組換え胎盤培養細胞を用いた新規作用を有する化合物のスクリーニングシステムの構築および核内受容体の同定

文献情報

文献番号
200300646A
報告書区分
総括
研究課題名
組換え胎盤培養細胞を用いた新規作用を有する化合物のスクリーニングシステムの構築および核内受容体の同定
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大迫 誠一郎(独立行政法人 国立環境研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、医薬品候補化合物などは膨大な数にのぼり、これらのほとんどはエストロジェン受容体(ER)等のいわゆる核内受容体との相互作用が考えられている。特にエストロジェン(E2)様あるいは抗E2様の作用を有すると考えられている化合物は、避妊や乳癌治療等を含め多岐にわたり応用性が考えられていることから、その数は多くのぼる。従来ERとのみ相互作用すると考えられていたDiethylstilbestrol (DES)は、リガンドが不明な核内受容体(オーファン受容体)であるEstrogen receptor related (ERR)に結合し、胎盤の幹細胞であるTrophoblast stem (TS)細胞の分化を変調させることが明らかにされた。これを皮切りに、従来ERと相互作用すると考えられている化合物も、あらたな核内受容体との相互作用を想定する必要性が示された。本研究ではRcho-1(rat choriocarcinoma)細胞を用いて、細胞の分化を指標に影響のある化合物を選別して、新たな化合物の同定および新規核内受容体を介した作用メカニズムを明らかにしていく。第一年次(H14年度)では、Rcho-1細胞にはERが発現していないこと、またルシフェラーゼ(Luc)を利用し細胞の分化を簡易に検出できる組換えRcho-1細胞の構築を行い、分化に影響を与える化合物の選定を行った。その結果、DES、ICI、Carbaryl、フタル酸類やPermethrinがRcho-1細胞の分化に影響を与えることが明らかとなった。本年度では、選定された化合物においてDNAマイクロアレイ法を用いて特異的に誘導される遺伝子を明らかにする。アレイ解析を通して発現変動する遺伝子をプロファイルすることにより、各化合物が、レチノイン酸受容体やDES受容体を介して作用しているのか、それとも別の核内受容体を介して作用している可能性があるのかを予測する。
研究方法
Rcho-1細胞は20%の牛胎仔血清を含むNCTC-135培地で培養した。細胞は104/100mmの細胞密度で維持し、分化を誘導する際には1 から 3.5 x 104/10mmの細胞密度になるようにまき、この日を分化後0日目(d0)と定めた。本研究で用いた化合物は、RA, Retinoic acid; DES, Diethylstilbestrol; ICI, ICI182,780; Carbaryl; Permethrinである。それぞれの化合物は、10 ?Mで曝露をおこない、d6で細胞を回収した。Total RNA分画をTrizol(Life Technologies, Gaithersburg, MD)により精製した。逆転写反応によりCy3またはCy5を取り込ませ、蛍光標識cDNAを合成し、DNAチップ(Rat 5K cDNA Microarray、日本レーザ電子㈱社製)に供した。DNAチップをGTMAS ScanⅡ(日本レーザ電子㈱社製)でスキャンを行い、Array‐Pro ANALYZER Ver4.0 (Media Cybernetics社製)もしくはGCOS(アフィメトリクス社製)で解析を行った。また、RT-PCR法により、DNAチップ解析で明らかになった遺伝子の発現の検証を行った。上記の化合物以外にもTAM, Tamoxifen; BisA, Bisphenol A; NP, Nonyl phenol; DBP, Dibutyl phthalate; BBP, Butyl benzyl phthalateをRcho-1細胞に6日間曝露を行い、同様にRNAを回収した。
結果と考察
Rcho-1細胞に曝露する化合物は、昨年度の実験結果に基づき、DMSO(対照群)、RA、DES、ICI、Carbaryl、Permethrinを用いた。Rcho-1細胞の分化開始日に、各種化合物を曝露させ、分化6日目に細胞を回収し、トータルRNA画分を精製した。対照群として化合物を溶解させたDMSOを用いた。DMSOの対照群をCy5で、化合物を曝露した検体をCy3で標識し、アレイ解析を行った。各化合物曝露により、発現量が増加している遺伝子および減少している遺伝子が確認された。例えば、Actin, gamma 2, smooth muscle, entericは、RAでは発現量が増加し
ているが、その他の化合物では発現量に変化がなかった。またRattus norvegicus purine specific Na+ nucleoside cotransporter (SPNT) mRNAやRat mRNA for CRP2 (cysteine-rich protein 2)は、他の化合物が反応していないのに対しRAのみで反応していた。RAはレチノイン酸受容体を介して反応するが、この結果は、他の化合物がレチノイン酸受容体を介していない可能性が大きいことを示唆した。各化合物における遺伝子発現のクラスタリング解析を行った。その結果、ICIとCarbarylは、類似した発現パターンを示すことが明らかとなり、DESおよびRAのパターンとは異なることが示された。Rcho-1細胞には、ERが発現していない(昨年度結果)。また DESは、オーファン受容体であるEstrogen receptor related (ERR)に結合することが明らかにされた(Tremblay et al., 2001)。以上の結果は、ICIとCarbarylによる作用は、レチノイン酸受容体やERRβ受容体を介さない可能性が高いことを示している。来年度は、新規核内受容体を明らかにする解析を行う予定である。方法として化合物を曝露したRcho-1細胞の核画分のタンパクを精製し、二次元電気泳動で展開して、各化合物で特異的に変動するタンパク質を明らかにする。本年度の結果から、ICIおよびCarbarylに特異的に増減を示すスポットのタンパク質を解析することが可能であることが明らかとなった。
結論
本研究では、RA、DES、ICI、Carbaryl、Permethrinの化合物を用いて、それぞれの化合物がRcho-1細胞に影響を与える際に、同一の核内受容体を介しているかどうかについて、DNAチップを用いて解析を行った。クラスタリング解析を行ったところ、ICIとCarbarylは、類似した発現パターンを示すことが明らかとなり、DESおよびRAのパターンとは異なることが示された。すなわち、ICIとCarbarylによる作用は、レチノイン酸受容体やERR受容体を介さない可能性が高いことが明らかとなった。

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