ヒト硫酸転移酵素遺伝子ファミリーの網羅的機能解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300647A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト硫酸転移酵素遺伝子ファミリーの網羅的機能解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
榊原 陽一(宮崎大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体内において非常に多様な機能に関与するヒト硫酸転移酵素に関して網羅的機能解析を行い、トキシコゲノミクス分野における硫酸転移酵素の機能解明と研究成果のテーラーメイド医療への応用の可能性を検討する。現在までに硫酸転移酵素は非常に多様な分子種からなり、シトクロムP-450酵素群と同様に大きな遺伝子ファミリーを形成していることが明らかとなっている。しかしながら、現時点ではゲノム上に何種類の異なる機能を持った硫酸転移酵素が存在しているのかといったことも正確には把握されていない。そこで、本研究計画において、全ての硫酸転移酵素遺伝子(SULT)ファミリーのクローニングとリコンビナント酵素の調製を行い、ヒト硫酸転移酵素の網羅的機能解析を行う。
生体内における硫酸化は、生体外異物や薬物の解毒代謝機構、ステロイドホルモンや神経伝達物質の生体内濃度調節機構、食品機能性成分の作用機構への関与などが知られている。このような観点から、硫酸転移酵素はテーラーメイド医療やテーラーメイド栄養指導のための指標として注目を集めつつある。今後、トキシコゲノミクス分野においてヒト硫酸転移酵素を網羅的に機能解析し、生体外異物(食品添加物、環境ホルモン、環境変異原物質など)や薬物にたいする解毒代謝機構としての硫酸化に関して生化学的に諸性質を検討する必要がある。そこで、平成15年度は新規ヒト硫酸転移酵素のクローニングとリコンビナント硫酸転移酵素を使った生化学的な諸性質の検討に関して、ヒトSULT1C1a、SULT1C1b、SULT6A1に関して検討した。さらに、遺伝子多型(SNPs)由来のアミノ酸置換の影響に関して、ヒトSULT2A1の10種のアミノ酸バリアントに関して解析を行った。
これらの研究は、ヒト硫酸転移酵素遺伝子ファミリーの網羅的機能解析及び硫酸転移酵素遺伝子多型由来のアミノ酸置換の影響をすべての硫酸転移酵素及びその多型(SNPs)において網羅的に解析することを目的に研究を行った。
研究方法
新規ヒト硫酸転移酵素のクローニングとして、ヒトSULT1C1のクローニングは平成14年度の総括研究報告書に記した。ヒトSULT1C1のリコンビナント酵素はpGEX-4T3ベクターを使用し、大腸菌BL21株で発現した。発現誘導後、菌体をフレンチプレスにて破砕し、リコンビナント酵素を精製しようと試みたが、目的のGSTとSULT1C1の融合タンパク質が封入体となり可溶性の酵素として回収できなかった。そこで現在、さらに発現条件を検討中である。
新規硫酸転移酵素ヒトSULT6A1はゲノムデータベースの解析により発見し、PCRによりORFの増幅を行いそのアミノ酸配列を決定した。さらに、SULT1C1同様にpGEX-4T3ベクターにサブクローニングし、リコンビナント酵素をGSTとの融合タンパク質として発現した。菌体をフレンチプレスにより破砕後グルタチオンセファロースによる精製を行った。
ヒト硫酸転移酵素の遺伝子多型(SNPs)に関する研究として、ヒトヒドロキシステロイド硫酸転移酵素(SULT2A1)に関してPCRによる部位特異的変異の導入によりアミノ酸配列の異なるリコンビナント酵素10種類を調製した。鋳型として、ヒトSULT2A1を大腸菌でGST融合タンパク質として発現するベクターpGEX-2TKにサブクローニングし、発現および酵素活性を確認した物を使用した。得られた変異クローンは塩基配列の確認を行い、目的の部位特異的変異の導入の確認およびフレームの確認を行った。これらの変異クローンを含むプラスミドは発現用ホストBL21に遺伝子導入しリコンビナント酵素を調製した。これらのリコンビナント変異硫酸転移酵素は活性の確認および変異原試験法への応用に関してAmes試験による9-ヒドロキシメチルアントラセンの変異原物質への代謝活性化を試験した。
硫酸転移酵素の活性測定は[35S]-放射活性硫酸でラベルされた硫酸供与体3'-Phosphoadenosine 5'-Phosphosulfate (PAPS)を酵素的に合成しPAPSから基質への放射活性の転移を測定することで行った。PAPSの合成にはリコンビナントPAPS合成酵素を使用し、ATPおよび無機硫酸より合成した。この活性硫酸PAPSは硫酸転移酵素の研究に不可欠であり、我々は非常に効率のよい合成方法を開発して研究に使用している。
さらに、ヒト硫酸転移酵素遺伝子ファミリーの全体を明らかにするために、ヒト以外にマウスおよびゼブラフィッシュの硫酸転移酵素のクローニングを行った。これらの生物種を比較することで未発見の新規ヒト硫酸転移酵素をより効率よく発見できると考えている。現在、マウスに関しては宮崎大学で行い、ゼブラフィッシュに関しては共同研究者であるテキサス大学のDr. Ming-Cheh Liuによって精力的に行われている。
