男性同性間のHIV感染予防対策とその推進に関する研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200300577A
報告書区分
総括
研究課題名
男性同性間のHIV感染予防対策とその推進に関する研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
市川 誠一(名古屋市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 内海 眞(高山厚生病院)
  • 鬼塚哲郎(京都産業大学/MASH大阪・代表)
  • 木村博和(横浜市立大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
53,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、ゲイコミュニティにおける啓発普及プログラムを開発、試行し、啓発資材の認知と予防意識への影響、コンドームの入手、常備、常用の効果を評価しつつ、HIV感染予防対策上の課題を整理し、予防施策に有効な対策を提言することを目的としている。
研究方法
1.対象地域:感染者・患者の報告数が多い東京圏と、近年増加傾向にある名古屋、大阪、福岡地域を対象とし、ゲイコミュニティの規模、脆弱性の程度、ボランティア活動の規模等を考慮し地域別に研究を実施した。2.研究体制:啓発資材開発・推進は地域ボランティア(CBO)と協働し、ゲイメディア、ゲイビジネス等の関係者の協力を得つつネットワークを構築し普及促進の方法を探る。啓発資材、方法の効果評価は疫学研究者が担当する。地域でのMSM対象のエイズ施策の継続性を図るため自治体との連携を構築する。3.本年度計画:東京、名古屋、大阪は商業施設との協力体制基盤を整え啓発ネットワークと介入プログラムの拡大を図り、福岡は初めてのMSMへの取り組みであることから当事者参加の研究体制基盤を整え啓発資材の開発、普及方法を検討・試行した。
結果と考察
1.東京地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進(市川誠一):ゲイコミュニティへの啓発普及を促進するためにRainbow Ring、MASH東京と連携し以下の啓発普及を試行した。1)デリヘルボーイによるコンドームアウトリーチ(新宿2丁目で9月から開始、110~124店舗に17週で30,796個を配布)、2)セーファーセックスキャンペーン(11月25日~12月24日をセーファーセックス強化月間とし37のクラブイベントでオリジナル啓発キットを配付)、3)MASHROOM(性感染症勉強会)と予防相談の実施、4)go-com(10代から20代前半を対象にした月例HIV/STD勉強会、東京都との協働)、5)商業施設(ハッテン場)連携プロジェクト(東京圏の施設との情報交流、セーファーセックスビデオおよびポスター配布)、6)My First Safer Sex 展(30人の「はじめてセーファーセックスを意識したこと(時)」の文章と顔写真をセットにしたパネル展、MSM以外の層にも通ずる企画)、7)コミュニティセンターakta(啓発資材・情報の提供、啓発活動とコミュニティとの相互連携)。2.名古屋地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進(内海 眞):当事者が構成するAngel Life Nagoya(ALN)と国立名古屋病院医療者との協働形態により2003年度は、1)月例性感染症勉強会には常時25~40名が参加、2)バー、ハッテン場でのコンドームアウトリーチ消費は毎月3000個を超えた、3)HIV抗体検査会&啓発イベントNLGRでは348名が受検し4名に早期のHIV感染症診断が可能となった、また現行の保健所の検査体制に改善を求める声が多かった、4)静岡県とのタイアップでHIV感染症ホームページ作成、情報伝達や交流のためのオフィス設置の計画、5)名古屋病院の新規患者のうち保健所で診断された人の割合が増加した。3.大阪地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進(鬼塚哲郎):MASH大阪はクライアント(堂山・ミナミ・新世界の商業施設を利用するMSM)への戦略的な介入を可能とするためにコミュニティ・ディベロップメントの視点を導入した。1)介入する側がクライアントと直接対峙する直接介入(月例STI勉強会、大阪府との協働)、2)資材を通して介入する間接介入(①年間6万個配布のコンドーム大作戦、②ハッテン場プロジェクトでの啓発資材配布、③予防関連企画展の開催)、3)コミュニティ・ディベロップメント志向の関連介入(①月平均187店舗にニュースレター5500部配布、②クラブパーティ<basement[g]roove>の開催(5
