文献情報
文献番号
200300617A
報告書区分
総括
研究課題名
超極限分子プローブによる組織障害の再生・治癒機構の解析と高精度局所診断技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
南谷 晴之(慶応義塾大学大学院理工学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 鈴木和男(国立感染症研究所生物活性物質部)
- 関塚永一(国立埼玉病院臨床研究部)
- 川西 徹(国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部)
- 中山俊憲(千葉大学大学院医学研究院)
- 新井孝夫(東京理科大学理工学部)
- 船津高志(東京大学大学院薬学系研究科)
- 眞島利和(産業技術総合研究所光技術研究部門)
- 松村英夫(産業技術総合研究所光技術研究部門)
- 山本健二(国立国際医療センター研究所)
- 田之倉優(東京大学大学院農学生命科学研究科)
- 村松知成(国立がんセンター研究所)
- 霜田幸雄(東京女子医科大学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
94,888,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
リポソーム誘導型蛍光標識モノクローナル抗体、GFP変異体、磁気ナノ粒子を包含するリポソーム粒子、量子ドット、高効率蛍光・燐光プローブなど超極限分子プローブ(ナノプローブ)の新規開発を行うとともに、複数の異なるナノプローブの発光現象を利用したマルチカラーイメージングや1分子蛍光イメージング、高感度高速度イメージング、軟X線顕微鏡イメージングなど、新たな生体情報を提供するイメージング技術の開発を行う。また、これら物理的・生化学的作用に基づく分子認識機構を有するナノプローブを用いて、生体内で起こる血管炎や微小循環障害によって誘発される種々の組織傷害や細胞傷害のメカニズムを分子・細胞レベルで解析・診断するとともに、その障害の発現メカニズムと障害からの再生・治癒過程に関する分子機序を局所的に解析し、診断治療への応用展開を行うことを目的としている。研究項目は、1)超極限分子を骨格とするナノ粒子プローブの開発と応用、2)高感度高速度バイオイメージング技術の開発と応用、3) 複数の異なるナノプローブの発光現象を利用する多波長励起マルチフォトニックイメージングシステムの開発と応用、4)組織細胞内の分子生理機能の時空間的計測・解析技術の開発と応用、5)糖尿病性細小血管障害・脳血栓など特異的な血流ダイナミクスのイメージング解析と薬理効果の評価、6)腎炎・関節炎など炎症反応における特異的蛋白分子作用と易血栓性の解析、7)腫瘍新生血管の光化学反応に基づく血流遮断効果や糖尿病性微小循環における血管閉塞・血栓形成の解析と診断治療への応用、8)血管内皮細胞と白血球・血小板間相互作用における分子生理機能の解析、9)肝細胞・神経細胞などにおけるアポトーシス・細胞死に関わるタンパク質・酵素の作用機序の解析、である。また、病態に対する促進・抑制分子機能や薬理効果の解析評価を行い、トランスレーショナルリサーチの一環として臨床診断治療への応用展開をはかることを目的として遂行した。
研究方法
実質臓器や組織の微小循環レベルにおける血流動態や個々の血球細胞の挙動を可視化するには種々の蛍光標識プローブを利用するのが有効である。全血血流動態を解析するために、FITC-dextran iv投与によって血漿成分の流動現象を可視化して定量化した。赤血球の流速測定には、予め採血した赤血球の約5%をFITCでex-vivo標識した後、返血し、個々の蛍光標識赤血球の流動現象を可視化した。白血球はアクリジンオレンジをiv投与し体内染色するか、ローダミン6Gでex-vivo標識して、微小血管内の白血球のローリングや粘着数を可視化計測した。一方、血小板の可視化にはCFSEかローダミン6Gをiv投与・体内染色するか、CFDASEでex-vivo標識して、微小血管内の流動、血小板血栓生成動態を可視化評価した。これら血球細胞の挙動や血流動態の可視化解析には、新規に開発した多波長光励起マルチカラーフォトニックイメージングシステムを用い、画像相関法で血球細胞の速度計測を行った。FITC標識赤血球の流速計測と同時にPdポルフィリンからの燐光
