ナノイメージングによる分子の機能および構造解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300611A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノイメージングによる分子の機能および構造解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
盛 英三(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 望月直樹(国立循環器病センター研究所)
  • 中村 俊(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
166,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器疾患、脳神経疾患等の制圧のためにナノテクノロジーを駆使して、病態の理解、早期診断法の開発、そして治療法の開発を推進することを目的とする。列記すると以下のようになる。
(1)イメージングにより細胞内・組織での分子の機能を理解しようと試みる。
(2)分子の構造決定による構造生物学的アプローチにより創薬を目指す。
(3)上記のナノテクノロジーに基づいて臨床画像診断技術の開発、新規医用材料の開発への道筋をつける。
サブテーマごとの目的を以下に記述する。
1) 分子機能イメージング循環系:Rasスーパーファミリー分子の活性化のイメージングによる機能解析とミオシン分子の運動調節機構のイメージングによる解析をもとに細胞の病態生理の可視化を目的とする。2)分子機能イメージング神経系:分子イメージングにより神経機能分子の合成、輸送、および分解の過程を解析し、タンパク質の異常な構造・動態変化の原因を解明することを目的に研究を行う。3)分子構造イメージングx線回折:心筋収縮タンパク調節分子、イオン交換輸送体調節因子複合体、プロスタグランジン関連タンパク、細胞内情報伝達分子等のタンパクの大量発現、精製、結晶化を行い、放射光x線回折法で結晶構造解析を行う。4)原子間力顕微鏡(AMF)等による分子構造解析:AFM観察により、タンパク質の会合状態や薬物処置時の形状変化を探求し、受容体と薬物との相互作用を測定する。ナノ粒子フラーレンの合成を行う。AFM探針先端を修飾する有機分子の設計・合成を行う。組織再生に有用なナノ表面官能基を有する新規組織工学材料を創製する、他。
研究方法
(1)循環器系細胞の分子イメージングでは、いつ、どこで、どのように細胞が制御されているかを理解できるようにFRET (Fluorescent Resonance Energy Transfer)技術を基本原理とした細胞内分子イメージング法を開発する。平成15年度には細胞運動におけるRhoファミリー分子の活性化の可視化を検討した。Rhoファミリー分子活性化の可視化プローブ(Raichu-Rho)に、さらにFocal Adhesion Kinase の接着斑ターゲットシグナルをカルボキシ末端に融合することでRaichu-Rho分子を接着斑で発現する分子Raichu-Rho-FATを構築した。変異ミオシンを数種類作成し、首振り運動と力発生のメカニズムの関連を可視化することを目指す。タンパク質の細胞内での構造・動態を明らかにするために、蛍光性のタグをもった神経機能分子を作製し、種々のイメージング技術を用いて動態を計測した。これらのイメージング技術を神経シナプスの成熟に関与する因子についての研究や、プリオンの細胞内動態に関する研究に応用した。また、分子機能を明らかにするために、ノックアウトマウスを導入し、急性脳切片を用いたイメージングおよび電気生理学的解析を行った。さらに、in silicoでタンパク質の予測構造に基づく、特異的なリガンドのスクリーニングを、パーキンソン病のマウスモデルを用いて行った。
(2)分子構造決定の対象とする分子は心筋収縮タンパク調節分子、受容体、イオン交換輸送体(CHP/NHE複合体)、細胞内情報伝達分子、プロスタグランジン関連タンパクなどである。これらのすべてのタンパクについて、大量発現系を作成し、精製、結晶化と in-house x線回折装置による評価、放射光x線回折によるデータ収集と構造決定の手順で解析を進める。
AFM観察により、タンパク質の会合状態や薬物処置時の形状変化を探求し、受容体と薬物との相互作用を測定する。ナノ粒子フラーレンの合成を行う。AFM探針先端を修飾する有機分子の設計・合成を行う。プロテオミクスの手法により、タンパク質抗原を迅速に検出・同定する方法を検討する。
結果と考察
(1)H15年度の循環器系分子機能イメージングの研究で、Raichi-Rhoによる流れ負荷時のRho活性化の可視化に成功した。血管内皮細胞は流れ負荷時のRaichu-Rhoを発現する細胞のFRET 比を見ると運動方向の後方でRho分子の活性化が起きていた。野生型ミオシンはアクチンの滑走能があるが、F721Aミオシンはアクチン滑走能がないことを明らかにした。F775F変異ミオシンでも弱いながらもアクチンを動かすことができることがわかった。
神経系機能イメージングでは、プリオンタンパク質(PrPC)の微小管依存性の細胞内traffickingを観察した。脳由来神経栄養因子BDNFが発達期の初期にみられるサイレントシナプスの活性化に必須であることを明らかにした。プリオンのN-末端断片が細胞内に局剤すること、微小管にco-loccalizeすること、微小管を移動する速度が、順行と逆行で異なること、移動にかかわる微小管上のタンパクとプリオンのアミノ酸配列が順行と逆行で異なることなどを明らかにした。パーキンソン病の新規モデルマウスから神経変性極初期における変動分子群を同定し、その活性阻害効果が期待できる候補化合物をin silicoの結合化学化合物スクリーニングで決定した。1万個の化合物と変動分子の構造のマッチングのvirtual simulationにより低濃度での結合が期待できる数種類の化合物を同定した。本疾患の研究のみに留まらずに、幅広い疾患の原因タンパクの同定、治療薬剤の決定を迅速に行う上で有用な方法と考えられた。
(2)H15年度はヒト心筋のトロポニン複合体の調節ドメインについて2.6Å分解能での結晶構造解析に成功しNature雑誌に発表した。また、Na+/H+Exchanger制御因子の結晶化に成功した。プロスタグランジン(PG)産生系に関しては、大量発現、精製に成功した。また、アクチン束化・低分子GTP結合タンパク質結合ドメインの分子構造を2Å分解能で明らかにした。タンパク質構造解析へ向けた原子間力顕微鏡等による分子構造決定計画では、AFM観察に必要な構造を有するATP受容体タンパク質を発現/精製するためには、昆虫細胞発現系の利用が適していることが示された。そして、ATP受容体タンパク質のAFM観察像を初めて得ることができた。C60誘導体の合成等に関して、酵素阻害活性を有するナノ粒子C60の光ラベル化誘導体を合成したが、この誘導体により酵素中のC60結合部位など阻害メカニズムの解明、および活性の向上が期待され、医薬品候補化合物となる可能性が示された。プロテオミクスの手法により、リン酸化タンパク質およびタンパク質抗原を迅速に検出・同定できることが明らかになった。
結論
(1)イメージングにより細胞内・組織での分子の機能の理解に一定の成果を挙げた。
(2)構造生物学的アプローチにより分子の構造決定を行い、創薬を目指すという道筋を確立した。
(3)上記のナノテクノロジーに基づいて臨床画像診断技術の開発、新規医用材料の開発へ向けた一歩を踏み出した。

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