アレルギー疾患の発症および悪化に影響する因子の解析

文献情報

文献番号
200300667A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の発症および悪化に影響する因子の解析
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大田 健(帝京大学医学部内科)
研究分担者(所属機関)
  • 平井浩一(東京大学大学院医学系研究科生体防御機能学客員助教授)
  • 西村正治(北海道大学大学院医学研究科分子病態制御学教授)
  • 棟方 充(福島県立医科大学呼吸器科教授)
  • 塩原哲夫(杏林大学医学部皮膚科学教授)
  • 庄司俊輔(国立療養所南福岡病院副院長)
  • 小林信之(国立国際医療センター呼吸器科部長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喘息およびアトピー性皮膚炎は今なお増加する高い有病率を示すアレルギー性疾患である。本研究は喘息・アトピー性皮膚炎の発症および悪化に影響を及ぼす因子を明らかにすることにより、これらの発症、増悪を予測し、最終的に有効な治療戦略の開発につなげることを目的とする。喘息・アトピー性皮膚炎の病態には慢性の炎症とリモデリングが重要な役割を演じている。炎症やリモデリングに関連する細胞や液性因子についての機能的な研究が進められており、関与する細胞群や液性因子が明らかにされてきている。例えば、炎症には好酸球、マスト細胞、Th2細胞、樹状細胞などの細胞群とIL-4、IL-5、IL-13などのTh2タイプやGM-CSFのサイトカインなどが重要であり、リモデリングには線維芽細胞、上皮/ケラチノ細胞、マクロファージ、樹状細胞などの細胞群とPDGF、TGF-?、IGF-Iなどの成長因子などが機能的に関与している。さらに細胞遊走活性をもつ各種ケモカインについてもその関与が示唆されている。そこでアレルギー病態形成の重要な過程であるIgE依存性反応、炎症機転、修復(リモデリング関連分子)を遺伝子レベル、蛋白レベルで解析し、発症および悪化に影響を及ぼす因子を明らかにする。さらに最近注目されている自然免疫と獲得免疫の相互作用という観点から、自然免疫に関連する因子についても解析を進める。
アトピー型と非アトピー型の喘息、および喘息合併・非合併群のアトピー性皮膚炎に焦点を絞り検討する。臨床的、基礎的知見の少ない喘息とアトピー性皮膚炎の合併例も含め検討するのが本研究の特徴の一つである。
研究方法
三省合同「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に沿い、各施設で共通のフォーマットで倫理委員会に提出し、承認を得る。検体は各施設と帝京大学で2重に匿名化する。
対象は1.アトピー型喘息症例 2.非アトピー型喘息症例 3.アトピー性皮膚炎症例 4.喘息アトピー性皮膚炎合併例 5.健常人の五群であり、各群300例収集する。検体はEDTA採血し、血漿および、単核球分画よりDNAを採取する。同時に各群の患者について病歴、治療歴、検査所見を統一したフォーマットに入力する。背景として、総IgE、IgE RAST(吸入系:ハウスダスト、ダニ、ブタクサ、ネコ毛)、好酸球数を検討する。喘息については呼吸機能検査、気道過敏性のデータを採取する。
解析因子としては、IgE受容体?鎖、CTLA4(西村)、サイトカイン(IL-4、IL-13、IL-18)ケモカイン(Eotaxin, TARC, MDC, I-309)(平井)、クララ細胞分泌関連蛋白UGRP-1、?2-アドレナリン受容体(棟方)、TGF-?、PDGF、IGF-I(大田)、MUC1, 2, 4, 5AC, 5B, 7(小林)、TLR4(太田)を遺伝子レベル、蛋白レベルで検討する。
治療による介入とその効果との関連を解析する目的で、早期治療介入症例についても解析を進める。
結果と考察
倫理委員会の承認:各共同研究施設で、倫理委員会に提出し、14年末までに承認を得た。平成15年2月より検体の収集を開始した。サンプルは各施設で匿名化し、血漿およびDNAを採取した後、全てのサンプルを一度帝京大学に集め、再度匿名化した。個人情報は匿名化した形で帝京大学で集積した。アトピー型喘息300例、非アトピー型喘息200例、アトピー性皮膚炎150例、健常人200例のDNAおよび血漿の収集を終了した。