寿命より酸素分圧を計測する技術(局所血流速度・酸素分圧同時計測法)を開発し利用した。予め、対象動物にPdポルフィリンをiv投与し、対象となる微小血管にNd-YAG パルスレーザーSH光を照射する。酸素濃度に依存して発光する燐光をフォトマルで検出し、Stern-Volmer式に基づいて燐光寿命τより酸素分圧pO2を求めた。
ラットやマウスを対象にしたin-vivo血栓形成モデルは、ポルフィリン系光感受性物質と特定波長励起光の相互作用に基づく光化学反応を利用し、活性酸素産生、サイトカイン産生、酵素作用を解析した。とくに糖尿病ラットや血管炎ノックアウトマウスなどの病態解析と薬理効果の評価に利用した。一方、血管障害や血栓形成に関わる内皮細胞と血小板・白血球の相互作用を検討するために、培養細胞を用いたin-vitro系において各種蛍光プローブ(ローダミン・ファロイジン、DAPI、Calcein-AM、DCFH-DA、fluo4-AM、DAR-4M-AM、BCECF-AM)を用いて細胞骨格形態の動的変化・細胞内分子機能変化の可視化解析および活性酸素種の同定と定量化を蛍光生体顕微鏡やリアルタイム共焦点走査型レーザー顕微鏡を用いて行った。これらに加えて新規開発のマルチカラーイメージングシステムや密着型フラッシュ軟X線顕微鏡、並びにエバネッセント蛍光顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いて、各種ナノプローブの発光に基づく細胞やオルガネラ機能の可視化、Apoptosis誘導過程の可視化、細胞骨格の可視化を行い、心筋細胞・肝細胞・内皮細胞・神経細胞・血球細胞内の分子機能を解析した。GFP変異体(ECFPとEYFPのFRETを利用)、EGFP、蛍光標識モノクローナル抗体、マグネトリポソーム、CdSe量子ドットなどの新規開発とその応用をはかった。取得した動画像と静止画像はコンピュータで解析し、定量的評価を行った。また、Apoptosisを含む細胞機能や分子機能の分析にフローサイトメータ、ウェスタンブロット法、LC/MS、NMRなどの分析機器も利用した。
寿命より酸素分圧を計測する技術(局所血流速度・酸素分圧同時計測法)を開発し利用した。予め、対象動物にPdポルフィリンをiv投与し、対象となる微小血管にNd-YAG パルスレーザーSH光を照射する。酸素濃度に依存して発光する燐光をフォトマルで検出し、Stern-Volmer式に基づいて燐光寿命τより酸素分圧pO2を求めた。
ラットやマウスを対象にしたin-vivo血栓形成モデルは、ポルフィリン系光感受性物質と特定波長励起光の相互作用に基づく光化学反応を利用し、活性酸素産生、サイトカイン産生、酵素作用を解析した。とくに糖尿病ラットや血管炎ノックアウトマウスなどの病態解析と薬理効果の評価に利用した。一方、血管障害や血栓形成に関わる内皮細胞と血小板・白血球の相互作用を検討するために、培養細胞を用いたin-vitro系において各種蛍光プローブ(ローダミン・ファロイジン、DAPI、Calcein-AM、DCFH-DA、fluo4-AM、DAR-4M-AM、BCECF-AM)を用いて細胞骨格形態の動的変化・細胞内分子機能変化の可視化解析および活性酸素種の同定と定量化を蛍光生体顕微鏡やリアルタイム共焦点走査型レーザー顕微鏡を用いて行った。