文献情報
文献番号
200300621A
報告書区分
総括
研究課題名
高磁場NMR及びMRIを用いた脳虚血病変診断技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 秀博(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 藤原英明(大阪大学)
- 菅野巌(秋田県立脳血管研究センター)
- 成冨博章(国立循環器病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、MRIを用いた機能画像診断において、脳虚血性疾患の病態生理を新しい視点で定量的に把握し、これにより新しい治療指針の樹立に有効な情報を提供するような評価システムを確立することを目標とする。特にMRI装置を使ったトレーサ追跡を極めて高感度で実現する方法を開発し、従来の核医学的手法などでは得られないような、しかし脳虚血病態生理を理解するために基本的かつ生理的な情報をイメージとしてとらえることのできる評価システムの構築を目指す。虚血急性期におけるニューロンの代謝異常および変性の検出、脳虚血時のグルタミン酸グルタミンサイクルの観察、低体温治療に応用できるような脳組織の温度計測法の確立、また従来はPETでのみ可能だった脳血流量および酸素摂取量の定量化を実現する撮像法とトレーサ解析理論の確立を目指す。
研究方法
1.Gd造影剤を用いた灌流画像の定量化
Gd造影剤を用いた灌流画像の診断において、Gd造影剤の脳血管内における動態解析理論ごとに灌流画像がどのように異なるのかについて検討した。慢性期脳梗塞疾患患者16名において、PETおよびGd造影剤MRI検査を施行し、得られた脳血流量画像の一致を評価した。動態解析モデルについてはOestergardの方法とLemppの方法のふたつに分類し、これらの解析手法間での相違とそれぞれの問題点、誤差要因について整理した。さらにMRI信号強度とGd造影剤濃度との関係を考慮した新しい解析手法を開発し、この補正の効果を評価した。
2.酸素代謝量および酸素摂取率の診断
MRI撮像における代表的パラメータであるT2*およびT2を同時に撮像する独自のシーケンス開発を行った。本シーケンスは、90度パルスに続き傾斜磁場の反転を高速に繰り返し、これより得た時系列画像を数値解析することで脳全体のT2*およびT2画像を正確に定量する。従来の手法と比べて1桁以上高速かつ正確であることが理論的に予想されている。本シーケンスを、基礎的なファントム実験、およびカニクイザルを用いた動物実験によって評価し、その臨床応用への妥当性について検討した。
3.新しい造影剤―超偏極キセノンを用いたMRI脳機能検査
超偏極キセノンを安定して供給するシステムを構築し、カニクイザルおよび健常ボランティアにおいて脳信号の周波数解析を行った。ボーラス吸入の後にFID信号の時間変化を観察し、それぞれの周波数毎に時間依存曲線をコンパートメントモデルによりフィットし、脳血流量およびキセノンの縦緩和時間(T1)の正確な計測を行った。この生理パラメータを繰り返し計測した際の再現性、および生理的な妥当性の評価を行った。一方、小動物(ラットおよびマウス)においても本システムにおいて脳血流量およびT1の絶対計測を行った。ウサギ血液においては周波数の温度依存性を計測し、プロトンにおける温度依存性と比較を行った。また、血液中におけるキセノンとプロトンの二次元NMR計測を行い、キセノン分子の血球膜を介した拡散の移行速度定数の定量評価を行った。
4.C-13MRS撮像法の脳虚血性疾患への応用
プロトンとC-13のカップリングを実現するためのLitz型コイルを開発し、さらに糖代謝産物の同定に必要となる二次元HSQCスペクトロスコピーのパルス系列を9.4TのMRI/MRS装置で動作するよう撮像システムを構築した。まずマウスin vivo測定においてその妥当性を検討し、各撮像シーケンス毎にC-13 スペクトロスコピーによる代謝物の検出限界を確認した。
Gd造影剤を用いた灌流画像の診断において、Gd造影剤の脳血管内における動態解析理論ごとに灌流画像がどのように異なるのかについて検討した。慢性期脳梗塞疾患患者16名において、PETおよびGd造影剤MRI検査を施行し、得られた脳血流量画像の一致を評価した。動態解析モデルについてはOestergardの方法とLemppの方法のふたつに分類し、これらの解析手法間での相違とそれぞれの問題点、誤差要因について整理した。さらにMRI信号強度とGd造影剤濃度との関係を考慮した新しい解析手法を開発し、この補正の効果を評価した。
2.酸素代謝量および酸素摂取率の診断
MRI撮像における代表的パラメータであるT2*およびT2を同時に撮像する独自のシーケンス開発を行った。本シーケンスは、90度パルスに続き傾斜磁場の反転を高速に繰り返し、これより得た時系列画像を数値解析することで脳全体のT2*およびT2画像を正確に定量する。従来の手法と比べて1桁以上高速かつ正確であることが理論的に予想されている。本シーケンスを、基礎的なファントム実験、およびカニクイザルを用いた動物実験によって評価し、その臨床応用への妥当性について検討した。
