HIV及びその関連ウイルスの増殖機構及び増殖制御に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300580A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV及びその関連ウイルスの増殖機構及び増殖制御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 裕徳(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 原田信志(熊本大学大学院)
  • 松田善衛(国立感染症研究所)
  • 服部俊夫(東北大学)
  • 田代啓(京都大学遺伝子実験施設)
  • 小島朝人(国立感染症研究所)
  • 間陽子(理化学研究所)
  • 増田貴夫(東京医科歯科大学大学院)
  • 岡本尚(名古屋市立大学大学院)
  • 生田和良(大阪大微生物病研)
  • 森川 裕子(北里大学附属北里生命科学研究所)
  • 足立昭夫(徳島大学大学院)
  • 増田道明(獨協医科大学)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 櫻木 淳一(大阪大微生物病研)
  • 仲宗根正(国立感染症研究所)
  • 巽正志(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
99,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVの複製と変異(HIV分子-細胞装置の相互作用)について理解を深め、新たな作用点をもつHIV増殖阻止法の開発に資する。
研究方法
2本の研究の柱(HIV複製とHIV変異性発現の分子素過程研究)を設定、分子生物学、分子遺伝学、細胞生物学、ウイルス学の諸手法を用いてHIV複製・変異の新たな調節因子(細胞因子、ウイルス因子)を同定する。本研究班で用いられた代表的方法を以下に記す。①蛋白質相互作用解析:酵母two-hybrid系、pull-down assay、pulse-chase 免疫沈降法、②蛋白質同定・修飾状態・構造解析:Western blot法、免疫沈降法、MALDI TOF-MS質量分析、計算科学解析(MOE)、構造特異的単抗体解析。③蛋白質機能解析:変異導入・活性変化解析、反応速度解析、免疫蛍光染色。④HIV粒子内ゲノムRNA構造解析:ウイルス粒子精製/Northern blot法・RNase protection法・RT-PCR。⑤脂質構造機能解析:電子スピンラベル法、蛍光色素ラベル標識膜融合解析、⑥HIV複製能:感染性分子クロ-ン/CD4陽性細胞感染/RT・p24 assay、luciferase 発現pseudotype virus/luciferase assay。⑦細胞蛋白質のHIV複製関与の検証:変異導入解析、siRNA、dominant negative変異体。
結果と考察
柱1.HIVの複製:1)HIV-1の細胞吸着・侵入・脱殻①原田:HIV細胞吸着・侵入時のEnv-受容体多重結合仮説を検証した。温度、界面活性剤、細胞表面抗体が、細胞膜脂質二重層の流動性(電子スピンラベル法)、HIVの細胞吸着量(p24-ELISA)、HIVの感染性に与える影響を検討し、これらの間の相関関係を示した。②松田:Gp41膜貫通部位ヘリックス構造(GXXXGモチ-フ)の機能を調べた。Gp41膜貫通領域の変異導入と膜融合能・ウイルス増殖能変化追跡により、この領域が細胞膜融合過程のうちfusion pore拡大または安定化に寄与し、HIV感染性発現にも関与することを示した。③服部:感染時のHIV Env 構造変化を調べた。HIV Env Gp120およびGp41の種々の立体構造特異的単抗体を用いて炎症由来血中因子トロンビンにGp120構造変化に基づくHIV感染促進効果があることを示した。④田代:HIV複製阻害剤の働きを調べた。低分子化合物ONO-4007Aは、Gp120への直接結合を介して複製を阻害することを示した(BIAcore、単分子追跡法)。⑤小島:HIV細胞侵入を再現する無細胞系の確立を試みた。精製細胞膜画分(MAGI, MAGIC5)と精製HIV粒子を用い、両者混合後の遊離Gag p24量をELISAで定量することにより、Env-HIV受容体依存的に脱殻が進行する無細胞系を樹立した。2)プロウイルスDNA細胞質内輸送①間: Vprの核内輸送機能に関与する細胞因子を調べた。Vprと核内輸送制御因子importinαとの相互作用を見い出し、Vpr N末a-helix点変異体は、Vprのimportinα結合能と核移行活性を失い、ウイルス感染性の減弱(感染性分子クロ-ン/初代培養細胞)をもたらすことを示した。②増田(貴):インテグラ-ゼの核内輸送機能に関与する細胞因子を調べた。インテグラ-ゼはRch-1結合活性をもつこと、インテグラ-ゼのPYNPまたはKKKモチ-フ変異はプロウイルスDNA結合能の低下(野生株比10%以下)、ウイルス感染性の低下(野生株比1%以下)、核内ウイルスDNA量の低下(野生株比30%以下、FISH解析)を誘起す
