重症アトピー性皮膚炎に対する核酸医薬を用いた新規治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300664A
報告書区分
総括
研究課題名
重症アトピー性皮膚炎に対する核酸医薬を用いた新規治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 克人(大阪大学医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本公二(愛媛大学医学部)
  • 金田安史(大阪大学医学系研究科)
  • 森下竜一(大阪大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存の治療法に抵抗性を示す難治例の少なくない重症アトピー性皮膚炎に対し、これまでにない新しい概念の治療薬である核酸医薬、特にNFkB decoy oligodeoxynucleotides (NDON) を用いた外用薬を開発し、アトピー性皮膚炎に対する新規治療法としての有用性を検討するとともに、その臨床研究を進めることを本研究班の研究目的とする。
研究方法
1)自然発症皮膚炎モデルマウスを用いたNDON治療効果の検討:自然発症皮膚炎モデルマウスであるNC/Ngaマウスを用いてNDONおよびタクロリムス軟膏の治療効果を検討した。2)表皮角化細胞におけるNFkB関連分子発現動態の検討:NDONの標的であるNFkBの表皮角化細胞における発現を検討した。角化細胞を無血清培養法にて培養した後、炎症性サイトカインの代表で、NFkBを活性化するTNF-α、IL-1を添加し、NFkB-IkB関連分子の発現および細胞内局在について、蛍光抗体法およびwestern blot法にて検討した。さらに、NFkBにより誘導されるサイトカインの一つMIP3αの発現動態について、培養表皮細胞の分化度の影響を検討した。3)生体皮膚への高分子DNA導入法の開発:紫外線で賦活化したHVJとliposomeを融合した遺伝子導入ベクターHVJ-liposomeを用い、STAT6デコイDNAをアトピー性皮膚炎モデルマウスに導入して治療効果を検討した。4)NDONの臨床研究展開:弘前大学附属病院でおこなわれた10名の重症成人型アトピー性皮膚炎患者に対する第1回NDON軟膏臨床研究の詳細を検討し、第2回臨床研究(他施設2重盲検試験)をデザインした。
結果と考察
1)自然発症皮膚炎モデルマウスを用いたNDON治療効果の検討:タクロリムス投与群に比較して、NFkBデコイ投与群でより強い皮膚炎抑制効果が得られた。組織学的には、肥満細胞、CD4ヘルパーT細胞数、ICAM-1陽性細胞数および真皮内神経線維数がNFkBデコイ投与群で有意な減少を示した。また、いずれの群においても投与中止後のリバウンド現象は観察されなかった。2)表皮角化細胞におけるNFkB関連分子発現動態の検討:表皮角化細胞において、 RelA、p50、p52、 RelB、IkB-αの発現が認められた。TNF-α、IL-1刺激によりIkB-αのリン酸化が生じるとともに、RelAとp50がNFkB配列に結合することが確認された。また、TNF-α刺激によりRelA、p50ともに細胞質内から核内へ移行した。また、分化した角化細胞は未分化細胞に比較して、TNF-?刺激によるMIP3?産生が有意に増加していた。3)生体皮膚への高分子DNA導入法の開発:HVJ-liposomeにSTAT6デコイDNAを封入し、抗DNP-IgE抗体を静脈注入したアトピーモデルマウスに皮下注入すると、症状の1つである24時間後の耳朶腫脹を有意に抑制した。皮膚組織学的検査において、浮腫、好中球や好酸球の浸潤をSTAT6 decoyが著明に抑制したが、scramble decoyでは効果がなかった。 培養肥満細胞は、STAT6デコイによりヒスタミンの分泌は影響を受けなかったが、TNF-(やIL-6の分泌が著名に抑制された。4)NDONの臨床研究展開:重症顔面病変に対し、NDONは極めて有効かつ安全という結果を得た。しかし顔面は左右比較試験などに不向きなため、治療効果を確認するための多施設2重盲検試験をデザインした。既にそれぞれの施設における倫理委員会にプロトコールを提出し、審査終了ないし継続中である。
