文献情報
文献番号
200300660A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚・気道・鼻粘膜局所におけるresidential cell による生体機構のアレルギー疾患における役割の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小川 秀興(順天堂大学)
研究分担者(所属機関)
- 奥田峰広(花王株式会社)
- 坪井良治(東京医科大学)
- 中尾篤人(山梨大学)
- 花澤豊行(千葉大学)
- 牛尾博子(順天堂大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などでは、皮膚・気道・鼻粘膜における臓器・組織特異的な病態の形成が観察される。このような病態の形成には、白血球等の免疫系細胞による全身的な生体防御機構のほかに、それぞれの組織に固有なresidential cellによる局所的な生体防御機構/生理機構の関与が重要であると推測されるが、その実態はあまり明らかにされていない。我々は本研究で、皮膚、気道、鼻粘膜局所のresidential cellによる生体防御機構(あるいはその生理的機能)がアレルギー疾患の病態において果たす役割について明らかにする。本研究によってアレルギー疾患における臓器/組織特異的な病態に対する理解がさらに深まりアレルギー疾患に対する新規治療法の開発につながることが期待される。
研究方法
1)非侵襲的に皮膚粘膜バリア機能(皮膚角化細胞の水分保持機能)を測定するために、ビタミンB2であるリボフラビンの経皮吸収率を測定する手法を開発した。この手法の妥当性、有用性について、マウス皮膚炎モデル、ブタ皮膚上皮細胞検体を用いて検討した。さらに、この手法を用いてダニ抗原のプロテアーゼ活性が皮膚バリア機能を直接障害する可能性についてインビボにおいて検討した。2)MD2欠損マウスを用いて、グラム陽性、陰性球菌の代表的抗原であるLipopolysaccaride (LPS), peptideglycan (PGN)に対する皮膚局所肥満細胞の反応性を検討した。3)アトピー性皮膚炎発症に及ぼす神経系と血管系の関与をインビボで明らかにする目的で、アトピー性皮膚炎患者に対し半導体低出力レーザーによる星状神経節近傍照射を実施し、アセチルコリン、メサコリン、vasoactive intestinal polypeptide(VIP)の皮膚反応に対する影響を検討した。
4)ヒト皮膚角化細胞や気管支上皮細胞における新規TNFファミリー分子TWEAKの作用について主としてELISA法を用いて検討した。5)酸化ストレスが肺上皮細胞のサイトカイン産生に与える影響について検討した。
4)ヒト皮膚角化細胞や気管支上皮細胞における新規TNFファミリー分子TWEAKの作用について主としてELISA法を用いて検討した。5)酸化ストレスが肺上皮細胞のサイトカイン産生に与える影響について検討した。
結果と考察
1)皮膚バリア機能を簡便に測定するため我々が開発したリボフラビンの経皮吸収率を測定する手法は、従来法である経皮水分蒸散量(TEWL)と比較しても有用な評価法であることがマウス皮膚炎モデル、ブタ上皮細胞モデルにおいて明らかになった。さらにダニ抗原のプロテアーゼ活性が直接皮膚バリア機能を障害することが明らかになった。今後よりこの測定法の臨床的有用性とりわけアトピー性皮膚炎の臨床における有用性について検討する予定である。またダニ抗原のプロテアーゼ活性が直接皮膚バリア機能を障害するメカニズムについて今後明らかにしていく予定である。2)昨年度我々は黄色ブドウ球菌の主要毒素であるペプチドグリカン(PGN)が肥満細胞上のToll-like receptor2を介して肥満細胞における脱顆粒やTh2タイプの炎症性サイトカイン産生を惹起させることをインビトロならびに動物実験によって明らかにしたが、この過程にMD2分子は関与していないことが明らかになった。3)半導体低出力レーザーによる星状神経節近傍照射は、皮膚血管神経系を介してアトピー性皮膚炎患者に認められる遅延蒼白反応を抑制することを見いだした。4)ヒト皮膚角化細胞や気道上皮細胞に対してTWEAK分子はRANTES/IL-8といった炎症性ケモカインの産生を誘導することが明らかになった。この知見はTWEAK分子がアレルギー疾患のような慢性の炎症性疾患の病態に関与する可能性を示唆するものであり、今後、さらにこの可能性について追求して行く予定である。5)昨年度われわれは鼻粘膜上皮においてはアレルギー炎症によりNOとスーパーオキサイドが反応し生ずるperoxynitriteにより鼻粘膜上皮内および上皮下にチロシン残基のニトロ化が生じてnitrotyrosineが生ずることを確認した。そこで本年度は、このニトロ化により気道上皮がどのような機能変化が生ずるかをサイトカイン産生能に着目し肺上皮細胞を用いて検討した。その結果、肺上皮細胞におけるHDAC分子のnitrotyroshine生成によって、気道上皮細胞におけるサイトカイン産生能が変化することを見いだした。
結論
皮膚・気道・鼻粘膜それぞれの局所における上記のような新たに見いだされた生体防御機構/生理的機構が、アレルギー疾患諸相の病態形成において重要な役割を果たしている可能性や、ダニ抗原などの環境因子によるそれら生体防御機構の障害がアレルギー性疾患の発症につながる可能性があることが本研究によって示唆された。これらの結果はアレルギー疾患の理解に新たな視点を供与するものである。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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