細胞機能・組織修復・再生のナノ・マニピュレーション:生体機能材料のナノ設計・ナノ加工技術および医療応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300629A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞機能・組織修復・再生のナノ・マニピュレーション:生体機能材料のナノ設計・ナノ加工技術および医療応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松田 武久(九州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下川宏明(九州大学)
  • 片山佳樹(九州大学)
  • 新名主輝男(九州大学)
  • 木戸秋悟(九州大学)
  • 新海征治(九州大学)
  • 高原淳(九州大学)
  • 高松洋(九州大学)
  • 岩本幸英(九州大学)
  • 田中雅夫(九州大学)
  • 森田茂樹(九州大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
77,605,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
革新的な設計概念・精密制御による分子設計、革新的加工技術によって作製した人工材料による生体組織の反応性の制御、および細胞内シグナルに応答して細胞機能を制御する生体機能材料のナノカプセル・ナノ超分子構造体による組織修復・再構築技術は、新しい高品位の医療を近未来に提供するものと大いに期待される。このためには、ナノレベルでの材料の組成・構造およびこれらが集合した超分子構造体であるメゾスコピックからナノレベルでの形状を制御できる超微細加工技術および機能付与技術の開発、これらを統合したデバイス化および医療システム化が重要と考える。本研究の目的は、具体的には1)従来から独自に開発してきた精密合成技術によって、ナノ組成・ナノ構造を制御し、細胞の接着・非接着および生分解性を高精度で制御した機能的生体材料(人工骨格、人工細胞外マトリックス、液状生分解性材料)の開発、2)新しく開発しているナノ加工技術(二光子光造形技術、高電圧紡糸技術)による超分子構造化と形状制御、3)全く新しい概念による細胞機能を制御するナノカプセル(特定の細胞内シグナルに応答して活性を制御あるいは増大あるいは遺伝子発現させる)、および精密立体構造化した多糖・核酸の共らせん複合体による遺伝子導入、4)これらをシステム化した新しい医療技術の開発である。本研究によって、病的細胞のみに作用して、多様な細胞機能を多面的に制御することによって組織修復(動脈硬化・癌)、および新しい加工技術と材料による三次元組織体形成による再生医療が可能になる。これによって国内外に例をみない、全く新規で高効率・高精度・高品位の医療を提供できる。また、本技術の産業への応用および製品化による産業化活性化を促進できると大いに期待できる。
研究方法
研究方法、研究結果および考察=(1)ナノレベルでの細胞外マトリックス・人工骨格設計:研究代表者は、国内外に先駆けて多様な光反応性バイオマテリアル技術の開発と表面生体適合化技術および感温性および感光性人工細胞外マトリックスの分子設計とナノスケールの超分子構造化を行っている。今年度は、既に開発している液状生分解性プレポリマーのsurface erosion機構による生分解性制御と高速光硬化を可能にする分子パラメータを設定し(新名主・松田)、新しい液状生分解性高分子の開発と光造形技術による三次元微細立体マイクロ構造化を行った(松田・新名主)。また、アミノ酸由来のジイソシアナートと生分解性ポリエステルおよび生体由来のジアミンあるいはジオールよりセグメント化ポリウレタンおよびセグメント化ポリウレタンウレアを調製した(高原)。(2)超微細ナノ加工技術:自作した高電圧紡糸装置により、生体高分子、合成高分子の超微細紡糸(数十~数百ナノメートル径)およびそのマイクロデバイス化構造(メッシュ・チューヴ)の構築技術を完成させた(木戸秋・高原)。また、二光子光造形技術を改良して三次元立体構造体を上記の液状光反応性材料によって作製した。以上の機能材料を組み合わせて作製した筒状ナノ・マイクロメッシュの人工血管への応用(森田)では動物実験にて検証しつつある。特に対象となる臓器が常時さらされている生体力学場でのストレスに感応するmechano-active人工骨格を開発しつつある。(3)ナノカプセルの創製および多糖・核酸の共らせん複合体の創製:細胞内伝達系の異常シグ
ナルを発生している細胞を感知して、これらの病的細胞にのみ選択的に薬剤・遺伝子を送達するナノカプセルを作製した。具体的には、プロテインキナーゼ・Rho-kinaseの活性が亢進している細胞を感知するナノカプセルのプロトタイプが得られた。内皮細胞剥離部位を感知する機能化造影剤の開発(片山・下川)、抗癌剤含有ナノカプセルによる動脈硬化病変形成の予防・治療(下川・片山)、差分接着能マトリックスの概念提出と実用化(血管前駆細胞の選別・純化技術の開発とハイブリッド内膜の内張技術)(松田・下川)を行った。シゾフィランが一本鎖から天然構造である3本鎖に復元する過程で核酸を取り込み、新規な多糖-核酸複合体を与えることを利用して、シゾフィランをアンチセンス核酸のキャリアーとして用いた遺伝子導入システムの確立を行った(新海)。(4)医療への応用:再生軟骨用人工細胞外マトリックスの開発およびin vivo での機能評価(岩本)、細胞を担体としたタンパク質輸送システムの開発と膵癌増殖抑制への適用(田中)、新しく開発したフッ素化アルキルジイソシアネートを基本骨格成分とする液状ウレタンポリマーによる組織接着剤の、心血管外科領域での止血剤への応用(森田)等の各医療応用について検討を進めた。
結果と考察
結論
今年度は、昨年度までに確立してきた可視光照射による硬化と生分解性の表面制御(Surface Erosion)のできる液状光反応性生体適合材料、マイクロ・レベルの光造形技術および、より超微細な二光子光造形技術、高電圧紡糸(Electro-spinning)を用いる人工細胞外マトリックスのナノ・マイクロfiberの作製等の各技術を応用して、それらを積層したナノ・マイクロmeshおよび三次元化によるマイクロ筒状構造体形成、再生軟骨用人工細胞外マトリックスの開発を行った。組織特性(透過性の亢進、内皮剥離、プロテインキナーゼ活性化、等)を感知するナノカプセルやドキソルビジン含有ナノミセル等の動脈硬化組織への選択的送達によるバルーン傷害後の再狭窄病変の著明な抑制等の成果を得た。以上の各技術の開発は新しい再生医療のplatform又はscaffoldを提供する独創的技術であり、材料の機能性およびマイクロ・ナノ加工技術では国際的にも大幅にリードしている。初年度までに開発してきた細胞機能・組織再構築のnano-manipulationの要素材料と要素加工技術を組み合わせることによってシステムとしてのナノ医療の基盤の構築と医療応用への具体的評価に検討を進め得たことにより、二年次の目標を達成できたものと考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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