個別施策層に対する固有の対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300578A
報告書区分
総括
研究課題名
個別施策層に対する固有の対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(慶應義塾大学文学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鳩貝啓美(特定非営利活動法人動くゲイとレズビアンの会)
  • 沢田貴志(特定非営利活動法SHARE国際保健協力市民の会)
  • 山野尚美(皇學館大学社会福祉学部)
  • 長谷川博史(Japanese Network of People Living with HIV/AIDS)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症の影響を大きく受けるにもかかわらず、対策の柱である予防と治療のの社会的サービスを利用しにくいグループがあり、これに対しては、グループの特性と現状に適った施策、つまり予防と治療へのアクセスの確保及びQOLの向上が、偏見・差別の除去及び人権の擁護とともに必要な対策とされている。そうした対策の一環として、a)青少年を主体とするHIV/AIDS啓発プログラムの開発、b)外国人に対する予防・治療向上のために社会資源の利用促進をはかるプログラムの開発、c)男性同性愛者の検査・受診を促進するプログラムの開発、d)性風俗産業従事者の予防啓発のための組織化と他セクターとの連携をはかるプログラムの開発、e)薬物使用者に医療の場で適切に対応するためのプログラムの開発、f)感染者が啓発に参加するためのスキルズ・ビルディング・プログラムの開発を行う。
研究方法
1)個別施策層の当事者等がもつニーズの研究、2)海外における対策の研究、3)行政が実施している対策の研究及び以上を踏まえた対策プログラムの策定を各年度の課題とし、本年度は1)を継続し、2)を開始した。a) 青少年が主体的に企画・実施しているHIV予防啓発プログラム(学校を活動の場としているものを含む)に関する情報を研究班HPおよび神戸国際ユースフォーラム(神戸)を利用して収集し、30グループに質問紙調査を行った。b)ラテンアメリカ系に加え東南アジア系外国人に母国語で面接を行い、途上国出身の外国人感染者のライフヒストリーを調査し、医療を含む生活全般における問題と必要とされる情報を明らかにした。c)男性同性愛者の予防・治療に不可欠な医療機関利用を妨げる要因を、STD電話相談(259件)の記録について定量分析を、またグループインタヴュー(5名)の記録について定性分析を行った。保健医療従事者59名に対して同性愛者への対応における困難と改善策についてアンケート調査を行い、その結果をKJ法を用いて分析した。さらに海外で作成された医療者用の同性愛者対応マニュアルの内容を分析した。d)SWの性・健康上の問題に関する面接調査を継続し、またネットワーク形成をはかるために、関東ではSTD勉強会(9回、延べ27名参加)を実施し、関西ではドロップイン・センター開設の準備を進めた。また、本番産業におけるコンドーム使用について、当事者への面接による質的調査を量的にも補完するために、関東における顧客向雑誌と求人誌を収集して関連する記載を調査した。e)HIV/AIDS関連および薬物使用関連の機関・団体の双方における互いの問題への理解の不足をを補う方策を探るために、HIV感染予防に注射器交換、methadon療法等のプログラムを導入している豪州において医療機関・NGO等(7施設・団体)を調査した。f)陽性者スピーカー養成研修(13時間、昨年度と合わせて25.5時間、6団体15名、内10名継続参加)を通じてスピーカー・マニュアルを改訂し、 海外諸団体(GNP+、APN+)が作成したトレーニング・プログラムを参考に、日本の現状に合わせたトレーニング・プログラムを開発した。また スピーカーによる自己評価と問題点の調査に加えて、派遣先の機関による評価と要望についても調査を実施した。
結果と考察
個別施策層当事者の主体的参画による有効な施策を提言する準備として、次の成果を得た。a) 青少年グループが同世代に対して行っている予防プログラムが、全国的に行われていることが明らかにされた。高校生から30代前半まで、幅広い年齢層が関わっており、同世代に特
化したものや地域に密着したプログラムを実施しているが、グループ間の交流はほとんどなく、情報交換と相互学習によってプログラムの向上が期待される。また、他機関(大人)による知識や資材の提供が求められるが、これに関して、当事者の主体性を尊重するモデルや指針の提示が必要と思われる。b)外国人のHIVに関わる脆弱性が国際的に大きな問題となっているが、わが国に滞在する外国人、わけても途上国出身感染者は、保険をもっていても、なければなおのこと、医療とこれに関連する社会資源にアクセすることが困難であること、外国人およびこれを支援するNGOに、わが国および出身国における医療情報が不足していること、NGO、医療機関、行政の間の連携が不足していることが示された。c)男性同性愛者に関する量的分析によって、保健医療機関の利用に困難を覚える事例が前年度に比べて増加していることが示され、質的調査によってその要因を分析した。保健医療従事者に対する量的調査からは、同性間の性行為と性感染症に関する知識、不快感を与えず差別と誤解されない言動等の情報が求められていることが明らかになった。情報の適切な提供によって双方の間の問題が克服される可能性が示された。d)性風俗産業従事者は職種ごとに特異なサービスを提供していることから、STD感染予防にはそれぞれのサービスに即した具体的情報の提供が必要であること、またこれに対応するには医療専門家の協力が不可欠であることが示された。また、雑誌情報を利用したホンバン系におけるコンドーム使用状況調査によって、地域による違いが示され、使用されていない地域へのアプローチ方法の検討が、今後の課題として提起された。e)薬物利用者に対する施策に関して豪州において柱をなす理念は、リスクの最小化であり、薬物使用は「あってはならないこと」だとしても、「ありうること」という認識に基づいていることを明らかにした。薬物使用からの回復プログラムの成功は、わが国でも約3割と言われていることから、HIV/AIDやウイルス性肝炎を予防するためにも、同様の理念のもとに現実的対応を検討する必要が示唆された。f)感染者の社会参加およびHIV/AIDS対策の一つとしての感染者による講演を促進し向上をはかるために、行政・医療・教育機関等講演依頼者との確認事項、講演の際の留意点とスキル等を整理し、わが国の実情に即したスピーカー・マニュアルとトレーニング・プログラムを開発した。また、講演を依頼する側がもつ期待や評価等に関する調査を行い、講演の対象者や目的等をより明確にする必要を示した。
結論
6つの研究に共通して、第一に、エイズ対策において、当事者への施策になにが必要かは当事者自身に聞かなくてはならず、対策の推進には当事者の主体的参加が求められること、第二に、当事者の活動が効果を上げるためには、医療機関を含む他のセクターとの連携が要請されことが指摘された。

公開日・更新日

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