エストロゲンによる周生期脳インプリンティングを中心とした、個体レベルでの核内受容体シグナル検出系の確立(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300645A
報告書区分
総括
研究課題名
エストロゲンによる周生期脳インプリンティングを中心とした、個体レベルでの核内受容体シグナル検出系の確立(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
石塚 真由美(北海道大学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤田正一(北海道大学)
  • 数坂昭夫(北海道大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,780,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体は農医薬品、環境汚染物質の多くに対して、特に周生期に高い感受性を持っており、この時期の外来化学物質への曝露は不可逆的な毒性影響を引き起こすことが懸念されている。中でも内分泌撹乱化学物質としてエストロゲン作用を持つ化学物質への曝露は、周生期ステロイドホルモンによる脳インプリンティングを阻害し、正常な性分化を撹乱することが報告されている。周生期における脳インプリンティングには、アロマターゼによるテストステロン→エストラジオールの変換が不可欠である。しかし、この時期に生成された脳エストロゲンの標的因子は不明な点が多い。また、多くの医薬品・環境化学物質に関して、神経培養細胞を用いた曝露実験では、神経細胞に対する毒性影響は検出することができるが、周生期における脳インプリンティングへの影響や、シトクロムP450(CYP)などの薬物代謝酵素による生体内代謝、ホルモン受容体の発現や活性化機構の臓器別の違いを考慮した、in vivoでの環境化学物質の毒性を検出することはできない。そこで、本研究では、エストロゲン結合サイト下流にレポーター遺伝子を結合し、ゲノムに導入することで、エストロゲンによる転写活性化を個体レベルで検出することができるトランスジェニック動物を作成し、エストロゲンの周生期における生理的機能解明と共に、in vivoで医薬品・環境化学物質の毒性影響を検出する系を確立することを目的とした。また、環境化学物質の標的遺伝子群のスクリーニングや行動解析を行い、環境化学物質が周生期脳に与える影響を明らかにする。
研究方法
トランスジェニックマウス作成のために、ERE-レポーター遺伝子カセットの条件設定及び調製を行った。また、前年度は周生期脳において、アロマターゼやステロイド5α還元酵素がどのような変動を示すのかを明らかにした。本年度は、平成14年度に引き続き、3βHSD、17βHSDなどテストステロン代謝に関わる酵素群がどのような影響を受けるのかを、real-time PCRやホルモン産生パターンの測定によって明らかにした。さらに、本年度は、マイクロアレイ解析法を用いて、周生期にテストステロンに曝露したメスラットの脳において、発現レベルが変動する遺伝子群のスクリーニングを行った。生後4時間以内の新生メスラットにテストステロン0mg、 0.1mg、1mgを皮下投与し、72時間後の視床下部を採取した。視床下部より抽出したmRNAは、アフィメトリックス社のgene chip(RN-U34、約1300遺伝子)を用いてスクリーニングした。また、得られた結果について、リアルタイムRT-PCR法でその変動を確認した。
結果と考察
RE単純繰り返し配列の連結クローンにルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだカセットを作成した。現在、ラットに導入し、トランスジェニックを作成している。ステロイドホルモン代謝酵素へのテストステロンの影響に関しては、In vivoのテストステロン投与によって、新生仔ラットの視床下部では、17βHSD、アロマターゼmRNAには変動が見られなかったが、ステロイド5α還元酵素の発現は有意に減少した。また、3βHSDの発現レベルは上昇することが明らかとなった。一方、ステロイド代謝活性の高いグリア細胞由来C6細胞や、新生仔期の視床下部の初代培養細胞では、テストステロンの曝露によって、アロマターゼ、ステロイド5α還元酵素mRNAはともに発現レベルが上昇した。周生期のテストステロン・エストロゲンの標的遺伝子のスクリーニングでは、テストステロン投与によって、Bcl-x, GABA B receptor 1, 1c, 1d, 2, gb2 subunit, NMDA rece
ptor, Na+-Ca2+ exchanger NCX2, Dopamine D3 receptor, Kainate receptor 2 subunit, Vesicular GABA transporteなどの受容体群の発現レベルが減少した。また、mGluR5, Calcineurin A-beta, Glutamate-aspartate transporter, Monoamine oxidase B, L-type calcium channel alpha 2 subunit,beta 2 subunitなどについてはその発現が上昇することがわかった。本研究によって、初めて、テストステロンシャワーによるneonatal インプリンティング時の視床下部の標的遺伝子の変動プロファイルが明らかとなった。特に、GABAなどによる神経伝達調節がneonatal インプリンティングによって変動することが示された。
結論
本研究によって、周生期のテストステロンシャワーによるneonatal インプリンティング時の標的因子を同定することができた。特に、これまでに報告のあったGABA-Aに加え、GABA-Bについても、周生期のインプリンティングによってその発現が抑制されることが分かった。また、周生期におけるテストステロン曝露によって、ステロイドホルモンの生合成酵素の発現や活性が変動することが分かった。一方で、ビスフェノールAなどの環境化学物質は、周生期におけるこれらneurosteroidの合成経路についても影響を与えることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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