ナノテク集積型埋め込み型心室補助装置(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300618A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノテク集積型埋め込み型心室補助装置(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山家 智之(東北大学)
研究分担者(所属機関)
  • 仁田新一(東北大学)
  • 江刺正喜(東北大学)
  • 芳賀洋一(東北大学)
  • 吉澤誠(東北大学)
  • 田中明(東北大学)
  • 岡本英治(北海道東海大学)
  • 圓山重直(東北大学)
  • 松木英敏(東北大学)
  • 高木敏行(東北大学)
  • 羅雲(東北大学)
  • 福田寛(東北大学)
  • 田林晄一(東北大学)
  • 西條芳文(東北大学)
  • 大坂元久(日本医科大学)
  • 久保豊(東京女子医科大学)
  • 早瀬敏幸(東北大学)
  • 飯島俊彦(秋田大学)
  • 川野聡恭(東北大学)
  • 梅津光生(早稲田大学)
  • 佐藤和則(東北大学)
  • 白石泰之(東北大学)
  • 本間大(トキコーポレーション)
  • 紺野能史(東北電子産業)
  • 山内清(NECトーキン)
  • 伊藤久雄(宮城県立循環器呼吸器病センター)
  • 佐々木英彦(宮城県立循環器呼吸器病センター)
  • 佐藤尚(宮城県立循環器呼吸器病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
46,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症心不全では人工心臓か心臓移植しか救命の方法論はありえないが、移植臓器の不足は深刻で人工心臓への期待は大きくなりつつある。しかしながら、現在欧米で開発されているシステムは日本人に埋め込むには大きすぎることは定説になっている。原点に返って考察してみれば、循環を補助するのに心臓を丸ごと摘出したりポンプを埋め込む必要は必ずしもない。本研究の目的は、心臓を直接圧迫してアシストすることにより心拍出を維持する全く新しい心室補助装置の開発である。東北大で開発中のナノセンサを駆使して心筋の機能と血行動態を探知し、マイクロ制御チップで補助循環の必要性を計算するインテリジェント制御機構を持つ超小型の埋込型心室補助装置を開発し、心不全に苦しむ患者に、簡単にアプリケーションが可能な超小型デバイスをナノテクの応用により開発する。
研究方法
本年度は、第1にダイレクトドライブ方式の人工心筋開発を目指して動物実験を行った。そのためにできるだけ小型のものが望まれたので、ペルチェ運動素子を用いた動物実験を試みた。
次に広範囲の心筋梗塞患者及び拡張型心筋症患者のために、ボールスクリューモータによるダイレクトドライブを試みた。人工心筋を開発するためにはソフィスティケイトされた方法論で心臓にアクチュエータを固定する必要がある。そこで考案されたのが心室カップである。手術中のアクシデント的な心停止の場合でも、速やかに心室に装着することが可能である。日本人成人男性の平均体重とほぼ同様の体重を持つ成山羊を用いた動物実験において予備実験的にポリカーボネイトで試作した心室カップを装着してみたところ、ほぼ三秒以内に装着が可能であった。しかしながら問題点としては心室の拡張能が阻害されることで、肥大した心臓などでは心筋カップを嵌めると若干の拡張障害により動脈圧の減少傾向が認められる症例も存在した。そこで次の展開としては拡張能力を保持したままで固定が可能であるバンド方式なども検討した。また、ナノテク集中型の心室補助装置を目指してエレクトロハイドローリック方式の人工心筋開発を試みた。このシステムのコンセプトは、アクチュエータを胸腔の外に置くことで、胸腔のスペースを節約できる。アクチュエータは肋間に置き胸壁のスペースを有効活用する。アクチュエータの駆動エネルギーはシリコンオイルを介してダイアフラムを駆動し、心室を心マッサージの原理で押すことになる。
駆動エネルギーは経皮エネルギー伝送システムによって体外から供給される。東北大学で開発が進められている経皮エネルギー伝送システムは、外面をアモルファスファイバーで磁気シールディングしてあることに特徴がある。磁気のシールディングは技術的になかなか困難ではあるが東北大学では独自技術でこれに成功し、外側への漏れ磁力を軽減することで世界最高級の伝送効率を具現化した。更にこのシステムの最終目的は、装着レピシエントに意識させる事なく、安定した電力を供給する事であるので、電気的な補償制御装置を開発、組み込む事で、完全埋め込み型人工心筋の実現が飛躍的に高まるものと思われる。そこで本研究では相対するコイル間の位置ずれ、コイル間隔変化に伴って起こる、電気的インピーダンスの不整合を自動的に調整するシステムを盛り込んだ経皮電力伝送装置の研究を行った。これは電力伝送周波数を適宜変化させて、電力力率の改善を自動的に行うものである。また併せて伝送コイルの小型化についても検討を行っている。このシステムは体外側のみの応答で処理が可能であり、率いては心筋駆動用電源の小容量化、小型化にも貢献できるシステムであると考えられる。
