微細加工技術(FIB)を応用した細胞配列化チップの創製(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300633A
報告書区分
総括
研究課題名
微細加工技術(FIB)を応用した細胞配列化チップの創製(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松村 一成(芝浦工業大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膜タンパク質のリガンド探索や機能解明の研究は、創薬を始め産業応用上極めて重要な分野である。その研究分野で必要とされる要素技術の一つである、ターゲットとなる膜タンパク質をもつ特定の細胞やウイルスを固相上に固定化するような技術は、すでに様々な展開がはかられている。すなわち、膜貫通型分子や細胞接着性リガンド、特異的リガンド、金-タンパク接着、His-tag/Ni錯体など、様々な結合因子をモチーフとした細胞固定化技術が開発されている。しかし、これら材料平面に強固な結合因子を固定化したものでは細胞の形態変化や、対象となる膜タンパクの失活を伴うため、より高度な細胞固定化技術が求められている。本研究では、本研究は、加工形状や基盤材料の自由度の高いFIB(集束イオンビーム)による微細加工と化学的表面処理を組み合わせることで、従来にない機能を持つ細胞・ウイルス配列チップの創製技術の獲得を目的とする。
研究方法
本研究で行うウイルス・細胞固定化材料の構築法は、基盤材料に対してFIB加工と化学修飾を組み合わせて適用するものである。そこで現段階では固定化対象としてリポソームを用い、i) FIB技術を用いたリポソーム吸着場の創製とii)固定化に適した化学修飾モチーフの探索の2つに分けて研究を行っている。i)においては微細加工、微細領域の化学修飾、リポソームの吸着などの各段階の結果を蛍光顕微鏡、プローブ型顕微鏡などで評価した。ii)においてはリポソームを細胞・ウイルスの模倣体として用い、その吸着挙動の評価を蛍光分光光度計、蛍光自動偏光分析装置および水晶発振子マイクロバランス(QCM)センサーで分析することで行った。
結果と考察
本年度の研究結果および考察の概要は次の通りである。
a) FIB加工と化学修飾による膜成分選択的なリポソーム吸着場の創製
化学修飾や導電性付与を施した基盤材料にFIB加工装置にて加工し、100nm~5μmの各種大きさ(深さ方向2μm)の方形細孔を配列的に生成した。その後細孔部分にポリリシンをカップリングさせてリポソーム吸着能を付与した。ホスファチジルコリン/ホスファチジルセリンを組成とした蛍光修飾リポソームが効率的に吸着されていることが観察され、また他の脂質組成のリポソームに対して選択能があることが確認された。このことから、本法において立体形状と化学的処理を組み合わせることで、高効率性と高選択性を兼ね備えたバイオコロイド吸着場を形成させることが可能であることが示された。また、QCMセンサーチップ上に高分子膜を形成させた後にFIB加工を施したバイオセンサーの試作を行った。
b) 固相結合ペプチドのリポソーム吸着能の評価
細胞・ウイルス固定化分子の機能評価を目的として、合成オリゴペプチドの細胞膜との親和性を検討した。具体的には固相結合ペプチドに対するリポソーム吸着量、ペプチドのリポソーム膜内運動、ペプチド存在下での膜内蛍光脂質の運動性を計測しアミノ酸配列の依存性を調べた。その結果、固定化分子としてのオリゴペプチドには膜貫通性と静電的親和性の両方が必要であることが示された。また、各ペプチドが持つ膜貫通性と静電的親和性の強弱によって、リポソーム吸着量の粒径依存性が特徴的に変化することが明らかになった。
c) カチオン性脂質リポソームの凝集・融合現象の追跡
カチオン性脂質の自己組織化膜を細孔表面の化学修飾モチーフとして利用することを目的として、リポソームの凝集・融合反応を蛍光修飾リポソームのFRETや蛍光異方性で追跡した。オリゴヒスチジンのリポソーム融合現象に対する加速効果のpH依存性などから、吸着場として必要な短鎖ペプチドの性質を知見として得た。
結論
高分子材料の表面処理とFIBによる微細加工を組み合わせることで、高効率性と高選択性を兼ね備えたバイオコロイド吸着場を形成させることが可能であることが示された。また、QCMセンサーチップ上にリポソームの配列的吸着場を生成させたバイオセンサーの試作を行なった。さらに、ターゲットのリポソームの粒径に応じた最適な固定化分子のアミノ酸配列を評価した。以上より、新規バイオセンサーチップの創製に必要な基盤的知見を得ることができた。

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