これらに加えて新規開発のマルチカラーイメージングシステムや密着型フラッシュ軟X線顕微鏡、並びにエバネッセント蛍光顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いて、各種ナノプローブの発光に基づく細胞やオルガネラ機能の可視化、Apoptosis誘導過程の可視化、細胞骨格の可視化を行い、心筋細胞・肝細胞・内皮細胞・神経細胞・血球細胞内の分子機能を解析した。GFP変異体(ECFPとEYFPのFRETを利用)、EGFP、蛍光標識モノクローナル抗体、マグネトリポソーム、CdSe量子ドットなどの新規開発とその応用をはかった。取得した動画像と静止画像はコンピュータで解析し、定量的評価を行った。また、Apoptosisを含む細胞機能や分子機能の分析にフローサイトメータ、ウェスタンブロット法、LC/MS、NMRなどの分析機器も利用した。
結果と考察
(1)超極限分子プローブ(ナノプローブ)の開発
生体親和性を高めたナノプローブの開発を継続し、実用化に近づけた。蛍光蛋白は、Cy3で標識したGFPやプロリン変異体GFPを基質蛋白質の運動マーカや遺伝子発現マーカとして、GFP変異体ECFPとEYFPのFRETをApoptosisにおける細胞内チロシンリン酸化やカスパーゼ活性の解析に活用した。また、カチオン性リポソーム付加・蛍光標識モノクローナル抗体の生細胞導入技術を確立し、生存維持活性をもつアゴニスト抗体および神経細胞の活性酸素傷害・細胞死のイメージングに活用した。さらに蛍光標識したミクログリアの網膜・脳神経浸潤と傷害細胞死抑制効果のマーカとしての可能性を検討した。量子ドットはCd-Seナノ粒子をホットソープ法で合成し、有機酸、シロキ酸、アミンなどで表面加工、その官能基により核酸、蛋白、オリゴペプチドにtaggingさせ、Vero細胞およびリンパT細胞のエンドソームマーカとして活用した。磁気微粒子についてはヘマタイトを内包するリポソームを作製し、膜透過性・エレクトロパーミエーションや分子キャリアとしての可能性を検討した。また、数種の蛍光・燐光分子プローブを生体組織・細胞中に局所投与して、種々の細胞・組織内の分子生理機能をナノレベルで可視化解析することに成功した。これらナノプローブの開発は生体への実用化に向けて更に進展させる必要がある。
(2)高感度マルチフォトニックイメージング技術の開発
ナノプローブの細胞・組織内の局在性・機能性を可視化し、細胞機能・組織障害を解析診断するマルチカラーイメージングシステムとマルチフォトニックイメージングシステムの新規開発を行った。これにより、脳や肝臓など実質臓器の血行動態・酸素代謝・活性酸素産生のフォトニックイメージング解析を可能にした。多波長マルチカラーイメージングにより肝細胞や心筋細胞のCa動態、Caspase活性、ミトコンドリア膜電位変化の同時可視化に成功した。一方、密着型フラッシュ軟X線顕微鏡と密着型紫外線顕微鏡の新規開発により血球細胞や神経細胞など生細胞の炭素密度イメージングや癌治療に関わる重粒子線の細胞内粒子飛翔マッピングを高精度で行えることを明らかにした。NMRアナライザーの活用では、X線結晶構造解析と併せて細胞分化、分裂、DNA複製・修復に関わる蛋白質の機能解析を行い、多くの蛋白質の立体構造を決定した。
(3)細胞・組織における分子生理機能の解析評価
(3.1)実質臓器、とくに脳の虚血・再潅流における血流動態と酸素代謝を同時計測するとともに活性酸素の組織傷害機構の解析を行う目的で、マルチフォトニックイメージングシステムを開発し、ex-vivo-FITC標識赤血球とPdポルフィリン酸素感受性プローブの蛍光・燐光観測、及び細胞内ミトコンドリアのエネルギー代謝過程で使用されるNADHの紫外吸光観測により、脳表層組織の虚血・再潅流、麻酔下呼吸管理時の血流変動・酸素代謝変化の定量化に成功した。また、脳虚血・再潅流時のex-vivo-蛍光標識白血球と血小板の粘着過程や蛍光標識ミクログリアの脳神経細胞浸潤過程の可視化解析に成功した。
