ナノテクノロジーによる機能的・構造的生体代替デバイスの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300612A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノテクノロジーによる機能的・構造的生体代替デバイスの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
杉町 勝(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川賢二(九州大学大学院)
  • 高木洋(国立循環器病センター研究所)
  • 川田徹(国立循環器病センター研究所)
  • 佐藤隆幸(高知大学)
  • 河野隆二(横浜国立大学大学院)
  • 小久保優(日立製作所中央研究所)
  • 末永智一(東北大学大学院)
  • 中山泰秀(国立循環器病センター研究所)
  • 妙中義之(国立循環器病センター研究所)
  • 絵野沢伸(国立成育医療センター研究所)
  • 久保井亮一(大阪大学大学院)
  • 大政健史(大阪大学大学院)
  • 藤村昭夫(自治医科大学)
  • 三枝順三(産業医学総合研究所)
  • 植田知光(京都大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
145,688,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Ⅰ:バイオニックナノメディスンによる循環調節機能代替デバイスの開発研究
重篤な心疾患における病態の進行や生命予後に循環器系を制御する神経性・体液性調節系の破綻が深く関わっていることが知られている。申請者はこの点に注目し破綻した調節系を知的電子装置で置換する神経制御システムや生体論理により制御される人工臓器で心疾患を治療するバイオニック治療戦略を創出した。バイオニック治療装置は徐脈性不整脈、血圧失調などの動物モデルで劇的な治療効果を上げている。しかしながら、現在の装置は生体よりも大きく治療装置としての実用性に乏しい。近年急速な発展を遂げているナノテクノロジーを駆使することにより、バイオニック治療装置を超小型化し完全植え込み装置にすれば長期的治療が可能になり実用化の道が開ける。本研究はバイオニック治療を実用化するためにバイオニック装置を小型化・省電力化して植え込み装置として試作することを目的とする。本研究はまた徐脈性不整脈患者の生活の質を大幅に向上させるのと同時に、心室収縮や興奮の同期性向上や低電力除細動にも応用可能な、超小型分散ペーシングシステムおよびその実現に必要な体内無線通信技術、生体内発電を開発することを目的とする。
Ⅱ:ナノ分子操作技術による血液界面代替デバイスの開発研究
界面でナノサイズの分子構造を自在に操作できるOn Surfaceテクノロジーと、あらかじめ分子設計した抗血栓性のナノ分子ユニットを表面固定するTo Surfaceテクノロジーを含む、2種類のナノ分子アーキテクチャー技術を開発し、循環器病疾患克服のための高信頼性の血液界面代替デバイスとして、小口径人工血管、ステントを含む血管内治療器具、人工弁、心肺補助装置を開発することを目的とする。
Ⅲ:ナノ生化学系による非細胞性代謝機能代替デバイスの開発研究
生理機能の本態を営んでいるナノメータースケールの機能性タンパク分子を組み込んだ人工膜を作成し、生理的下の血液浄化を再現する代謝代替デバイスを開発し新規なバイオ人工臓器を構築する。
研究方法
Ⅰ:バイオニック治療戦略を植え込み機器として臨床応用するためにバイオニック神経制御システム(心不全治療のための機能限定版)を一次試作した。要求仕様を決定した後、入出力回路、CPU構成、無線伝送について詳細検討を行い、2種類の試作を作成して基本動作(入出力、演算、無線通信)を確認した。
治療論理の検討では、バイオニック心不全(迷走神経刺激)治療の機序を検討するためにベータ遮断薬投与下で検討した。
超小型ペースメーカに適した1箇所からの、刺激タイミングを考慮したオーバードライブペーシングによる低電力除細動をシミュレーション上で検討した。
体内通信に関しては水中を超音波が伝搬する際の減衰特性を実測し、信号を変調して送受信する装置を設計し試作した。生体内発電に関してはアノード上で効率よく発電するための酵素とメディエータの検索とそれらの固定化の検討を行った。
Ⅱ:ウサギ皮下内に高分子棒を挿入して、周囲に形成されるバイオチューブが、小口径血管としての機能を有するか、力学的、組織学的な評価を行い、ナノ表面改質の有効性を調べた。また、ナノ表面改質した心臓・肺機能の代替装置を成ヤギに装着し、長期間の抗血栓性、ガス交換性能を評価した。
