エイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300575A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山本 直樹(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
28,825,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省のエイズ発生動向調査によれば、わが国のHIV/AIDS報告者数は増加傾向が続き、感染経路は大半が性感染である。1999年以降、男性同性愛者間の感染による感染者数が異性間感染を大きく引き離すように急増し始めた。また、HIV感染者の若年化傾向も顕著になってきた。このように医学的にも社会的にも問題となっているエイズを克服するために医学研究者は一致協力して対応する必要がある。この為には、基礎医学、臨床医学、更には、疫学、社会医学的研究と巾の広い分野において、独創的で新規性のある研究の展開が望まれている。しかしながら、研究資源にはさまざまな点で制限があることも事実である。そこで本研究では、如何にこの限りある資源を有効活用し、成果を挙げるかを目的としてエイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究を行う。
研究方法
1.研究目的を達成するために以下の会を開催した。1)エイズ対策研究事業 研究計画発表会(平成15年8月19-20日、於:国立感染症研究所)―すべての研究班の研究計画について各班長から報告を受け、エイズ対策研究評価委員である協力研究者の先生方に提言をお願いした。2)エイズ対策研究事業 研究成果発表会(平成16年2月25-26日、於:国立感染症研究所)―研究成果発表会に当たっては、各主任研究者から直接報告を受け、各課題についてとくに「独創性・新規性」、「達成度」、「行政的意義」の3点について留意した。さらに全課題を総括的に論ずるための総合討論を行った。 2.プロジェクト改善のための調査分析 本事業に参加している研究者との日常的情報交換、個別の班の班会議への出席、学会活動、各種のメディア、国際的研究動向を専門誌を通して調査した。
結果と考察
1.研究計画発表会(平成15年8月19-20日)では、これまでの研究で得られた結果をもとに、各班の班長には平成15年度からの自分の班研究にどのようなミッションを課し、班を運営していくかという点を中心に、報告を受け、エイズ対策研究評価委員である協力研究者の先生方にご意見と提言をお願いした。 2.研究成果発表会(平成16年2月25日―26日)では、研究班の大小に応じて30分、20分の発表・討論時間を保障し、研究の出発点、到達段階と問題点を徹底的に明らかにすることができた。このような取り組みは中間・事後評価委員会を厳正に、深く行うための必須の前提であることが、評価委員のコンセンサスとなった。継続中の課題にあっては、相対的に昨年よりさらに進歩した発表が多く見られた。また新発足の課題にあっても昨年まで存在した同様のミッションを持った個々の課題に比較して、これまで指摘のあった問題点の克服や疑問点の解明に努力した跡が見られ、さらに改善されたと考えられた。 3.「エイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究班」としては、研究計画発表会と研究成果発表会の開催を中心とした活動により、研究成果発表会の直後(平成16年2月27日)に開催された評価委員会の公正な評価につなげることが出来た(本主任研究者はオブザーバー参加)。昨年、多くの課題の終了とともに、次の戦略の構築が問題となったが、基本的には課題のほとんどは発展的に継続すべき価値があるとの評価を受けたという理解のもと、今年度、ほぼ“総替え"に近い規模で班の再編成が行われた。その他、以前から指摘のあった研究者の重複については、大幅な改善があった。さらにこれも以前指摘のあった若手研究者の登用と中堅研究者の主任研究者への登用についてはかなりの改善を見ているので、これを一層促進するよう図っていく必要がある。さらに評価の視点については、その研究成果が1)直接の研究成果(アウトプット)と2)納税者である国民にひ益する研究成果(アウトカム)、の2点を区別し
て、より明確にする必要がある。そのためには、エイズ対策研究事業の成り立ちという原点に立ち戻り、そのミッションと研究実施形態の多様性についての考慮を充分に行うことが重要である。とくに、国民にひ益する研究成果(アウトカム)という視点からの評価では、厚生労働科学研究費補助金は国民の要望にただちに応えられるサービスを効率的に提供することを目的としており、その評価にあたってはサービスの利用者、受益者である国民の立場に立った成果を対象とする評価が行われるべきであろう。しかしながら、これまでの研究評価の多くは研究成果の直接の産物である論文、特許などの数を基にしたアウトプット評価がやりやすさも手伝い、中心になっていたように考えられる。たしかに国際的な論文や特許と言う点では本事業は、ある程度の結果を残していると言える。しかしエイズの現実に立ち返るとわが国は先進国中で唯一、いまだに感染率の数が右肩上がりを示している国であることも否めない事実である。中でも男性同性愛者はとくに感染者の増加が著しいリスクグループとなっている。感染者の若年化も問題である。このことはアウトカム、つまり国民のニーズという点から考えると、本事業がまだ充分応えていないと言われても仕方がないということを示している。そのため、今後の施策等に関し、班研究で得られた成果をもとに国に対してはより積極的に提言を行っていく必要があると思われる。一方、国民に対しても研究成果は積極的に公表し、優れた研究開発を社会に周知することにより、社会啓蒙に努めると共に、納税者に対する説明責任を果たし、広く国民の理解と支持を得る。当然評価は厳正中立に行い、重点的、効率的な予算、人材などのリソース配分に反映する。一方、そうは言いつつも研究者の創造性の芽を摘むようなことは決して行うべきでない。創造性が充分に担保され、自由で柔軟かつ競争的で開かれた研究の環境の創出の実現に努力することは重要である。さらに評価結果はその意義、目的からまず実施者である研究者の自己改革に反映されるべきであろう。それにより研究者の自己改善に資することが本研究班の使命と考える。また評価結果も同様に広く一般に公開され、評価に当たる委員の適格性も含め、これも国民の理解および支持を得る必要があると考えられる。
結論
エイズ対策研究事業は幅広い分野を包含しているため、その評価は単純ではない。とくに社会系、一部の臨床系の研究プロジェクトでは研究開発の貢献を定量的に示すことは困難である。より適切な評価の為には、政策提言の定性的、定量的評価などを含め、より多様なアウトカム指標の設定が必要である。一方、基礎や臨床研究分野では、いわゆるアウトカムの大きさや質は、論文の数、インパクトファクターなどで客観的に示すことが可能であり、比較的評価がしやすいと言える。ただしこれが真の意味で本研究の目的に必ずしも比例しないことはまた容易に想像されることである。従って、定量的アウトプット評価が逆に研究開発の進展を阻害する危険すらある。この点に十分かつ慎重に考慮を払いつつ、今後、貢献の度合いを短期的視点だけでなく長期的視点に立った評価を確立し、今後のエイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究に生かしていく必要がある。

公開日・更新日

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