1) Fc?RI?の-109C>T、CTLA4-318C>T、血清IgE値と相関することが明かになった。この影響は気管支喘息患者では認められるが、アトピー性皮膚炎患者や健常人では認められなかった。MIFはTLR4の発現を増強させ自然免疫に関与するがそのSNPsについて解析した。-173G>CのSNPsはアトピーの有無と相関した。MIF-794CATTのリピートについても検討し、転写活性と相関することを見出した(西村)。
2) 気道リモデリングに関連する因子としてmannose binding lectin (MBL)のSNPsの解析の条件を整えた。現在まで、喘息患者でSNPsの頻度の高い傾向を認めている。喘息患者ではUGRP1の陽性細胞が対照群と比較して有意に増加しており、血清レベルでの検討を進めている。さらにUGRP1の遺伝子解析では-112bpにG>Aの多型が存在した。?2-アドレナリン受容体遺伝子についてハプロタイプ解析を行ったが、喘息群と健常人で群間に差認めなかった。(棟方)
3) 気道上皮細胞に関連する転写因子であるTTF-1, HNF-3A, HNF-3B, HFH-4, HFH-8, GATA6のプロモーター部位のSNP、を検出した。現在までGC-richで解析の進んでいない変異であり、新たな知見が得られると期待できる(小林)。
4) 増殖因子としてはIGF-Iのプロモーター領域の変異、IGF-IRのSNPsについて解析の条件を整えた。血漿中の蛋白レベルではIGF-Iが喘息患者で健常人より高値である傾向を認めており、変異との相関が期待できる。IGF-Iの活性の発現に関連するIGF-BP3についても検討し、血漿レベルについて高値であることを見出した。またIGF-BP3の-202A>GのSNPsについて検討を進めた(大田)。
5) ゲノムワイドに理研においての解析によりIL-1Rの変異について喘息との相関が示唆された(玉利、土居)。SNPsの解析については異なる母集団で再現性を見ることが非常に重要であり、平成16年度に研究班で集積されたサンプルで検討する(大田)。
6) Eotaxin 、TARC、MDCのプロモター領域にSNPsを同定した。これらは蛋白レベルがアトピー性皮膚炎や喘息疾患活動性と関連していることが報告されており、本研究班で採取したサンプルについても検討を進めている。SNPsはTARC-431C>TもMDC 5C>Aも疾患群との有意差は低いものの、血清中ケモカイン蛋白との関連において、これらSNPsが重要な働きをしていることを証明した。すなわちTARCもMDCも変異により蛋白血中濃度が高く、かつ疾患関連性が高いことが示唆された(平井)。
7) 炎症に関連する因子として自然免疫に関連するTLRのSNPsについて解析の条件を整えた(太田)。機能的に影響を及ぼすことが報告されているTLR4の299Asp>GlyのSNPについては日本人の検体では全く変異を認めなかった(太田)。
8) アトピー性皮膚炎患者の細胞の機能を検討し、アポトーシスに陥りやすい条件や自然免疫が機能的に低下している可能性を見出した(塩原)。
9)気道リモデリングに関与する線維芽細胞の遊走という機能についても解析を進めた(庄司)。機能的に樹状細胞について検討する条件を整えた(向山)。またFcεRI?鎖やTLRの遺伝子多型とマスト細胞の機能解析の条件を整えた(羅)。
結論
アレルギー病態形成の重要な過程であるIgE依存性反応、炎症機転、修復(リモデリング関連分子)についてSNPsを同定でき、機能と結びついていることが示唆された。特に血漿レベルと相関するマーカーを見出すことができ、来年度、多数のサンプルで検討することにより、EBMを確立するために寄与できると考えられる。さらにSNPsと機能との関連を詳細に明らかにするため、気道上皮細胞、線維芽細胞、マスト細胞、樹状細胞、γδ細胞の機能解析を併行しておこなった。
これら基礎研究で得られた知見をEBMの確立に充分な数の症例で総合的に検証することは、アレルギー疾患に対する新たな治療戦略の開発に極めて重要であると考えられる。海外では気道リモデリングに関連し、喘息の発症を既定する遺伝子としてADAM33が報告されたが、日本人を対象としては有意な結果がでていない。このようにSNPsの解析は人種によって全く異なる結果が得られるので、日本人での検討が必須である。国家のプロジェクトとして大規模にゲノムワイドな解析が行われているが、対象サンプルの違いでスクリーニングを重ねると候補遺伝子が消去されていく場合もあることが報告されている。平成16年度は集積されたサンプルについて一斉に多施設で検討し、臨床的背景とともに多変量解析を行う。

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