(3.2)糖尿病微小循環における血行動態・血球細胞の振る舞いをフォトニックイメージングシステムを用いて評価した。糖尿病では、赤血球の変形能の低下や赤血球膜の硬化が認められ血管内皮傷害に関わっていると考えられるが、これに加えて顕著な早さで血管内皮細胞上に血小板粘着が起こり、さらに凝集塊の拡大から血管閉塞へと進展することが定量的に示され、糖尿病における易血栓性が明らかとなった。細胞レベルでは、活性酸素産生の亢進、血管内皮傷害、血小板膜破壊・脱顆粒・作用物質の放出促進、これに続いてカスケード的に血小板粘着能の亢進、凝固系の促進、血栓成長、血管閉塞へ至る活性化メカニズムが働くことを示した。また、各種抗血栓薬を用いて、酵素作用、血栓促進・抑制因子、粘着・凝固因子の関与を解析し、血栓抑制に関わる薬理効果を検証した。
(3.3)腎炎モデルマウスとCD69欠損ノックアウトマウスを用いて自己免疫疾患に基づく難治性血管炎に関わる好中球活性化や好中球自己抗体(ANCA)の働きを血流in-vivoイメージングにより解析した。前者では顕著な血流速度の低下、血流停止・逆流、血管内皮への白血球粘着、血管閉塞が、後者では血管閉塞の遅延が観測され、MPOの関与から特に好中球が炎症において重要な役割を担っているものと考えられた。さらに好中球による血管内皮傷害時のapoptosis signal伝達過程におけるp38 MAPK(p38)とCaspase 8の活性化を検討した結果、TNFα、IL-1βによりMAPK-p38が最も燐酸化され、Caspase 8の18kDaの活性化型(c-Cas8)が生成されていることを確認した。血管内皮細胞傷害が活性化好中球を介して生起し、血管内皮細胞内では、IL-1β等の受容体を介しp38の燐酸化やCaspase8の活性化が起こり、apoptosis誘導されている可能性が示唆された。白血球による内皮細胞障害時に特異的に発現する分子のmRNAをイメージングするプローブ、およびCaspaseを特異的にイメージングするプローブ開発を行った。今後、apoptosis誘導過程におけるCaspase系列の活性化、Ca応答、ミトコンドリア活性のイメージング解析を行うことが不可欠である。
(3.4)ポルフィリン誘導体の光化学反応による活性酸素産生に基づく血栓形成とapoptosis発現のメカニズムを検討した。その過程において内皮細胞の細胞骨格F-actinの重合、細胞接着を司るtight junctionの喪失、細胞短縮、内皮下露出が顕著に増加、さらに血小板および好中球の内皮細胞接着性が有意に増加し血栓形成が促進されることを明らかにした。また、抗体を用いた血栓形成阻害実験では、Pセレクチン、Eセレクチンの関与は少なく、β2インテグリン(CD18)、ICAM-1、CD11aの関与が認められ、血小板のVLA-2、内皮細胞のvWFの関与も強く認められた。一方、細胞のapoptosis誘導経路について分子シグナル伝達の探索を行い、Caイオンの細胞内流入、Caspase系列の活性化、ミトコンドリア膜電位の上昇を確認、DNA傷害を各種蛍光プローブのイメージングによって明らかにした。また、マウスdorsal skinfold chamber 法により新生血管の増殖過程と血流動態を観測し、その特異性を検討した。活性酸素産生に伴う腫瘍新生血管の血流遮断ならびに腫瘍細胞死の過程を核DNA断片化、ミトコンドリア酸化還元応答、Ca動態、Caspase活性についてナノプローブ・イメ-ジングによって検討した。
(3.5)上記の結果に付随して心筋・肝細胞・神経細胞などの細胞死に関わるシグナルトランスダクションに関係する活性因子、細胞内pHやNO産生を同時に可視化し、細胞傷害との関係を解析したが、本研究課題で開発した可視化用ナノプローブとイメージング技術は今後の研究展開に大いに活用できる。
