薬物トランスポーターの分子多様性と機能解析および副作用発現との連鎖解析

文献情報

文献番号
200300643A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物トランスポーターの分子多様性と機能解析および副作用発現との連鎖解析
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 雄一(東京大学・大学院薬学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 家入一郎(鳥取大学・医学部付属病院薬剤部)
  • 山下直秀(東京大学・医科学研究所附属病院)
  • 油谷浩幸(東京大学・国際・産学共同研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
68,551,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、医薬品の開発においては、安全性に最大限の注意が払われているものの、市販後に死亡例を含む重篤な副作用が観察される例が少なくない。また、このような重篤な副作用の発現においては、大きな個人差が存在しているが、その個人差を規定する要因のひとつとして、薬物体内動態が考えられる。これまでの研究で、薬物動態を決定する要因としては、Cytochrome P450に代表される第1相酸化反応、グルクロン酸やグルタチオンなど水溶性を増す基を付加する第2相抱合反応などに焦点があてられてきた。一方、近年我々をはじめとする多くのグループで、肝臓や腎臓といった主要なクリアランス臓器や血液脳関門といった生体のバリアーに多くの薬物トランスポーターが発現しており、生体防御・異物排泄に重要な役割を果たしていることが解明されつつある。しかしながら、多くの研究では、個々のトランスポーターにだけ焦点を当てた定性的な研究にとどまっており、in vitro実験で得られた結果が、本当にin vivo臨床においても意味を持つかどうかについて、定量的な意味では、我々の研究を除いては非常に例が少ないと思われる。また、各膜透過過程には多くのトランスポーターが発現しており、それぞれ基質特異性が広いがために、多くの基質は、複数のトランスポーターを介して輸送されていることが予想されるが、それぞれの定量的な寄与、重要性については議論されてこなかった。本研究では、これらに焦点を当てた研究を重点的に進めている。
研究方法
1) 副作用発現の原因となるトランスポーターのin vitro実験系による同定およびin vivo臨床データ解析
cerivastatin(CER)とgemfibrozil(gem)の薬物間相互作用メカニズムを解析するため、CERの3H標識体を用いて、OATP2遺伝子発現MDCKII細胞ならびにヒト凍結肝細胞による取り込み実験およびgemfibrozil(gem)およびその代謝物による肝取り込み過程の阻害、ヒト肝臓ミクロソームやCYP2C8, CYP3A4代謝酵素発現系を用いた代謝阻害実験を試みた。
②OATP2多型変異体のin vitro機能解析
4種類のOATP2遺伝子多形に関して、各発現ベクターをHEK293細胞に安定発現させ、変異体発現系を構築した。また、機能比較は、Estradiol-17b-glucuronide(E217bG)の輸送により行い、飽和性を観察した。また、Western blotにて発現量を相対的に比較し、その値で標準化することにより、単位蛋白あたりの輸送能力を見積もり比較を行った。
③OATP2, OATP8の肝取り込みにおける定量的な寄与率評価法の構築
OATP2, OATP8安定発現HEK293細胞を構築し、各種放射標識化合物の取り込みを観察した。また、ヒト凍結肝細胞を用いて、遊離細胞の状態で基質の取り込みを観察した。発現量は、抗OATP2, OATP8抗体を作成し、細胞からcrude membraneを調製しWestern blot法でバンド濃度を相対的に比較することで見積もった。
2) 副作用発現の原因となるトランスポーターに関する臨床研究
①OATP-C:①-a. 健常成人23名を対象に、OATP-C, MRP2、UGT1A1遺伝子多型の肝でのビリルビン輸送への影響を検討した。抱合型および遊離型ビリルビン値を指標とした。①-b. プラバスタチンを服用する患者(n=31)を対象に、服薬開始後15ヶ月時の血中コレステロール低下の度合いと多型との関連を評価した。
②BCRP:BCRP遺伝子型が既知の健常成人ボランティア50名を対象とし、基質薬物、4-メチルウンベリフェロン(4MU)を投与し、体内動態との関連を評価した。4MUおよび硫酸抱合体濃度(4MUS)を測定し、体内動態パラメータを算出した。
3) 細胞移植を用いた局所的投与における薬物動態解析
hPDMCから産生されるhVEGFの生物活性の比較検討を行った。次に、異種間細胞移植(Xenograft)が可能な、重度免疫不全マウスのNOD/Shi-scidマウスの片側の大腿動脈を結紮して下肢虚血モデルを作製する。hPDMCを筋肉内に注射し、移植前、移植7日後、移植14日後の血流をレーザードップラーを用いて観察し、hPDMCの細胞移植による虚血の改善度を測定した。また、NOD/Shi-scidマウスにhPDMCを移植し、1時間後、2日後、7日後のヒトGAPDH mRNAの量と、ヒトVEGF mRNAの量をリアルタイム PCR法で半定量して、VEGFの分泌期間を検討した。
