バイオナノ粒子による治療用生体高分子デリバリーシステムの開発(総括研究報告書) 

文献情報

文献番号
200300616A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオナノ粒子による治療用生体高分子デリバリーシステムの開発(総括研究報告書) 
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小谷 均(ジェノミディア株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 中島俊洋(ジェノミディア株式会社)
  • 福村正之(ジェノミディア株式会社)
  • 長澤鉄二(ジェノミディア株式会社)
  • 矢野高広(ジェノミディア株式会社)
  • 金田安史(大阪大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
83,118,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム解析の成果を利用した疾患遺伝子の同定が活発に行なわれており、従来では治療が難しかった疾患の病因や、治療に有効な遺伝子が明らかにされつつある。それに並行して、従来のような低分子有機化合物に依存した医薬品だけではなく、遺伝子医薬(DNA)や、核酸医薬など遺伝子を直接治療に用いる先端医療技術の開発が注目されている。先端医薬品として開発されている遺伝子医薬、核酸医薬、抗体医薬、ペプチド医薬品等は、いずれも高分子であるため生体内での吸収効率を向上するための高性能ベクターシステム(物質を運ぶためのデリバリーシステム)が必要である。HVJ-Eは、HVJ(センダイウイルス)のエンベロープ(外殻)のみをデリバリーシステムとして利用する純国産の非ウイルス性ベクターであり、直径約250ナノメートルのバイオナノ粒子である。本ベクターシステムは、従来の低分子医薬品から生体高分子まで幅広い治療用分子を封入して、疾患細胞に高効率にデリバリー出来るシステムであり、汎用性の高い次世代のドラッグデリバリーシステムになると期待される。そこで、本研究では本ベクターシステムの早期臨床応用を目指して、癌治療に対する適用を想定した有効性に関する予備検討と、製造したベクター粒子の安全性に関する予備検討を行った。
研究方法
(ア)ヒト培養癌細胞および担癌マウスに対する抗癌剤デリバリーシステムの有効性評価:昨年度の研究で、マウスの大腸癌細胞を用いた研究により、ベクターへ抗癌剤を封入する事で、標的細胞に対する増殖抑制効果が大幅に向上することを明らかにした。そこで本年は、ヒト由来の癌細胞を含む種々の癌細胞に対しても、同様の増殖抑制効果が認められるかについて検討を行った。ヒト食道癌細胞と脳腫瘍細胞を使用して、2種の抗がん剤(ブレオマイシン、ペプレオマイシン)をベクターへ封入後に、それぞれの培養癌細胞に対して反応させた後に培地交換を行ない、増殖抑制効果をWSTアッセイ法により検討した。また、実際に生体内の癌に対しても増殖抑制効果が認められるかについて、生体内に移植した癌細胞に対する増殖抑制効果を検討した。材料としてはマウス大腸癌細胞(CT-26)を用い、マウス皮下に移植・生着させて一定のサイズになるまで腫瘍を増殖させた後に、腫瘍内に抗癌剤を封入したベクターを単回投与して、腫瘍の増殖に対する効果について腫瘍径を指標として検討した。 (イ)ベクターを利用した癌免疫反応誘導の評価:空ベクター粒子には細胞性免疫を高める作用を持つインターフェロンγを誘導する活性があることから、抗癌剤を封入したベクター粒子を投与することで、癌に対する免疫が誘導されるかを検討した。担癌マウスに対して抗癌剤を封入したベクター粒子を単回或いは連続投与を行い、抗腫瘍効果が増強されるかを、腫瘍径を指標に評価を行なった。また、ベクターを投与した後にどのような免疫細胞が癌組織内へ浸潤しているかを検討するために、癌組織の凍結切片の免疫染色を行なった。更に、誘導された癌免疫の継続性を確認するために、抗癌剤を封入したベクター粒子により癌の萎縮や消失が認められたマウスに対して癌細胞の再移植を行ない、移植した癌細胞の生着や増殖が阻害されるかを検討した。 (ウ)空ベクター粒子の安全性確認:臨床応用のためには、投与に用いるベクター粒子の安全性が保証される必要がある。本ベクター粒子中には種々の分子を封入して治療に使用するため、先ず封入物