3.新しい造影剤―超偏極キセノンを用いたMRI脳機能検査
超偏極キセノンを安定して供給するシステムを構築し、カニクイザルおよび健常ボランティアにおいて脳信号の周波数解析を行った。ボーラス吸入の後にFID信号の時間変化を観察し、それぞれの周波数毎に時間依存曲線をコンパートメントモデルによりフィットし、脳血流量およびキセノンの縦緩和時間(T1)の正確な計測を行った。この生理パラメータを繰り返し計測した際の再現性、および生理的な妥当性の評価を行った。一方、小動物(ラットおよびマウス)においても本システムにおいて脳血流量およびT1の絶対計測を行った。ウサギ血液においては周波数の温度依存性を計測し、プロトンにおける温度依存性と比較を行った。また、血液中におけるキセノンとプロトンの二次元NMR計測を行い、キセノン分子の血球膜を介した拡散の移行速度定数の定量評価を行った。
4.C-13MRS撮像法の脳虚血性疾患への応用
プロトンとC-13のカップリングを実現するためのLitz型コイルを開発し、さらに糖代謝産物の同定に必要となる二次元HSQCスペクトロスコピーのパルス系列を9.4TのMRI/MRS装置で動作するよう撮像システムを構築した。まずマウスin vivo測定においてその妥当性を検討し、各撮像シーケンス毎にC-13 スペクトロスコピーによる代謝物の検出限界を確認した。
結果と考察
1.Gd造影剤を用いた灌流画像はふたつの異なる解析法で大きく異なり、また共にPETで観察した血流分布とも異なることが示された。また系統的なPETとの比較検討では、これらの不一致は慢性期脳梗塞の症例では頻繁に観察され、特に約20%の症例では患側健側比がPETは逆でありかつ疾患部位で血流上昇(逆転現象)することを確認した。これらの観察事実故に、現在の臨床診断法には重大な問題があることが示された。この理由として、Gd造影剤の虚血領域における遅延および形の歪みが正しく補正されていないことは理由にはならず別の要因があることが明らかになった。一方、Gd造影剤と信号強度との非線形性を補正するモデルを組み込むと、逆転現象は改善し、PETとも全ての症例で一致することを確認した。これらの事実に基づくと、①すでに確立したと考えられてきたMRI脳血流量検査法にもまだ大きな問題が内在し、②物理プロセスをよりよく理解した上で動態解析モデルを構築する必要があることが明らかになった。今後、系統的な撮像シーケンスの最適化と、正確なトレーサ解析モデルの構築が必要であることが示された。
2.T2*およびT2を正確に定量するシーケンスプログラムにおいては、ファントム実験でこの正当性を確認し、さらに健常者、脳虚血患者および麻酔管理下のカニクイザル実験にて、十分に高い精度でT2およびT2*の定量が可能であることが示された。ただし理論通りに従わない現象も観察しており、磁化率アーチファクトに基づく磁場の不均一性が原因と推察された。また、この定量化によって脳局所の酸素摂取率が計測できることを確認した。麻酔下のカニクイザルの酸素摂取率は動静脈較差から実測される値に一致し、この方法の妥当性が確認できた。また、一側性の内頚動脈閉塞により半球の局所酸素摂取率が上昇していることをPETで確認した。臨床症例においては、T2*値がPETで測定した酸素摂取率と良好な相関を示していた。これらのことから、将来はMRIを用いても脳局所酸素摂取率の定量は可能であることが確認できた。今後は、理論に従わない減衰曲線の物理的理由付けを行い、さらに精度の高いT2*定量化プロトコルの確立を試みる必要が示唆された。
3.超偏極キセノンを使ったMRI検査においては、1回当たりの取り出し量が約250mL
の条件下で偏極度が10%以上の純Xeガスを約10分間隔で繰り返し単離するシステムが確立できた。またこの造影剤を液体窒素温度にて個化することで超偏極の寿命を長くし、施設を超えた運搬が可能であることが確認できた。MRS共鳴周波数から体内温度を精密測定する方法の基礎検討を行い、絶対周波数スケール(absolute frequency scale)の考えに基づいた多核種標準法(multinucleus standard method)を考案した。多核種内部基準法に基づくXe-129化学シフトを利用した精密な脳温度計測の実験では、プロトンNMRよりも大きな温度係数を示し、体内温度のin vivo計測の高精度計測の可能性を確認した。またヒツジ血を用いた実験によっては、RBC溶解信号が媒質の水に溶解した信号と分離して観察される場合には、両者の化学シフト差を測定することにより精密温度測定が可能なことが示され、Xe-129 MRI撮像の意義が確認できた。本温度計測の手技は、従来のプロトンMRSに基づく方法に比べると一桁程度高い精度を有することを確認した。また、超偏極キセノン吸入後のMRI信号強度の時間変化から、脳局所血流量値およびT1緩和時間の計測に成功し、後者からは脳組織中の酸素飽和度の推定の可能性が示唆された。