結果と考察
ヒトSULT1C1に相当する遺伝子が、第2染色体上の約30kbp長の範囲内で8つのエクソンに別れて存在していることがゲノムデータベースより明かとなった。またゲノム上のエクソン7とエクソン8は、7Aと8Aまたは7Bと8B2つの異なる構造の組み合わせが、ゲノム上にタンデムに並んで存在していることが明らかとなり、スプライシングの過程でどちらの構造が選択されるかによって、C末端97残基にバリアントのある2種類の酵素として発現していると推測された。このようなスプライスバリアントはヒトSULT2B1のN端で報告されており、機能が異なることが知られている。ヒトSULT6A1はヒト由来トータルRNAの混合物を鋳型にRT-PCRにより行った。その結果、912bpのORFを完全に含むPCR産物が増幅し、303アミノ酸をコードしていることが判明した。SULT6A1のORFはpGEX-4T3ベクターのBamHIサイトにそれぞれサブクローニングし、酵素とGSTとの融合タンパク質として大腸菌で発現し、それぞれのリコンビナント酵素を調製した。酵素活性の確認は、硫酸供与体として[35S]放射活性硫酸ラベルした3'-Phoshoadenosine 5'-Phosphosulfate(活性硫酸PAPS)を用いて、基質の硫酸化反応を行った。反応後はTLCにより酵素反応によって[35S]放射活性硫酸ラベルされた基質の硫酸体を分離し、イメージアナライザーにより放射活性を酵素活性として測定した。SULT6A1はマウスにおいてヒドロキシステロイド類を硫酸化する結果がごく最近得られた。よって、ヒトに関しても同様な基質を硫酸化することが考えられる。
ヒトヒドロキシステロイド硫酸転移酵素(SULT2A1)は大腸菌発現用ベクターpGEX-2TKにサブクローニングされたものを鋳型に部位特異的変異の導入により10種のアミノ酸配列の異なる遺伝子多型(SNPs)由来のアミノ酸バリアントの調製をした。変異の確認は塩基配列の決定により行い、それぞれの硫酸転移酵素の多型由来のアミノ酸バリアントを発現するクローンを選別した。リコンビナント硫酸転移酵素はグルタチオンセファロースで精製し、酵素活性の測定及び9-ヒドロキシメチルアントラセンを変異源物質としてAmes試験による変異原試験に使用した。その結果、これら10種はすべて硫酸転移酵素活性を示した。しかしながら、M57TやK227Eにおいて反応効率を示すVmax/Kmの値が大きく低下した。特にK227Eは塩基性アミノ酸から酸性アミノ酸への変化であること、さらに酵素の活性中心に近い部位での変異であることなどから大きく反応効率が低下したと考えられた。
さらに、これらの遺伝子多型由来のアミノ酸の変異が前駆変異原物質の代謝活性化に与える影響に関して、Ames試験を改良した試験法を用いて検討した。変異原物質としては、硫酸化により代謝活性化が報告されている9-ヒドロキシメチルアントラセンを使用した。その結果、前駆変異原物質の硫酸化による代謝活性化においてもK227Eの影響がもっとも大きかった。さらに、同様な試験法に緑茶ポリフェノール類を併用することで緑茶ポリフェノール類の抗変異原作用を検討することが可能となった。
これらの研究から、発ガンリスク診断や新規の抗変異原物質の有効性を遺伝的な背景を基に評価する可能性が示された。
結論
平成15年度は、新規硫酸転移酵素のクローニングとして平成14年度から引き続きヒトSULT1C1およびヒトSULT6A1のクローニングと大腸菌におけるリコンビナント酵素の発現を行った。クローニングの結果、ヒトSULT1C1はスプライシングによりC端のエクソンを使い分け酵素機能を多様化している可能性が示された。硫酸転移酵素の分類はアミノ酸配列の相同性をもとに30%以上一致するグループをファミリーとしSULTの略称の後に発見順に数字をつけSULT1ファミリー、SULT2ファミリーのように分類した。さらにその後ろにアミノ酸配列で60%程度以上一致するグループをサブファミリーとし、発見順にAからアルファベットを使用し、最後に同じサブファミリーに分類される酵素は発見順に番号を配した。このような硫酸転移酵素の分類法に基づき、分類を行った結果、ヒトやマウスといった哺乳動物では、硫酸転移酵素は少なくともSULT1からSULT6までの6種のファミリーから構成されることが分かる。このようにヒトとマウスを比較することで、ヒトでは未だにSULT1D1やSULT3A1が発見されていないことがわかり、今後これらのヒトにおけるオルソログのクローニングが大きな課題となる。
またヒト硫酸転移酵素の遺伝子多型(SNPs)に関する研究として、ヒトヒドロキシステロイド硫酸転移酵素(SULT2A1)のアミノ酸の置換を伴った10種に関して研究を行った。現在、遺伝子多型に関しては共同研究先であるテキサス大学ヘルスセンターと分担して研究を行っている。ヒトに関しては、SULT1A1、SULT1A2、SULT1A3およびSULT1E1に関して現在研究を行っている。
今後も、引き続き新規硫酸転移酵素のクローニングを行う予定であり、硫酸転移酵素の遺伝子多型に関しては、データベースを詳細に検討し、すべての硫酸転移酵素の多型(SNPs)に関して酵素学的な諸性質を網羅的に解析する計画である。

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