重症アトピー性皮膚炎の難治化機序を踏えた治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300656A
報告書区分
総括
研究課題名
重症アトピー性皮膚炎の難治化機序を踏えた治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 清(東京医科歯科大学大学院環境皮膚免疫学)
研究分担者(所属機関)
  • 烏山一(東京医科歯科大学)
  • 片山一朗(長崎大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピ-性皮膚炎の多くは、乳幼児期に発症し、消退をくり返して自然治癒するが、一部は、成人期に再燃あるいははじめて発症して、難治性の成人型アトピー性皮膚炎へと移行する。難治化した本性患者における難治化機序はまだ十分に明らかにされていない。難治化機序の一つとしてTh2細胞を介する炎症反応の増強と持続が指摘されている。Th2細胞を介したIgE抗体産生異常に基づく病態形成に対しては、環境アレルゲンの検出と除去以外に方法がなく、病因論に基づく治療法の確立が急務となっている。本研究では、アトピー性皮膚炎のTh2細胞を中心とする免疫学的炎症反応の解析と新しい治療法の開発を目的とする。アレルゲン特異的IgEトランスジェニックマウスの解析から、アレルゲン特異的IgEが即時型、遅発型反応に続いて出現する、炎症反応が長期にわたって持続する第3相反応が存在することを世界に先駆けて明らかにしている。この第3相反応を解析することによって、アトピー性皮膚炎の難治化機序を明らかにする。また、Th2型サイトカインであるIL-4、IL-13 受容体を介するシグナル伝達の重要な転写調節因子であるSTAT6機能を制御することによって、また、細胞膜上のlipid raftに変異型Fc_RI分子を導入発現することによって、アトピー性皮膚炎治療法の開発を行う。
研究方法
研究方法と結果=1. IgE/Fc_RIを介する新たな慢性アレルギー炎症の解析
IgE遺伝子導入マウスの皮膚反応を検討する課程で、即時型反応、遅発型反応に続いて出現する、長期に持続する第3相目の強い皮膚炎症反応が発見された。新たに発見された第3相反応は、抗原投与3-4日後にピークを示す長期にわたって持続する炎症反応であり、IgE受動感作によっても引き起こされることから、アトピー性皮膚炎における炎症の遷延化に関連することが考えられる。第3相反応発現機序の実体は明らかにされていないが、第3相反応は、IgE受動感作によって、T細胞欠損マウス、B細胞欠損マウス、肥満細胞欠損マウスにおいても検出され、Fc_RI欠損マウスでは検出されないことから、肥満細胞以外のFc_RI陽性細胞が責任細胞であると考えられる。分担研究者の烏山は、第3相反応の病理組織学的解析、flow cytometry解析、抗体による細胞除去、細胞移入実験などを行った。細胞移入実験結果から、責任細胞は、リンパ球、肥満細胞、好塩基球、血小板以外のFc_RI陽性の骨髄由来血球系細胞であり、IgE-肥満細胞を介する反応とは異なる新しい慢性アレルギー炎症誘発機構が存在することを明らかになった。さらに、この慢性アレルギー反応の抑制にIL-4R/STAT6を介するシグナルが関与していることが明らかとなり、第3相反応の抑制を標的とした創薬開発の可能性が示された。
2. STAT6おとり核酸によるアレルギー炎症の抑制
主任研究者の西岡は、IL-4受容体のシグナル伝達因子のSTAT6欠損マウスにおいてIgE受動感作による遅発型反応が抑制されることを見出し、STAT6のおとり核酸(STAT6 decoy)を用いてアトピー性皮膚炎の炎症反応の抑制を試みている。IgE受動感作による遅発反応は、STAT6 decoyの投与によって著明に抑制されることをすでに明らかにしている。今回、STAT6 decoyがアレルゲンの反復投与のよって引き起こされるアレルギー炎症反応、ならびにIgEを介する第3相反応に対する抑制効果を検討した。アレルゲン反復投与モデルにおける炎症反応に対して、STAT6 decoyは、最終惹起反応前日に投与することによって炎症反応を抑制し、また、第3相反応に対しては、惹起反応前にSTAT6 decoyで前処理することにより、第3相反応の50~60%を抑制した。抑制された皮膚内の炎症細胞を検討すると、両反応共に、炎症部位内に浸潤する好中球、リンパ球、好酸球、脱顆粒した肥満細胞が著明に減少していた。アレルゲン反復投与による炎症反応と新しく発見された慢性アレルギー炎症である第3相反応も共にSTAT6 decoyによって抑制できることが明らかとなり、STAT6 のおとり核酸がIgEを介するアレルギー炎症反応の治療薬となる可能性が示された。今後、ヒトアレルギー炎症への応用に向かっての検討を開始する必要がある。
3. Sykリン酸化を指標としたLipid raft機能の解析と治療への応用
細胞膜上の受容体や抗原を含む細胞膜関連蛋白は、界面活性剤によっても分解されない細胞膜構成領域(lipid raft)に局在することが明らかになっている。IgEを結合するFc_RIも同様で、細胞膜上を自由に移動しているが、IgEと抗原のクロスリンクによってlipid raft内に移動する。分担研究者の片山は、lipid raftの分解あるいはこの領域でのdominant negative Fc_RIの発現によるアトピー性皮膚炎の新しい治療法の開発を試みている。健常人及びアトピー性皮膚炎患者の末梢血からCD1a(+) Fc_RI(+)細胞を効率よく回収する方法を確立し、この細胞にIgEあるいはIgE+抗原の添加し、 Fc_RI下流で活性化されるSykのリン酸化を指標とすることにより、lipid raft機能を解析することが出来ることを示し、治療法開発のためのツールとなる実験系を開発した。今後、この実験系を利用して、種々の薬物の投与、遺伝子導入などを行い、治療薬の開発を行っていく予定である。
結果と考察
結論
考察と結論=今年度の研究成果として、・慢性アレルギー反応の新しい反応、すなわち、IgEを介する第3相反応の責任細胞についての詳細な情報が得られたこと、・アレルゲン反復投与によるアレルギー炎症ならびに第3相反応がSTAT6のおとり核酸によって抑制されること、さらに、・lipid raft調節による創薬開発のための研究システムとしてSykリン酸化を指標とする実験系を確立したことは、アトピー性皮膚炎の新しい治療法を開発する上で非常に重要な成果が得られたものと考える。第3相反応の責任細胞についての情報は得られたが、未だ責任細胞を同定分離するに至っていないこと、STAT6おとり核酸はヒトアトピー性皮膚炎にどのように適応できるかの検討が必要であること、また、lipid raft機能の測定法が開発によって、lipid raft機能を調節する薬物の検索、あるいはdominant negative 遺伝子の導入による抗炎症効果の検定が必要であることなど、今後さらに継続して検討を加える予定である。
アトピー性皮膚炎の難治化にIgEを介する第3相反応の役割が考えられ、その責任細胞がT細胞、B細胞、肥満細胞、ランゲルハンス細胞とも異なる骨髄細胞であることから、さらに責任細胞の同定分離を行い、責任細胞の機能を検討することにより、アトピー性皮膚炎の難治化機序を明らかにできる可能性を示唆した。STAT6デコイがアトピー性皮膚炎のアレルギー炎症モデルであるハプテン繰り返し塗布による炎症反応のみでなく、第3相反応も抑制できる可能性が示し、STAT6デコイを用いた遺伝子治療のヒトへの応用の可能性が出てきた。Lipid raftを利用した遺伝子治療の開発は、まだ端緒についた所であるが、dominant negative FcεRI導入による遺伝子治療の基礎が固まりつつあり、今後の進展が期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-