文献情報
文献番号
200300666A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の遺伝要因と環境要因の相互作用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
出原 賢治(佐賀大学医学部分子生命科学)
研究分担者(所属機関)
- 白川太郎(京都大学大学院健康要因学)
- 柳原行義(国立相模原病院臨床研究センター)
- 近藤直実(岐阜大学医学部小児病態学)
- 田中敏郎(大阪大学医学部分子病態内科)
- 中尾篤人(山梨大大学院免疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に組み合わさって生じると考えられている。アレルギー疾患の遺伝要因は多因子であり、一塩基多型(SNP)の中に遺伝要因が含まれていると考えられるようになった。ゲノムプロジェクト等に基づく豊富なゲノム情報により多くの遺伝要因候補が同定され、機能的に遺伝要因であることが証明された例も出てきた。しかし、近年のアレルギー疾患罹患率の飛躍的な増大は環境要因の変化によると考えられ、遺伝要因単独でアレルギー疾患発症の予知を行うことに限界があることも明らかになってきた。一方で、感染症の減少、食生活の変化、大気汚染などが疫学的あるいは生理学的研究に基づいてアレルギー疾患の環境要因としてあげられている。しかし、これらの要因がアレルギー反応関連遺伝子とどのような相互作用を持っているか不明な点が多く、個人間におけるこれらの環境要因の感受性の違いについては全く解明されていない。このため、本研究の目的は、従来独立してなされていた遺伝要因と環境要因の解析を組み合わせて、両方の要因の相互作用について解明を進めることである。このことにより、従来の遺伝要因単独の組み合わせに比べて、より的確にアレルギー疾患発症の危険性を予知できるようになり、アレルギー疾患に対するより効果的な創薬開発の標的が明らかになることが期待される。
研究方法
(1)遺伝要因に関する解析。アレルギー疾患の遺伝要因は多因子であり、SNPの中に存在すると考えられている。アレルギー疾患に関連するSNPを同定する方法としては、候補遺伝子解析法と連鎖解析法があげられる。前者は、アレルギー疾患の発症機序に重要だと考えられる遺伝子内に存在するSNPとアレルギー疾患の発症あるいは病態との関連を解析する方法である。本年度はIL-18、アドレナリン受容体、SOCS3、IL-12p40、TLR3の各遺伝子について解析を行った。後者は網羅的に数多くのSNPとアレルギー疾患の発症あるいは病態との関連を解析する方法である。本研究では、理研SRCで開発されたhigh through-put assayを用いてリストアップした15万SNPの情報をもとに遺伝子解析を進めている。今年度は正常対象を集め直し、数を760例に増やして昨年度抽出された37個のSNPについて解析を行った。また、ゲノム自体に変異が存在するのではなく、産生されたRNAに塩基置換を生じるRNA編集(RNA editing)についても検討を行っている。本年度は、IL-12Rbeta2鎖のRNAに生じているRNA編集を同定し、アレルギー疾患との関連,IFN-gamma産生能との関連について解析を行った。(2)環境要因に関する解析。アレルゲンは生体にアレルギー反応を引き起こす外来性異物であり、最も重要な環境要因である。アレルゲンの中でダニ抽出物は最も重要なものの一つであり、気管支喘息やアトピー性皮膚炎の発症への関与が指摘されている。本年度はダニアレルゲンの中で最も患者のIgE陽性率が高く、システインプロテアーゼ活性を持つグループIアレルゲンを取り上げ、これに対する生体側の防御反応あるいは気道理モデリングあるいは皮膚の苔癬化との関連について検討を行った。また、ウイルス感染はアレルギー疾患の発症や増悪に関与していることが知られている。本年度はウイルス由来の二本鎖DNAアナログとしてのpoly I:Cを用いて樹状突起細胞の活性化機能について検討を行った。また、食物の中にはアレルギー反応を誘発する物質
とともに抑制する物質も含まれていることが知られている。本研究では、フラボノイドを取り上げ、これが抗アレルギー反応を示すことを昨年度に報告したが、本年度はさらに各種フラボノイドの抗アレルギー反応効果について解析を進めた。
とともに抑制する物質も含まれていることが知られている。本研究では、フラボノイドを取り上げ、これが抗アレルギー反応を示すことを昨年度に報告したが、本年度はさらに各種フラボノイドの抗アレルギー反応効果について解析を進めた。
結果と考察