4) 薬物トランスポーターの遺伝子発現多様性に関する研究
EBVを用いて不死化したリンパ球17株の発現プロファイルをCodeLinkヒト10Kアレイ(Amersham)を用いて1万遺伝子の発現プロファイルを解析した。蛍光強度の測定にはAgilent社の共焦点スキャナーを使用した。得られたシグナル値については、CV値(=標準偏差/平均値)によりばらつきを評価した。また、13名の患者末梢血全血から抽出した全RNAから合成・Biotin標識したcRNAをアレイ解析に使用した。CodeLink UniSet Human 20K I Bioarray (Amersham)を用いて2万遺伝子の発現を解析した。アレイ解析は上記と同様に行った。
結果と考察
gemfibrozilおよびその主代謝物である gem-M3, gem-gluの3物質に関して、トランスポーター並びに代謝酵素に対する阻害活性を測定したところ、gem-gluは、他の2分子に比べ、高い親和性で阻害することがわかった。さらに、cerivastatinの代謝に主にCYP2C8が関与していることが明らかとし、次に、recombinant CYPを用いた阻害実験を試みたところ、特にCYP2C8において、gem-gluは、高親和性の阻害を示した。gem-gluはfree濃度や肝臓内濃度が比較的高いと推測され、定量的解析から臨床での血中濃度上昇をこれで説明可能であると考えられた。OATP2*1a(野生型), OATP2*1b, OATP2*5およびOATP2*15の多型変異体を安定発現させたHEK293細胞を樹立した。その結果、各変異体とも膜上に発現が見られた。次に、E217bGの取り込みおよび速度論解析を試みたところ、親和性(Km値)は変異体間で差異は見られないものの、Western blot法を用いてバンド濃度で相対的な発現量を補正したVmax値が、OATP2*15変異体においてのみ、野生型の約10%と低値を示した。この結果は、昨年度の臨床研究のクリアランス低下の程度と合致するものである。OATP2, OATP8の寄与率評価法として選択的基質(estrone-3-sulfate, cholecystokinin octapeptide)をもちいる方法、Western blotで発現量を直接比較する方法の2つの方法を用いた。その結果、両方法でテスト化合物について、OATP2, OATP8の寄与を算出した結果一致が見られ、両方法の妥当性が示された。一方、臨床では、OATP2*15保有者では、血中の遊離型ビリルビン値の上昇が見られた。また、プラバスタチンのコレステロール低下作用が小さいことが示唆され、薬物の効果とトランスポーターの機能の間に関連が示された。また、BCRPの遺伝子多型のうち一部が、肝臓・胎盤の発現量に影響することが示唆される結果を得た。ヒト胎盤細胞(hPDMC)の培養上清はhUVEC (human umbilical vein endothelial cell)の増殖を刺激し、ヒト血管新生因子(hVEGF)に生物活性があることが示された。また細胞移植はマウスの虚血を改善し、real-time RT-PCRで検索したhVEGF mRNAレベルから少なくとも移植後7日間は局所でhVEGFを産生していることが明らかとなった。薬物トランスポーターの遺伝子発現量の多様性について、不死化リンパ球および末梢血由来のRNAをマイクロアレイ解析することにより検討した。その結果、ABCA1やABCB1遺伝子は発現値のCV値が大きく発現の個人差が示唆された。
結論
cerivastatinとgemfibrozilの相互作用メカニズムは、主にgemfibrozilのグルクロン酸抱合体によるOATP2を介した肝取り込み過程の阻害と、CYP2C8による代謝阻害の両方を考えることで説明可能であることが示唆される結果を得た。OATP2の遺伝子多型体のin vitro機能比較の結果、OATP2*15に関して、単位蛋白量あたりのVmax値が大幅に減少する事を見出し、これが臨床研究における肝クリアランスの減少を定量的に反映していることがわかった。肝取り込みにおけるOATP2, OATP8の寄与を分離評価する方法を見出し、モデル化合物2種(E217bG, pitavastatin)についてOATP2が主にその肝取り込みに関わる事を明らかにした。また、2種の方法を用いて検討した結果、両方の方法で共に一致する結果を得た。OATP-Cは基質となる生体物質や医薬品の肝取り込みに重要な役割を果たしている。ビリルビンに関する疾患やHMG-CoA還元酵素阻害剤に見る効果の個人差に関与すると考えられる。hPDMCは生物学的に活性のあるhVEGFを産生し、虚血動物モデルへ細胞移植すると有意に血流を改善した。
移植された細胞は少なくとも7日間はhVEGFを産生し続けた。ABCA1やABCB1遺伝子は発現値にばらつきが高く、発現量に個人差のある可能性が示唆された。

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