エンドマイクロスコープを用いた癌の新しい診断についての研究(総括研究 報告書)

文献情報

文献番号
200300624A
報告書区分
総括
研究課題名
エンドマイクロスコープを用いた癌の新しい診断についての研究(総括研究 報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 進英(昭和大学横浜市北部病院 消化器センター長・教授)
研究分担者(所属機関)
  • 井上晴洋(昭和大学横浜市北部病院 消化器センター 助教授)
  • 塩川章(昭和大学横浜市北部病院 病理科 助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)研究の必要性
急速な高齢化に伴い悪性新生物の罹患率が急増しており、総患者数は日本で約136万人(平成8年)と推定され、平成10年の死亡者数は約28万4千人、全死因の約30%を占めている。癌は早期発見、早期治療さえすれば、完治する可能性が高い。今日、癌の早期診断・治療において、低侵襲な内視鏡鏡検査は重要な役割を果たしている。しかし、内視鏡検査の後に病理検査による確定診断を行うためには、内視鏡検査時に組織を生検し、これを顕微鏡下で詳細に観察する必要があり、多くの時間と労力、コストがかかっている。
(2)研究の目的と期待される成果
エンドマイクロスコープを用いた方法では、内視鏡検査中に生検することなく組織病理学的な診断が即座に可能になり、内視鏡検査中に治療方針を決定し、引き続いて内視鏡を用いた治療を行うことができる。したがって、以下の具体的な効果が期待できる。
①検査・診断の低侵襲化と安全性向上
消化管の内視鏡検査において、生検をすると多少ながら出血があり、癌の一部を生検により生体内でかじりとる行為が妥当かどうかの懸念がある。また、生検した後に、生検部から大量出血をした例も報告されている。生検しないで組織病理学的な診断が可能になれば、検査・診断の低侵襲化と患者にとっての安全性向上が期待できる。
②内視鏡的粘膜切除術(以下EMRと略す)時の病変の遺残防止
消化管のEMR後に遺残再発をきたしたという報告がされている。エンドマイクロスコープにより、EMR前の病変部の同定や、EMR後に病変の取り残しを確認することにより、病変の遺残を防止でき、患者にとってより安心な医療技術の提供ができる。
③診断能力の飛躍的向上
内視鏡検査中にエンドマイクロスコープを用いれば、従来の内視鏡検査では得られなかった細胞レベルの画像が内視鏡検査中に得られる。したがって、内視鏡検査中に内視鏡画像と病理検査画像の両方の画像を見ることにより内視鏡診断と病理診断の2つの側面から総合的に診断することができ、診断能力の向上に寄与する。
④医療費の削減と検査・診断の迅速化
内視鏡下生検法は1年で推計約360万件(平成10年)実施され、病理組織顕微鏡検査は1年で推計約750万件(平成10年)実施されている。これらの医療行為に対して1年間に約800億円の費用が発生していると推測される。一方、消化管の診断においては良性と思われるが念のために生検するものが半分以上含まれているという報告がある。エンドマイクロスコープにより、生検及び生検組織標本の作成をしないで組織病理学的な診断が可能になれば、多くの時間と労力と費用を削減できる可能性がある。
⑤診断の定量化・客観化
LCMを用いた検討により、健常部では核が高輝度、細胞質が低輝度で描出されるのに対して、癌では核が低輝度、細胞質が高輝度で描出される現象が確認されている。この輝度の逆転現象を定量化することができれば、癌、非癌を客観的に診断できる可能性がある。
研究方法
平成13年度は、生検鉗子孔には挿通できないが、生体に使用可能な外径5.2mmの「15cmプローブプロトタイプ」を用いて、ヒトの口腔粘膜を観察した。平成14年度には、外径3.4mmで、生体適合性のあるチューブを外装とした、消化管に挿入可能なカテーテル型プローブを実現し、in vivoでの消化管(食道・胃・大腸)の細胞レベルの画像を取得した。仮想病理の研究として、LCMを用いて、ヒトの食道、胃、大腸の切除標本と生検標本から、無薄切り・無染色で、細胞画像を取得して、病態による画像的特徴の抽出を試みた。また、輝度の逆転現象についても定量的に評価した。平成15年度には、改良したカテーテル型プローブを製作し、前年度よりも高画質なin vivoでの消化管(食道・胃)の細胞レベルの画像を取得した。また、LCMによる内視鏡検査時の生検材料の仮想病理像から鑑別診断を行なった場合の正診率について検討した。(倫理面への配慮)
カテーテル型プローブの使用にあたり、機器の安全性を十分に確認した後、本院の倫理規定にのっとり、共同研究者であるオリンパスのボランティアの消化管を観察した。また、全例インフォームドコンセントを得た手術・生検材料を使用した。
結果と考察
結果
平成13年度には、LCMを使用して合計37例全例において細胞画像の撮像に成功した。食道では85%で細胞核を確認する事が出来た。胃・大腸では細胞の腺管状の配列やピットパターンを確認する事はできた。典型例では核と細胞質で輝度の逆転現象が生じた。癌の場合は、92%で輝度が逆転した。平成14年度には、内視鏡検査時の生検材料合計84例において仮想病理像とHE染色による病理組織像を比較検討し、癌においてはスイスチーズ状、またはドーナツ状、非癌においてはハニカム状、という特徴的な所見を認めた。さらに、正常細胞と癌細胞で輝度の逆転現象について反射輝度を定量的に評価し、反射輝度比の差が統計的に有意であることが示された。平成15年度には、仮想病理像における特徴的な所見をもとに、内視鏡的に胃粘膜生検が施行された癌を含む標本を対象として鑑別診断を行なった。その結果、感度:79%, 特異度:82%の癌/非癌部の鑑別が行えた。また、平成13年度には、生体に使用可能な外径5.2mmのプローブプロトタイプを用いてヒトの口腔粘膜の細胞膜と核を明瞭に観察することができた。平成14年度には、内視鏡チャネルに挿通可能なカテーテル型のプローブを用いてヒトの食道、胃、大腸をin vivoで観察した。食道においては核と細胞膜、胃においては腺管を観察することができた。平成15年度には、改良したカテーテル型プローブを製作した。本プローブは、前年度よりも観察深度向上、高フレームレート化、広範囲化が図られた。in vivo観察時の生体の動きの影響を低減するために、プローブ先端に取り付ける透明なソフトキャップを用いた。拍動等に影響を受けるin vivoでの消化管(食道・胃)の細胞レベルの画像を比較的容易に取得できた。
考察
カテーテル型プローブのフレームレートの向上とソフトキャップの使用により、生体の動きの影響が受けにくくなり画像の流れが無くなった。また、光学系の改良によるS/Nの向上によって画質そのものも向上した。一方で、粘液の有無などによって、観察部位によって最適な焦点距離が異なることが分かった。食道においては粘液が無いために焦点距離が短い方が適し、胃においては粘膜が厚く存在するため、焦点距離が長い方が適する事が分かった。
結論
本研究は、研究計画書に示した生体内において無染色で細胞像を得るという目標は達成した。同時に、これを臨床で実現できるためには、生体の動きに関わらず、常に安定して細胞画像を得続けることが必要であり、それが今後の技術課題である。本研究成果は、今後は、臨床場面でのニーズの高い用途に絞り込んだ詳細スペックの最適化を検討していきたい。

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