文献情報
文献番号
200300655A
報告書区分
総括
研究課題名
スギ花粉・ダニ由来のアレルゲンの分析と診断・治療への応用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
安枝 浩(国立相模原病院)
研究分担者(所属機関)
- 阪口雅弘(国立感染症研究所)
- 小埜和久(広島大学)
- 高井敏朗(順天堂大学)
- 斎藤三郎(東京慈恵会医科大学)
- 辻本元(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国のアレルギー疾患における最大の原因アレルゲンは室外のスギ花粉と室内のヒョウヒダニ(以下ダニ)である。スギ花粉症や小児気管支喘息などのアレルギー疾患は、近年増加の一途をたどっており、スギ花粉、ダニを原因とするアレルギー疾患の新規治療法を確立することは社会的急務である。本研究においては、これらの疾患発症の直接の原因となるスギ花粉、ダニのアレルゲンを同定し、天然型アレルゲンの精製や組換型アレルゲンの作製を行い、それらのアレルゲンの構造や機能を分子レベルで解析して、得られた成果をアレルゲンエキスの品質改善、標準化、新たな診断薬、治療薬の開発に応用する。さらに、本研究では、スギ花粉症、ダニアレルギーの根治的治療を目標とした新たな抗原特異的免疫療法の開発、および免疫療法の有効性を客観的に評価できる指標の開発を行い、それらの臨床応用を目指す。
研究方法
アレルゲンの同定、解析に関する研究:スギ花粉抽出物を二次元電気泳動で二次元マップ上に展開し、イムノブロットで各スポットのIgE抗体反応性を検出、比較した。さらに、主要スポットの一次配列をプロテオーム解析の手法を用いて決定した。ダニ主要アレルゲンDer p 1/Der f 1、およびDer p 2/Der f 2の組換体を酵母、あるいは大腸菌で発現させ、そのアレルゲン活性、プロテアーゼ活性、二次構造の解析を実施した。
アレルゲンに対するIgE抗体の親和性測定:患者血清中のIgEに対するスギ、ヒノキ花粉主要アレルゲンCry j 1、Cha o 1のビオチン標識体の結合能を測定して、得られた結合曲線から親和性(most probable Kd)を算出した。他方、患者白血球からのヒスタミン遊離試験を行い、その各種パラメーターとmost probable Kdとの関連を解析した。
治療法に関する研究: CpGモチーフを含むDNA(以下CpG)を結合したCry j 1をBALB/cマウスに投与し、その後にCry j 1とアラムで免疫した時の抗体産生能、サイトカイン産生能を解析した。健常犬(ビーグル)10頭の末梢血単核球を用いて、塩基配列が異なる11種類のCpGのINF-γ誘導能をタンパク質、mRNAのレベルで検討した。イネの種子貯蔵タンパク質グルテリン遺伝子の下流部にCry j 1の部分配列をコードする遺伝子を組み込み、Cry j 1の断片をイネ胚乳に発現させた。Cry j 1の前半部分を発現する組換米をB10.Sマウスに食べさせた後にCry j 1を点鼻投与して免疫応答能を解析した。
アレルゲンに対するIgE抗体の親和性測定:患者血清中のIgEに対するスギ、ヒノキ花粉主要アレルゲンCry j 1、Cha o 1のビオチン標識体の結合能を測定して、得られた結合曲線から親和性(most probable Kd)を算出した。他方、患者白血球からのヒスタミン遊離試験を行い、その各種パラメーターとmost probable Kdとの関連を解析した。
治療法に関する研究: CpGモチーフを含むDNA(以下CpG)を結合したCry j 1をBALB/cマウスに投与し、その後にCry j 1とアラムで免疫した時の抗体産生能、サイトカイン産生能を解析した。健常犬(ビーグル)10頭の末梢血単核球を用いて、塩基配列が異なる11種類のCpGのINF-γ誘導能をタンパク質、mRNAのレベルで検討した。イネの種子貯蔵タンパク質グルテリン遺伝子の下流部にCry j 1の部分配列をコードする遺伝子を組み込み、Cry j 1の断片をイネ胚乳に発現させた。Cry j 1の前半部分を発現する組換米をB10.Sマウスに食べさせた後にCry j 1を点鼻投与して免疫応答能を解析した。
