RI標識分子と半導体型ガンマカメラによる分子病態の画像化の研究

文献情報

文献番号
200300625A
報告書区分
総括
研究課題名
RI標識分子と半導体型ガンマカメラによる分子病態の画像化の研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
久保 敦司(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井博史(慶應義塾大学医学部)
  • 尾川浩一(法政大学工学部)
  • 國枝悦夫(慶應義塾大学医学部)
  • 中原理紀(慶應義塾大学医学部)
  • 小林弘明(東芝医用システム社)
  • 本村信篤(東芝医用システム社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,065,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来のシンチレータを用いたアンガー型ガンマカメラは、改良が重ねられているものの、大幅な性能の向上は見込めない。このため、シンチレータよりも放射線検出能が優れた半導体素子を用いて、ガンマカメラを製作し、エネルギー分解能、空間分解能などの物理学的性能の改善をはかり、分子イメージングによる病態の解明に役立つ診断機器の研究開発を目指した。
研究方法
前年度と同様に1)半導体型ガンマカメラの開発とその性能評価(小林、本村、藤井)、2)半導体型ガンマカメラの特長を生かした画像処理システムの開発(尾川、中原)、3)半導体型ガンマカメラを利用した分子病態イメージングにむけての検討(国枝、藤井)を進めた。1)半導体型ガンマカメラは、CdTe系半導体素子を用いて雑音の少ない信号を得ることが可能な検出器モジュールを作成した。作成した検出器を用いて、前年度と同様に下記の点について、検討を加え、より高性能の装置に改良を行った。1.エネルギースペクトラムの形状による評価、2.スリットバーファントムによる検討、3.線線源によるボケ関数(FWTM)の評価、2)半導体型ガンマカメラを利用して、有用な画像情報を含んだ収集データが得られる少数方向からの撮像により断層画像を再構成する方法について、検討を進め、前年度よりも画質の改善を図った。実際にRODファントム、心筋ファントムを用いて撮像を行い、実地診療への応用を目指した。3)半導体型ガンマカメラを用いた分子イメージングに必要な検出器の感度を確認するため、Tc-99m、I-131を含んだ小線源の描出限界を検討した。これらの検討結果をふまえて、SLN検索について検討を加えた。コロイド粒子径およびpHの変更による薬剤の移行量の変化を評価した。
結果と考察
1)半導体型ガンマカメラの開発とその性能評価。まず、半導体型ガンマカメラの開発については、機械精度が高く、組立が容易であること、大きな視野への拡大が容易であることから、半導体素子をブロック状に並べる構造を採用した。研究に使用した半導体素子の仕様は、以下のようである。CdTe素子(厚さ 5mm、pixel長 2.0mm、pixel数 16pixel/素子。電極は、Pt/Pt Ohmic電極を採用した。この検出器で性能評価を行った後に、検出器からの雑音を減らすために、モジュールの改良を加えた。改良したモジュールは、ASICからの発熱を逃がし易い構造として、発熱に起因する雑音の減少を図った。これにより、発熱による検出器の性能低下を改善した。また、この構造は、一旦モジュールを組上げた後で問題が生じた場合に、コンポーネント毎に原因の切り分けをするのが容易な構造である。これにより、問題が生じた際の対処も容易となった。さらに、ASIC基板単体で性能確認ができるようにした。続いて、エネルギースペクトラムの形状による評価を行った。Co-57線源を用いて検討を行い、7%のエネルギー分解能を得た。これにより、近接する122keVと136keVのピークの分離が得られた。スリットバーファントムによる検討では、3.5mm間隔でTc-99m線源を配置したスリットバーファントムを用いて、線源の描出を観察した。その結果、半導体検出器の方が良好なコントラストで線源の描出が認められ、空間分解能に優れていることが確認できた。線線源を用いた応答関数の検討では、線線源を用いて、散乱体がない場合と散乱体として5cm厚のアクリル板を使用した場合、10cmの厚さのアクリル板を使用した場合について検討を行った。散乱体によるF