Ⅲ:透析カラムを用いリン脂質の混合ミセルからリポソームを作成し、サブミクロンアナライザーにて粒径を調べ、透過電子顕微鏡写真にて形態観察を行った。リコンビナントMDR1タンパクを組み込んだプロテオリポソームについてMDR1の基質であるジゴキシンの取り込みを調べた。
結果と考察
Ⅰ:バイオニック神経制御システム一次試作(心不全治療のための機能限定版)の要求仕様を決定した。①心臓の電極リードは入出力を兼用するので、インピーダンスに大きな差がある入出力回路の分離のため出力回路と電極リードとの間にCMOSスイッチが必要②2つの方式(アナログ⇔ディジタル変換回路を内蔵する汎用CPU、入力部をPICが担当し演算および出力部を汎用CPUが担当する方法)を検討し単一CPUの方式がより消費電力を低減できること③Bluetooth方式に比し消費電力ではRFID方式が優れるが大き目のアンテナが必要で通信可能距離が限られることが明らかになった。
バイオニック神経制御システム2種類を試作し心臓シミュレータを用い、基本的な入出力機能、演算機能、無線通信機能を確認した。無線通信機能はBluetoothを用いた試作の安定性が優れていた。各々ボタン型電池4個の使用で12ヶ月、8ヶ月連続動作の見通しを得た。
治療論理の検討では、バイオニック心不全(迷走神経刺激)治療による心臓リモデリングの抑制および左室機能低下の抑制、BNP上昇の抑制がベータ遮断薬投与下でも認められた。
刺激タイミングを考慮した改良オーバードライブペーシングにより1箇所からの低電力除細動がシミュレーション検討では常に可能であった。
体内通信に関しては超音波による通信が可能であり、通信実験のための装置を試作した。適切な複合酵素とメディエータによりグルコースの効率よい酸化が可能であり電池を開発するための見通しを得た。
Ⅱ:自己の細胞と細胞外マトリックスのみから、自己の体内においてバイオチューブ人工血管を作製することができた。力学的性質や形状などを任意に設計することが可能であり、それらを宿主血管組織と適合化させることもできた。免疫拒絶がなく、体内において成長できる理想的な人工血管が開発できた。また、強力な抗凝血作用を発揮するヘパリンを材料表面に固定する際に長鎖アルキル基の鎖長を制御することで、高いヘパリン活性値の維持が可能な心臓・肺代替装置が開発でき、長期間のガス交換性能と抗血栓性が達成された。
Ⅲ:今回開発した透析カラムを利用したリポソーム作成法は、従来の透析法やゲル濾過法あるいは小孔を通すエクストルーダー法に比べ簡易で大量調製が可能かつ連続的に行うことができた。リポソームの形状も粒径が100?200nmで従来法と同程度であることが粒径計測からも電子顕微鏡観察からも判明した。生体高分子として細胞膜表面に存在する有機アニオントランスポーターMDR1を組み込んだ小胞(プロテオリポソーム)はMDR1を内向きに配位し、代表的リガンドであるdigoxinをATP依存的に取り込むことがわかった。よって、この原理を応用して生物学的な力を利用した異物除去システムの人工構築の基礎が確立したといえる。さらに他の生物学的レセプタータンパク利用としてβ-2-microgloblin?megalin系の応用による透析アミロイドーシス抑止アフィニティー透析の実験系確立に着手し、これらタンパクのリコンビナント発現系の構築と抗megalin抗体の作成を行った。
結論
Ⅰ:バイオニック神経制御システムを心不全治療に特化した植え込み装置として一次試作した。種々の検討により既存部品の組み合わせでありながら小型化、省電力化に見通しを得た。バイオニック心不全治療による心室リモデリングの抑制、心機能低下の抑制はベータ遮断とは独立であった。またオーバードライブペーシングによる低電力除細動の可能性を示した。超音波による通信は可能であるが動物で実際に検討する必要がある。グルコース燃料電池による起電力、電流供給の見通しを得た。
Ⅱ:移植部位に適したコンプライアンスを有する人工血管を患者の体内にて、患者の組織や細胞を用いて患者自身が作製できる、in sisuオーダーメード医療が実現されつつある。ナノ表面改質した人工肺はPlatinum Cube NCVCとして製品化され、開心術時の体外循環用ばかりではなく、数日~10日間程度の呼吸循環補助としても臨床応用されつつある。
Ⅲ:臨床に応用可能なスケールのリポソーム作成方法を確立した。非細胞系バイオ人工臓器の心臓部であるプロテオリポソームで異物取り込み機能が確認できた。

公開日・更新日

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