気管支喘息の慢性化・難治化の予防を目指す、早期介入療法のための早期診断法の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300651A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息の慢性化・難治化の予防を目指す、早期介入療法のための早期診断法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
福田 健(獨協医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 足立満(昭和大学医学部)
  • 棟方充(福島県立医科大学)
  • 秋山一男(国立相模原病院)
  • 井上洋西(岩手医科大学)
  • 大田健(帝京大学医学部)
  • 三嶋理晃(京都大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喘息の慢性化、難治化を防止する現時点で最も有効な方法は、吸入ステロイド薬を発症早期から用いる早期介入療法である。その効果は発症後間もない程大きいので、発症早期で喘息と診断することが重要である。現在の喘息診断目安の欠点は、発病してしばらく経たないと喘息と診断できないことにある。そこで、本研究では、公的な研究グループを組織し、現在より早い段階で確実に喘息と診断できる方法を模索し、最終的に「喘息早期診断基準」を提唱することを目指す。研究は、1)早期診断に役立つ喘息特異的な臨床像が発病初期にみられないかを検討する後ろ向き研究と前向き研究、2)喘息へ移行しうる咳喘息についての詳細な臨床的検討、3)喘息早期診断に向けた従来の検査法の見直しおよび新しい検査法の開発、の3つのパートからなる。
研究方法
1)後ろ向き研究と前向き研究:後ろ向き研究における調査症例の選択基準、調査項目、前向き研究における組み入れ症例の選択基準、追跡調査の方法などを決めるため、7施設の分担研究者および研究協力者が平成15年12月19日に東京で第1回目の会議を開いた。2)咳喘息についての臨床的検討(足立班):咳喘息 (CVA)、軽症喘息 (BA)、アトピー咳嗽 (AC) 患者を対象に、呼吸機能、アセチルコリンに対する気道過敏性 (Ach-PC20)、カプサイシンに対する咳受容体感受性について検討した。3)喘息早期診断に向けた従来の検査法の見直しおよび新しい検査法の開発:a. 気道過敏性とフローボリューム曲線測定の意義(井上班);最終診断が喘息、慢性咳症候群および急性気管支炎であった、これまで喘息と診断されたことがない89名を対象として気道過敏性検査およびV50、V25測定を実施、その有用性を検討した。b. 種々の方法による気道過敏性試験(秋山班);同一喘息患者にアセチルコリン(Ach)、ヒスタミン(HA)を用いた標準法による気道過敏性検査を施行し、FEV1とMMFのPC20を比較した。上記検査を複数回受検した患者において、初診時気道過敏性、吸入ステロイド薬使用後の気道過敏性変化率について、病型別、発症年齢別に比較検討した。c. 誘発喀痰中好酸球および呼気一酸化窒素(eNO)(棟方班);持続性咳嗽を訴え気道過敏性を伴う患者から誘発喀痰を採取し、好酸球比率が10%以上を好酸球増多群、10%未満を好酸球非増多群とし2群間で気道過敏性、吸入ステロイド(ICS)に対する反応を比較した。また、学童278名で、喘息症状、呼吸機能、血清総IgE、抗原特異的IgE、eNOを測定し、多変量ロジスティック解析により喘息の可能性のある反復喘鳴群を抽出するために有用な指標を検討した。d. 気管支粘膜生検組織の免疫組織化学的解析(福田班);TGF-?の細胞内シグナル伝達を正/負に調節する分子であるSmad2/Smad7を、発症直後の喘息と他の気道疾患を区別できる候補分子として捉え、喘息および非喘息患者におけるリン酸化Smad2/Smad7発現、マウス喘息モデルを用いた発症初期喘息と慢性喘息におけるリン酸化Smad2/Smad7発現パターンの検討を行った。また、発症1年未満喘息患者に気道粘膜生検を行い、気道炎症に関する基礎的データを得た。e.HRCT画像解析(三嶋班);吸気呼気HRCTが早期喘息診断に有効かを検討するため、喘息患者にHRCTを施行、最大吸気・最大呼気位で計6スライス撮影した。末梢気道病変の指標としてlow attenuation areas% (LAA%), 平均肺野濃度(MLD)、モザイクスコアを用いた。f.終夜睡眠ポリグラフィ(polysomnography: PSG)(大田班):喘息で