生体親和性を高めたナノプローブの開発を継続し、実用化に近づけた。蛍光蛋白は、Cy3で標識したGFPやプロリン変異体GFPを基質蛋白質の運動マーカや遺伝子発現マーカとして、GFP変異体ECFPとEYFPのFRETをApoptosisにおける細胞内チロシンリン酸化やカスパーゼ活性の解析に活用した。また、カチオン性リポソーム付加・蛍光標識モノクローナル抗体の生細胞導入技術を確立し、生存維持活性をもつアゴニスト抗体および神経細胞の活性酸素傷害・細胞死のイメージングに活用した。さらに蛍光標識したミクログリアの網膜・脳神経浸潤と傷害細胞死抑制効果のマーカとしての可能性を検討した。量子ドットはCd-Seナノ粒子をホットソープ法で合成し、有機酸、シロキ酸、アミンなどで表面加工、その官能基により核酸、蛋白、オリゴペプチドにtaggingさせ、Vero細胞およびリンパT細胞のエンドソームマーカとして活用した。磁気微粒子についてはヘマタイトを内包するリポソームを作製し、膜透過性・エレクトロパーミエーションや分子キャリアとしての可能性を検討した。また、数種の蛍光・燐光分子プローブを生体組織・細胞中に局所投与して、種々の細胞・組織内の分子生理機能をナノレベルで可視化解析することに成功した。これらナノプローブの開発は生体への実用化に向けて更に進展させる必要がある。
(2)高感度マルチフォトニックイメージング技術の開発
ナノプローブの細胞・組織内の局在性・機能性を可視化し、細胞機能・組織障害を解析診断するマルチカラーイメージングシステムとマルチフォトニックイメージングシステムの新規開発を行った。これにより、脳や肝臓など実質臓器の血行動態・酸素代謝・活性酸素産生のフォトニックイメージング解析を可能にした。多波長マルチカラーイメージングにより肝細胞や心筋細胞のCa動態、Caspase活性、ミトコンドリア膜電位変化の同時可視化に成功した。一方、密着型フラッシュ軟X線顕微鏡と密着型紫外線顕微鏡の新規開発により血球細胞や神経細胞など生細胞の炭素密度イメージングや癌治療に関わる重粒子線の細胞内粒子飛翔マッピングを高精度で行えることを明らかにした。NMRアナライザーの活用では、X線結晶構造解析と併せて細胞分化、分裂、DNA複製・修復に関わる蛋白質の機能解析を行い、多くの蛋白質の立体構造を決定した。
(3)細胞・組織における分子生理機能の解析評価
(3.1)実質臓器、とくに脳の虚血・再潅流における血流動態と酸素代謝を同時計測するとともに活性酸素の組織傷害機構の解析を行う目的で、マルチフォトニックイメージングシステムを開発し、ex-vivo-FITC標識赤血球とPdポルフィリン酸素感受性プローブの蛍光・燐光観測、及び細胞内ミトコンドリアのエネルギー代謝過程で使用されるNADHの紫外吸光観測により、脳表層組織の虚血・再潅流、麻酔下呼吸管理時の血流変動・酸素代謝変化の定量化に成功した。また、脳虚血・再潅流時のex-vivo-蛍光標識白血球と血小板の粘着過程や蛍光標識ミクログリアの脳神経細胞浸潤過程の可視化解析に成功した。
(3.2)糖尿病微小循環における血行動態・血球細胞の振る舞いをフォトニックイメージングシステムを用いて評価した。糖尿病では、赤血球の変形能の低下や赤血球膜の硬化が認められ血管内皮傷害に関わっていると考えられるが、これに加えて顕著な早さで血管内皮細胞上に血小板粘着が起こり、さらに凝集塊の拡大から血管閉塞へと進展することが定量的に示され、糖尿病における易血栓性が明らかとなった。細胞レベルでは、活性酸素産生の亢進、血管内皮傷害、血小板膜破壊・脱顆粒・作用物質の放出促進、これに続いてカスケード的に血小板粘着能の亢進、凝固系の促進、血栓成長、血管閉塞へ至る活性化メカニズムが働くことを示した。また、各種抗血栓薬を用いて、酵素作用、血栓促進・抑制因子、粘着・凝固因子の関与を解析し、血栓抑制に関わる薬理効果を検証した。
