文献情報
文献番号
200300635A
報告書区分
総括
研究課題名
トキシコプロテオミクス:ABCトランスポーターの遺伝子発現と薬物相互作用の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
石川 智久(東京工業大学)
研究分担者(所属機関)
- 石川智久(東京工業大学)
- 油谷浩幸(東京大学)
- 中田琴子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
個々の患者における薬剤応答の差異の根幹である分子機構について評価することが必要である。このことを成し遂げる第一歩は、薬物の吸収、分布、代謝、排泄(ADME) に関与するトランスポーターと薬物代謝酵素の遺伝学的および分子生物学的研究である。近年になって、数多くの薬物トランスポーターが小腸や腎臓の上皮細胞、肝細胞、脳血管内皮細胞に発現し、薬物の輸送に関与していることが明らかになってきた。薬物トランスポーターの基質特異性とその薬物動態上の意義を定量的に解析する事は、ポストゲノム時代における合理的な創薬分子設計戦略と副作用の低下(安全性の向上)に大きく貢献するものと考えられる。
本研究プロジェクトにおいて我々は、薬物トランスポーターの観点から薬物の副作用を予測する技術を開発することに目標をおく。具体的には:(1)薬物輸送に関与するヒトABCトランスポーターの基質特異性スクリーニングを構築する。(2)既存の医薬品および化学物質に対するABCトランスポーターの基質特異性をデータベース化し、薬物相互作用の予測プログラムを開発する。(3)ヒト組織に特異的に発現するABCトランスポーターの定量的発現プロファイリングを行う。(4)ヒトゲノムデータに基づきABCトランスポーター遺伝子のプロモーター領域の解析を行い、核内受容体を含む転写制御因子を予測する。(5)転写領域の解析と発現プロファイリングに基づき、ヒト組織における薬物相互作用を予測する。(6)医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化する。
本研究プロジェクトにおいて我々は、薬物トランスポーターの観点から薬物の副作用を予測する技術を開発することに目標をおく。具体的には:(1)薬物輸送に関与するヒトABCトランスポーターの基質特異性スクリーニングを構築する。(2)既存の医薬品および化学物質に対するABCトランスポーターの基質特異性をデータベース化し、薬物相互作用の予測プログラムを開発する。(3)ヒト組織に特異的に発現するABCトランスポーターの定量的発現プロファイリングを行う。(4)ヒトゲノムデータに基づきABCトランスポーター遺伝子のプロモーター領域の解析を行い、核内受容体を含む転写制御因子を予測する。(5)転写領域の解析と発現プロファイリングに基づき、ヒト組織における薬物相互作用を予測する。(6)医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化する。
研究方法
薬物トランスポーターの基質スクリーニング(石川分担) ヒトABCトランスポーターの基質特異性を解析する高速スクリーニングシステムを開発する。ABCトランスポーター cDNAをBAC-TO-BACバキュロウイルス発現系を用いて、それぞれ昆虫細胞に発現させる。発現したSf9細胞の形質膜を用いて、基質スクリーニングを行う。またヒトゲノムデータに基づきABCトランスポーター遺伝子の5'-プロモーター領域の解析を行う。
薬物トランスポーター発現解析用マイクロアレイ(油谷分担) トランスポーター遺伝子の臓器特異的な発現プロファイルおよび薬剤投与時や種々の病態に際しての発現の変動をモニタリングする。時系列データを解析するために、新しい解析手法を考案する。アレイを用いて輸送蛋白遺伝子以外に代謝酵素などの薬物動態関連遺伝子についても解析する。
既存の医薬品および化学物質に対する基質特異性および薬物相互作用データベースの作成(中田分担) 医薬品や毒性研究の情報基盤整備のために、医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化している。それをさらに発展させて、医薬品/化学物質と体内標的の構造データ、結合親和性、細胞内信号伝達情報、SNP情報等含め、体内標的と薬物相互作用解析の基礎データを提供する。
薬物トランスポーター発現解析用マイクロアレイ(油谷分担) トランスポーター遺伝子の臓器特異的な発現プロファイルおよび薬剤投与時や種々の病態に際しての発現の変動をモニタリングする。時系列データを解析するために、新しい解析手法を考案する。アレイを用いて輸送蛋白遺伝子以外に代謝酵素などの薬物動態関連遺伝子についても解析する。
既存の医薬品および化学物質に対する基質特異性および薬物相互作用データベースの作成(中田分担) 医薬品や毒性研究の情報基盤整備のために、医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化している。それをさらに発展させて、医薬品/化学物質と体内標的の構造データ、結合親和性、細胞内信号伝達情報、SNP情報等含め、体内標的と薬物相互作用解析の基礎データを提供する。
結果と考察