結果と考察
1.アレルゲンの同定、解析に関する研究:スギ花粉抽出液をプロテオーム解析した結果、患者血清中IgE抗体と反応したタンパク質、すなわちアレルゲンが合計131成分検出され、そのうち、12成分がCry j 1、3成分がCry j 2として同定された。従来から主要アレルゲンとして同定されていたCry j 1、 Cry j 2に加えて数多くの新規アレルゲンを確認することができた。プロテオーム解析により、これら多種類のアレルゲンに対するIgE抗体反応頻度マップの作成や、個々の患者のIgE抗体反応パターンの可視化が可能になり、アレルゲン標準化、アレルゲンデータベースの整備に不可欠な知見が数多く集積された。ダニ主要アレルゲンDer p 1/Der f 1、およびDer p 2/Der f 2の新たな組換体調製法を開発した。各組換体の二次構造は天然型と一致し、アレルゲン活性も天然型と同等であった。Der p 1/Der f 1組換体のプロテアーゼ活性は天然型と同じ基質特異性を示したが、天然型よりも高活性であった。さらに、Der p 1/Der f 1組換体の、プロ体と成熟体のアレルゲン活性、酵素活性の比較、およびホモロジーモデリング法による予測立体構造モデルの解析から、Der p 1/Der f 1の主要なIgEエピトープの位置を推定することができた。ダニ主要アレルゲンについては、天然のアレルゲンと同等の二次構造、アレルゲン活性を保持した「活性型組換アレルゲン」の調製法は確立されたといってよく、今後はこれらの組換アレルゲンの診断・治療への応用や、より安全性の高い改変アレルゲンワクチンの設計・作製への展開が期待される。一方、スギ花粉の主要アレルゲンCry j 1、 Cry j 2は遺伝子がクローニングされてから10年以上になるが、その組換体調製法に関する報告は全く見られない。Cry j 1、 Cry j 2の「活性型組換アレルゲン」調製法の確立が今後の課題である。
2.アレルゲンに対するIgE抗体の親和性測定:スギ花粉症患者18例の血中IgE抗体のmost probable Kdは、Cha o 1よりもCry j 1に対して有意に高親和性を示し(p < 0.01)、さらに、ヒスタミン遊離試験におけるsensitivityとKdとの間には有意な正の相関があり、アレルゲンに対するIgE抗体の親和性が高い例ほど当該アレルゲンに対する細胞の感受性が亢進しているという関係が見られた。すなわち、アレルゲンに対する感受性の差がIgE抗体の親和性に起因しているということが推定された。これらの結果から、減感作治療などの抗原特異的治療において、治療経過にともなうIgE抗体親和性の推移が治療効果の客観的指標として使える可能性のあることが示唆された。
3.治療法に関する研究:微生物由来DNAに存在する非メチル化CpG配列にはTh1を誘導する強いアジュバント作用がある。このCpGとCry j 1の結合物を前投与したマウス(ワクチン接種群)ではコントロール群に比べてCry j 1特異的IgE抗体の産生が有意に抑制され、IgG2a抗体は有意に高値であった。さらに、脾臓中CD4陽性T細胞をCry j 1とともに培養したときの増殖能、INF-γの産生量は、ワクチン接種群において有意に高値であった。このように、CpGとCry j 1の結合物をマウスに接種することにより、特異的IgE抗体の産生抑制、およびIgG2a抗体、INF-γの産生増強が誘導され、CpG結合Cry j 1がスギ花粉症における抗原特異的な免疫治療ワクチンとして有効であることが示唆された。これまで、イヌに対して有効に作用するCpG配列は不明であったが、CpG配列11種類のイヌ単核球におけるIFN-γ産生量を比較することにより、イヌにおいて強いTh1誘導能を持つCpG配列を決定することができた。このため、今後はマウスの実験系だけでなく、「スギ花粉症を自然発症したイヌ」という、ヒトの病態により近い動物モデルでのCpG結合ワクチンの評価を並行して行うことが可能になった。
