皮膚アレルギー炎症発症と治療におけるサイトカイン・ケモカインとその受容体に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300662A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚アレルギー炎症発症と治療におけるサイトカイン・ケモカインとその受容体に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
玉置 邦彦(東京大学大学院医学系研究科皮膚科学)
研究分担者(所属機関)
  • 義江 修(近畿大学医学部細菌学)
  • 師井洋一(九州大学大学院医学系研究院皮膚科学)
  • 中村晃一郎(福島県立医科大学皮膚科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
皮膚アレルギー炎症には患者数の増加や難治化、治療の混乱などで社会的問題化しているアトピー性皮膚炎(AD)や、環境の変化によって新たな物質による皮膚障害として現れる接触皮膚炎など厚生行政上問題となるものが多い。このようなアレルギー炎症が皮膚に現れる機序は他臓器に比べて研究が進んでおり、最近はサイトカインのうち白血球に対する遊走能を有するケモカインについての研究が注目をあつめている。本研究班では、このサイトカイン、ケモカインとその受容体発現細胞に焦点をあてて皮膚のアレルギー炎症機序を明らかにし、発症予防を含めた治療の可能性を示そうというものである。具体的にはTh2ケモカインと呼ばれているTARC/CCL17、MDC/CCL22とその受容体であるCCR4、皮膚特異的ケモカインとされるCTACK/CCL27とその受容体CCR10、好酸球浸潤に関与するEotaxin/CCL11, Eotaxin-2/CCL24, Eotaxin-3/CCL26とその受容体CCR3を中心に研究をすすめることにしている。2年目である本年は主としてCCL17, CCL26, CCL27、CCR4, CCR10について研究した。
研究方法
(1) 血清IgEの上昇、末梢血好酸球数の増加など共通した病態を示すAD、水疱性類天疱瘡(BP)、菌状息肉症(MF)に関する研究で、玉置らはこれまで患者血清中のCCL17が高値を示しかつ病勢と相関し、CCL17産生細胞としては表皮ケラチノサイト(KC)であろうとする結果を報告してきた。今年度はAD患者におけるCCL24, CCL26, CCL27の血清中の値をELISAで検討した。(2) KCからのCCL17, CCL22産生制御については主にHaCaT細胞を用いて検討した。玉置らはTNF-α, IFN-γ, IL-4などによる産生制御をランゲルハンス細胞(LC)での反応とも比較して検討した。(3) 玉置らは「かゆみ」による掻破のモデルとしてin vitroでのKCのstretchingを開発し、その刺激によるKCの増殖能の変化やシグナル伝達経路を解析し、さらにKCからのサイトカイン・ケモカイン産生を検討した。(4) 動物モデルとしてはKCに特異的に発現するトランスジェニックマウス(Tg)を玉置らはCCL17, CCL27について、中村らはVEGF(vascular endothelial cell growth factor)について作成し解析した。(5) 義江らはマウスのCCR4, CCR6およびCCR8を認識する単クローン抗体をアルメニアンハムスターで作成し、皮膚およびその他の組織・細胞での発現を検討した。(6) 義江らは最近報告された第4のヒスタミンレセプターH4が発現する細胞を検討し、H4の新しいリガンドとしてのケモカインを解析した。(7) 義江らは皮膚指向性メモリー/エフェクター細胞で選択的に発現しているCCR10の発現をB細胞で検討した。(8) 師井らはマウスリンパ腫細胞EL4にヒトCCR4cDNAを組み込んだpcDNA3ベクターをトランスフェクションし、恒常的CCR4発現細胞を得た(=EL4/CCR4)。これらの細胞を用いて細胞遊走試験を行い、各種のシグナル伝達阻害剤を用いた実験によりCCR4シグナル伝達経路を解析した。(9) 中村らはAD患者末梢血より単球を採取しGM-CSF, IL-4添加により樹状細胞を誘導し、この樹状細胞が産生するCCL17について検討を加え、健常人、乾癬患者のそれと比較した。