4.C-13 MRSについては、二次元HSQC法によりグルタミンおよびグルタミン酸それぞれのスペクトルを確認できた。ただし、作成したLitzコイルは既存のプロトンコイルの内側にC-13コイルを組み込んだため、C-13からスピン移行したプロトンの信号に対する感度が十分に高いものではなかった。従ってあくまでスペクトルの収集にとどまり、画像化には不十分であった。マウスなどの小動物脳梗塞モデルにおいて、虚血領域のグルタミン酸代謝を調査するには、新たなコイル作成の必要性が示唆された。
2.T2*およびT2を正確に定量するシーケンスプログラムにおいては、ファントム実験でこの正当性を確認し、さらに健常者、脳虚血患者および麻酔管理下のカニクイザル実験にて、十分に高い精度でT2およびT2*の定量が可能であることが示された。ただし理論通りに従わない現象も観察しており、磁化率アーチファクトに基づく磁場の不均一性が原因と推察された。また、この定量化によって脳局所の酸素摂取率が計測できることを確認した。麻酔下のカニクイザルの酸素摂取率は動静脈較差から実測される値に一致し、この方法の妥当性が確認できた。また、一側性の内頚動脈閉塞により半球の局所酸素摂取率が上昇していることをPETで確認した。臨床症例においては、T2*値がPETで測定した酸素摂取率と良好な相関を示していた。これらのことから、将来はMRIを用いても脳局所酸素摂取率の定量は可能であることが確認できた。今後は、理論に従わない減衰曲線の物理的理由付けを行い、さらに精度の高いT2*定量化プロトコルの確立を試みる必要が示唆された。
3.超偏極キセノンを使ったMRI検査においては、1回当たりの取り出し量が約250mL
の条件下で偏極度が10%以上の純Xeガスを約10分間隔で繰り返し単離するシステムが確立できた。またこの造影剤を液体窒素温度にて個化することで超偏極の寿命を長くし、施設を超えた運搬が可能であることが確認できた。MRS共鳴周波数から体内温度を精密測定する方法の基礎検討を行い、絶対周波数スケール(absolute frequency scale)の考えに基づいた多核種標準法(multinucleus standard method)を考案した。多核種内部基準法に基づくXe-129化学シフトを利用した精密な脳温度計測の実験では、プロトンNMRよりも大きな温度係数を示し、体内温度のin vivo計測の高精度計測の可能性を確認した。またヒツジ血を用いた実験によっては、RBC溶解信号が媒質の水に溶解した信号と分離して観察される場合には、両者の化学シフト差を測定することにより精密温度測定が可能なことが示され、Xe-129 MRI撮像の意義が確認できた。本温度計測の手技は、従来のプロトンMRSに基づく方法に比べると一桁程度高い精度を有することを確認した。また、超偏極キセノン吸入後のMRI信号強度の時間変化から、脳局所血流量値およびT1緩和時間の計測に成功し、後者からは脳組織中の酸素飽和度の推定の可能性が示唆された。
4.C-13 MRSについては、二次元HSQC法によりグルタミンおよびグルタミン酸それぞれのスペクトルを確認できた。ただし、作成したLitzコイルは既存のプロトンコイルの内側にC-13コイルを組み込んだため、C-13からスピン移行したプロトンの信号に対する感度が十分に高いものではなかった。従ってあくまでスペクトルの収集にとどまり、画像化には不十分であった。マウスなどの小動物脳梗塞モデルにおいて、虚血領域のグルタミン酸代謝を調査するには、新たなコイル作成の必要性が示唆された。
結論
NMRおよびMRIは高周波パルスと傾斜磁場変化のシーケンスにより数多くの生理情報が観察できる。しかし、すでに広く臨床利用されている撮像法でさえまだ多くの問題を内在し、基礎的な検討の必要性が示唆された。一方、極めて多くの可能性を秘めた診断技術であり、本研究で明らかになったように、NMRおよびMRI撮像装置を用いて、従来にない新しい診断情報の提供が可能である。脳組織の灌流画像の定量化は、信号強度の非線形性が本質的な問題であり、これを解決することでPETによく一致する画像が提供できた。今後撮像シーケンスの改良と合わせてさらに系統的な研究が不可欠である。プロトンのT2*およびT2の定量も可能であり、酸素摂取率の定量化へ応用可能であった。超偏極Xe-129は安定して生成でき、脳組織血流量だけでなく、組織酸素飽和度、酸素摂取率、脳組織温度、細胞膜を介したキセノン分子の移行速度定数などの、新しい機能画像の定量化法が臨床研究に応用可能となった。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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