結果と考察
動物実験では、ペルチェ運動素子にて1Hzを超える駆動スピードが得られた。心筋梗塞患者では部位や場所によって様々な障害を受けることが報告されているので、解剖学的に最適の方向性に縫い付けて病態生理学的に有効な拍出がえられる可能性が示唆されたものと思われる。また、心室カップ方式で認められた拡張障害による動脈圧の低下傾向は本年度改良を施されたエレクトロハイドローリック型心室補助装置では観察されず、人工心筋デバイスの作動により有意の心補助効果が確認されている。現在、慢性動物実験の段階に進み、生体適合性、耐久性の検討を行っている。4月8日現在、二ヶ月目に入ってon goingである。ナノテクトータルシステムの具現化のために、すでに人工心筋の慢性動物実験に着手し、4頭の長期生存を得ている。現在4頭目が、埋め込み後二ヶ月でオンゴーイングである。すでに終了した慢性動物実験については、肝臓、腎臓に血栓による壊死の所見などはなく、ナノテク心室補助装置には血栓の形成の心配は要らないという仮説が証明された。また、肝臓・腎臓ともに鬱血の所見はなく、良好な右心循環の維持が確認された。心室の接触面に鬱血所見が認められ、現在、ミクロの微細構造変化の観察を病理専門医に依頼している。また肺にも鬱血の所見はなく、良好な左心循環の維持が確認された。
本システムの開発のキーテクノロジーになるのは、人工心筋アクチュエータ、ナノセンサ、制御ナノチップコンピュータ、経皮エネルギー伝送システム、そしてこれらを統合して制御をなりたたせるための生理的カオス制御アルゴリズムなどである。現在、生体情報センシング用のナノセンサを開発中であり、ダイアモンドライクカーボンに数十個の金属分子をトッピングすることにより開発が具現化している。分子レベル、ナノレベルの機構により構成されたナノ金属クラスターセンサにより、鋭敏なサーモセンサなどは既に具体化して動物実験の段階にある。人工心筋は、人工心臓のように常にフルストロークで駆動されていないと血栓形成の危険性が高いデバイスとは異なり、必要なときだけ稼動すればいいので、耐久性は期待できるが、センシングが必須となり、この分野での進歩が必要である。ナノセンサとしてはプレッシャーセンシングが700ナノメータというレベルの膜圧のオプティカルファイバで具現化しており、耐久性を検討する途上にある。小型化可能な人工心筋アクチュエータ候補として幾つかのデバイスが研究された。一つはボールスクリューモータである。本年度に行われた動物実験の結果、右心室の補助人工心筋としての有効性が観察され、血行動態記録において心補助効果が確認された。このために心筋カバー用のポリカーボパックを新しく開発し、心臓を覆うことで心補助効果を得ている。しかしながら、残念ながら現存のボールスクリューアクチュエータでは右心補助効果はあるものの左心室補助効果を確認できるほどのストロークと推力が得られず、現在、設計を改造している。ユタ大学や、国立循環器病センターで開発している人工心臓はアクチュエータを外におく油圧システムに設計されているが、必ずしもアクチュエータは一体化する必要はない。そこで油圧方式のアクチュエータ開発も試みた。人工心筋縫着部を解剖学的構造によらず自由に設定できるので、心筋梗塞などで梗塞部位の収縮力だけをサポートするためには非常に有効性が高いものであるものと判断された。動物実験による血行動態記録の結果、エレクトロハイドローリック人工心筋の心補助効果は抜群であり、著明な心拍出量の増大、動脈圧の上昇などの有効な左心補助効果の他、右心系の循環においてもサポート効果が確認され、臨床的に有効性が高いものと大いに期待される。心停止させた状態においてまでも、作動によりある程度の動脈圧と心拍出量が得られた。現在の構造では心停止させてしまうとややストロークが短いが、ここは両心補助や人工心筋のパッチにより向上が期待され、設計変更を行いつつある。人工心筋アクチュエータの制御システムには生体を模した人工動脈圧反射システムが具現化しており、現在動物実験で安定した制御を目指しており、マイクロチップ化する計画である。これらナノ要素技術の統合システムが具現化すれば、臨床例において個々の収縮を如何にサポートするか解析可能になり、オーダーメイド人工心筋が具現化する。
結論
現在、各パートで精力的に研究を進めており、三年後には臨床前試験に供給できるナノテク集積人工心筋の具現化が可能と期待される。

公開日・更新日

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