本研究班では、平成14年度に得られた研究結果を基に、引き続きアトピー性皮膚炎に対するNFkBデコイの基礎的、臨床的研究を進めると共に、新たな核酸医薬としてSTAT6デコイのアトピー性皮膚炎治療への応用の可能性について検討した。
NFkBデコイDNAについては、本研究班で顔面重症アトピー性皮膚炎治療に有効であることを明らかにした。顔面に対するその他の外用療法として、ステロイド軟膏、タクロリムス軟膏がある。ステロイド軟膏は、作用が速効性であり、臨床現場で第一選択薬として用いられている。しかし、特に顔面では、その局所吸収性が極めて高い為、酒さ様皮膚炎やステロイド座瘡といった副作用が高頻度に出現し、長期連用は困難である。またタクロリムス軟膏は、NFkBデコイ軟膏と同様に顔面に特に効果を発揮するが、局所刺激性、免疫抑制作用による感染症の併発が問題となる。NFkBデコイDNAは、その分子量が12800と大きいために、重症顔面病変でよく吸収され、症状の改善に伴う角層バリアー機能の改善に伴って、吸収量が減少する。即ち、症状軽快後は殆ど吸収されないと予想され、その結果長期連用投与しても副作用出現の心配は殆どないと予想される点で、従来の治療薬に比較して極めて有利であると思われる。NFkBデコイDNA軟膏は、重症時には治療薬、軽症・寛解時には保湿薬として機能することが可能であり、従来の他の治療薬と組み合わせて使用することにより、それぞれの薬剤の特性を生かしてより有効かつ安全な治療法の開発が期待できる。
平成14年度の研究により、NFkBデコイDNAは肥満細胞のアポトーシスを誘導することを明らかにしたが、今年度はさらに、NFkBデコイDNAが皮膚炎におけるCD4ヘルパーT細胞数、ICAM1陽性細胞数、真皮内末梢神経数の減少を誘導することを明らかにした。即ち、NFkBデコイDNAは、皮膚炎を構成する多くの炎症細胞や免疫担当細胞に作用していると考えられる。
アトピー性皮膚炎を誘導するもう一つの機序として、表皮角化細胞由来サイトカイン産生が考えられる。表皮角化細胞におけるNFkBの機能を明らかにする目的で、TNFα刺激下における表皮角化細胞内NFkB蛋白の動態、およびNFkBの制御を受けるサイトカイン産生制御を検討した結果、表皮細胞の分化度とNFkBによるMIP3α産生誘導程度の間に正の相関があることが明らかとなった。表皮角層内に存在するセラミドが表皮細胞の分化を調節する可能性が示唆されており、アトピー性皮膚炎患者角層ではセラミドが有意に低下していることと併せ考えると、NFkBデコイDNAによる表皮細胞内NFkB制御がアトピー性皮膚炎治療にどのような役割を果たすかについて、さらに検討することは極めて重要であると考える。
NFkBデコイDNA以外の核酸医薬としてSTAT6デコイDNAがアトピー性皮膚炎モデルマウスに対する治療効果を有することが明らかとなった。本研究では新たなドラッグデリバリーシステムであるHVJ-liposome法を用いており、これによりデコイDNAを効率よく生体に導入可能となる。今後この方法の安全性、有効性を確立し、臨床応用の可能性を引き続き検討していく予定である。
NFkBデコイDNA軟膏の第2回臨床研究は、4施設において、二重盲検により開始される予定である。既に倫理委員会に申請済みであり、すべての施設で承認されれば直ちに開始される。この臨床研究が進展すれば、NFkBデコイDNA軟膏の有効性、安全性に関してより詳細な情報が得られるのみならず、本邦で開発された新たなアレルギー新薬として、臨床治験に進む道が得られることが期待される。
結論
NFkBを標的としたNDONがアトピー性皮膚炎に有効な新薬となりうる可能性が示された。平成16年度は、第2回臨床試験(二重盲検試験)により、より正確な有効性と安全性を確認すると共に、アトピー性皮膚炎に対するより効果的な核酸医薬の開発を進めていく予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-