アレルゲン、あるいはその改変体をコメに発現させた「食べるワクチン」は、安価で均一なアレルゲンを大量に生産でき、しかも投与方法が簡便であることから注目されるべき抗原特異的治療薬である。今回の検討では、イネで発現させたCry j 1はイネ胚乳のプロティンボディに局在しており、そのタンパク量は種子一粒あたりマイクログラムのレベルであること、および組換イネ種子を経口摂取させた群は野生型の種子を摂取させた群に比べて、Cry j 1点鼻投与後のCry j 1に対するT細胞増殖反応、IgE抗体産生が抑制されることが確認された。今後は、マウスにおける予防的投与の効果だけでなく、CpGの場合と同様に、治療的投与における効果の確認や、自然発症イヌやサルなど、ヒトの病態により近い動物モデルでの有効性の評価が必要である。
2.アレルゲンに対するIgE抗体の親和性測定:スギ花粉症患者18例の血中IgE抗体のmost probable Kdは、Cha o 1よりもCry j 1に対して有意に高親和性を示し(p < 0.01)、さらに、ヒスタミン遊離試験におけるsensitivityとKdとの間には有意な正の相関があり、アレルゲンに対するIgE抗体の親和性が高い例ほど当該アレルゲンに対する細胞の感受性が亢進しているという関係が見られた。すなわち、アレルゲンに対する感受性の差がIgE抗体の親和性に起因しているということが推定された。これらの結果から、減感作治療などの抗原特異的治療において、治療経過にともなうIgE抗体親和性の推移が治療効果の客観的指標として使える可能性のあることが示唆された。
3.治療法に関する研究:微生物由来DNAに存在する非メチル化CpG配列にはTh1を誘導する強いアジュバント作用がある。このCpGとCry j 1の結合物を前投与したマウス(ワクチン接種群)ではコントロール群に比べてCry j 1特異的IgE抗体の産生が有意に抑制され、IgG2a抗体は有意に高値であった。さらに、脾臓中CD4陽性T細胞をCry j 1とともに培養したときの増殖能、INF-γの産生量は、ワクチン接種群において有意に高値であった。このように、CpGとCry j 1の結合物をマウスに接種することにより、特異的IgE抗体の産生抑制、およびIgG2a抗体、INF-γの産生増強が誘導され、CpG結合Cry j 1がスギ花粉症における抗原特異的な免疫治療ワクチンとして有効であることが示唆された。これまで、イヌに対して有効に作用するCpG配列は不明であったが、CpG配列11種類のイヌ単核球におけるIFN-γ産生量を比較することにより、イヌにおいて強いTh1誘導能を持つCpG配列を決定することができた。このため、今後はマウスの実験系だけでなく、「スギ花粉症を自然発症したイヌ」という、ヒトの病態により近い動物モデルでのCpG結合ワクチンの評価を並行して行うことが可能になった。
アレルゲン、あるいはその改変体をコメに発現させた「食べるワクチン」は、安価で均一なアレルゲンを大量に生産でき、しかも投与方法が簡便であることから注目されるべき抗原特異的治療薬である。今回の検討では、イネで発現させたCry j 1はイネ胚乳のプロティンボディに局在しており、そのタンパク量は種子一粒あたりマイクログラムのレベルであること、および組換イネ種子を経口摂取させた群は野生型の種子を摂取させた群に比べて、Cry j 1点鼻投与後のCry j 1に対するT細胞増殖反応、IgE抗体産生が抑制されることが確認された。今後は、マウスにおける予防的投与の効果だけでなく、CpGの場合と同様に、治療的投与における効果の確認や、自然発症イヌやサルなど、ヒトの病態により近い動物モデルでの有効性の評価が必要である。
結論
スギ花粉症とダニアレルギーに関与するアレルゲンについての解析と、アレルゲンの診断・治療への応用に関して、次年度から展開するための基礎検討も含めて数多くの成果が得られた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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