関節リウマチの疫学、患者の受療動態に関する研究

文献情報

文献番号
200300669A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの疫学、患者の受療動態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野愼一(日本医科大学)
  • 箱田雅之(放射線影響研究所)
  • 藤原佐枝子(放射線影響研究所)
  • 山中寿(東京女子医科大学)
  • 吉田正(星薬科大学)
  • 伊津野孝(東邦大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨関節疾患は非致死性であることが多く、医療保健行政上の定量的評価を行うことが困難である。本研究では骨関節疾患の疫学的知見から疾病負担を算出し、骨関節疾患の定量的な負担を明らかにすることにある。骨関節症状「腰痛」、「肩こり」、「手足の関節が痛む」は我が国の愁訴の中でも多く日常生活に負担となっているが、非致死性疾患であるため他の致死疾患と比べ疾病負担の影響や将来における推移について定量的な評価は行われていない。WHOでは「運動器の十年(BJD)ではMonitoring Project委員会が設置され、疫学的評価のために調査法の標準化を進めている。本研究では、骨関節疾患の疾病負担をもとに保健行政施策の基礎資料として貢献できるように、骨関節疾患の負担量の定量的評価を行うと共に、その応用として疾病負担量の将来予測と医療費の関係について検討し、その基礎資料を作成した
研究方法
本研究では、疫学的視点から骨関節疾患の疾病負担算出に関わる研究と関節リウマチの肺合併症に関する動物モデルの開発から構成されている。疫学的視点については、疾病負担の算出に関わる我が国の資料をデータベース化する研究、コホート集団における骨関節疾患の経年的変動、医療機関における患者コホートを用いた医療経済分析、生活習慣病および骨関節疾患のDALY値算出、WHO Monitoring Project委員会の調査法に関する第一段階質問表による調査、骨関節疾患の疾病負担の将来予測を課題として行った。1 コホート集団による関節リウマチの有病率の経時的評価(箱田雅之分担研究者):分担研究では、1958年から継続している放射線影響研究所の被爆者コホート(成人健康調査)を対象に、関節リウマチの有病率と経年的変化を検討した。対象者は1999年11月から2002年10月までに受診した2,982名であり、1987年改訂の米国リウマチ学会分類基準を用いて診断を行った。また、経年変化については1958年から1966年にかけての行われた関節リウマチの調査結果との比較を行った。2 日本人コホート集団における脊椎骨折発生率に関する研究(藤原佐枝子分担研究者)骨粗鬆症に伴う骨折が、要介護者の原因の約12%を占める健康負担の大きさを考慮して、成人健康調査受診者で脊椎X線検査を受診した2400名を対象として、新規脊椎骨折発生率を求めた。脊椎骨折の定義は観察前後の椎体高を比較して20%以上の低下した場合を骨折と定義した。3RA患者の機能障害度と直接医療費の関係に関する研究(山中寿分担研究者):東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター受診者に対するJ-ARAMIS(Japanese Arthritis Rheumatism and Aging Medical Information System)をもとに患者のアウトカム調査を行った。解析は、患者の直接医療費を算出し、RA患者の病像と医療経済の関連を検討した。4 我が国における関節リウマチ、関節症のDALY値推計の試み(伊津野孝分担研究者):DALY値は保健サービスの配分を考慮する際の指標としてWHOがGlobal Burden Diseases(GBD)として提案された指標である。今回、骨関節疾患を含め、生活習慣病についても比較する目的から算出対象とした。算出方法は、原法の罹患率、罹病期間に変えて慢性疾患という観点から有病率を以て、罹患率×罹病期間部分を代用して算出した。5 関節リウマチの薬物療法における医療経済的評価に関する研究(吉田正分担研究者):関節リウマチ患者の薬物療法における医療経済的評価を行った。対象者は大学病院通院患者356名であり、NSAIDs(COX-2非選択性・選択性)および少量GC(PSL換算10mg
/日以下)による薬物療法について、副作用の種類、出現頻度、健康状態に及ぼす影響をGeneral Linear Modelを用いて検討した。6 我が国のフィールド調査(吉田勝美主任研究者):我が国で行われた骨関節疾患のフィールド調査について、関節リウマチ(居村茂明研究協力者)、変形性関節症(膝)(内田淳正研究協力者)、変形性関節症(股)(井上康二研究協力者)、骨粗鬆症(豊島良太研究協力者)、腰痛(井川宣研究協力者)、痛風(川崎拓研究協力者)にデータベース作成のための一定フォーマットによる整理を行っている。7 DALYを用いたマクロ的医療経済評価と疾病負担の将来予測(吉田勝美主任研究者):1993年の国民医療費と厚生省班研究によるDALY値との相関分析を行った。DALY値については、全体とYLL(Years of life lost、早世の指標)とYLD(Years of living with disability,障害を伴う生存)の3指標について、経済特性との関係を検討した。将来予測は、患者調査から性年齢階級別受療率を算出し、人口動態統計からの将来推計人口を用いて患者数の推計を行うとともに、専門家意見調査結果をもとに重症度分類とそれに伴う患者構成の変化を考慮して2010年の疾病負担推計を行った。8 BJD Monitoring Project委員会骨関節症状標準化調査法の開発(吉田勝美主任研究者):昨年来のMonitoring Project委員会標準化第一段階調査票を用いて国内4500名を対象に実施した。