ることを示した。3)プロウイルスDNA転写①岡本:種々の細胞転写因子の制御機構を調べた。NF-κB活性化因子(NIK, IKKα, IKKβ)のdominant negative変異体を用い、リンフオトキシン_受容体シグナル伝達に起因するNF-κB活性化は、NIKとIKKα経路を介することを示した。②生田:CD4陽性T細胞サブセット(初代培養細胞)を分離し、HIV感受性を左右する細胞因子を調べた。CD4+CD38+T細胞はX4 HIV-1に高感受性であることを見い出し、これはウイルスゲノム転写効率の昂進に起因することを示した。4)HIV複製後期①森川:HIV Gag細胞質輸送・細胞膜集合に関与する細胞因子を調べた。Zymolyase消化により細胞壁を除去した酵母を用い、Gag粒子形成系を作った。この系を用い、種々の変異酵母におけるGag局在と粒子形成を調べることにより、endo3, 4, 5, 6, t-SNAREs (Tlg2, Pep12)がGag形質膜輸送と粒子形成に必要であることを示した。5)Vif機能調節①足立:HIV Vifの安定的発現とウイルス増殖に必須のアミノ酸残基を調べた。Vif β-ストランド構造(アミノ酸残基86-89、63-70)がVif発現量維持とウイルス感染性に必須であること(欠失変異体感染系)を示した。6)細胞周期調節①増田道:Vprによる細胞周期制御(G2/M arrest)の誘導に関わる細胞因子を調べた。Vpr G2/M arrest活性を観察する分裂酵母モデル系(cdc表現型の有無で判定)を作り、種々の細胞周期調節因子欠損酵母株を用いて、Vpr依存G2/M arrest機能発現にヒト14-3-3ファミリ-遺伝子(β,ε,ζ)が関与することを示唆した。柱2.易変異性発現の分子素過程研究1)逆転写酵素基質選択性の調節①佐藤:HIV逆転写酵素の基質選択性に影響を与える細胞質因子を調べた。細胞内に最も豊富に存在する核酸ATPに着目し、細胞質濃度のATP(mM)が精製逆転写酵素の可逆的非競合阻害(混合阻害)因子であること(Vmax, Km , kcat低下)、基質親和性の昂進(Km低下)と基質アナログ抗HIV薬の親和性低下(KI増加)を誘起することを見い出した。2)ゲノムRNA構造・機能の調節①高橋:HIV粒子内ゲノムRNAの性状を調節する因子を調べた。ゲノムRNAが粒子中で断片化しやすいこと、topoisomerase IがゲノムRNA結合活性と断片化修復活性をもつことを見い出した。②櫻木: HIV粒子内ゲノム二量体化に必要なRNA上のCis責任配列を調べた。粒子内ゲノム二量体化効率を定量測定するユニ-クな系を作り、粒子内in vivoゲノム二量体化の必要十分領域(パッケ-ジングシグナル内に存在)を同定した。またこの系を用い、HIV-1 亜株間で二量体化効率に差があることを見い出した。複製・変異研究支援 技術開発①仲宗根:計算科学プログラムMOEの導入と適用を試みた。蛋白質機能領域の立体構造の違いを基にして変異蛋白質の系統関係を予測する蛋白質構造系統樹解析ソフト(ProCluster)を開発した。KD247抗体による中和効率が判明しているHIV-1 10株のEnv V3ル-プ分子モデルを構築し、ProClusterを用いて構造の相関関係を調べた結果、中和感受性株と非感受性株V3は別の系統樹クラスタ-を形成することを見い出した。②巽: HIV準種の感染性分子クロ-ンを効率的に単離する系の樹立と改良を試みた。ウイルス分離、生物学的クロ-ニング、ゲノムクロ-ニング(Half & Half PCR戦略)の効率化を進め、従来法(λファ-ジクロ-ニング、LTR long PCR)より格段に効率的にゲノム全長クロ-ニングを行う系を樹立し、HIV-1 subtype C, A, Gの感染性クロ-ン((8, 6 ,2 clones)を樹立した。
結論
HIV複製・変異の理解と人為制御につながる新たな細胞因子、HIV分子-細胞装置の相互作用、HIV分子の機能制御領域に関する新知見が、数多く得られた。これらの成果を発展させることで、HIV複製・変異の理解向上と新規薬剤開発への進展が期待される。

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