関節リウマチの先端的治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300671A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの先端的治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 久寿樹(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岩倉洋一郎(東京大学医科学研究所)
  • 尾崎承一(聖マリアンナ医科大学)
  • 高柳 広(東京医科歯科大学大学院)
  • 妻木範行(大阪大学大学院)
  • 千葉一裕(慶應義塾大学)
  • 中島利博(聖マリアンナ医科大学)
  • 開 祐司(京都大学大学院)
  • 半田 宏(東京工業大学)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
88,168,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年の本研究計画書でも述べたように、国民医療費や日常生活機能に直接的重大な影響を及ぼすと考えられる関節リウマチ等骨・関節疾患は、今後増加の一途にあると考えられる。最近の米国における推計では、リウマチ性疾患患者数は2020年までに4000万に上るといわれている(“Time" Dec. 9, 2002)。我々の研究班の調査でも、本邦における同疾患の推定患者数は、現時点で1200万、2020年までには米国並みの推移を辿り、2000万に上ると推定される。我々の研究班では、こういったリウマチ性疾患を克服するために、第一にその病変の主座である関節機能の障害に関連したゲノム医学及びプロテオーム分子レベルでの網羅的解析に基づく病因解明、特に症状進展のプロセスの解明とその制御、及び医療経済的な面からその疾病負担による治療薬の研究開発とその適応によって得られる効果、すなわち費用対効果の2点に重点をおいて研究を重ねてきた。そのために、①運動器を構築する滑膜・骨・軟骨及び筋線維の変性の病態に関わる分子及び遺伝子群の解明、②滑膜、軟骨及び骨破壊の遺伝子分子機構を網羅的に解析するプロテオーム並びにゲノム研究グループによる標的治療分子の解明とナノバイオビーズ等の新技術による創薬開発の可能性の検討、③リウマチ性疾患による骨・関節破壊の障害を生活機能障害の視点より位置づけ、高いQOLの獲得を目指した治療戦略の作成、④リウマチ性疾患の生活機能障害の実態を把握し、その疾病負担を評価する計量化モデルの作成、以上の4重点課題を提起した。その制圧によって得られる成果を、いわゆる費用対効果の面から詳細な解析を行い、医療福祉・経済面からもこれからの研究開発の妥当性を検証した。
研究方法
本年度は、新たに発見されたリウマチの関節炎発症の病因タンパク、軟骨細胞の異化に治療的な分子群の機能解析を推進した。
筋骨格系を中心とする運動器障害に伴う生活機能の回復へ向けた研究①変形性関節症、骨粗鬆症における骨・軟骨破壊の分子機構の解明。②成長因子、Notch遺伝子などによる軟骨分化誘導とその解明に関する基礎的・臨床的研究。③運動器科学という新たな学際的領域の確立と生活機能病の概念の普及啓発活動。
リウマチ治療関連3班(宮坂班、江口班、竹内班)と合同で、リウマチ治療全般(非ステロイド、骨粗鬆症治療薬、DMARDs、サイトカイン療法、リハビリテーション等)に関する治療の推進、クリニカルパスの作成とPMSの評価。
結果と考察
関節炎発症の分子機構の制御①サイトカイン産生による骨破壊への関与の解明、特にIL-17の骨・軟骨破壊への関与を検討した。②BMPシグナルの遺伝子操作による軟骨の分化誘導を解明し、標的分子の絞込みを行った。③関節リウマチにおける関節内のホメオスターシス破綻を解明するための分子戦略を構築した。④普遍的核内統合装置機能亢進症、核内アセチル化の亢進を明らかにした。⑤ユビキチリンリガーゼの活性化によるタンパク質の処理機能の障害を解明した。⑥軟骨細胞の初期分化誘導にNotch遺伝子が強く関係し、今後の軟骨再生の鍵となる分子であることを明らかにした。⑦軟骨細胞由来の抗原ペプチドを網羅的に解析し、その結果TPI (Triphosphate Isomelase)、 Fibulin 4などを代表とする計30個の抗体ペプチドを同定し、これらが関節炎の発症、特に軟骨破壊に関与することを明らかにした。
新薬開発と臨床応用に関する費用対効果の検討について、本邦で、臨床応用のため開発された新薬の治療効果と、その医療費削減効果を検討した。その結果、新薬の治療効果に対応して医療費の抑制効果が確認された。
本年度は、関節リウマチを中心とするリウマチ性疾患制圧に向けて、多くの成果が得られた。リウマチの主病変である滑膜細胞では、世界で初めてユビキチンリガーゼの一つがアポトーシスの制御分子であることが発見され、リウマチの滑膜細胞制御に対する画期的な治療薬開発に大きな進展が見られ、また、軟骨細胞の異化、亢進のシグナル(Smad, BMP, Notch-1など)やケモカインの働きが解明された。また、軟骨の抗原性ペプチドのプロテーム解析による成果は、免疫応答の制御剤が一定の治療薬候補として考えられることを示した。また、インターフェロンによる破骨細胞の制御の知見は、骨破壊の分子制御と関節病変に関わる主な間葉系細胞の治療に新しい戦略を展開していると考えられる。新薬の臨床開発コストや医療費、患者のQOL向上による経済効果を検討した結果、ACR20%. ACR50%, ACR70%のそれぞれに対応し、顕著な医療費の抑制効果が確認されている。
結論
①本研究対象の関節リウマチや変形性関節症などの主な関節炎の病変の主座は、それぞれ滑膜間葉系細胞、軟骨細胞である。今回のそれぞれの細胞の増殖、異化アポトーシスの制御に関わる一連のゲノム及び分子群の同定は、今後の画期的創薬の開発に大きな進展をなすことが考えられ、その一部は既に非臨床試験に移行している。②分子とレセプター間の特異的結合を阻害するため、製剤化の技術として抗体とナノサイズのラテックスビーズを構築して、さらに創薬開発の基盤技術を加えたナノバイオビーズの開発に成功した。③本邦で、リウマチ治療新規の2剤が開発され、医療費と臨床効果、開発コストなどを検討した。経口のレフルノミドを対象に、YLDでみると臨床的効果に対応して顕著な医療費の抑制がみられた。これらの事実は、リウマチ性疾患の活動性抑制による臨床効果は、開発コストをはるかに上回り、直接的、間接的医療費の抑制に大きく貢献していることが明らかにされた。

公開日・更新日

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