術中にがんを可視化することで,5年生存率を20%向上させるシステムの臨床開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300623A
報告書区分
総括
研究課題名
術中にがんを可視化することで,5年生存率を20%向上させるシステムの臨床開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
伊関 洋(東京女子医科大学大学院先端生命医科学研究所/脳神経センター脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 村垣善浩(東京女子医科大学大学院先端生命医科学研究所/脳神経センター脳神経外科)
  • 丸山隆志(東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科)
  • 川俣貴一(東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
悪性脳腫瘍特に悪性神経膠腫(グリオーマ)の予後は不良である。外科的摘出が最も確実な治療法であるが、グリオーマでは正常と腫瘍との境界が不明瞭であるため摘出が不充分になることが多い。腫瘍のみを正確に摘出するために、腫瘍を可視化するシステムの開発を目的とした。特に本年度は「精密誘導ナビゲーション技術の開発」を目的とし、現在までの研究成果をさらに発展させ、精密・多様な情報と効果的なナビゲーションにより、(ロボット・医師を問わず)精密な手術作業を行う技術の開発に取り組んだ。
研究方法
「精密誘導ナビゲーション技術」の確立のために以下の4つの事項について研究を行った。 1)リアルタイムアップデートナビゲーョン:術中MRIにより術中に脳などの臓器移動の状態を見ながら手術操作することができるため、腫瘍の取り残しの無い手術が可能となる。術中画像データを必要に応じて、常にリフレッシュするリアルタイムアップデートナビゲーションの併用により、98から100%の切除率が期待できる。わずか、95%と100%の差は5年生存率では、約20%の差となるのである。腫瘍の全摘出が可能となれば、放射線療療や科学療法による副作用も大幅に減らすことが可能となる。 2) 5-ALAによるchemical navigation:紫外光による5-ALAを取り込んだ腫瘍細胞の蛍光発光を励起するために,405nm波長だけを発光するタイプの発光ダイオード試作し、実験を行った。従来言われていた380μの励起光では、5-ALAは発光しない事が確認された。励起波長のずれが確認できたため、最適波長の同定およびその波長だけを発光するダイオードを試作し、380μでは発光しないが同定した波長では強力に励起することを確認した。また,405nm波長の紫外レーザーを試作することで、フィルター無しでも、5-ALAの励起が肉眼で確認できた。これらの結果を基に、HivisCAS顕微鏡装置の改良を進めている。深部の残存腫瘍の確認は、従来のシステムは大きく困難であったため、紫外レーザーを組み込んだプローブを試作し、深部にある残存腫瘍の探測システムの開発も行い、動物実験にてその有用性を確かめた。を光化学物質の一つである 5 アミノレブリンサン(5-ALA)を利用した悪性脳腫瘍可視化システムと405nm青色光と5ALA取り込みによる発光を可視化できる高画質立体ビデオ顕微鏡や顕微鏡手術単独だけではなく、内視鏡手術単独や併用手術も考慮し、内視鏡手術に必要な条件の検討を動物実験において、検討を加えた。 3) 覚醒下手術と拡散強調画像ナビゲーション:失語症や運動麻痺などの手術合併症を避けるために、機能領域特に運動野や言語領域を同定する手法として、覚醒下手術にて電気刺激による言語野の確認や術中MEP(運動誘発電位)・術中MR拡散強調画像(DWT) による錐体路の同定とナビゲーションにより、機能領域近傍の脳腫瘍摘出手術の精度と安全性の向上するシステムの構築を行った。 4) マイクロレーザーによる精密誘導手術システム:臨床の結果を踏まえ、人間の手では不可能である100μm単位での精緻な手術を実現するために、特に機能領域に隣接する可視化された残存腫瘍を正確に摘出する精密誘導レーザー手術システムの研究開発にも着手した。