質を含まない空ベクター粒子自身の安全性に関する検討を行った。現在、食道癌を対象とした臨床応用を想定しているため、投与経路として静脈内、肺(経鼻)、皮内投与を行い、種々の用量の空ベクター粒子をマウスへ投与して、その影響について検討した。 (エ)医薬品製造用バンクの作製:バイオ医薬材料用のベクター粒子製造には、使用する材料についても医薬品製造用として安全性が保証されている必要がある。そこで、医薬品製造用に使用するヒト培養細胞株に関しては、病原性ウイルスなどの混入が無い事が確認された細胞ストックを用いて、臨床用ベクターを製造するためのヒト培養細胞バンク(マスターセルバンク:MCB)を作製して、目的の医薬品製造用の基準に準拠しているかを検討した。また、ベクター産生に使用するHVJに関しても、細胞と同様に医薬品製造用のバンクを作製する必要があるため、クローニング後に種ウイルスのシードストックを作製して病原性ウイルスなどの混入を検討した。
結果と考察
(ア)ベクターを利用した抗癌剤デリバリーシステムの開発:ヒト食道癌細胞及び脳腫瘍細胞をそれぞれ3種類使用して増殖抑制効果を検討したところ、いずれの細胞に対しても効果が認められる事が明らかとなった。また、その効果はベクターを使用しない場合の抗癌剤の作用と比較して300倍程度である事が明らかとなった。そこで、実際の癌に対しても同様の治療効果が認められるかについて、生体内に移植した癌細胞に対する増殖抑制効果を検討した結果、抗癌剤を封入したベクターを投与した場合には腫瘍の萎縮や消失が認められ、その効果はベクターへ封入しない場合の100倍程度である事が明らかとなった。以上の結果から、ベクターへの封入により抗癌剤の増殖抑制効果が、培養癌細胞だけでなく生体内へ生着した腫瘍に対しても大幅に向上する事が明らかとなった。  (イ)ベクターを利用した癌免疫反応の誘導:担癌マウスに対して、抗癌剤を封入したベクター粒子を単回投与するだけで腫瘍の消失が認められた事から、抗癌剤を封入したベクター粒子を投与することで、癌細胞に対する増殖抑制効果だけでなく、癌免疫が誘導される事が示唆された。そこで、抗癌剤を封入したベクター粒子を利用した癌免疫療法が可能であるかを検討したところ、連続投与では、単回投与と比較して癌の萎縮や消失などの抗腫瘍効果が増強される事が明らかとなった。また、癌免疫の誘導を確認するために、癌の萎縮や消失が認められたマウスに対して癌細胞の再移植を行なったところ、移植した癌細胞の生着や増殖が阻害される事が明らかとなった。以上の結果から、抗癌剤を封入したベクター粒子の投与により、癌細胞の増殖抑制だけでなく、癌免疫を誘導出来る事が示唆された。 (ウ)空ベクター粒子の安全性確認:封入物質を含まない空ベクター粒子自身の安全性に関するデータを取得するために、種々の用量の空ベクター粒子をマウスの静脈内、鼻腔内、皮内へ投与して、その影響について検討した。その結果、皮内投与においては最高用量においても局所的な影響のみであったが、その他の経路については、高用量群において溶血などの影響が認められた。今後は、抗癌剤を封入したベクター粒子を用いて、GLP体制下で更に詳細な安全性に関する検討を行ない、臨床応用開始のための申請書作成を開始する。 (エ)医薬品製造用バンクの作製:平成14年度は、医薬品レベルのベクター製造用に使用するヒト培養細胞株の調製に関して、細胞ストックを作製し、無菌性、病原性ウイルス混入の検査を行なった事を報告した。本年は、作製した細胞ストックから実製造用に使用する250バイアルのマスター細胞バンク(MCB)をGMP体制下で調製して、同様に無菌性、病原性ウイルス混入の検査を行なった。その結果、現在までに作製したMCBを融解して起眠した場合に医薬品製造に使用するために充分な生存率が得られる事などが確認されており、医用レベルの材料を実製造できる状況となった。一方、医薬品製造用のHVJの整備についても、細胞と同様にクローニング後にストックを作製した上で、無菌性、病原性ウイルス混入の検査を行ない、マ
スターHVJバンク(MVB)の調製準備中である。また、並行して臨床応用に必要な医用材料レベルのベクター製造設備・製造体性の設備も進めており、平成16年度中に実際に医薬品を製造できる体制(GMP体制)下で運用を開始していく予定である。
結論
本年度の研究により、ベクターの臨床応用に必要な基礎データと安全性・品質の高い製造用材料を得る事が出来た。今後は、臨床応用開始の申請に必要なデータを取得するための研究・開発を中心にプロジェクトを進める予定である。来年度は、本プロジェクトで確立した製造技術により前臨床研究を行なうために必要となるベクターの大量製造を行ない、臨床応用に向けて安全性に関する研究と、薬効・薬理に関する研究、免疫賦活化のメカニズムに関する研究を中心に癌免疫作用に関する検討を集中して行うことで、癌免疫療法に対する適用範囲の拡大を目指す。更に、標的化技術の開発についても並行して進めることで、プロジェクト終了後速やかに臨床応用を開始することを目指す。

公開日・更新日

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