は夜間に気道炎症の悪化や気道反応性亢進により睡眠障害が生じる。異常睡眠パターンの検知が早期診断に有用であるかを検討するため喘息あるいは喘息疑い患者にPSGを施行、睡眠各指標、呼吸運動,いびき,酸素飽和度,心電図,体位について解析した。
結果と考察
後ろ向き研究:調査対象症例は現行の喘息診断目安に基づいて喘息と確定診断し実際に喘息治療を行っている(行った)者で、初診時より通院しているため、あるいは、詳細な問診により発症当時の状態を詳しく調べることができる患者とした。調査項目は、初発時の症状、症状の好発時間、症状を誘発しやすい事前の状況、発症時の咳嗽に関する詳しい記載、初診時検査所見、などとした。前向き研究;初診患者を現行の喘息診断目安に照らし合わせて、「1年未満喘息症例」、「1年未満喘息疑い症例」、「1年未満咳嗽症例」と分類して追跡調査を開始する。全対象者に喘息日誌記載、6ヶ月毎のスパイログラフィー、フローボリューム曲線測定、喀痰好酸球検査を行い、喘息に移行するかを観察する。2)(足立班);FEV1値とV25値はCVAとBAではACに比し低値であったが有意差はなかった。Ach-PC20はACでは亢進せず、BAはCVA患者よりも有意に亢進していた。カプサイシンに対する咳受容体感受性はACではBAよりも有意に亢進していた。3)喘息早期診断に向けた従来の検査法の見直しおよび新しい検査法の開発:a(井上班);喘息群の気道過敏性は慢性咳症候群、急性気管支炎群に比し有意に低値であった。%V50、%V25も気管支喘息群は他の2群に比し有意に低値であった。b(秋山班);MMF-PC20/FEV1-PC20はHAがAChと比較して有意に低値であった。初診時HAPC20は小児発症が成人発症非アトピー型と比較して低値であった。ICS治療によりAChPC20は改善したがHAPC20は改善しなかった。c(棟方班);気道過敏性を伴う慢性咳嗽患者で喀痰好酸球増多例は1/3に過ぎず、好酸球比率はICS効果の指標とならなかった。多変量解析では、反復喘鳴症状の指標としてはeNOが最も優れていた。d(福田班);リン酸化Smad2陽性細胞率は喘息群で有意に高く、逆にSmad7は有意に低かった。マウス喘息モデルによる検討では、急性喘息ではリン酸化Smad2とSmad7の双方が強発現していたが、慢性喘息ではSmad7発現は弱く喘息患者のそれと類似していた。発症1年未満喘息患者でも気道粘膜生検組織中の好酸球数は増加していたが、基底膜厚は非喘息患者と差がなかった。e(三嶋班); 安定期喘息25例におけるHRCT画像解析で、呼気CT所見や呼気と吸気のMLD比はV25を含む呼吸機能、気道過敏性などと関連を示し、吸気モザイクスコアは罹病期間、重症度、MMF 、V25との相関がみられた。f(大田班);喘息群では深睡眠の減少、脳波上覚醒パターン増加など睡眠障害を認めた。PSGと肺機能検査について検討すると、閉塞性換気障害と無呼吸・低換気指数(AHI)とは逆相関の傾向を示した。
結論
MMF、V50、V25の測定、アセチルコリンとヒスタミン気道過敏性の同時測定、カプサイシンに対する咳受容体感受性試験は発症早期の段階で咳喘息、アトピー咳嗽、気管支炎を鑑別できる可能性がある。発症初期では喀痰好酸球増多例は1/3に満たないことから過少評価する可能性がある。eNOは反復喘鳴症状の指標として最も優れており早期診断指標として有用である可能性がある。気管支粘膜組織の免疫組織化学的解析におけるリン酸化Smad2とSmad7の発現パターンから初期喘息を見分けられる可能性がある。HRCTで末梢気道病変を示唆するLAA%、MLD、モザイクスコアなどの所見は末梢病変の早期診断に役立つ可能性がある。終夜睡眠ポリグラフで、喘息群では深睡眠の減少、脳波上覚醒パターン増加など睡眠障害を認め喘息早期診断に有用である可能性がある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-