調査票は、全身の骨関節症状とそれに伴う日常生活への障害を調査する内容である。この調査をもとに、性別年齢階級別の骨関節に関する有症状率を求めることにある。9 関節リウマチや術後における肺合併症の原因の解明とその治療に関する研究(吉野愼一分担研究者):DBA/1J マウス (6週令)をtype II collagen とcomplete adjuvant投与しCIA (collagen induced arthritis)miceを作製する。投与回数を増やしより強い関節炎を起こさせた。好中球エラスターゼ(NE)をマウス尾静脈より頻回投与することで肺微小血管系の炎症を増悪させ肺血栓塞栓症を誘発させる。当科術後エラスターゼ値のピークが3日間だったので、臨床に則し一日2回、3日間マウスに静脈内投与した。抗エラスターゼ剤、リコンビナントトロンボモジュリン、シメチジン投与による効果判定実験を行い、効果判定は主に血液凝固因子の測定と組織免疫学的に評価した。
結果と考察
1 コホート集団による関節リウマチの有病率の経時的評価(箱田雅之分担研究者):広島、長崎での調査を合わせた対象者数は4,895名(男性:1,614名、女性:3,281名)、患者数は51名(男性:10名、女性:41名)であり、有病率は1.04%(男性:0.62%、女性:1.25%)であった。有病率の経年変化を検討する目的で、同一の固定集団に対して行われた1958年―1966年の調査結果との比較を行った。関節リウマチ患者は67名(男性:17名、女性:50名)であり、有病率は1.31%(男性:0.77%、女性:1.72%)であった。前回調査時の方が有病率はやや高い傾向であったが、年齢、性を補正した検定(ロジスティック回帰解析)を行ったところ有意な差は見出されなかった(p = 0.249)。
2 日本人コホート集団における脊椎骨折発生率に関する研究(藤原佐枝子分担研究者):2400名の追跡期間中に新しく脊椎骨折を起こしたのは、男27人、女149人であった。発生率は、女性は男性の約2倍で、男女とも年齢が高くなるほど増加した
3 RA患者の機能障害度と直接医療費の関係に関する研究(山中寿分担研究者):RA患者の年間医療費は 平均417,134±32,040円で、内訳は薬剤費55.4% 、検査費22.5%、入院費, 13.9%、診察費 7.2%、理学療法費1%であった。性、年齢、罹病期間、BMIを補正した総医療費は機能障害度と強く相関し(p<0.001)、機能障害度1の増加で総医療費は約33%増加した。
4 我が国における関節リウマチ、関節症のDALY値推計の試み(伊津野孝分担研究者):我が国のDALY上位18疾患中、骨粗鬆症15位、関節症16位、関節リウマチ17位であるが、YLDでみると男性で10位以内に、女性では5位に入る健康問題であることが示された。
5 関節リウマチの薬物療法における医療経済的評価に関する研究(吉田正分担研究者):COX-2非選択性NSAIDs投与例に比し選択性NSAIDs投与例が高価であった。少量GC投与例では、短期(2年間)の身体的および精神的QOLの改善率が大きく、骨粗鬆症に対するモニタリング、骨粗鬆症治療薬による予防・治療の費用を加算しても他の抗リウマチ薬療法に比し安価であった。
6 我が国のフィールド調査からのデータベース構築:我が国での発表資料を基に、調査年、調査対象地域、対象人数、診断基準、性別年齢階級別のデータベースを構築する作業を進行中である。
7 DALYを用いたマクロ的医療経済評価と疾病負担の将来予測(吉田勝美主任研究者):DALY14傷病について、DALYとその構成要素であるYLL、YLDの3種と国民医療費の相関係数を求めた。精神神経疾患を除いた場合の相関係数は0.62, 0.42, 0.73となり、医療費とYLDに有意な関係を認めた。 患者調査から、関節リウマチと骨関節症の性年齢別受療率を元に、将来推計人口から将来患者数の推計を行うと共に、重症度分類から将来の疾病負担量を予測した。2000年疾病負担量に比べ、2010年には関節リウマチで1.03倍、骨関節症では1.21倍となることが示された。
8 BJD Monitoring Project委員会骨関節症状標準化調査(吉田勝美主任研究者):平成15年11月末に調査票を回収し、約4500名分の標準調査票の回答を得ており、現在、性別年齢階級別の有所見頻度および日常生活への負担の程度を部位別に解析中である。
9 関節リウマチや術後における肺合併症の原因の解明とその治療に関する研究(吉野愼一分担研究者):関節炎を起こしていないマウスにNEを3日間投与しても、すぐに血栓は溶解してしまい実験4日後の組織像では血栓を認めなかった。関節炎を起こしたものでは実験4日後でも中大血管に血栓像を認め、蛍光免疫染色法で、正常では肺毛細血管では有意に染まる抗凝固因子のトロンボモジュリンの発現が半減していた。変わりに凝固因子であるフォンヴィルブランドファクターの増加を認めた。
結論
骨関節疾患の疫学知見と疾病負担に関するアルゴリズムを用いて、患者の日常的な負担および経済的負担を定量的に評価することで、骨関節疾患患者の受療動態に与える影響を検討した。疫学的的知見では国内における住民調査を総括して時代的地域的変動を明らかにするデータベースを構築した。関節リウマチに関しては有病率は時代的に有意な変化がないことが示され、骨粗鬆症による椎体骨折有病率を求め予後における推移を明らかにした。患者データベースから医療経済的負担と機能障害に関するモデル解析を行う仕組みが提案され、入院患者データベースから治療による副作用頻度と経済的負担を明らかにした。これらの治療に関連したアウトカムを用いて、治療法導入による機能負担の改善と医療経済効果を算出するモデルの基礎データの入手が可能になった。また、動物実験モデルを用いた関節リウマチ患者の肺塞栓症に関する検討から炎症性サイトカインの関与を明らかにした。
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