化学修飾によるプラスミドDNAのナノ粒子化とDDS(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300632A
報告書区分
総括
研究課題名
化学修飾によるプラスミドDNAのナノ粒子化とDDS(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
西川 元也(京都大学大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プラスミドDNA(pDNA)は、in vivo遺伝子治療を目的とした検討において汎用されるがそのサイズならびに強い負電荷のために標的細胞内への取り込みなどが制限され、十分な遺伝子発現が得られないことが多い。カチオン性リポソームまたはカチオン性高分子を用いた複合体化は、pDNAの凝集を可能にすると同時に全体として正電荷を付与することで細胞との相互作用を促進し、in vitroでの遺伝子導入を大幅に改善可能である。しかしながら得られる凝集体は巨大であり、in vivoでの精密な体内動態制御および標的細胞内へのデリバリーが困難な場合が多い。その一因として、複数個のpDNAが一粒子を形成していることが考えられ、単分子pDNAからなる複合体形成がpDNAのナノ粒子化には重要と考える。本研究では、直接化学修飾によるpDNAのナノ粒子化を目指す。また、官能基を導入したpDNAは、ナノ粒子化だけでなくpDNAの放射標識体を合成するのにも適していると考えられる。さらに、抗癌剤の癌組織へのデリバリーにおいてもナノ粒子が有望視されており、またpDNAはアドリアマイシンなど各種抗癌剤に対し結合親和性を有することからナノ粒子化pDNAは抗癌剤キャリアとしても期待される。癌へのターゲティングを行う上では全身動態の制御が重要であることから、pDNAに直接ポリエチレングリコール(PEG)などのポリマーを結合することで血清成分との相互作用を回避すると共にカチオン性化合物の添加によりナノ粒子化を促進することで癌組織への抗癌剤デリバリー型pDNAナノ粒子の開発が可能と考える。pDNAにはCpGモチーフと呼ばれる免疫賦活化配列が存在するため、抗癌剤のターゲティングにおいては不活性なキャリア分子ではなく、抗癌剤による殺細胞効果との相乗効果も期待される。
研究方法
(1)pDNAのへの易反応性アミノ基の導入:モデルpDNAとしてルシフェラーゼをコードしたpDNAを用いた。暗室条件下、4-[p-azidosalicylamido]butylamine(ASBA)をpDNAと混合し、長波長(365 nm)の紫外線を照射することでASBAをpDNAに結合した。pDNAへのASBAの結合は、ASBA由来のアミノ基の存在を蛍光色素FITCとの反応により評価した。(2)pDNAのPEG修飾:得られたASBA-pDNAに対し、アミノ基反応型PEG誘導体である2,4-bis(O-methoxypolyethylene glycol)-6-chloro-s-triazine(平均分子量10,000)を反応させることでPEG修飾pDNA(PEG-pDNA)を得た。アガロースゲル電気泳動により、pDNAの構造に対するPEG修飾の影響を評価した。(3)PEI複合体の調製と粒子サイズの測定:カチオン性非ウイルスベクターとして、平均分子量約10,000の分岐型PEIを選択した。pDNAまたはPEG-pDNAとPEIを重量比1:10で混合することにより、pDNA/PEIおよびPEG-pDNA/PEIをそれぞれ調製した。各複合体の粒子サイズは動的光散乱光度法により測定した。
結果と考察
(1)pDNAのへの易反応性アミノ基の導入:前年度の検討において、ASBAのアミノ基にジエチレントリアミン四酢酸(DTPA)無水物を結合させた化合物を、紫外線照射することでpDNAへのDTPAの導入に成功している。得られたDTPA-pDNAに対して、遊離DTPA共存下競合的放射標識を行うことで、pDNA一分子あたりのDTPA結合数を算出した結果、pDNA100μgに対してASBA量を250、500、1000と変化させることによりそれぞれ2.3、4.1、および15.8個のDTPAが結合したpDNAが得られた。それぞれの修飾率のDTPA結合pDNAを用いて、HepG2およびCOS7細胞、あるいはマウス骨格筋への遺伝子導入を行ったところ、DTPA結合数が2~4個の修飾pDNAは、未修飾pDNAの場合と比較して90%以上の遺伝子発現効率を示した。最も修飾数の多い誘導体においても40~55%であり、化学修飾による遺伝子
発現活性への影響は極めて低いことが示された。そこで、同様の合成条件下、紫外線照射によりASBAをpDNAに結合することでASBA-pDNAを得た。pDNAおよびASBA-pDNAにFITCを反応させたところ、ASBA-pDNAでのみ強い蛍光が観察され、pDNAへのASBAの結合が確認された。(2)pDNAのPEG修飾:ASBA-pDNAに対し、アミノ基反応型活性化PEGを反応させ、PEG-pDNAを得た。PEG-pDNAをアガロースゲルで電気泳動したところ、泳動パターンに顕著な変化は認められず、pDNAの構造はPEG修飾のあともほぼ維持されていることが示唆された。(3)PEI複合体の調製と粒子サイズの測定:カチオン性非ウイルスベクターとして、平均分子量約10,000の分岐型PEIを選択し、pDNAまたはPEG-pDNAとPEIを重量比1:10(DNA:PEI)で混合することにより、pDNA/PEIおよびPEG-pDNA/PEIを得た。各複合体の粒子サイズについて動的光散乱光度法により測定したところ、pDNA/PEI複合体の平均粒子サイズが80nm以上であったのに対し、PEG-pDNA/PEI複合体では約50nmとサイズの縮小化に成功した。これは、pDNAに導入されたPEG分子が、PEIとpDNAの静電的相互作用を適度に阻害することで、PEIを介するpDNAの凝集が抑制されたものと考える。今後、開発したナノ粒子化pDNAを用いた遺伝子デリバリー、抗癌剤デリバリーについて検討を進める予定である。
結論
pDNAの構造および遺伝子発現活性を大きく損なうことなく、化学修飾によりpDNAへの官能基の効率的な導入を可能にした。また、PEG修飾を施すことにより、PEIと混合したときに得られる複合体の粒子径を縮小することに成功した。本研究の結果開発されたナノ粒子、PEG-pDNA/PEIを用いることで遺伝子デリバリーの改善、さらには抗癌剤DDSが実現可能になるものと考える。

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