ナノテクノロジーを用いた新規DDS製剤の研究開発

文献情報

文献番号
200300620A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノテクノロジーを用いた新規DDS製剤の研究開発
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
水島 裕(東京慈恵会医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 上野晃憲(株式会社LTTバイオファーマ)
  • 檜垣惠(東京慈恵会医科大学)
  • 石原務(東京慈恵会医科大学)
  • 田中順三(独立行政法人物質・材料研究機構)
  • 生駒俊之(独立行政法人物質・材料研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
71,840,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでターゲット製剤、徐放製剤はわれわれの発明も含め多くあるが、この両者の性質をもつナノ製剤を開発すること、及び新規の徐放製剤を開発し、とくに再生医療の進歩に寄与することを目的とした。
研究方法
PGE1のナノ粒子への封入の研究もある程度進めているが、最も実用化に向けて研究が進んだステロイドのナノ粒子について、ステロイドの種類、疎水性を増すための金属の種類、キャリア(PLGA、PLA)の種類、また実際の製剤にする場合の遊離ステロイドの除去や濃縮の効率的な方法を見出すことなどについて研究を行なった。この製剤を関節リウマチモデルに用いて、有効性および持続性についての確実性を検討した。次に、最終的な製剤に動物由来のたんぱくなどが入らない方法として、無機塩を用いる徐放製剤作製に関する研究を行った。種々の無機物質を用い、たんぱく質を含むものと同等ないしそれ以上製剤作製が可能となる組合せについて検討した。検討した試験としては、製剤作製法の検討、薬物動態試験、さらに薬効試験として末梢白血球数の変動や脾細胞中の幹細胞の数を測定などである。また、金属を用いず水酸アパタイト、炭酸カルシウムの粒子中に薬物を封入する方法についても検討を加えた。
結果と考察
結果=1.ステロイド封入ナノ粒子について、最終的にはPLAに亜鉛で疎水化した燐酸ベタメタゾンを封入した製剤で、粒子径が約200nmであるものが適しているとの結果が得られた。これは、タイプⅡコラーゲン関節炎やアジュバント関節炎に本ナノ製剤を対照のベタメタゾンと比較して得られた実験結果からも強く示唆される。製剤的検討として、無菌室で製剤作製が容易にできるような簡便な製造法・精製法について種々検討を行ない、作製ナノ粒子に含まれないフリーのベタメタゾンの除去方法と作製粒子製剤の濃縮について充分可能な方法であるという結果が得られている。2.G-CSFの徐放製剤については、主として塩化亜鉛・炭酸ナトリウム・燐酸ナトリウムといった無機イオンを用いてその適切な配合を検討した結果、これまでと同様な形態の製剤が作製することができた。この製剤は、長期の徐放性を示す薬物動態を示した。血中白血球の増加作用についても、持続的な血中濃度上昇に平行して、同様の徐放性ならびに持続性を示す結果が得られた。最終的には大動物およびヒトにおける至適な投与量を決定しなければいけないと考えられる。現行のG-CSF製剤を連日5日間投与する場合に比べ、本研究で作製した徐放製剤を1回投与のほうが幹細胞の産生効果が強い結果であった。3.その他の研究として、破傷風トキソイドやヒトγグロブリンなどのワクチン用の抗原やたんぱくをナノ粒子内に取り込ませる検討および樹状細胞など免疫細胞のナノ粒子の取り込みや抗体価の検討を行ったが、順調な進捗状況である。また、水酸アパタイトもしくは炭酸カルシウムを用いた徐放製剤作製の基礎検討を行い、1~10μmの球形粒子の作製が可能になったこと、X線解析によって構造決定がされたこと、亜鉛を含有させることにより多孔面積の増加が生じたんぱく結合性増加が増加することが明らかとなった。多孔性粒子をバテライト型炭酸カルシウムで塞栓することによって薬物の超徐放性が得られる結果を得ている。
考察=作製したステロイド封入ナノ粒子について検討した結果、in vitroで一週間程度にわたる持続的徐放性が明らかにされ、in vivoにおいても持続性を示す結果であった。従って、本研究で作製した製剤は、充分なターゲット能および徐放性を併せ持っていると考えられる。現時点では最終的な最適作製条件でないが、臨床応用で現在のステロイド療法をはるかに凌ぐ良い成績が得られるものと考えている。また、製剤作製に使用した材料は常にすべて認可されているものばかりなので、実用化は早いと考えられる。今後実用化までに検討すべき点があると思われるが、製品製造レベルにスケールアップは容易であると考えている。これらの結果を基に現在大手製薬会社と開発に向けて共同研究を開始し、実用化の可能性は極めて高い。この製剤によってステロイドの効果と副作用をかなり分離でき、しかも患者に負担をかけない1~2週間に1回の注射ですむ製剤ができるものと考えている。G-CSFは、抗がん剤治療時の白血球減少の治療薬であり、薬物性無顆粒球症に対する救命的薬物であり、また心筋梗塞その他の治療薬としても有用であると考えられている。しかし、G-CSF自身が短い半減期であるために、毎日の皮下注射を余儀なくされている。PEG結合G-CSFが検討されているが、多量必要なことやコストが高いことが難点であり、またPEGによる何らかの副作用が生じる可能性も考えられている。従って、現在使用されているG-CSFそのものを製剤化して徐放することが望まれる。本研究では、ほぼ問題のない無機物のみを使用して作製したG-CSF製剤の効果が一週間以上継続し、しかも再生医療に役立つ幹細胞の産生も従来の製剤より強いことが示された。この製剤作製のスケールアップについても大きな問題点はないと考えている。この製剤についても、現在大手製薬会社と開発に向けた共同研究契約を結び共同契約を行なっており、実用化の可能性はかなり強いと考えている。このほかの製剤の開発、即ちPGE1の徐放性ターゲット製剤の開発、ヒドロキシアパタイト・炭酸カルシウム微粒子による徐放製剤の開発、およびナノ粒子のワクチンへの応用については来年度も継続して研究推進を計り、最終結果を出したいと考えている。
結論
今年度最も研究が推進したのは、ステロイド徐放性ターゲットナノ粒子製剤とG-CSF徐放製剤である。ステロイドナノ粒子製剤に関しては製剤設計と薬効試験がほぼ終了し、製剤としては燐酸ベタメタゾンを亜鉛で疎水化してPLAに封入した約200nmのナノ粒子が現段階では最も優れているとの結論に達している。本製剤の大量生産や安定性についても技術的に問題はないところまで進捗している。また、動物試験において、優れたターゲッティングおよび徐放効果を示した。G-CSF徐放製剤に関しては、亜鉛と無機塩のみによる徐放性製剤の開発に成功した。現行の5日間連続皮下投与する場合に比べて、本製剤の1回のみ投与の場合のほうが血中好中球増加作用および脾臓幹細胞増加作用において優れていることが動物実験の結果から認められた。なお、上記の2製剤に関しては、いずれも既に開発を目的として大手製薬会社と共同研究に入っている状況にある。

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