平成15年度、研究代表(石川)グループは、ヒトABCトランスポーターの基質特異性解析と薬物相互作用検出の高速スクリーニング装置を開発した。96wellプレート高速スクリーニング系を用いて、ABCB1 (P-糖蛋白質/MDR1)の基質特異性の構造活性相関を解析した。そのデータを基に、Chemical Fragmentation Codesを用いた構造活性相関の定量的解析をおこなった。一方、ヒトABCG2 cDNAをPCRによりクローニングし、pFastBacベクターに組み込んだ。次いでそのベクターから発現用バキュロウイルスを作成し、Sf9昆虫細胞にウイルスを感染させてABCG2タンパク質を発現させた。3Hラベルした抗癌剤メソトレキセートの輸送能力を指標にして、ABCG2における薬物相互作用を調べた。
さらに、公開されているゲノム情報とTRANSFACプログラムを用いて、ヒトABCトランスポーター49種類の全遺伝子について、転写開始点より5kb上流のプロモーター解析を行い、その結果をウェブ( http:// www. humanABC. bio. titech. ac. jp )で一般公開した。
一方、研究分担者の油谷グループは、薬物投与後の時系列データの解析アルゴリズムを開発し、ラット肝臓における遺伝子発現プロファイル解析に応用した。時系列データを解析するために、決定木を用いた解析手法を考案した。
アセトアミノフェン0.3g/kg、2.0g/kg経口投与を行ったラットおよびControlラットを投与48時間後に剖検し、摘出した肝臓よりRNAを抽出し、肝組織における遺伝子発現変動を検討した。その結果、0.3g/kgで発現低下と判断されたのはAbcg5、2.0g/kgで発現低下と判断されたのはAbcb11、Abcc2、Abcc6の3遺伝子であり、Abcc3については増加していた。
研究分担者の中田グループは、医薬品や毒性研究の情報基盤整備のために、医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化した。そして試験的にhttp:// moldb. nihs. go. jp/tgdb にweb化した。また、核内受容体LXRの標的遺伝子を探索した結果、ABCトランスポーター6個とCYP7個の遺伝子、およびそのLXR応答配列の位置をin silicoで同定できた。
ヒトABCトランスポーターの基質特異性解析と薬物相互作用のハイスループット化をめざし、昆虫細胞発現系と96ウェルプレートを用いた高速スクリーニング装置を2種類開発した(ABCB1のATPase活性測定装置およびABCG2の形質膜ベシクル輸送活性測定装置)。これらの装置により、スクリーニングが10倍以上スピードアップした。そして、ABCB1のATPase活性測定データを基に、Chemical Fragmentation Codesを用いた構造活性相関の定量的解析をおこなった。この解析方法はABCB1 (P-糖蛋白質)以外のトランスポーターにも応用できるばかりでなく、薬物相互作用をおこす医薬品や化合物を予測することが出来る。さらに、ヒトABCトランスポーター49種類の全遺伝子について、転写開始点より5kb上流のプロモーター解析を行い、その結果をウェブ( http://www.humanABC.bio.titech.ac.jp )で一般公開した。今後は、以下にも述べるように、核内受容体の結合領域もin silico解析して並記することが重要であろうと考える。
DNAマイクロアレイの時系列データの解析に、決定木を用いたデータマイニングは応用できることが示された。今後は発現値の時系列データどうしの比較が出来るように手法を改良する必要がある。今後の最優先課題は、データの時系列としての特性をそのまま使った解析手法の開発である。これは、再帰的にノードを分割して行く際、どのような分類手法を使うかという問題になる。機械学習の分野では、様々な分類手法が提案されている。中でもsupport vector machine(SVM)は遺伝子発現情報の解析にも広く用いられている。決定木を生成する際、SVMを使ってノードの分割を定義する方法を次年度において開発してゆく予定である。
標的データベース中の医薬品については、現在日本の医薬品(JAN)のみ含めたが、今後欧米の医薬品についても含めていく予定である。標的については対応付けが未完で更新中である。酵素やトランスポーターの3次元構造についての実験結果が増加することを期待している。標的遺伝子のin sillico 探索を行い、LXRについて新たにABCトランスポーター6個、CYP7個の標的遺伝子とその応答配列の位置を同定したが、実際に機能するか否かは実験により確かめる必要がある。既知応答配列をLXR?とLXR?にわけると高い精度のマルコフ連鎖モデルを構築することができるが、検索に十分なモデルを構築するためには既知応答配列を多数収集する必要がある。また応答配列の下流についてはイントロン内を解析する必要があるなどの問題を含んでいる。今後さらに詳細を検討していきたい。
さらに、公開されているゲノム情報とTRANSFACプログラムを用いて、ヒトABCトランスポーター49種類の全遺伝子について、転写開始点より5kb上流のプロモーター解析を行い、その結果をウェブ( http:// www. humanABC. bio. titech. ac. jp )で一般公開した。
