極細ファイバー関節鏡とその付属機器の開発に関する研究  

文献情報

文献番号
200300630A
報告書区分
総括
研究課題名
極細ファイバー関節鏡とその付属機器の開発に関する研究  
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 陽一(大阪市立大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節鏡検査及び関節鏡視下手術は日常よく行われている検査方法あるいは手術方法である。最も頻繁に行われている関節は膝関節であるが、最近では肩関節、肘関節、足関節、手関節等にその範囲は拡大されつつある。また、場所により若干異なるが、一般的に、関節鏡には約3から4mm径の硬性鏡が必要である。原則として、関節鏡はあくまで一方向刺入のみであり、関節内での鏡の動きに関して、多くの制限を有する。さらに、解剖学的構造によって、一方向のみの鏡視しか出来ない場合があり、関節内構造物の位置関係から死角になる部分もあり得る。これらの改善のためには、鏡の先端が多方向を向くことが可能であったり、より細い径で深部までの進入が可能であったりすると、現在の鏡視像よりも改善が期待でき、より低侵襲で十分な病態把握が可能になると思われる。一方、関節鏡視下手術の際には、関節鏡刺入とは別の場所よりポータルを作成し、組織切除用あるいは組織縫合用の器具を関節内に挿入することによって、鏡視下手術が可能になる。これらの一連の操作上で煩雑であることは、鏡自体には操作用の器具がついていない点である。現在の技術では鏡自体に約3から4mm径必要であり、鏡に手術操作用の器具を付加させると、鏡の径がより増大するため、手術侵襲と関節内での鏡の動きの自由度の両方においてマイナスである。つまり、鏡の径を小さくすることが必要不可欠である。そこで、本研究においては、関節鏡の径を極限まで細くすることの挑戦と、鏡視下手術に必要な器具を関節鏡に付加させて、より安全な関節鏡視下低侵襲手術方法の確立を目的とする。現在使用されている内視鏡はグラスファイバーが用いられているため、極細ファイバー関節鏡の開発が必須であろうと考えている。整形外科疾患の中で、変型性関節症を中心とした関節疾患は大多数をしめている。極細ファイバー関節鏡の開発が可能になれば、それらの治療に際して、低侵襲での正確な鏡視下手術が可能になり、患者にとってより安全、安心な医療技術の提供を図ることが可能になり、さらには、入院を必要としない外来手術によって、医療費の軽減にもつながる。
研究方法
日本は内視鏡の分野では独自の発展をし、技術的にもすぐれた製品を開発しており、特にグラスファイバーの進歩は著しい。今回、外科領域や耳鼻科領域において広く使用されているグラスファイバー内視鏡に対して、<Ⅰ>整形外科領域においての応用の可能性の有無の検討、<ⅠⅠ>改良項目の抽出と改良方法の検討を行い、ついで、<III>オリジナルファイバー関節鏡の開発を行った。実際の研究実施においては、(1)現在のグラスファイバー内視鏡の使用の可能性の検討、(2)グラスファイバー内視鏡の耐水性の獲得、(3)グラスファイバー内視鏡の耐圧性、耐久性の獲得、(4)関節内での実際の鏡視と可動性の確認、(5)鏡視画像の評価の順に行った。本研究計画の最初に、耳鼻科領域において広く使用されているグラスファイバー内視鏡に関する、基本的な情報収集を行った。最も情報交換が容易な手段として、当大学病院の耳鼻科において、実際に臨床使用されている機器の特徴、サイズ、利便性およびそれらの作成機器メーカーの特定を行った。現在、硬性関節鏡で最も普及しているサイズは4mmの30°斜視鏡である。鏡は基本的には外筒により保護されている。その外筒の中に、外科及び耳鼻科領域で使用中のグラスファイバー内視鏡及び、開発機器であるオリジナルファイバー関節鏡を挿入して、動物実験(羊使用)において、実際に関節鏡視を行い、実際の鏡視可能性及び内視鏡の操作性等を判断した。関節鏡手術中に、鏡視画像をパ
ーソナルコンピューターに取り込み記録し、鏡視写真もあわせて記録した。これらは、ファイバー関節鏡と従来の硬性関節鏡の両方で行い、両者の比較検討を行った。画像検討事項としては、静止画像の鮮明度、動画画像の鮮明度と画像の振れの有無を中心に行った。
(倫理面への配慮)研究過程で用いる動物種は羊である。動物愛護の面で、全身麻酔下で、疼痛の無い状況下で、清潔操作にて、極細ファイバー関節鏡を用いた関節鏡視下手術を行った。術後の抗生物質投与は実際の臨床例と同じく、術後3日間の点滴静注を行い、感染症の防止に努めた。
結果と考察