回、大阪市と協働)、③DISTA関連コミュニティ・プログラム(英会話教室、手話教室、フリーマーケットなど)の開催、④ホームページでの介入)を執行した。4.福岡地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進(研究協力者 山本政弘):地方都市のゲイコミュニティに対する啓発普及モデルとして福岡地域での啓発普及を試行した。①当事者で構成するLove Act Fukuoka(LAF)が活動開始、②行政、医療機関、研究者などの支援組織「福岡セクシャルヘルス懇談会」の設置、③知識確保と行動変容への事業(スピーカー養成ワークショップStudio、イベント性のあるHIV/STD啓発Wave2003、情報を避けがちな若年層対象の啓発イベントColorsⅡ、ゲイバレーボール、テニス大会参加者対象の知識情報とコンドーム配布、④保健、医療、行政担当者対象のセクシュアリティ講習会、⑤イベント参加者対象のベースライン調査、を実施した。5.予防啓発の評価に関する研究(木村博和):新宿地区、大阪地区でクラブイベント参加者を対象に共通項目による質問票調査を実施(分析数、新宿532、大阪611)。新宿地区の調査では、施設等の利用状況はゲイバーが79.4%、商業系ハッテン場41.4%、出会い系サイト51.6%、アナルセックス時のコンドーム常用率(過去6ヶ月)は特定相手54.6-59.0%、不特定相手65.3-65.9%、コンドーム購入経験は36.6%で啓発コンドーム受け取り率45.3%、また過去1年間のHIV検査受検率は25.4%であった。大阪の調査では過去1年間のHIV検査受検率が31.4%、啓発コンドーム受取率も61.9%と東京に比べて高かった。6.東京の定点医療検査機関におけるサーベイランス(研究協力者 小竹桃子):東京都南新宿検査・相談室の2003年の男性受検者数は6576人で昨年より増加し、土日検査を開始した効果が見られた。HIV抗体陽性検体は84件(1.28%)で昨年(81件、1.56%)より低下、陽性者に占める同性間性的接触の割合は76人(90.5%、感染症法報告分)であった。アンケート回答者(8083人)のうち男性は5599人(69.3%)で、MSMは男性の27.3%を占めHIV感染の早期発見の場として活用されている。7.インターネットによるMSMのコンドーム使用と心理・社会的要因に関する研究(研究協力者 日高庸晴):MSMの性的活動やHIV感染リスク行動、それらに関連する心理・社会的要因を明らかにするためにインターネット調査を実施した。①HIV/STIに関する一般知識の正答率は高い、②アナル・インターコースにおけるコンドーム常用率は不特定の相手よりも特定の相手の場合でより低く、全般的にコンドーム常用率は低い、③過去1年間のHIV検査受検率と受検場所、性感染症の既往率に地域差がある、④インターネットを利用するMSMを対象に予防介入を実施する際には心理的問題をも視野に入れたプログラムが必要である。8.国民向けエイズ広報の普及に関する調査(市川誠一):政府広報への接触経験を調査し各種媒体による普及効果を分析した。対象は全国から満16歳以上の男女2115人を選び(層化2段無作為抽出法)、回収数は1473人(69.6%、男性616人、女性857人)、エイズに関する情報源はテレビが50.8%と最多。雑誌「smart」「JJ」の啓発広告を見た者は3.3%、男性20歳代で6.0%、女性16-19歳で8.2%、また雑誌「POPTEEN」の啓発広告も見た者は1.0%と少ないが女性16-19歳では4.1%と最も高い、サッカー選手によるエイズ啓発テレビCMを見た者は13.4%で昨年とほぼ同率であった。
結論
東京地域では、ゲイバー連携のコンドームアウトリーチ、クラブイベント啓発、ハッテン場連携による啓発、また東京都との協働による若者向けプログラムが開始した。名古屋ではHIV検査会を含む啓発イベント、バー、ハッテン場との協力によるコンドーム普及啓発、名古屋市、静岡県との連携などが継続された。大阪ではバーへのコンドームアウトリーチが2年継続となり、その効果としてハッテン場との協力関係構築に展開した。福岡では初めてのゲイコミュニティへの取り組みで、当事者による啓発団体Love Act Fukuoka(LAF)が活動を開始し、さらに行政、医療機関、研究者などの支援組織「福岡セクシャルヘルス懇談会」を立ち上げた。東京、大阪では共通項目の質問票
調査が行われ、啓発資材の普及効果、訴求性を評価することが可能となった。また、インターネットを活用した質問票調査から対象地域以外に居住するMSMの施設利用状況、検査行動、心理社会的関連要因等を把握した。また本研究対象地域での啓発活動の評価が可能であった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-