一方、研究分担者の油谷グループは、薬物投与後の時系列データの解析アルゴリズムを開発し、ラット肝臓における遺伝子発現プロファイル解析に応用した。時系列データを解析するために、決定木を用いた解析手法を考案した。
アセトアミノフェン0.3g/kg、2.0g/kg経口投与を行ったラットおよびControlラットを投与48時間後に剖検し、摘出した肝臓よりRNAを抽出し、肝組織における遺伝子発現変動を検討した。その結果、0.3g/kgで発現低下と判断されたのはAbcg5、2.0g/kgで発現低下と判断されたのはAbcb11、Abcc2、Abcc6の3遺伝子であり、Abcc3については増加していた。
研究分担者の中田グループは、医薬品や毒性研究の情報基盤整備のために、医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化した。そして試験的にhttp:// moldb. nihs. go. jp/tgdb にweb化した。また、核内受容体LXRの標的遺伝子を探索した結果、ABCトランスポーター6個とCYP7個の遺伝子、およびそのLXR応答配列の位置をin silicoで同定できた。
ヒトABCトランスポーターの基質特異性解析と薬物相互作用のハイスループット化をめざし、昆虫細胞発現系と96ウェルプレートを用いた高速スクリーニング装置を2種類開発した(ABCB1のATPase活性測定装置およびABCG2の形質膜ベシクル輸送活性測定装置)。これらの装置により、スクリーニングが10倍以上スピードアップした。そして、ABCB1のATPase活性測定データを基に、Chemical Fragmentation Codesを用いた構造活性相関の定量的解析をおこなった。この解析方法はABCB1 (P-糖蛋白質)以外のトランスポーターにも応用できるばかりでなく、薬物相互作用をおこす医薬品や化合物を予測することが出来る。さらに、ヒトABCトランスポーター49種類の全遺伝子について、転写開始点より5kb上流のプロモーター解析を行い、その結果をウェブ( http://www.humanABC.bio.titech.ac.jp )で一般公開した。今後は、以下にも述べるように、核内受容体の結合領域もin silico解析して並記することが重要であろうと考える。
DNAマイクロアレイの時系列データの解析に、決定木を用いたデータマイニングは応用できることが示された。今後は発現値の時系列データどうしの比較が出来るように手法を改良する必要がある。今後の最優先課題は、データの時系列としての特性をそのまま使った解析手法の開発である。これは、再帰的にノードを分割して行く際、どのような分類手法を使うかという問題になる。機械学習の分野では、様々な分類手法が提案されている。中でもsupport vector machine(SVM)は遺伝子発現情報の解析にも広く用いられている。決定木を生成する際、SVMを使ってノードの分割を定義する方法を次年度において開発してゆく予定である。
標的データベース中の医薬品については、現在日本の医薬品(JAN)のみ含めたが、今後欧米の医薬品についても含めていく予定である。標的については対応付けが未完で更新中である。酵素やトランスポーターの3次元構造についての実験結果が増加することを期待している。標的遺伝子のin sillico 探索を行い、LXRについて新たにABCトランスポーター6個、CYP7個の標的遺伝子とその応答配列の位置を同定したが、実際に機能するか否かは実験により確かめる必要がある。既知応答配列をLXR?とLXR?にわけると高い精度のマルコフ連鎖モデルを構築することができるが、検索に十分なモデルを構築するためには既知応答配列を多数収集する必要がある。また応答配列の下流についてはイントロン内を解析する必要があるなどの問題を含んでいる。今後さらに詳細を検討していきたい。
結論
本研究プロジェクトにおいて、薬物トランスポーターの観点から薬物の副作用を予測する技術の開発は着実に進んでいる。具体的には次の通りである。薬物輸送に関与するヒトABCトランスポーターの基質特異性スクリーニングが構築され、Chemical Fragmentation Codesを用いた構造活性相関の定量的解析が可能になった。ABCトランスポーターの発現プロファイリングを時系列解析する方法も開発された。さらに、ヒトゲノムデータに基づきABCトランスポーター遺伝子のプロモーター領域の解析を行い、核内受容体LXRを含む転写制御因子を予測することが可能になった。そして、医薬品や内分泌かく乱化学物質等の体内標的として酵素やトランスポーターに関する種々のデータを収集整理してデータベース化し、webで公開した。来年度は、これまで研究分担者が構築したデータベースを相互にリンクし、トキシコゲノミクスにおけるヒトABCトランスポーターと医薬品との相互作用を総合的に評価できるようにする予定である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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