(結果)当大学病院耳鼻科医師に信頼性の高い内視鏡は、ペンタックス社製であったため、同社の内視鏡の使用可能性を検討することにした。最初に検討した内視鏡は、鼻咽喉ファイバースコープ FNL-7RP3 (有効長300mm 直径2.4mm アングル角度上下130度)であった。関節腔内の鏡視はかろうじて可能であったが、画像鮮明度は乏しく、既存の硬性関節鏡に大きく劣っていた。しかし、グラスファイバー内視鏡の耐水性は十分と判断出来た。そこで、ファイバー内視鏡の直径をやや大きくして、臨床使用上で許容可能な画像鮮明度が得られるかを判断するために、ビデオ鼻咽喉スコープ VNL-1130 (有効長300mm 直径3.7mm アングル角度上下130度)を次ぎに検討した。画像鮮明度は若干硬性関節鏡に劣るが、臨床使用上では、何とか許容範囲内と判断出来た。しかし、アングル角度130°を得るために約3cmのアングル長を必要とする事と、有効長が300mmと必要以上に長い事は、操作を困難にさせている要因と判断できた。そこで、有効長の短縮とアングル角度を低下させたアングル付鼻腔鏡 VNL-1130R (有効長 150mm 直径3.7mm アングル角度上下90度)を次ぎに検討した。画像鮮明度は許容範囲であり、十分な視野確保も得られた。しかし、有効長等の低下による操作性の向上はあるが、前2機種と同様に、鏡視の方向が正確に把握出来ず、動画画像評価において、明らかに画像の振れを大きく認めた。さらに、本機種の検討中に、アングル基部が関節軟骨間に挟み込まれて損傷を受けた。以上の結果から、硬性鏡外筒併用下で、有効長150mm、直径3.7mmアングル角度90°の既存ファイバー内視鏡の使用は可能であった。また。耐水性は良好であったが、耐圧性に問題を残した。さらに、硬性鏡外筒内でグラスファイバー内視鏡が回旋する事と、外筒外部の内視鏡長が不確定である事で、制御性に問題があった。最後に、現段階では、外筒除去は困難と判断できた。そこで、オリジナルファイバー関節鏡の開発における改善項目として、回旋制御目的のロック機構を完成する事。ついで、マーカー刻印によって、内視鏡長調節を可能にする事。耐圧性、耐久性の向上目的には、硬性部分を含む事を基本に開発を進めた。オリジナルファイバー関節鏡EA-Y1170の開発を、スミス&ネフュー社とペンタックス社の協力の下に行った。直径3.7mmで、視野角度120°、観察深達度2?30mm、アングル角度90度、硬性部長200mm、刺入部長調節目的に第二彎曲部30mmの追加を基本とした。さらに、EA-Y1170には、外筒との間のロック機構と、内視鏡長調節のためのマーカー刻印を追加した。(図1)
図1
その結果、本開発機器では、関節鏡操作時に外筒からの還流液の漏出を防ぎ、かつ、関節内に挿入されてアングル角度を自由に変更できる部分の長さ調節が、十分に可能であることが確認できた。オリジナルファイバー関節鏡における実際の関節鏡画像では、良好な解像度が得られ、関節内の十分な評価が可能であった。また、マーカー刻印により内視鏡長調節は円滑に行えた。さらに、アングル角度を関節内にて様々に変化させる事が可能であり、実際、硬性鏡では死角となる、関節包断裂部深部までの鏡視が可能であった。
(考察)今回検討した耳鼻科用ファイバースコープ全機種において、鏡視の方向が正確に把握出来なかったのは、ファイバー内視鏡自体が硬性鏡の外筒内を容易に回転してしまうためと考えられた。そして、動画画像評価における、明らかな画像の振れの原因は、ファイバー内視鏡自体が関節内の灌流液の影響を受けて、微少振動を起こすためと推測できた。この問題の解決策として、外筒とファイバー内視鏡の間に、ロック機構をつける必要があると判断出来、そのロック機構の完成により、軟性鏡の鏡視の方向が正確に把握出来る事と、軟性鏡の微少振動を低下させる事が可能であった。さらに、外筒外部の内視鏡長が不確定であり、制御性にも問題があったが、マーカー刻印により内視鏡長調節が円滑に行える様になった。開発したオリジナルファイバー関節鏡に関して、画像鮮明度、アングル角度、視野角度、観察深度、グリップ形状、送水流量、彎曲部分の長さ等に関して、臨床使用が十分に可能と判断できた。しかし、オリジナルファイバー内視鏡の耐久性と耐圧性には依然として若干の問題があり、関節内での骨軟骨組織との接触で、損傷をうける可能性があった。そこで、次年度は、オリジナルファイバー内視鏡の耐圧性のさらなる改善、画像鮮明度の維持と極細化への挑戦、関節鏡付加機能の検討を予定している。
結論
研究の結果、オリジナルファイバー関節鏡の一応の完成が得られた。本医療機器は、従来の硬性鏡とは異なり、関節内で、その先端部分を自由に動かす事が可能であり、鏡視の範囲が格段に広い。視野角度が120度であり、アングル角度が90度であることから、最大300度までの範囲を鏡視することが可能である。これは、従来の硬性鏡の視野範囲とは雲泥の差であり、日常臨床において、その利用価値は高いと思われる。しかし、現在の開発機器でも、その耐圧性に若干の問題が残っている。臨床使用中に、破損等を生じると、関節内に異物の残存を引き起こす可能性が危惧される。そこで、オリジナルファイバー関節鏡の、さらなる耐圧性の改善と、付加出来る機能の検討を今後予定している。以上の諸問題を解決し、機能改善が得られれば、極細ファイバー関節鏡の開発において、大きな進歩となり、臨床使用がより現実的になると思われる。整形外科疾患の中で、変型性関節症を中心とした関節疾患は大多数をしめている。極細ファイバー関節鏡の開発が可能になれば、それらの治療に際して、低侵襲での正確な鏡視下手術が可能になり、患者にとってより安全、安心な医療技術の提供を図ることが可能になり、さらには、入院を必要としない外来手術によって、医療費軽減にもつながると期待出来る。

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