免疫アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300652A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
森川 昭廣(群馬大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤直実(岐阜大学医学部)
  • 大田健(帝京大学医学部)足立満(昭和大学医学部)
  • 河野陽一(千葉大学医学部)
  • 小田嶋 博(国療南福岡病院)
  • 徳山研一(群馬大学医学部)
  • 吉原重美(獨協医科大学)
  • 荒川浩一(群馬大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患は、遺伝的要因と環境的要因(胎内・胎外因子)が複雑に絡み合って発症していくと考えられている。遺伝的要因とウイルス感染などの環境的要因との関わりを明らかにするために、自然免疫とウイルス感染の関連、遺伝子発現との相互作用を検討し、気管支喘息の発症および増悪の機序を明らかにすることを目的とした。これら因子を解明することにより、アレルギー疾患発症増加の制御に役立て、国民の健康増進に大きく貢献するものと考えられる。
研究方法
疫学調査による胎内・胎外因子の解明。遺伝学的検討(遺伝子多型ならびに変異の検討)。妊娠中の諸因子と追跡調査(臍帯血中の各種因子測定と、その後のアレルギー疾患発症の追跡調査)。分子生物学的手法(Bisulphate法によるDNAメチル化、GeneChip、プロモーターアッセイ、ウェスタンブロット法など)を用いたウイルスと生体との係わりの解明。生理学的手法を用いた気道リモデリングと気道過敏性に係わる胎外因子との係わりの解明。
結果と考察
1)生後1歳でのアレルギー疾患発症に及ぼす因子を解明するため、九州・関東・東北の3地区で疫学調査をした結果、出生体重が大きく、在胎週数が少ないほどアレルギー疾患発症が多く、母親や家族のアレルギー歴と相関し、生後初めての疾患が気道感染で、かつその数が多いほど喘鳴の発症が多かった。 2)妊娠中の各種要因が児のアレルギー疾患発症と関連するかを前方視的に検討するプロジェクトが進行中であり、臍帯血中のサイトカインやケモカイン、増殖因子も測定し総合的に検討する。Th1/Th2バランスをTh1へ傾けるIL-12の遺伝子転写調節領域にDNAメチル化が存在し、その発現量が制御されている可能性が示唆された。このメチル化が、プログラムされたものか、あるいは胎内・胎外因子の影響によるかは今後検討する。 3)喘息発症に、胎外因子としてウイルスによる気道感染が重要と考えられる。そこでRSウイルスの受容体であるtoll-like受容体-4(TRL-4、CD14)に遺伝的差異がないかを検討した。その結果、CD14については-159C/Tの多型を認め、CD14TT型はCC型と比較しIL-12の発現が少なかった。IL-12の減少はTh2へのバランスに傾けるためアレルギー疾患との関連が示唆された。 4)RS感染時の生体反応について、アレルギー患者の末梢血単核球を用いサイトカインやIgE産生に影響が見られるかを検討した。その結果、感染にてIFN-γは大きく変動し、回復期にはIL-12やIL-18が有意に増加していた。その原因としてIL-12やIL-18受容体のediting現象やAlternative splicingが関連している可能性が示唆された。 5)RSウイルス感染と生体との関連を明らかにするために、ヒト肺胞上皮細胞にRSウイルス感染をさせGeneChipを用いて遺伝子発現量を測定した。その結果、約12,000の遺伝子のうち、対照と比較して約50~200種類の遺伝子が強く発現誘導され、Ⅰ型IFN誘導遺伝子、炎症性サイトカイン、CCおよびCXCケモカインが含まれていた。 6)気道感染におけるケモカイン産生の分子レベルの機序を解明する目的で、気道上皮培養細胞にウイルス感染モデルであるdsRNA刺激を行った結果、IL-8、RANTES、IP-10濃度は有意に増加が認められた。これはTRL-3を介し、転写因子としてNF-kBやIRF-3が関与する可能性が示唆された。また、喘息治療薬であるフルチカゾンで抑制が見られた。 7)エオタキシン産生に関して肺線維芽細胞で検討した結果、IL-4は
エオタキシンプロモーターを濃度依存的に活性化し、IFN-γの前処理にて、IL-4誘導性のエオタキシン産生をRT-PCR、プロモーターアッセイでともに抑制した。 8)大気汚染と関連するオゾン曝露は、エオタキシン発現を誘導し、IL-4と相加作用を示した。 9)気道過敏性の獲得の年齢的因子では、卵白アルブミン感作新生仔および成熟マウスに、チャレンジ開始後penhを用いた気道過敏性の経時的変化について検討した。その結果、幼若マウスでは成熟群に比べて気道過敏性は早期に収束することが予想された。 10)喫煙暴露との関連では、短期曝露では、BALF中細胞数および気道過敏性は抑制傾向であったが、長期曝露ではマクロファージや好中球の増加を認め、TNF-αおよびMIP-2の増加を認めた。長期喫煙曝露は、気道炎症を増悪し、喘息に影響を及ぼすことが示唆された。
結論
本年度は、胎内因子として、母親のアレルギー疾患、感染を含めた要因が重要であることが示唆され、遺伝的な要因として自然免疫の遺伝子多型やIL-12のプロモーター活性などが関与している可能性が考慮された。一方、胎外因子として、ウイルス感染により、その受容体を介した刺激によるIL-12あるいはIFNの産生調節によりTh2バランスに傾きIgE産生が促進されアレルギー疾患発症に向かう可能性が考えられ、また、ケモカイン発現により好酸球、好中球などが動員され、気道炎症を導く過程も示唆された。さらに、アレルギー性気道炎症の消退に年齢的な因子が関与し、長期喫煙暴露は増悪因子と考えられた。本研究は、これら因子を解明することにより、アレルギー疾患、特に気管支喘息の発症増加の制御に役立て、国民の健康増進に大きく貢献するものと考えられる。

公開日・更新日

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