食物等によるアナフィラキシー反応の原因物質(アレレルゲン)の確定、予防・予知法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200300653A
報告書区分
総括
研究課題名
食物等によるアナフィラキシー反応の原因物質(アレレルゲン)の確定、予防・予知法の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立相模原病院臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤直実(岐阜大学)
  • 穐山浩(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 大嶋勇成(福井大学)
  • 宇理須厚雄(藤田保健衛生大学)
  • 相原雄幸(横浜市立大学)
  • 赤澤晃(国立成育医療センター)
  • 柴田瑠美子(国立療養所南福岡病院)玉置淳子(近畿大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アナフィラキシー(食物依存性運動誘発性アナフィラキシーも含む)等の食物アレルギーの調査研究に基づいた適切な施策・対処法の確立、原因物質を確定する診断方法の確立、食物アレルギーの発症・寛解機序の解明による予知・予防法の確立、原因物質の抗原解析によるアレルゲンの交差抗原性の解明と原因物質の低減化を研究目的とした。
研究方法
研究方法・結果・考察=1)食物等によるアナフィラキシーの原因物質の確定、予防・予知法の確立に関する研究(海老澤)
・アナフィラキシーに関する疫学研究:平成13・14年の全国モニタリング調査で3882名の即時型食物アレルギー患者のうちアナフィラキシー症例は423例(10.9%)で、平均年齢は9.5±15.3才 (mean±SD)であった。0才9.6% (122/1270)、1才8.4% (59/699)、2,3才群8.1% (48/594)、4-6才群12.3% (56/454)、7-19才群14.8% 74/499)、20才以上群17.4%(64/366)であった。年齢別原因は0才、1才が卵、乳製品、小麦、2,3才群が乳製品、卵、小麦、ソバ、4-6才群が卵、乳製品、小麦、ピーナツ、ソバ、7-19才群がソバ、小麦、乳製品、20才以上群が小麦、甲殻類、ソバ、果物類であった。意識障害例や血圧低下例は148例(3.8%)存在し、平均年齢は20.1±19.5才であった。0才1.3% (16例)、1才1.2% (9例)、2,3才群1.3% (8例)、4-6才群4.1% (19例)、7-19才群7.8% (39例)、20才以上群15.5%(57例)であった。年齢別原因は0才が卵・乳製品7例、1才が乳製品3例、卵2例、2,3才群がソバ・乳製品3例、4-6才群が卵6例、ソバ・乳製品3例、小麦2例、7-19才群がソバ・乳製品6例、甲殻類4例、20才以上群が小麦28例、甲殻類9例、ソバ5例であった。成人の意識消失を伴うアナフィラキシーはFEIAnの関与が類推された。このデータに基づきアレルギー物質を含む食品表示検討会に改善案を答申した。
・食物負荷試験ネットワーク:負荷試験は平成15年度に全国24施設で合計209症例が実施され、抗原別内訳は、全卵:81例、卵黄:22例、牛乳:52例、小麦:38例、大豆:16例であった。累計の負荷試験733例において陽性反応を呈したのは322例(44%)で、抗原特異的IgE抗体陽性率79%と解離を認めた。
・乳児期の食物アレルギーの有病率に関して:相模原市の5247名の乳児を対象とした調査で乳児期の食物アレルギーの有病率は5.5~13.1%の間と推察された。
2)食物依存性運動誘発性アナフィラキシーに関する研究(相原)
横浜市教育委員会でFEIAnの調査の承諾が得られ、平成15年12月に横浜市立全小学校養護教諭宛にアンケート用紙を配付しH16年2月末にアンケートを回収予定である。わが国のFEIAnの全報告症例を集積し誘発試験について解析した。163症例の報告があり男性が女性の1.5倍で、平均年齢は23.9歳で10歳代が83例と若年者に偏っていた。関連した食品は、小麦91例、次に甲殻類41例であった。運動は、球技53例、ランニング40例、歩行25例であった。発症は昼食後が117例と最多で、意識消失は76例あり死亡も1例認めた。標準化誘発試験では運動負荷にはトレッドミルを用い、食事量を多くし、食事+運動で誘発されない場合にはアスピリンの前投与の有用性が示唆された。
3)食物等によるアナフィラキシーによる死亡例に関する研究(玉置)
日本救急医学会の協力のもと日本救急学会指定医、認定医、専門医2391名を対象に、過去5年間の食物アレルギーによる死亡例の調査を行った。回答者1634名中4名より死亡例の報告があり、4例の原因食品と年齢・性別は、ソバ(56才:女)、エビ(23才:女)、マグロ(62才:男)、チョコレート(4才:男)であった。医療機関に搬送された時点でいずれもDOA状態で、アナフィラキシー発症からエピネフィリン投与まで30分以上経過していた。死亡診断書の直接死因が確認された3例の死因は食物アレルギーによる死亡とされず、食物アレルギーによる死亡の状況と原因食品に関する情報を医療機関ベースで集積していくことが重要と思われた。