結果と考察
研究結果(1) 玉置らはADおよびTh1優位の皮膚疾患である尋常性乾癬(PsV)患者の血清中でCCL27が高値を示すことを明らかにした。特にAD患者では血清中のCCL27値は病勢と相関することを見い出した。さらにTh1ケモカインであるIP-10/CXCL-10の血清中の値は、PsV患者ではAD患者や健常人より高いことを報告した(J Allergy Clin Immunol
2003; 111: 592-7.)。またAD患者血清中のCCL24値は上昇していないが、CCL26値は上昇しており病勢と相関することを見い出した(Clin Exp Immunol 2003; 134: 309-13.)。(2) 玉置らはHaCaT細胞からのCCL22産生がCCL17と同様に、TNF-αとIFN-γによって濃度依存性に有意に増強され、IL-4とIL-13存在によって有意に抑制されることを示した(J Dermatol Sci 2003; 31: 111-7.)。またLCからのCCL17, CCL22産生はKCとは異なり、IL-4により増強しIFN-γにより減弱することを示した。(3) 玉置らは「かゆみ」による掻破のin vitroモデルであるKCのstretchingにより、KC細胞表面のEGF receptorがリン酸化されて、細胞内のERK1/2のリン酸化が誘導されることを示した。さらにAP1のactivationが起りkeratin 6(K6)の誘導と細胞増殖が起きることを見い出した。また、stretchingによりKCから産生されるサイトカイン・ケモカインについても現在検討中である。(4)動物モデルとして玉置らはKC特異的に発現するCCL17 Tgを作成した。このマウスでは血清中のCCL17値が5,000 pg/mlと正常のマウスに比べて約100倍高かった。またKCの培養上清を用いた細胞遊走試験により、CCL17 TgのKCは機能的なCCL17を過剰産生していることが確認された。現在、接触皮膚炎の実験などを施行中である。KC特異的CCL27 Tgも4系統ファウンダーが作成され、現在解析中である。中村らはKC特異的に発現するVEGF Tgを作成した。VEGF Tgマウスファウンダーは加齢に伴い口囲、顔面、耳介に皮膚炎を生じた。組織学的に表皮KCの増殖、真皮乳頭層の血管増生、血管周囲性に細胞浸潤を認めた。またTgマウスでは耳介の血管拡張を認め、組織学的にCD31陽性血管内皮細胞の増殖を認めた。以上よりVEGFは皮膚アレルギー炎症を制御することが示唆された。(5) 義江らはマウスのCCR4、CCR6およびCCR8を認識する単クローン抗体をアルメニアンハムスターで作製することに成功した。これらの抗体を用いた発現細胞の分布と機能解析は現在進行中である。(6) 義江らは第4のヒスタミンレセプターH4が好酸球で選択的に発現し、ヒスタミンはH4を介して好酸球の遊走を誘導することを明らかにした。さらにH4の新しいリガンドとしてケモカインLEC/CCL16を見出した。(7) 義江らは皮膚指向性メモリー/エフェクター細胞で選択的に発現しているCCR10がB細胞では形質細胞の段階で選択的に発現することを見出し、MEC/CCL28はCCR10を介して形質細胞の骨髄や粘膜組織への帰巣を促進することを明らかにした(J Immunol 2003; 170: 1136-40.)。(8) 師井らは恒常的CCR4発現細胞(EL4/CCR4)を用いて細胞遊走試験を行い、各種のシグナル伝達阻害剤の影響を検討した結果、MEK1/2阻害剤であるU-0126では遊走能が50%以下にまで抑制された。(9) 中村らはAD患者末梢血単球由来の樹状細胞が産生するCCL17は、健常人、乾癬患者のそれと比較して有意に高いことを示した。