(1)遺伝要因に関する解析。(a)昨年度15万SNPの中からアレルギー疾患と非常に強い相関(p<0.0001)を認めた37個のSNPについて、再度検討を行った結果、17個についてはより強い相関が認められたが、残りの20個については同程度か、やや弱い相関しか得られなかった。(白川)(b)昨年度IL-18遺伝子上の105A/CというSNPが気管支喘息の発症と関連する(p=0.006、OR=1.83)ことを報告したが、このSNPと他のSNP(SOCS3-514Phe/Leu、IL-12p40-1188A/T、アドレナリン受容体-16Arg/Gly、アドレナリン受容体-27Gln/Glu)と相互作用するか検討を行ったが、有意な組み合わせは認められなかった。(田中)(c)ウイルス由来の二本鎖DNAを認識するTLR3遺伝子上に、Leu412Pheという新規のSNPを同定したが、アレルギー疾患との相関は認められなかった。(柳原)(d)IL-12Rbeta2鎖のcDNA上において、2451番目の塩基がCからUに置換するRNA編集が存在すること明らかにした。このRNA編集により604番目のアミノ酸がAlaからValへと変化する。このRNA編集は非アレルギー患者(3.8%)に比べてアレルギー患者(20.6%)で頻度が高く、IL-12刺激によるIFN-gamma産生が有意に低下していた。(近藤)(2)環境要因に関する解析。(a)Th2型サイトカインであるIL-4あるいはIL-13は気道上皮細胞を刺激してSCCA分子の産生を誘導し、産生されたSCCA分子がグループIのダニアレルゲンの生物活性に対して阻害するという新規の生体防御機構が存在することが明らかとなった。また、野生型SCCA2よりダニアレルゲンに対して強力な阻害効果を持つ変異型SCCA分子を作製し、新規の抗ダニアレルギー疾患治療薬の開発につながることが示された。(出原)(b)グループIのダニアレルゲンが持つシステインプロテアーゼ活性により潜在型TGF-betaが生物活性を持つ活性型に変換されることが明らかとなり、ダニアレルゲンが気道リモデリングや皮膚の苔癬化に関与している可能性が示された。(中尾)(c)ウイルス二本鎖DNAアナログであるpoly I : Cにより樹状突起細胞を活性化すると、IFN-alphaやIFN-gammaのオートクリン産生を介してBLySの発現が増強され、IL-4存在下でB細胞にIgEクラススイッチを誘導することが明らかとなった。(柳原)(d)代表的な18種のフラボノイドの中でluteolin,apigeninとfisetinが好塩基球からのIL-4 とIL-13産生に対して強い抑制活性を持つことが明らかとなり(IC50=2.4-5.7 microM)、抑制活性に必要な基本骨格が明らかとなった。(田中)白川らの網羅的な遺伝子解析では、15万SNPの中で気管支喘息に関連するSNPを17個に絞り込め、これで遺伝要因の約90%を予測することが可能になることが示された。来年度には、この中から環境要因の感受性に関与する遺伝子を取り上げ、その機能解析を行うことが予定している。また、IL-12Rbeta2鎖のRNAにはRNA 編集が起こっており、これがIFN-gamma産生の低下を介してアレルギー疾患の発症あるいは増悪と関与していることが示された。今後の遺伝要因に関する解析として、ゲノム上におけるSNP解析のみではなく、このような遺伝子転写後の変異についても検討が必要であることと考えられた。ダニアレルゲンは最も重要なアレルゲンの一つであるが、それに対する生体側の防御反応あるいは気道理モデリングあるいは皮膚の苔癬化との関連性が明らかとなった。また、アレルギー疾患の発症や増悪に対するウイルス感染の影響に関して、樹状突起細胞におけるBlyS発現が重要であることが明らかとなった。これらの解析をさらに進めるのと同時に関連遺伝子のSNPとの組み合わせを行うことにより、ダニアレルゲンやウイルス感染に対する生体感受性の環境的影響あるいは遺伝的影響が明らかになると期待された。また、昨年度食物成分であるフラボノイドが抗アレルギー効果を持つことを報告したが、その作用機序と構造的特徴について解析が進み、さらに効果的な創薬
へ結びつくと期待された。
へ結びつくと期待された。
結論
遺伝要因に関しては、網羅的にアレルギー疾患に関連するSNPを絞り込むとともに、IL-12Rbeta2鎖のRNA上にアレルギー疾患と関連するRNA 編集を同定した。また、環境要因に関しては、ダニアレルゲンに対する生体側の防御反応あるいは気道理モデリングあるいは皮膚の苔癬化との関連性を明らかにするとともに、ウイルス感染によるアレルギー疾患発症あるいは増悪機序について検討した。さらに、抗アレルギー効果を持つ食物成分であるフラボノイドについて解析を進めた。
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