4)食物等によるアナフィラキシーの予防・寛解誘導に関する研究(宇理須)
加熱脱オボムコイド卵白含有クッキーの連日摂取により、経口負荷試験の陰性化は32例中17例(53、1%)に認め、卵白特異的IgG4抗体の有意な上昇が陰性化群で観察された。陰性化の因子として連日投与前に行った負荷試験の誘発抗原量が陰性化群で有意に高値であり寛解に近い患者が陰性化しやすいことが示された。非陰性化群でも連日摂取後に誘発症状が軽減し陰性化しなくても寛解に近づくこと、摂取期間の延長により陰性化が可能となることが推測された。
5)食物アレルゲンの免疫応答および非即時型反応に関する研究(近藤)
牛乳の主要抗原のb-lactoglobulin(BLG)を特異的に認識するT細胞クローン(TCC)を用いて細胞増殖反応を検討した結果、BLG特異的TCCのコア配列は、p102-112 (YLLFCMENSAE)であった。BLGを酵素A(コア配列を切断する)で切断したペプチドではTCCの増殖反応が減弱し、酵素B(コア配列を残存させる)で切断したペプチドでは増殖反応が保たれていた。阻害ELISAでは酵素処理したペプチドのIgGに対する反応が減弱していた。免疫寛容を誘導するペプチドとしては、B細胞エピトープの破壊とT細胞エピトープの残存が必要であり、酵素Bで酵素処理したペプチドにより免疫寛容の誘導の可能性が示唆された。
6)食物アレルギー実験モデルにおける予防・寛解誘導に関する研究(大嶋)
OVA特異的IgEとOVA特異的TCRの両者のトランスジェニックマウス(TCR/IgE-Tg群)とOVA特異的TCRのトランスジェニックマウス(TCR-Tg群)で、OVAの経口投与により脾細胞のOVA特異的T細胞の割合が減少し、脾細胞のOVA再刺激による細胞増殖やIL-4, IFN-g産生はOVAの経口投与により低下していたが、TGF-b産生は逆に両群で増強していた。既に特異IgE抗体の存在する食物アレルギー患者においては、少量の抗原によりT細胞反応が生じ易いが、大量の抗原の経口投与が可能であればトレランスを誘導しうることが示唆された。
7)食物等によるアナフィラキシーの原因物質・予後に関する研究(柴田)
牛肉特異的IgE抗体陽性児18例で牛肉による誘発症状例では、牛肉エキス加熱によるプリック反応の陰性化がみられず、BSA以外に熱耐性の抗原の存在が考えられた。イムノブロットによる牛肉蛋白に対する反応では陽性症状例で牛肉BSAバンドの強度の増加以外に28kDa、15kDaの蛋白バンドが認められた。IgEイムノブロットでの血清BSA反応の強い血清を用いた BSAアミノ酸合成ペプチドとの結合試験から、338-341ペプチド EYAVが多くの症例でIgE結合性を有しており、B細胞エピトープと考えられた。
8)食物アレルゲンの抗原解析およびその低減化に関する研究(穐山)
鶏肉はWestern Blotting法、魚肉(マサバ)は阻害ELISA法にて交差抗原性を検討した。ホタテガイのトロポミオシン(TM)を還元性単糖類(グルコース、リボース)と混合し、TMのアレルゲン性に及ぼすメイラード反応の影響を患者血清を用いたWestern Blotting法と競合ELISA法にて解析した。果物蛋白のIgE反応性に関してWestern Blotting法にて検討した。鶏肉主要抗原としてCSAさらにGAPDH、FBPA など数本の蛋白を確認した。マサバrPAは魚類アレルギーの診断・治療に応用可能であることが確認された。ホタテガイ筋肉の主要抗原であるTMは、メイラード反応により抗原性が増大する可能性示唆された。スイカ、メロン、キウイ、バナナ、オレンジ、パイナップルから18kDa~38kDa付近にIgE抗体と反応する複数の成分が観察された。
9)食物アレルゲンの抗原解析・交叉反応性に関する研究(赤澤)
6名の牛乳アレルギー患者血清(牛乳IgEクラス4から6)を用いて、山羊乳、綿羊乳との交差反応性をinhibition assayで検討し、山羊乳、綿羊乳ともに牛乳と高い交差反応性が認められた。

結果と考察
結論
乳児期の食物アレルギーの有病率が5.5%~13.1%の間と推察された。FEIAnの小学校での調査と食物によるアナフィラキシー死亡例の調査を開始し、死亡例4例の原因物質および死亡状況の詳細が明らかとなりエピネフリンの自己注射の必要性が示された。全体研究の食物アレルギー診療の手引きの作成に関して過去3年間の厚生労働科学研究と本研究班でのデータに基づいたドラフトを作成し次年度以降に検討することとした。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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