WTMの劣化を比較し、FWTM(5cm)/ FWTM(0cm)が、アンガー型カメラで1.18、半導体型カメラで1.05、FWTM(10cm)/ FWTM(0cm)が、アンガー型カメラで1.46、半導体型カメラで1.16であった。以上の結果は、下記のようにまとめられる。(1)FWHM, FWTMともに半導体検出器の方がアンガー型カメラよりも優れている。(2)散乱体の厚さを増やした場合に、アンガー型カメラのFWTMは急激に劣化するが、半導体検出器のFWTMは劣化の度合いが少ない。半導体検出器はアンガー型検出器と比較して、エネルギー分解能が良いために元々散乱線の混入が少ない、また、pixel型検出器のため、入射ガンマ線の位置検出の際のボケが少ないなどの理由により、散乱線の影響を受けにくいと考えられた。その結果、散乱線が多い場合でも、画像のバックグラウンドが少なくなり、結果的に画像コントラストが向上すると考えられた。本年度は、ガンマカメラの実用化に向けて、架台の開発を行った。半導体検出器の利用により、カメラが小型軽量化するため、カメラの可動性が増す。この可動性を活かすための架台を製作した。検出器の可動範囲は以下のように設定した。体向動軸25~310㎜、検出器回転軸-60~90°、検出器旋回軸0~360°、リング傾斜軸0~90°、リング上下軸0~250㎜、前後動軸0~1500㎜。2)半導体型ガンマカメラの特長を生かした画像処理システムの開発。まず、ガンマカメラを回転させないで断層画像を撮像する方法について、改良を施した。前年度に引き続いて、少数の回転方向からの撮像により得られた投影データから、断層画像を再構成する方法を検討した。体軸に直交する平面(水平断面)に関して、30°ずつの5方向と、体軸に平行の前後方向の平面(冠状断面)上で30°ずつの5方向を組み合わせて25方向からの投影データを得た。これらの画像から、フーリエ変換により、パワースペクトルを求め、12方向のデータを選択し、断層画像を再構成した。心筋ファントムを使い、シミュレーションを行ったところ、視覚的には画質の低下を認めなかった。データ収集時間は1/3に短縮することが可能であった。さらに、RODファントムを用いたシミュレーションと実験を行った。シミュレーションでは、従来の再構成法と比較して、画質の低下を認めなかったが、実験では、画像の一部にひずみが認めれられた。ファントムの固定に使われている金属製の治具の影響などが考えられた。人体は、金属ほど高密度ではないが、骨など放射線吸収率の高い組織や肺のように放射線吸収率が低い組織が複雑に分布しているため、実地診療への導入に当たっては、これらの補正を行う方法を検討する必要があるかもしれない。 3)半導体型ガンマカメラの特徴を活かせる分子病態イメージングに向けての検討。試作された半導体検出器を用いて、点線源の描出能を検討した。半導体検出器で画像化が可能なRI量は、Tc-99m、I-131ともに10kBqであった。この放射能量を示すそれぞれの核種の重量は、Tc-99m 5.1×10-14g 5.2×10-16mol、I-131 2.2×10-12g 1.7×10-14molであり、この量を超える放射能を示す放射性核種を標的組織に集積させることで、分子動態の画像化が可能であることが示された。このことから、picogram~femtogramのオーダーの分子の散在を検出できることが確認された。これは、センチネルリンパ節内での免疫状態の評価や定位放射線治療による周囲健常組織の障害の状態をin vivoで評価できる可能性がある量である。
結論
半導体素子 CdTeおよびCZT を用いた半導体型ガンマカメラを製作した。従来型ガンマカメラより優れたエネルギー分解能を有していることが確認できた。このガンマカメラの臨床応用が可能な架台を作成した。また、半導体型ガンマカメラの特長を活かしたSPECT撮像法の開発および定量評価法についての検討を進め、シミュレーション、ファントム実験により、実用化可能な画像が得られた。製作した半導体検出器を用いて分子病態イメージング必要な放射性核種の量を求め、分子イメージングのよる生活習慣病などの重要疾患の病態解析をすすめていく足掛かりを得た。

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