考察=これまでの研究によって、(1) KCからTNF-_やIFN-_などによる刺激で産生誘導ないし増強されるCCL17, CCL22, CCL27に加えて、CCL11, CCL26などがアレルギー性皮膚疾患に重要な働きをしていることが示された。特に前3者ではCCR4発現Th2細胞の、後2者ではCCR3発現好酸球の皮膚への遊走に関与していると考えられる。そして(2) in vitroによるこれらケモカイン産生制御の研究からin vivoにおける炎症への関わり合いも示唆されたと考えている。ステロイド, FK506のこれらの産生抑制に加えて14員環マクロライドが産生抑制に働くことも明らかにできており、現在はこの抑制機構の転写レベルでの検討を行っている。(3) 掻破のin vitroモデルを作成しstretchによるKCの細胞増殖機構が明らかにされたが、今後はstretchによりKCから産生されるサイトカイン・ケモカインについて詳細に検討していく。また、これまでは一回stretchでの影響をみてきたが、頻回stretchによる検討も進めており、よりよいモデルが作成でき掻破による影響をより詳細に明らかにできるものと考えている。(4) 動物モデルに関して玉置らは2種類のモデルマウス(CCL17, CCL27)を作成した。これらは肉眼的には皮膚病変はみられないが、接触皮膚炎などを含めた種々の刺激に対する解析を現在行っている。これらの病態解析に関する検討からアレルギー性皮膚疾患の理解が進み、それに基づいた治療戦略の開発が期待される。また中村らはVEGF Tgを作成し、VEGFはアレルギー炎症で血管増生、炎症細胞の浸潤を誘導することを明らかにした。今後接触皮膚炎におけるVEGFの役割、さらに治療薬を用いたその抑制機序について検討する予定である。(5) マウスのCCR4、CCR6、CCR8に対する単クローン抗体作製に成功した。これらの抗体作成の報告はいまだなく、マウスにおけるレセプター発現細胞の特定とそれらの機能解析に貴重な手段を提供する。(6) ヒスタミンはマスト細胞から産生される重要な炎症性メディエーターであり、皮膚のアレルギー性疾患でも重要な働きをしている。H4は最近報告された新しいヒスタミンレセプターである。H4の発現細胞が好酸球であり、かつヒスタミンはH4を介して好酸球の遊走を誘導する、という発見はヒスタミンの新しい生理機能を明らかにした。さらに肝臓などで構成的に産生されるCCL16がH4のリガンドとして作用しうるという発見はH4の生理機能に関し重要な知見をもたらした。(7) CCR10の発現細胞として形質細胞を同定したことはCCR10に作用するケモカインCCL27とCCL28の生理機能に関して新たな地平を開いた。皮膚におけるこれらのケモカインの産生と形質細胞の遊走との関係が注目される。(8) ケモカインレセプターは7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であり、百日咳毒素で完全に阻害されることより、その主なシグナル伝達分子はcAMPであると考えられているが、詳細は不明である。今回の検討により、CCR4を介したシグナル伝達系にはMEK1/2およびERKを介した経路が細胞遊走に重要な役割を果たしていることが示唆された。CCR4を発現するT細胞の皮膚への浸潤・遊走が大きな一因となっているADやMFに対して、シグナル伝達阻害剤の臨床応用・効果が期待される。(9) AD患者末梢血由来の樹状細胞から産生されるCCL17が健常人や乾癬患者に比べて極めて多いことが示され、Th2優位な病態に重要であることが示唆された。
結論
アレルギー性皮膚疾患の病態に対して、CCL17, CCL22に加えてCCL27やCCL26などが重要な働きをしていることが示された。またin vitroによるこれらケモカイン産生制御の研究からin vivoにおける炎症への関わり合いも示唆された。動物モデルのひとつとしてVEGF Tgを作成し、VEGFはアレルギー炎症で血管増生、炎症細胞の浸潤を誘導することを明らかにした。マウスのCCR4、CCR6、CCR8に対する単クローン抗体作製に成功した。また、CCL16がH4のリガンドとして作用しうること、CCR10の発現細胞として形質細胞を新たに同定した。CCR4を介したシグナル伝達系にはMEK1/2およびERKを介した経路が細胞遊走に重要な役割を果たしていることが示唆された。

公開日・更新日

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