術中オープンMRI、リアルタイムアップデートナビゲーション、リアルタイムセグメンテーション、拡散強調画像ナビゲーション、5-ALA (chemical navigation)と覚醒下手術・生理的モニタリングによって可視化された形態学的情報・生理学的情報を統合解析して精密誘導ナビゲーション技術と精密誘導手術システムを基にして、Eloquent areaに近接する残存悪性脳腫瘍を,重要な機能損傷を最小限に抑え,全摘出を目指す手術が,本研究の目指す手術システムである。
本研究を遂行する上での倫理面への配慮としては、この研究での個人情報は厳重な管理を行い、研究結果発表の場合に特定個人が認識されないよう配慮を行う。更にこの<悪性脳腫瘍に対する5ALAを用いた光線力学的診断・治療の臨床研究>は本学倫理委員会の承認を得ており(2000年10月5日、248号)、承認要綱に沿い対象となる患者さんから効果と危険性も含めた十分なインフォームドコンセントを得た上で書面による承諾をいただき臨床治療中である。
結果と考察
覚醒下手術とオープンMRIおよびリアルタイムアップデートナビゲーションにより、術前後で精密に計測し得た46症例の悪性腫瘍患者にオープンMRI下の腫瘍摘出術を行い、91%の高い摘出率を達成できた。全摘出率においても、従来の手術法による8%からわれわれの研究手法での39%にまで向上した。また,Hivision方式を用いた高画質立体ビデオ顕微鏡、術中MRI、直前の術中MR画像を基にするリアルタイムアップデートナビゲーション技術(術者道具の位置同定システム)、そして5ALA(ケミカルナビゲーション)による腫瘍可視化、術中MR拡散強調画像に錐体路の描出とこれらの実用的融合により悪性脳腫瘍の全摘出を可能にするシステムの臨床試用を行った。内視鏡下手術においては、紫外光では、発光効率が悪いために、最適な波長を検索した結果、特に405nmの青色半導体レーザーとLEDプローブを試作し、薄いプラスチック製のフィルターに替えることで可視化の向上を計った。
特に機能領域に隣接する可視化された残存腫瘍を100μm単位での精緻な手術を実現する精密誘導レーザー手術システムを試作し、動物実験でナビゲーション技術と手術操作部位記録(log)技術を統合した精密誘導ナビゲーションシステムの有効性を確かめ、臨床機試作の貴重な結果を得た。
5-ALA(5-Aminolevulinic Acid)を用いて脳腫瘍を染色,可視化することで残存腫瘍の存在と部位を簡便かつ即時的に確認できる優れた方法であるが、以下の問題点がある。1、蛍光確認には手術用顕微鏡をOffにするため発光部位の確認が時に困難、2、蛍光確認が肉眼のため定量的評価が困難である。
機能領域、特に運動神経である錐体路の位置については、術前には1.5TMRIで撮像した拡散テンソルイメージングで錐体路の確認は可能であったが、術中にはブレインシフト(脳組織の移動)により、錐体路の精緻な同定はできず、術中MRIによる拡散強調画像での同定が必須であった。0.3T MRI拡散強調画像での錐体路の描出は世界的にも例が無く、それを実現するためには以下の問題点を克服する必要があった。1.拡散強調画像を特異的に描出可能とする手術用コイルの開発(従来の開発した手術用コイルではアーチファクトが発生するため)。2.MR撮像シーケンスの最適化。3.手術室内でのノイズ発生源部位の同定と対策(一般に術中に使用しているT1/T2像の撮影にはなんら支障なかったが、拡散強調画像を撮像するためには、更なるノイズ低減が必要となった)。
残存腫瘍を正確に可視化できることにより、腫瘍の摘出率は確実に向上したが、傷害すると運動麻痺を起こす手術合併症を避け、腫瘍摘出率を最大化するためには錐体路の可視化による正確な位置の同定と残存腫瘍を錐体路に出来るだけ触らずに摘出する必要がある。そのためには、精密誘導ナビゲーションによる非接触での精密誘導レーザー手術システムの構築が必須である。
結論
5-ALA蛍光同定装置と術中MRI立体画像の重畳可能な手術用顕微鏡を開発し、手術顕微鏡画像と5ALA発光画像と術中MRI画像とを一画面に重ね合わせて表示することにより、従来は迅速病理検査によってしか判別できなかった正常と腫瘍との識別を、術中リアルタイムに行う新たな"ケミカルナビゲーション"システムを構築した。
術中MR拡散強調画像による錐体路の描出と、近傍の残存腫瘍を精緻に手術できる精密誘導レーザー手術システムのプロトタイプを試作し、動物実験にてその有効性を確かめた。
これから主流となる精密誘導ナビゲーション技術と精密誘導手術を実現する基盤技術を開発した。

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