(3.3)腎炎モデルマウスとCD69欠損ノックアウトマウスを用いて自己免疫疾患に基づく難治性血管炎に関わる好中球活性化や好中球自己抗体(ANCA)の働きを血流in-vivoイメージングにより解析した。前者では顕著な血流速度の低下、血流停止・逆流、血管内皮への白血球粘着、血管閉塞が、後者では血管閉塞の遅延が観測され、MPOの関与から特に好中球が炎症において重要な役割を担っているものと考えられた。さらに好中球による血管内皮傷害時のapoptosis signal伝達過程におけるp38 MAPK(p38)とCaspase 8の活性化を検討した結果、TNFα、IL-1βによりMAPK-p38が最も燐酸化され、Caspase 8の18kDaの活性化型(c-Cas8)が生成されていることを確認した。血管内皮細胞傷害が活性化好中球を介して生起し、血管内皮細胞内では、IL-1β等の受容体を介しp38の燐酸化やCaspase8の活性化が起こり、apoptosis誘導されている可能性が示唆された。白血球による内皮細胞障害時に特異的に発現する分子のmRNAをイメージングするプローブ、およびCaspaseを特異的にイメージングするプローブ開発を行った。今後、apoptosis誘導過程におけるCaspase系列の活性化、Ca応答、ミトコンドリア活性のイメージング解析を行うことが不可欠である。
(3.4)ポルフィリン誘導体の光化学反応による活性酸素産生に基づく血栓形成とapoptosis発現のメカニズムを検討した。その過程において内皮細胞の細胞骨格F-actinの重合、細胞接着を司るtight junctionの喪失、細胞短縮、内皮下露出が顕著に増加、さらに血小板および好中球の内皮細胞接着性が有意に増加し血栓形成が促進されることを明らかにした。また、抗体を用いた血栓形成阻害実験では、Pセレクチン、Eセレクチンの関与は少なく、β2インテグリン(CD18)、ICAM-1、CD11aの関与が認められ、血小板のVLA-2、内皮細胞のvWFの関与も強く認められた。一方、細胞のapoptosis誘導経路について分子シグナル伝達の探索を行い、Caイオンの細胞内流入、Caspase系列の活性化、ミトコンドリア膜電位の上昇を確認、DNA傷害を各種蛍光プローブのイメージングによって明らかにした。また、マウスdorsal skinfold chamber 法により新生血管の増殖過程と血流動態を観測し、その特異性を検討した。活性酸素産生に伴う腫瘍新生血管の血流遮断ならびに腫瘍細胞死の過程を核DNA断片化、ミトコンドリア酸化還元応答、Ca動態、Caspase活性についてナノプローブ・イメ-ジングによって検討した。
(3.5)上記の結果に付随して心筋・肝細胞・神経細胞などの細胞死に関わるシグナルトランスダクションに関係する活性因子、細胞内pHやNO産生を同時に可視化し、細胞傷害との関係を解析したが、本研究課題で開発した可視化用ナノプローブとイメージング技術は今後の研究展開に大いに活用できる。
結論
本研究では、主に微小循環障害や血管炎によって誘発される種々の組織傷害や細胞傷害のメカニズムを分子・細胞レベルで解析・診断するために各種蛍光・燐光標識ナノプローブと超高感度イメージング技術を開発し、これらを用いて傷害の発現メカニズムと傷害からの再生・治癒過程に関する分子機序を局所的に解析した。腸間膜・肝臓・腎臓・脳を対象に微小血管内の血流動態を可視化解析し、赤血球速度・変形能、血小板粘着・血栓形成過程、白血球粘着能などの動的変化を明らかにするとともに、糖尿病微小循環障害や腎血管炎、脳虚血などの病態把握と治療効果の評価を行った。また、培養細胞系を用いて各種細胞内の分子機能をイメージング解析し新しい知見を得るとともに、開発過程のナノプローブやイメージング技術の有効性を検証した。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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