプが日本人ア症発症の危険因子であったが、
フィンランド人とトルコ人ではこれらとの相関は見られず、SAA1.1(SAA1a)が危険因子であった。4)抗リン脂質抗体とprothrombin(PT)の遺伝子多型に関する研究(市川): 劇症型APS患者の実態調査でループス抗凝固因子(LA)が全例に出現し、病態との関連が示唆された。LAの主要対応抗原はPTのため、その遺伝子多型を検討したところ、6種類のSNPsのうちrs5896T/Tの頻度がLA陽性例で多い傾向が認められ、LA産生とPT遺伝子多型の関連が示唆された。5)膠原病における線維化病態の機序解明(桑名): CD40を強制発現させた線維芽細胞を抗CD40モノクローナル抗体や可溶性CD40L/CD154で刺激すると、III型コラーゲンおよびPDGFレセプター?の発現亢進が認められた。この結果はCD40を介するシグナルが線維化病変に重要であり、CD40-CD154シグナルを標的とした治療が抗線維化療法として新たな治療ターゲットとなりうる可能性を示唆する。6)膠原病の上皮障害における接着分子の役割(津坂): 膠原病の上皮障害のメカニズムとして、T細胞が接着分子を介して標的細胞にアポトーシスを誘導する機序が注目され、特に間質性肺炎ではaEb7/E-cadherin接着が重要と考えられる。E-cadherin細胞外領域を構成する5つのドメイン(CAD1-5)のうち、CAD3/CAD4とaEb7の接着が最も強いことを明らかにした。7)難治性筋炎における自己抗体の臨床免疫学的意義(平形): 抗SRP抗体はPMに特異性が高く、HLA-DR8と相関し、陽性例はステロイド治療に抵抗し、筋生検組織で筋線維の変性壊死は強いが炎症細胞浸潤に乏しいという特徴を見出した。また種々の系統の正常マウスにプリスタンを投与すると抗SRP抗体が産生され、同抗体産生に環境要因の関与が示唆された。8)難治性筋炎の炎症細胞浸潤におけるケモカインの関与(南木): ミオシンで免疫を繰り返した自己免疫性筋炎マウスに抗フラクタルカイン抗体を投与すると、筋組織への炎症細胞浸潤が抑制されることを確認し、かかるケモカインのブロックが筋炎の治療に有用である可能性を示唆した。9)中枢神経ループスの病態形成における抗リボゾームP抗体(抗P抗体)の役割の解析(広畑): 抗P抗体がCNSループスの病態形成に果たす役割について、活性化末梢血単球からの炎症性サイトカイン産生に与える影響を検討した。精製抗P抗体は末梢血単球のTNFaおよびIL-6産生を亢進させることを明らかにし、SLEの中枢神経内へのリンパ球侵入や免疫異常の発生に関与する可能性が示唆された。10)実験的肺線維症モデルにおけるIL-10の治療効果に関する研究(土肥): ブレオマイシン惹起肺線維症モデルマウスにIL-10 cDNAを組み込んだプラスミドベクターを投与したところ、肺ヒドロキシプロリン含量、線維化の程度、BALF中のTGF-b濃度が有意に低下した。IL-10は肺のTGF-?産生抑制によって肺の線維化を抑制することが示唆された。11)PM/DMの間質性肺炎(IP)に対するシクロホスファミド(CPA)間歇静注療法の有用性の検討(山田): PM/DM急性期死亡の要因として、抗Jo-1抗体陰性DM、発症1ヶ月以内、AaDO2>40torrの呼吸不全、先行する発熱と咽頭痛、HRCTでの広範囲なスリガラス陰影が抽出された。PM/DMのIPに対するEBM確立のため、予後不良因子を1つ以上持つ症例を対象とし、ステロイド大量投与に加えCPAパルス療法とシクロスポリン経口投与の無作為割付比較対照試験のプロトコールをデザインした。12)膠原病性肺高血圧症(PH)の実態調査(吉田): 膠原病に合併するPHの実態調査のため、各分担研究施設に通院する膠原病患者の数人に一人の割合で心臓超音波検査と胸部X線撮影、心電図検査を行った。548例の検討では、SLE9.3%、強皮症11.4%、MCTD16.9%、PMDM1.5%に心エコー上PHを認め、膠原病での高率なPH併発が確認された。13)流血中PCNA蛋白複合体と腎病変(高崎): 重症ループス腎炎と相関する抗PCNA抗体の病態形成における意義を検討した。流血中のPCNA複合体はSLEの65%に検出され、その全例でPCNA陽性活性化単核球が検出された。血漿交換療法後には流血中の抗原濃度は低下した。さらに、PCNA複合体の成分としてGAPDHを同定し、SLE患者の45%に抗GAPDH抗体が検出された。14)13C標識脂肪
酸吸収呼気試験を用いた全身性強皮症腸管病変の評価(遠藤): 強皮症における消化管病変の機能的診断と評価のため、13C標識脂肪酸吸収呼気試験により強皮症の腸管病変のモニター法を検討した。腸管病変を有する強皮症患者では13C脂肪酸の吸収ピーク値は低下し、同法は強皮症腸管病変のモニターに有用な非侵襲的検査法と考えられた。15)関節リウマチにおける抗FRP抗体と治療抵抗性の関連の検討(田中): 抗ホリスタチン関連蛋白(FRP)抗体はRAにおける治療抵抗性の指標となる可能性が考えられたため、RA症例を登録し経過を1年ごとに記録する追跡研究を開始した。さらに抗FRP抗体を多検体で効率よく検出するELISAの開発にも着手している。16)診断と治療ガイドラインの作成(全員): 本年度よりエビデンスを重視した難治性病態の治療ガイドラインの作成に取り掛かっており、原稿(ドラフト)がほぼ完成した。ワークショップを開いて広く意見を集積し、blush upの上別途印刷物を作成の予定である。
結論
全身性自己免疫疾患の難治性病態において、病態解明、新たな診断マーカーによる早期診断法の確立、従来の治療法の整備とプロスペクティブスタディによる新たな治療法の確立を目指した。特に自己抗体には難治性病態を予測し治療計画に有用と考えられるものが多いため、全国の分担研究施設より血清を集め、自己抗体の早期診断、予後判定、治療指針確立における意義を検討するプロスペクティブ多施設共同研究を立ち上げた。これらの成果は、エビデンスを重視した難治性病態の診療ガイドラインの作成に生かしたい。

公開日・更新日

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